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第二章 白鳥雛派遣:魔法使い編
◆33 王妃と若い男の密談③
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王妃ドロレスは、権力者特有の性急さで、〈魔法使いヒナ〉の暗殺を示唆した。
が、参謀役のアレックは、笑みを浮かべながら首を横に振る。
「案ずるには及びません。
思ったより隙だらけの女でしてね。
その魔法使いが、俺の魅力でメロメロなんですよ。
王妃様におかせられましては、しばし私の浮気をお許しいただきたく」
「まあ、やるじゃない。
だったら、事を運ぶのは簡単じゃな。
ーーそれに、今更よ。
もとより、其方《そなた》を小娘の婚約者候補に推挙したのは、妾なのじゃ。
存分に、遊ぶが良いわ。
小娘どもを上手くあしらうなど、お手のものじゃろう」
そりゃあ、四十近くの年増を相手にするよりは、遥かに容易いですよーーと男は思ったが、これまた賢明にも、口にしない。
顎に手を当て、思案顔になった。
「ーーしかし、王の狙いがわかりませんね。
なぜあのような、頭の弱い女を護衛に付けたのか。
調べさせましたところ、あの魔法使いは、宮中にあって、ほとんど満足にターニャ王女の護衛をなさっておられないようで」
「そのようね」
王妃ドロレスは、バサっと紙の束をテーブルに放り出す。
調査資料だった。
王妃ドロレスの許に〈魔法使いヒナ〉について、詳細な報告がもたらされていたのだ。
「よく見張りが立てられましたね」
「勝手に向こうが呼び込んだのよ。魅了の魔法まで使って」
例の、夜にヒナの部屋に押しかけた騎士たちの中に、王妃の手の者が潜伏していたのである。
「え!? 婚姻前の女性が、男性騎士を自室に連れ込んだんですか!」
「ほほほほ。教養のない女性のようですね。あの魔法使いは。
でも、私の手下である騎士には通じない。
魔石を持たせて、防御魔法を発動させていたのよ。
言いなりにならなかったのに気づかなかったそうね。
すっかり魅了が効いてると勘違いして、私の息がかかった騎士を寝所に誘い込んだそうよ。
仕方なくベッドで添い寝したんですって。ほほほ」
「あの女、そこまで無防備とはーー。
いや、かえって怪しくないか?
男性たちを自らの部屋に招いたのは、その中に王妃の間諜がいることを察して……!?」
そこまで自問自答してから、男はヒナの顔を思い出す。
口の端から流れ落ちる涎を、手で頻りに拭いていた。
締まりのないーーまるで警戒心のない、愚かなオンナの顔ーー。
(ーーそれはないか。
あんなにチョロい女は、そういない)
考え込む男に構わず、王妃は勝手に勝利宣言をした。
「ほほほ……馬鹿な人達。
これで、この国は、私たちのものね。
悪くても、其方は妾の義理の息子となり、上手くすれば、其方の手にかかって、あの小娘はーー」
王妃の紅い唇が醜く歪むのを垣間見て、宝石商ロバート・ハンターこと、アレック・フォン・ロドリゲス男爵家子息は、苦笑いを浮かべる。
(「上手くすれば」義理の息子ですよ。
姫を手に掛けるのは最悪の場合ーー良し悪しが逆さまでしょうに……)
アレックは、じつはターニャ姫の容姿をかなり気に入っていた。
あのような汚れを知らぬような高貴な淑女を手篭めにすることを夢想するだけで、気分が昂る。
だがもちろん、そのような本音は、この王妃の前では漏らさない。
王妃に向かって、明るく笑いかける。
「さ、前祝いに、一杯やりましょう」
王妃がテーブルの上に用意された杯に、琥珀色のお酒をたっぷりと注いだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。いい香りだ」
王妃は自分の杯にもお酒を注ぎ、二人は顔を寄せあって、乾杯の声を上げた。
ゴクリと、喉を鳴らして飲むと、琥珀酒の香りと、カッとくる酒の強さが、身体全体に駆け巡る。
「ああ、おいしい」
王妃が、再びアレックにしなだれかかる。
アレックは王妃の肩を抱き寄せた。
「明日の夜、魔法使いの女と、例の居酒屋で落ち合う約束をしました。
あの女なら、おそらくなんでも、この私の言いなりになると思います」
王妃ドロレスは、アレックの耳元でささやいた。
「うふふ、さすが私のダーリン。
上手くやってちょうだい!」
が、参謀役のアレックは、笑みを浮かべながら首を横に振る。
「案ずるには及びません。
思ったより隙だらけの女でしてね。
その魔法使いが、俺の魅力でメロメロなんですよ。
王妃様におかせられましては、しばし私の浮気をお許しいただきたく」
「まあ、やるじゃない。
だったら、事を運ぶのは簡単じゃな。
ーーそれに、今更よ。
もとより、其方《そなた》を小娘の婚約者候補に推挙したのは、妾なのじゃ。
存分に、遊ぶが良いわ。
小娘どもを上手くあしらうなど、お手のものじゃろう」
そりゃあ、四十近くの年増を相手にするよりは、遥かに容易いですよーーと男は思ったが、これまた賢明にも、口にしない。
顎に手を当て、思案顔になった。
「ーーしかし、王の狙いがわかりませんね。
なぜあのような、頭の弱い女を護衛に付けたのか。
調べさせましたところ、あの魔法使いは、宮中にあって、ほとんど満足にターニャ王女の護衛をなさっておられないようで」
「そのようね」
王妃ドロレスは、バサっと紙の束をテーブルに放り出す。
調査資料だった。
王妃ドロレスの許に〈魔法使いヒナ〉について、詳細な報告がもたらされていたのだ。
「よく見張りが立てられましたね」
「勝手に向こうが呼び込んだのよ。魅了の魔法まで使って」
例の、夜にヒナの部屋に押しかけた騎士たちの中に、王妃の手の者が潜伏していたのである。
「え!? 婚姻前の女性が、男性騎士を自室に連れ込んだんですか!」
「ほほほほ。教養のない女性のようですね。あの魔法使いは。
でも、私の手下である騎士には通じない。
魔石を持たせて、防御魔法を発動させていたのよ。
言いなりにならなかったのに気づかなかったそうね。
すっかり魅了が効いてると勘違いして、私の息がかかった騎士を寝所に誘い込んだそうよ。
仕方なくベッドで添い寝したんですって。ほほほ」
「あの女、そこまで無防備とはーー。
いや、かえって怪しくないか?
男性たちを自らの部屋に招いたのは、その中に王妃の間諜がいることを察して……!?」
そこまで自問自答してから、男はヒナの顔を思い出す。
口の端から流れ落ちる涎を、手で頻りに拭いていた。
締まりのないーーまるで警戒心のない、愚かなオンナの顔ーー。
(ーーそれはないか。
あんなにチョロい女は、そういない)
考え込む男に構わず、王妃は勝手に勝利宣言をした。
「ほほほ……馬鹿な人達。
これで、この国は、私たちのものね。
悪くても、其方は妾の義理の息子となり、上手くすれば、其方の手にかかって、あの小娘はーー」
王妃の紅い唇が醜く歪むのを垣間見て、宝石商ロバート・ハンターこと、アレック・フォン・ロドリゲス男爵家子息は、苦笑いを浮かべる。
(「上手くすれば」義理の息子ですよ。
姫を手に掛けるのは最悪の場合ーー良し悪しが逆さまでしょうに……)
アレックは、じつはターニャ姫の容姿をかなり気に入っていた。
あのような汚れを知らぬような高貴な淑女を手篭めにすることを夢想するだけで、気分が昂る。
だがもちろん、そのような本音は、この王妃の前では漏らさない。
王妃に向かって、明るく笑いかける。
「さ、前祝いに、一杯やりましょう」
王妃がテーブルの上に用意された杯に、琥珀色のお酒をたっぷりと注いだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。いい香りだ」
王妃は自分の杯にもお酒を注ぎ、二人は顔を寄せあって、乾杯の声を上げた。
ゴクリと、喉を鳴らして飲むと、琥珀酒の香りと、カッとくる酒の強さが、身体全体に駆け巡る。
「ああ、おいしい」
王妃が、再びアレックにしなだれかかる。
アレックは王妃の肩を抱き寄せた。
「明日の夜、魔法使いの女と、例の居酒屋で落ち合う約束をしました。
あの女なら、おそらくなんでも、この私の言いなりになると思います」
王妃ドロレスは、アレックの耳元でささやいた。
「うふふ、さすが私のダーリン。
上手くやってちょうだい!」
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