噂の迷宮(ダンジョン)奥深くで、僕たちは《永遠の生命》を満喫する

大濠泉

文字の大きさ
2 / 5

◆2 〈永遠の生命〉と〈帰らずの迷宮〉

しおりを挟む
 僕の許嫁いいなずけサーヤが迷宮ダンジョンに潜ったまま、帰ってこない。

 サーヤと同行した、女性ばかりの冒険者パーティー《魅惑の花園》が、アッタファ迷宮で行方不明となった。
 冒険者組合では、その話題で持ちきりになっていた。

 冒険者に女性は少ない。
 しかも、数々の依頼をこなした手練てだれのパーティーで、女性のみで構成されているのはごくわずかだ。
 だから、《魅惑の花園》は冒険者の間で、人気のパーティーだった。
 ファンの男性、あこがれる女性は多かった。
 だから、騒がれた。

 僕は組合の受付嬢に詰め寄って、本当にサーヤが帰ってきていないか問い糺《ただ》す。
 が、組合の方でも、噂以上のことを把握していないようだった。

 ふと気づけば、僕がサーヤについて問うのと同じように、受付に《魅惑の花園》について問い詰める男どもがいた。
 太った男や、メガネをかけた男、妙に色気を感じさせる優男やさおとこなど、さまざまだったが、冒険者ではなさそうな者も混じっていた。
 彼らは、サーヤが同行した《魅惑の花園》のメンバーの恋人や旦那さんたちだった。

 僕の他にも、女性から待ちぼうけを喰らった者たちがいたらしい。
 文字通り、相方が行方不明になった〈お仲間〉ってわけだ。

 僕は彼らに向けて声をかけた。

「どうだい? 一緒に捜しに行かないか?
 僕はA級冒険者だから、迷宮に潜る権利は持ってる」

 頭を抱えていた男どもは、僕の提案に即座に応じた。

 結果、僕を入れて七人組の、男ばかりの臨時パーティーが出来上がった。
 そのまま組合カウンターの中央テーブルで相談を始めた。

 まずは情報収集からだ。
 僕が切り出した。

「僕はアダム。剣士だ。
 普段は魔物狩りをしているから、迷宮ダンジョンについては明るくない。
 誰か、アッタファ迷宮について、詳しい者はいるか?」

 対面に座っていた、細身の美形優男やさおとこが、オズオズと口にした。

「私は冒険者ではありませんので、詳しくはありませんがーーアッタファ迷宮は難度A級だとうかがっております。
 ですから、あのにも言ったんです。
《永遠の生命》なんてらないから、潜るのはやめようよ、って」

 彼は役場の事務職員で、顔に似合わず、生真面目な性格をしていた。
 勇ましいところを見せようと張り切ってしまう許嫁を、心底、気遣っていた。

 ちなみに、冒険者組合では、迷宮や魔物に等級をつけている。
 この等級が、パーティーの等級に対応させている。
 A級迷宮はA級パーティーによる攻略が推奨すいしょうされる、というわけだ。
 優男の恋人も、サーヤと同じく C級冒険者だったらしい。
 A級のアッタファ迷宮を攻略するには、等級が釣り合わない。
 かなり無理をすることになる。
 それでも、優男の恋人は、冒険者ならではの誕生日プレゼントとして《永遠の生命》を、彼氏に捧げようとした。
 それが仇となったらしい。

 次いで発言したメガネ男が、迷宮について、新情報を教えてくれた。
 彼は医者で、妻が《魅惑の花園》のリーダーをしていた。

「いや、その情報は正確ではない。
 難度Aというのは、〈最深層の第七層まで含めたら〉ということ。
 アッタファ迷宮の上層部、第六層までは、難度Dだ」

 難度はEまでしかない。
 難度Dは相当、難易度が低い。
 初心者でもOKというレベルだ。

 僕は首をひねった。

「上層部と最下層で、そんなにも扱いが違うなんて、珍しい。
 なにか、理由が?」

 メガネ男は意を得たりとばかりにうなずいた。

「アッタファ迷宮は、回復•蘇生系の迷宮なんですよ。
 だから、誰が潜っても、死なないんです。
 ただ、第七層以降は未踏破なんで、難度Aとされてるわけです」

 聞いたことがある。
 回復•蘇生系迷宮では、探索者が迷宮内で死ぬことはない、と。
 迷宮内でトラップに引っかかったり、魔物に襲われたりして死んでも、強力な回復•蘇生魔法をかけられ、地表へと強制転移されるそうだ。

 僕は腕を組む。

「古代遺跡ともいわれるアッタファ迷宮が、そんな初心者仕様だとは、正直、思いもしていなかった。
 回復•蘇生系ということは、つまり、迷宮内で死ぬことはないってことだろう?
 それなのに、帰って来ないってのは……やっぱり迷子になっただけなのかも。
 でも、どれくらいいるもんなのかな、行方不明者っての」

「アッタファ迷宮だけで、四、五十名は行方不明になってると思う」

 今度は、隣に座る肥満体の男が、僕の疑問に応じてくれた。
 彼は商人。大規模商店の店主らしい。
 裕福な身の上らしく恰幅かっぷくが良いうえに、情報通だった。
 エールをガブ飲みしてから、嘆息した。

「噂によるとね、最近、この迷宮で、冒険者が行方不明になる事件が頻発ひんぱつしてるらしいですよ。
《永遠の生命》が手に入るって噂が広まって以来、帰って来ない者が激増してるって話です」

 対面に座る優男がつぶやく。

「近頃じゃ、《帰らずの迷宮》とも噂されてますしね」

 太っちょ男が軽口を叩く。

「それ、私も聞きましたよ。《帰らず》ってーーもし私たちのお相手が、迷宮内で良い男《ヒト》を見つけたから帰ってこないってんなら、どうしますか?」

 彼の冗談に、次々と男たちは反発する。

「あり得ない冗談はやめてください! ウチの許嫁は真面目なヤツなんです」

「そうですよ! 冒険者だからって、雑に見たら承知しませんよ。彼女はーー」

 太っちょの恋人は移り気らしいが、他の男どもの妻や恋人は違うようだ。
 もちろん、僕のサーヤも身持ちは堅い。
 融通ゆうずうが効《き》かないくらい、趣味も嗜好しこうも目的も変えない。

 僕はパンパンと手を打って、話をまとめた。

「これだけのオトコを残して、全員がいっせいに浮気するとは思えない。
 単純に、遭難したに決まってる。
 でも、迷いはしても、回復・蘇生系なんだから、生存している可能性は高い。
 探して、見つけ出しましょう!」

 僕たちは、結局、みんなで迷宮に潜って、相方の行方を探ることに決定した。

◇◇◇

 そして、三日後の朝ーー。

 我々は七人組の臨時パーティーを結成し、装備や道具を買い込んで、迷宮探索に乗り出した。
 迷宮の中で、恋人や妻を捜索するためである。

 夕刻には、アッタファ迷宮ーー通称《帰らずのダンジョン》にまでやって来た。

 古代建築らしく、大きな出入口だった。
 その脇には、大きな魔法陣が石畳の上に刻まれていた。
 回復•蘇生機能を兼ねた転移魔法陣だ。
 迷宮で死んだ者たちが地表に送られてくるという、奇蹟の魔法陣だ。

 いきなり、何人かの人々が、魔法陣の上に浮かび上がってきた。
 剣士もいれば、魔法使いもいる。
 様々な職種がある、比較的大きなパーティーのようだ。

「あれが、戻って来た冒険者たちってわけだな」

 仲間の一人ーー太っちょ男がさっそくたずねに行く。
 すぐに戻って来て、僕たちに伝えてきた。

「あの人たち、第四階層でられちゃったって」

 彼らは八人構成のパーティーで、C級パーティーだった。

「並の等級でもいどめるし、生きて帰って来られる迷宮ダンジョンってことか。
 これなら、捜索も楽に出来そうだな」

 僕が安堵すると、優男も大きく胸を撫で下ろしていた。

「死なないっての、なんだか、安心ですよね」

 だが、真面目そうなメガネ男が厳しい意見を言う。

「いや、死なないからといって、められないですよ」

 メガネ男は医者として、蘇生系迷宮から地表に戻った者たちの病状を、何人か診たという。
 意外なことに、せっかく生きて帰って来られたのに、彼らのたいていはすぐに冒険者を引退してしまうらしい。
 心的外傷トラウマを抱えてしまっているからだそうだ。

 僕は背筋を伸ばして、みなに注意をうながした。

「でも、僕たちは恋人をあきらめるつもりはありませんよね!?
 だったら、気を引き締めて潜り込みましょう!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【流血】とある冒険者ギルドの会議がカオスだった件【沙汰】

一樹
ファンタジー
とある冒険者ギルド。 その建物内にある一室、【会議室】にてとある話し合いが行われた。 それは、とある人物を役立たずだからと追放したい者達と、当該人物達との話し合いの場だった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

うちの J( 'ー`)し が魔王城で、魔王のパートしてた件

一樹
ファンタジー
母親が魔王の城でパートとして働いていたことを知ったスレ主は、掲示板を建てて助言をもらおうとする。

はぁ……潔く……散るか……

#Daki-Makura
ファンタジー
バカ息子(王太子)がやりおった…… もうじき友がやってくる…… はぁ……潔く……散るか……

王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル

ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。 しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。 甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。 2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

処理中です...