噂の迷宮(ダンジョン)奥深くで、僕たちは《永遠の生命》を満喫する

大濠泉

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◆3 臨時パーティーによる迷宮アタック、そして〈首なし〉伝説

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 男だけの、それも素人しろうとだらけの、急拵きゅうごしらえの臨時パーティーで、僕は噂の迷宮ダンジョンいどんだ。
 仲間内で幾つかの軋轢あつれきはあったものの、第六階層までスムーズに進めた。

 襲いかかってきた魔物はいろいろだった。
 第四階層のボスはスケルトン軍団。
 第五階層のボスはゴブリンの群れ。
 第六階層のボスは巨大オークだった。

 でも、僕が今まで倒したことがある魔物ばかりだった。
 しかも、迷宮に先行していた他の冒険者たちが協力してくれた。
 おかげで素人の臨時パーティーでも、やすやすと魔物を撃退できた。

 複数のパーティーメンバーが集まって、三、四十人規模の、和気藹々わきあいあいとしたグループになっていた。
 特に、僕たちが迷宮に潜ってきた理由が、恋人(妻)を探し求めてーーという事情が、他の冒険者たちの同情をさそったようだった。

「頑張れよ」

「お互い、オンナには苦労させられるよな」

「ははは」

 冒険者らしい、直球ストレートな物言いに、僕は愛想笑いを浮かべるばかり。
 こころよく応じているのは太っちょだけで、あとの仲間たち、優男やメガネなんかは、

「ウチの恋人(妻)は、そんなんじゃない!」

 と憤慨して冒険者たちに喰ってかかろうとするので、彼らをなだめるのが一苦労だった。

 それでも、生命を預け合う仲間同士、気を張り詰めつつも、みんなで協力し合いながら、楽しく迷宮を探検していった。

 そして、三泊四日して、第六階層の最深部にまで辿たどり着いた。

 ここで、他の冒険者パーティーとは別れた。
 彼らは第六階層までの魔物を退治して、手堅く経験値を稼いでいくつもりらしい。
 だから、未踏破領域にまで足を伸ばして《奥の院》を目指す僕らとは、同行する気がなかった。

「頑張れよ」

「健闘を祈る」

「奥さんが見つかったら、一緒に食事しようぜ」

 口々に挨拶を交わして、大勢の冒険者たちが引き戻っていく。
 さらなる奥へと進むのは、僕たち、恋人(妻)を探し求める、七人の野郎集団だけになった。

 みな、いきなり人数が減って、心細そうにしている。
 そんな彼らを、僕は叱咤激励した。

「さあ、僕らは愛する人を探すために、ここまで潜ってきたんだ。
 おとこを挙げてやろうぜ!」

 男どもは、みな、おおっ! と声を上げ、拳を振り上げる。
 いつもは自分の許嫁を悪く言いがちだった太っちょまでもが、真剣な表情をしていた。
 実際、本気で恋人の身を案じていなければ、冒険者でもないのに、こんな迷宮奥深くまで、足を踏み入れようとするはずがない。
 どれだけイジった物言いをしていようと、彼も彼なりに自分の許嫁を愛しているのだろう。

 僕は改めて気を引き締めつつ、石畳を確認しながら進んだ。

 もうすでに、第六階層のボスは討伐している。
 僕らはさらなる深層に潜る権利があるはず。

 案の定、僕らの接近を受けて、一枚の大きな石畳が開いた。
 中をのぞくと、下へと階段が延びていた。

 その入口、階段の一、二段あたりに、様々な物が乱雑に置かれていた。
 落ちたモノを拾って、太っちょが声をあげた。

「こ、これはカノジョの弓矢だ!」

 優男もかがんで、刃物を拾い上げていた。

「これは、私の許嫁いいなずけ短刀ナイフです。
 私がプレゼンしたものですから、間違いありません」

 次いで、お医者がメガネをめ直して言った。

「私も妻の所持品を見つけました。
 魔法の杖に取り付けられた水晶ーー。
 これと、折れた矢、刃こぼれした短刀ーー廃棄武器ばかりですね。
 これから、未踏破の階層に出向くにあたって、捨てていったのでしょうか?
 とにかく、ここまで私の妻のほか、《魅惑の花園》のメンバーが潜ってきたのは、確かなようです。
 ということは、彼女たちが遭難した場所は、やはり第七階層ということになりそうです」

 今度は、僕が落ちていたモノを拾いあげた。

「これはーー」

 黒い手帳ーーサーヤのメモ帳だ!

 僕は急いでパラパラとページをめくった。
 彼女はメモ魔だ。
 何か、捜索の手掛かりになるような、有益な情報が記されているに違いない。
 そう思った。
 だが、案に反して、書かれていた内容は抽象的で、不明瞭な記述ばかりだった。

《七月三十日》という、一週間前の日付が最終ページに記されてあった。
 前のページには、〈ゴブリンの杖〉や〈オークの骨〉といった、換金可能な獲得物について記されている。
 が、最も特徴的なのは、最終ページに書かれたものであった。
 ひとつの不気味な、粗々あらあら素描スケッチがあったのだ。

 人間の姿ーー革鎧かわよろいをまとった男女の姿が描かれてあった。
 ところが、肝心の首から上がないーー?

 そのスケッチの下に、走り書きがあった。

《〈首なし〉を見た。パーティー全滅の危険。気をつけて!》

 僕はこの走り書きを見て、首をかしげる。

「《首なし》? なんだ、それ?」

 太っちょが後ろから顔をのぞかせる。

「あぁ、知ってる。街の子供たちが噂してた。
 流行している《迷宮ダンジョン伝説》だよ。
 ここのダンジョンのことだったんだ……」

 みなが彼に注目する。
 太っちょは得意満面で語る。

「《首なし》っていう、お化けがいてさ。首がないんだよ。
 首がない状態で、『俺の身体を返せ』って迫ってくるってさ。
《首なし》なのに、『首を返せ』じゃなくて『身体返せ』っていうんだから、おかしいだろ?」

 太っちょはケラケラと笑う。
 一方で、お医者は難しい顔をして腕を組み始めた。

「なんだか、根本的におかしくないですか、それ」

「どこが?」

 おどけた調子の太っちょに、メガネのお医者は真顔で問いかける。

「《首なし》ということは、顔もなければ口もないってことでしょう?
 だったら、声はどこから出ているんでしょう?」

 お医者の当然ともいえる疑問に、太っちょはうなずき、優男は微笑む。

「あぁ、なるほど。たしかに」

「いかにも、子供の噂話ってかんじですよね」

 やおら、太っちょが僕の方を見て、揶揄やゆした。

「だったらさぁ、このメモ自体、悪戯イタズラかもよ?
 だって、この迷宮ダンジョンは回復・蘇生系なんだぜ?
 パーティー全滅なんて、まずありえない。
 あったとしても、地表に戻ってる。
 迷宮内では、死んでも生き返る仕様なんだから」

 僕はしかめっつらこたえる。

「でも、《帰らずのダンジョン》って言われてるんだろ?」

 サーヤの他にも、何人もの冒険者が、いまだに帰って来ていない。
 それでも、太っちょは悠然ゆうぜんかまえる。

「まぁ、言い方だろうね。
 このダンジョンにもぐるって宣言したパーティーが帰ってこないーーつまりは、ウチの街の冒険者ギルドに報告に戻ってこないってだけなんじゃないか?」

 太っちょの意見に、優男や他の男どもも同意する。

「なるほど。ダンジョン攻略に失敗して、顔が出せなくなっただけかも」

「他の街に行った可能性も高いしな」

 たしかにーー。
 僕も剣をさやおさめ、腕を組む。

 地表に戻った者たちのたいていは、心的外傷トラウマを抱えて、冒険者を引退すると、医者も言っていた。
 冒険者組合に顔を出すのも、億劫おっくうになってしまったのかもしれない。

 でも、廃棄武器はともかく、情報屋ジャーナリスト志望のサーヤが、大切な記録手帳を残して行くとは思えないーー。

「とにかく、先を急ごう」

 気を取り直し、僕は魔法のランプを片手に、階段を降り始める。
 当然、サーヤの手帳をふところに仕舞い込んで。
 他のメンバーも、僕の先導に従った。
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