滅国の悪役令嬢チチェローネ 突然、冤罪で断罪イベントを喰らい、王太子は婚約破棄を宣言!許せない。大悪魔を召喚して、国ごと滅ぼしてやる!

大濠泉

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◆23 王子同士の兄弟喧嘩、そして、いちゃいちゃカップルの仲違い!?ーーさらに、思わぬ者たちの復活と急展開!!

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 新王を僭称するオネスト殿下に対して、最も有効な対抗馬ーー第一王子アレティーノがついに前に進み出て発言した。

「黙れ、オネスト!
 我が弟ながら、恥ずかしい。
 そのような心根で、良くも王冠を戴けたものだ」

 見慣れぬ美貌の若者の登場に、多くの貴族たちは首をかしげた。

「誰だ? あれは?」

「知らぬ」

 だが、一部の女性陣は「キャア!」と黄色い声をあげていた。

「あのお方は、『花園の貴公子』でなくて?」

「ほんとだわ。公の場でお姿を拝見できるなんて!」

「それにしても、オネスト殿下を『我が弟』とおっしゃられるということはーー」

 黄色い声援を背景に、宰相ガッブルリは、美貌の青年に手を振り向け、大声をあげた。

「こちらは、ランブルト王国の第一王子アレティーノ殿下であらせられます」

 貴族連中は感嘆の声をあげた。
 そして、さまざまに語り始める。

「アレティーノ殿下だと!? 生きておられたのか?」

「てっきり、幼少のみぎりに亡くなった、と」

「私もそう思っていた」

「いや、病のために外国に療養に出向いたと、私は聞いていたぞ」

 オネストが王太子になった段階で、誰も話題にしなくなっていた。
 それが、王家の長男アレティーノであった。

 宰相ガッブルリは厳かに言う。

「アレティーノ様は目を患っておられました。
 ところが、この度、奇跡的に治療に成功したのです」

 ああ、と膝を打つ貴族が多数いた。
 だから、魔導国の皇太子がいるのか。
 魔導国で治療がなされたに違いない、と判断したのだ。

 宰相ガッブルリは、改めて胸を張った。

「王国宰相として、ここに宣言する。
 王権代理はこの第一王子アレティーノ殿下にお任せする、と。
 リリアーナとか申す淫売の言いなりになるような不甲斐ない男に、これ以上、国家の重責を担わせるわけにはいかない。
 国王陛下もお目覚めになられたら、この私の判断を支持するものと信じる!」

 おおおお!

 居並ぶ貴族とご令嬢、ご婦人方は歓声をあげた。

「私も支持する」

「私も支持いたしますわ!」

「オネスト殿下は王太子としても相応しくなかった。
 王に即位するなぞ、もってのほかだ!」

「リリアーナとかいう淫売と手を切らぬ限り、とても国王など」

「そこらじゅうの男に媚を売った元平民女が、王妃となって君臨するなど、許せるものか!」

 うねりのごとく、オネスト、そしてリリアーナを断罪する声がこだまする。

 そのうねりを背景にして、アレティーノはオネストの正面に立つ。
 チチェローネの手を取りながら。

 オネストとリリアーナを正面に見据え、アレティーノとチチェローネが対峙する。

 アレティーノは碧色の目を輝かせた。

「弟よ。貴様の役割は終わった。
 国を再建するために、チチェローネ公爵令嬢は起ったのだ。
 そして、チチェローネ嬢との婚約は私がする。
 貴様は彼女に濡れ衣を着せて、ランブルト王国を危機に陥れた。
 それもこれも、貴様がチチェローネ嬢との婚約を破棄し、冤罪を仕掛けたからだ!」

 オネストは突然、怯えた顔になる。
 そして、胸元にしがみついていたリリアーナを、ドンと勢い良く突き放した。
 目を丸くして驚くリリアーナを無視して、オネストは居直った。

「な、なにを偉そうに。
 盲目の日陰者が兄貴ぶりやがって」

「今では目が見える。
 となれば、長男である私が、王位継承権第一位の王太子だ」

「ふん、それはないよ。
 なにせ、父上ーー国王陛下がお眠りになったままで、そのように裁可しておらぬのだから」

「私の立場を云々するのは、今は関係ない。
 チチェローネ嬢の婚約者は、これからは兄の私だ、と認めよ」

 オネストは、肩を揺らせて大笑いした。

「はっはははは! おかしな物言いだな。
 俺はまだチチェローネとの婚約を破棄しておらぬ。
 したいのはやまやまだったが、あいにく、国王陛下もサットヴァ公爵閣下もお眠りしておられるからな。
 正式な婚約破棄手続きが踏めなかったのだ。
 な、そうであろう、ガッブルリ!」

 突然、話を振られた宰相ガッブルリは、苦虫を噛み潰した顔をする。
 それを確認すると、オネストは得意げに話を続けた。

「ーーしたがって、盲目の兄上が、俺の婚約者に、いくら求婚しても無駄なんだよ!
 少なくとも、今はな」

 呆気に取られたのは、リリアーナだけではない。
 チチェローネもだ。
 手にした扇子を、思わず折ってしまいそうなほど握り締めた。

(あれほど執着していたリリアーナを放り捨てて、今更になって、私との婚約を維持しようというの!?
 一方的な婚約破棄宣言から始まった一連の事件を、すべて無かったことにしようと!? 
 虫が良すぎる!)

 チチェローネが拳を握り締めて歩み出ようとするのを制するように、野太い声で横槍が入った。

「そうでもなかろうよ。
 ランブルトの外であれば、婚約だろうと結婚だろうと思いのままだ」

 皇太子ラオコーンが、大きな図体で前に乗り出したのだ。

「ランブルト王国において、濡れ衣をかけられて死罪となったチチェローネ嬢が、我がギララ魔導国に亡命を果たした。
 それを皇太子である余が快く迎え入れ、輿入れを認めたーーそれで良いではないか。
 あとは貴様らで仲良く兄弟喧嘩でもしておれ。
 余は外野から眺めおろして楽しもうではないか。
 可愛らしいチチェローネ嬢を傍らに据えて、な」

 アレティーノの反対側の隣で、チチェローネの腕を取る。
 二人の男性に挟まれて、チチェローネは顔を真っ赤にさせる。

「もう、なにを勝手にッ!」

 チチェローネがうわずった声をあげると、アレティーノも憤慨する。
 チチェローネの頭越しに、長身の皇太子を睨みつけた。

「チチェローネ嬢の処遇は国内問題だ。
 外国人は口を出さないでいただきたい」

 ラオコーン皇太子は愉快そうに笑う。

「良いではないか。
 チチェローネ嬢にどうなりたいのか、すべて決めさせれば。
 余のところに来れば、悪いようにはしない。
 濡れ衣を着せることもなければ、跡目争いの道具にすることもない。
 すぐにでも皇妃にしてやりたいところだが、あの婆さんが君臨しておるからな。
 しばらくは、余の妻として好き勝手に暮らせようぞ」

 次いで外国の貴公子は、視線を聖騎士団に向ける。

「それに、我ら魔導国は、貴女が召喚した大悪魔をも粗略に扱うことはない。
 どこかの頭の硬い宗教団体のように、討伐対象になぞせぬよ。
 少し、我が魔導国のために働いてもらうかもしれんがーー。
 ああ、そうなれば、この国など、どのようにでも転がせよう。
 はっははは」

 オネスト、アレティーノの両者のみならず、ガッブルリ宰相も、聖騎士団長ベーオウルフも絶句する。
 ギララ魔導国が〈漆黒の大悪魔〉と結託して、ランブルト王国をはじめとした諸国を踏み潰していくーー。
 あってはならない未来図だった。

 ランブルト王国とレフルト教会の重鎮が絶望を感じた、そのときーー。

 謁見の間に、懐かしい声が響き渡った。

「やめないか!」

「すっかり聞かせてもらったわ」

 居並ぶ貴族と奥様方は、いっせいに扉の方を振り向く。
 声がする方に視線を向けたら、見慣れた男女の姿が目に入った。
 ランブルト王宮の、本来の主ーーランブルト国王夫妻が、揃って姿を現わしたのだ。
 彼らの後ろにはサットヴァ公爵夫妻もいた。

 すでに宰相ガッブルリが気を利かせ、チチェローネと交渉して大悪魔を動かし、王様と王妃ご夫妻、そして公爵家の両親が目を覚ますよう手配していたのだ。
 そして目覚めた彼らに、彼らが不在の間に起こった数々の事件と、オネスト王太子が勝手に新王に即位しようとしていることを、暴露していたのであった。
 さらに、国王たちは王宮の一角に潜みながら、ギララ魔導国より仕入れた魔道具で、謁見の間での出来事の一部始終を見続けていたのだ。

 血濡れた王冠を戴くオネストは、チチェローネに対抗するために今は玉座を離れ、リリアーナとともに立っていた。
 それゆえ、慣れた足取りで、ランブルト国王は赤絨毯を踏み締めて玉座に腰を下ろす。
 そして、オネストを睨みつけた。

「おのれ、オネスト。騙しおったな!
 両親ともに眠らせて、玉璽を奪い、王位を乗っ取ろうとは!
 余とサットヴァ公爵が眠った状態での即位は、謀叛に当たる。
 さすがに野心が過ぎた。
 本日より、王太子はアレティーノだ!」

 王太子が勝手に新王に即位しようとしたと知り、謀叛だと思い、ランブルト国王は逆に彼らを断罪した。
 サットヴァ公爵夫妻も揃って声を上げる。

「宰相から聞いたぞ!
 良くも娘を陥れたな、オネスト殿下!」

「予言省の方からも、伺いましたよ。
 チチェローネの無実は証明されている、と。
 殿下は、この国を滅ぼそうとお思いなのですか!?」

 良く言えたものだと呆れながらも、チチェローネは二人の男性に掴まれた両手を離し、声を上げた。

「国王陛下、それにお父様。
 私、チチェローネは、このオネスト殿下との婚約を解消したく思いますが、お許しくださいますか?」

「もちろんだ。このような者、もはや息子とは思わん」

 国王の即答に、息子のオネストは言い訳をする。

「そ、そんな。父上!
 俺は俺なりに、国のことを思って……」

 王は玉座を叩いて激怒した。

「なにが国のためだ!
 そこの怪しげな女にたぶらかされておっただけではないか!」

 オネストには返す言葉がなく、喉を詰まらせる。

 今度は、母親の王妃様が金切り声をあげた。

「オネスト!
 今すぐ、そのリリアーナとかいう国賊を手放しなさい!
 すべての元凶はその娘にあります!」

 彼女は自分が愚かな判断をしてしまったのは、リリアーナの怪しげな力のせいだと信じていた。

 オネストは裏返った声を出す。

「も、もう捨てました。
 捨ててますよ、こんな女!
 なにもかも、この女のせいなんです。
 チチェローネ嬢を陥れたのも、王冠をかぶったのも!」

 リリアーナは、発狂したかのように、髪を振り乱した。

「オネスト様! 今さら、何を言うのです!?
 このままでは大悪魔がーー」

「知らないよ。
 君が『チチェローネ嬢が悪魔に魅入られて国を滅ぼす』と言うから、ここまで頑張ってきたのに。
 君がふしだらに過ぎるから、俺の地位までが危うくなってしまったじゃないか!
 どうしてくれる!?
 この状況で、どうやったら、国王になれるんだ!」

 本音がダダ漏れである。
 居並ぶ卒業生や貴族たちまでが、白けた目をオネストに向ける。

 この場に立つ誰もが思った。
 無理だ。このような男を王として掲げるなどーー。

 一方で、周囲からの冷たい視線に耐えられず、オネストは足掻く。

(そうだった。
 リリアーナこそ、断罪しなければならない。
 彼女こそが、一連の大混乱の元凶なのだ……)

 オネストは、再び、お得意の責任転嫁を始めた。
 先程まで胸元で抱きしめていた女性に向けて、指をさし、生唾を飛ばす。

「お、俺はリリアーナをこそ断罪する!
 彼女は自らを『聖女』だと詐称していた。
 だから、信じた。
 それでも俺が悪いというのか!?
 どうなのだ。教皇様はいかなる見解をお持ちか!?」

 いきなり、オネストは聖騎士団に話を振る。
 周囲からの睨みつけられ、わずか二十数名の聖騎士団員は身構える。
 ベーオウルフ団長は正直に答えた。

「教皇様からのお言葉は先程、伝えたのみだ。
『オネスト・ランブルトに、ランブルト王国の王冠を正式に授ける。
 以後、国軍を指揮し、対悪魔の聖戦の中核を担え』と……」

 そこへ、玉座に座るランブルト王が割って入る。

「では、リリアーナとやらは、聖女として認定されておらぬのだな!?」

「それはーー聞いておりませぬ」

 聖騎士団長による正直な返答によって、謁見の間は、またもやザワザワと騒がしくなった。

「な!?」

 喧騒の中で、素っ頓狂な声を発したのは、リリアーナ本人であった。

「ーーおかしいでしょ!?
 そんなこと、あり得ない!
 私の職業ジョブは〈聖女〉なんだから!
 マジで、アンタたち、教皇から訊いてないわけ!?」

 実際、レフルト教会から、聖女と認定されるのは簡単ではない。
 オネストが新王に即位できることを優先したあまり、自身についての手続きを正確に踏んでいなかった、リリアーナのミスであった。

「聖女と自称するのは大罪ですぞ!」

 ここで大声をあげたのは、大司教バパだった。

 チチェローネが宿す大悪魔の力によって、予言省長官シグエンサとともに、レフルト教会の大司教バパも目覚めていた。
 彼ら大司教や予言省長官も、国王夫妻や公爵夫妻と同じように、今まで外で待機していて、ようやく謁見の間に乗り込んできたのだ。

 ちなみに、国王夫妻同様、彼ら大司教らも、チチェローネ嬢の中に悪魔が融け込んでいるとわかっていない。
 だから、昏倒する前に決めた方針に忠実であった。
 大悪魔の手を借りず、自分たちの手でチチェローネの冤罪を晴らせば、契約は果たされず、国家の滅亡は避けられる、と信じて動いていた。

 バパは怒りに声を震わせる。

「リリアーナとか申す、怪しげな魔女め。
 聖女と自称したうえに、勝手に任意の者に戴冠しようなどと。
 聖なる制度を悪用した痴れ者めが!
 どちらにせよ、この偽聖女に誑かされた者こそが異端である。
 オネスト殿下のみならず、聖騎士団の者どもも異端者だ。
 私は教皇庁の枢機卿や各国の教会に働きかけ、聖騎士団に対して異端審問にかけることを提唱する。必ずだ。
 教皇庁も惑わされたのだ。
 司教べぺのみならず、多くの聖職者を殺戮した罪は重いぞ。
 覚悟せよ、聖騎士団長! 必ず、報いをくれてやる!」
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