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【第一章】一部

【呼び出されし者】26.獣人族の村へ

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クミンママに促されて、徒歩で1日半掛けて森の中の村落に向かっていた。

道中は森といっても巨木の根が張ることで盛り上がり、人の背丈の数倍はある小山の連続だ。
またその盛り上がりの土が崩れちょっとした崖のようになったりと起伏に富んで視界と旅路を妨げた。

それでも森は緑豊かで森林の匂いが立ち込めており、大きく吸い込む度に心が落ち着く。
木々の隙間から射し込む光が大気の水蒸気に当たり輝く様はとても幻想的だ。


「こりゃ迷うなって方が無理があるな。
ダラさん、帰り道分かります?私、無理そうです。あはは・・」

森に入って3時間程だけど、もうさっぱり。辛うじて南の方(ここが北半球ならだが)に向かっていることくらいしか俺にはわからない。

くそぉマップ機能が欲しいぜ。エリアマップだけでもあればかなり違うんだけどな。チラッチラッ

・・・何も起こらなかった。機能解放の淡い期待は露と消えた。ダメ元だったけど凹むわ。


「ダイン殿でもわかりませんか。一応来た方角だけは覚えていますが、日が暮れたり、逃走しながらだと森を出れる自信は、正直ありませんね」

俺だけではなく内心ほっとするが、もしここで襲撃されたらと考えると不安になる。
深い森は人の領域ではない。獣達の狩場なわけで向こうの独壇場だ。

クミンはちょこまかと高い処を選んで歩いている。アンバランスな足場を両腕を拡げてバランスを取りながら歩いたり、たまに器用に手足を使い木を駆け登って行く。
リスが樹を登るイメージをして貰うと分かりやすいと思う。
彼女の動きを見ていると森の中じゃ人族など矮小な存在だと思い知らされる。


クミンママは俺達が歩きやすいコースを選んでくれているので辛うじて着いていけている。
彼女、余りにも安定した歩きで幽霊のようにすーっと進んで行く。ちょっと怖い。
足腰は動いているけど上半身はほぼ全くぶれないのだ。時折、少し首を傾げ振り返り俺達が着いてきていることを確認するくらいだ。

たまに大きく脚を開く時に腰まで入った濃紫のスカートにあるスリットから白いしなやかな脚が覗く。
彼女の服は濃紫の絹製の質感のチャイナドレスのような長いスリットのあるスカートに上半身は身体に密着して柔らかく短めの濃紫の毛皮のような物を身に付けている。

服への切れ込みは大胆で両肩から臍の少し下までV字に開いており、その豊満な胸を外側半分だけ辛うじて大事な処を隠している際どいラインの服で身を包んでいる。
背中も肩からほぼ同様に開いて腰のエクボ辺りまで大胆に魅せており、白く美しい背筋と健康的な肩甲骨のラインが浮かび上がっている。

あの、たゆんたゆんぽよんぽよんの形は服での補助は絶対にない!断じてありえない!
やはり魔法か魔法なのか?!

まあ、一言で言うと目のやり場に困る。
こちとら健全な男なもんで、ほんと目に毒です。



そんなことを考えていると、突然、森の雰囲気が変わった。
目の前の景色が今までの森ではなく、少し開けたハイキングコースとその休憩所のように拓けており木製の椅子とテーブルが置かれていた。

更に道の先には木々の隙間から射し込む光のカーテンに隠れるように走り回る子供達の姿と笑う声が聞こえてくる。

別の場所では畑で農作業を行う人。道を頭に大きな瓶を乗せ運ぶ人。子供の手を牽いて歩く人などだ。

クミンのお母さんは振り返り、柔らかな笑顔で告げる。

「ようこそ私達の村へ」



そう、そこには数歩手前からは見えていなかった、深い森とはまったく違った景色が眼前に広がっていた。
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