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第一章 領地でぬくぬく編
第13話 女神、人材発掘に苦労する
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クニーゼル侯爵がその場を後にすると、直ぐ次の貴族がローラたちの前に立った。
「やあ、ローラ嬢久しぶりだね。と言っても最後に会ったのが四年前だから覚えていないかな」
ローラのことを知っているような口ぶりで声を掛けてきたのは、スティーグ・フォン・ガイスト。爵位は辺境伯。
帝国人に多い栗色の髪に茶色の瞳をしたその男をローラが見上げ、神眼で情報を盗み見た。スティーグが言ったように、これっぽちもローラは覚えていなかった。「確か南西にあるバステウス連邦王国との国境に面している一帯を守っている人だったかしら?」とその情報から必死に思い出す。
ローラが住むテレサ村は、このガイスト辺境伯が統括管理する範囲に入っている。要は、フォックスマン家の寄親的存在である。ダリルが忠誠を誓っているのは、サーデン帝国の皇帝ではあるものの、貴族にも色々としがらみがあるのだった。故に、覚えていないと言ってしまうとダリルの面子を潰す恐れがある。仕方ない。ローラが見抜いた情報を元に挨拶の言葉を述べる。
「これは、ガイスト辺境伯閣下。お久しゅうございます」
「おお、覚えていてくれたのかい? これは嬉しいな。ダリル卿、いい娘さんに育ったな」
余程嬉しかったのだろう。快活に笑ったスティーグは、ダリルの肩をバシバシ叩きながらそう誉めそやした。彼とローラが最後に会ったのは、彼女が三歳のときなのだから当然だ。
ローラの淀みない口調に、ダリルだけではなくセナも驚いて、まあ、といった感じで口元に手をやっていた。
「え、ええ、おかげで私は毎日驚かされるばかりですよ、閣下」
何とかダリルはそう返した。
「そうか、そうか。ほら、挨拶しなさい、ガストーネ」
スティーグに背中を押されるように前に出てきたのは、これまた帝国人特有の容貌をした少年だった。
「ガストーネ・フォン・ガイストです。この度はおめでとう。宜しくローラ嬢」
「ガストーネ卿、はじめまして。ありがとうございます」
(ああ、駄目ねこいつは)
ステータスの値を神眼で見た途端、ローラは直ぐに切り捨てた。
(オールCとバランス良いけど、ちょっと強いくらいじゃ必要ないわ)
はじめての子供の残念ステータスに、ローラはため息が出るのを必死に堪え、微笑むことで誤魔化した。ローラが確認しているのは、現在のステータスではなく、成長限界のランク。Cということは、常人のDランクより強い程度でローラの求めている人材ではなかったのだ。
はい、さよなら、といった感じだろうか。ローラは、先ほどのクニーゼル宰相のときとは別の意味で、ガストーネへの興味を失っていた。
「どうした、ガストーネ?」
表情が崩れるのを誤魔化すために微笑んだのだが、ローラの笑顔の虜になってしまったかのように、ガストーネが頬を染めてモジモジし始めている。
「おっ、気に入ったか!」
「はい、父上」
(えっ、マジで! わたしはお断りよ。ほら、次があるのだからシッシッ)
苦笑いのローラを見やり、ダリルが口を挟む。
「後程も時間は、ありあますから」
(ダリル、ナイスよ!)
ダリルの対応に心の中でサムズアップしたローラがダリルを見上げると、ダリルが眉間をピクピクさせている。
ガイスト辺境伯との婚姻が成立すればフォックスマン家としては安泰なのだが、ダリルはまだそんな気はないらしい。当然、ローラも婚姻が目的ではないため、その気はない。
「それでは、ダリル卿のちほど」
ガイスト親子がようやく離れていくが、息子のガストーネがローラことを気にしてか、チラチラまだ見ている。ローラはその視線に気付きながらも、次の獲物を探すべく意識を切り替える。
「うーん、なかなかいないものね」
不満ともとれる発言を幾度となく呟きながら、ローラが子供たちの能力を盗み見る。今のところ、熊獣人のベルマン伯爵の息子、ジェラルドが腕力と耐久力がAランクと驚くべき潜在能力を有していた。
だが、領地がサーデン帝国の東の森の方で、テレサ村とは馬車で二週間の距離ほども離れていた。念のため、心の中の使える奴の候補リストにジェラルドの名前をメモしておく。そのあとも代わる代わる挨拶をされるも、ジェラルド以上の人材は現れない。
シントラ子爵の息子、アントニオ、体力Cランク。
「はい、次ぃー」
トンベル男爵の息子、クラス、魔力Cランク。
「はい、次ぃー」
ロッホ男爵の息子、グレゴリー、腕力Cランク。
「はい、次ぃー」
(それにしても貴族って大したことないのね。なんで、こんな人たちが権力を持っているのかしら。帝国貴族が聞いて呆れるわね)
ローラの無垢な表情が、次第に曇り、眉間に皺を刻む。
サーデン帝国は、貴族至上主義であるものの実力主義の色が濃い。政務的処理能力も重要であるが、戦闘技能の方が重要視される。戦で功績をあげると、陞爵されるし、下級騎士どころか一般兵士でさえ、叙爵されることがあるのだ。
実は、ダリルもその口である。
本来、騎士爵は当代限りとされている。フォックスマン家は、代々騎士家系であり、その類から漏れていなかった。
つまり、代々の当主は、己の力で騎士爵を得ていたのだ。
しかし、史上稀にみるダリルの活躍のおかげでフォックスマン家の爵位は、今では永久爵位扱いとされている。故に、テイラーは何もしなくても騎士爵を継げるのだった。
閑話休題
実力主義の帝国貴族の子息にしては潜在能力が低すぎるのではないかと、ローラが不満を漏らすのは決して期待値が高いからではない。ローラが不満を感じているのは、何もそれだけではないのだ。さっきから息子ばかりで、下品な目で見てくるやつらばかりである。
(たかが七、八歳で色気づいてるんじゃないわよっ!)
心中毒づくローラは、うんざりした思いを押し殺しながら代わる代わる挨拶にくる者たちへの対応を続けるのだった。
「やあ、ローラ嬢久しぶりだね。と言っても最後に会ったのが四年前だから覚えていないかな」
ローラのことを知っているような口ぶりで声を掛けてきたのは、スティーグ・フォン・ガイスト。爵位は辺境伯。
帝国人に多い栗色の髪に茶色の瞳をしたその男をローラが見上げ、神眼で情報を盗み見た。スティーグが言ったように、これっぽちもローラは覚えていなかった。「確か南西にあるバステウス連邦王国との国境に面している一帯を守っている人だったかしら?」とその情報から必死に思い出す。
ローラが住むテレサ村は、このガイスト辺境伯が統括管理する範囲に入っている。要は、フォックスマン家の寄親的存在である。ダリルが忠誠を誓っているのは、サーデン帝国の皇帝ではあるものの、貴族にも色々としがらみがあるのだった。故に、覚えていないと言ってしまうとダリルの面子を潰す恐れがある。仕方ない。ローラが見抜いた情報を元に挨拶の言葉を述べる。
「これは、ガイスト辺境伯閣下。お久しゅうございます」
「おお、覚えていてくれたのかい? これは嬉しいな。ダリル卿、いい娘さんに育ったな」
余程嬉しかったのだろう。快活に笑ったスティーグは、ダリルの肩をバシバシ叩きながらそう誉めそやした。彼とローラが最後に会ったのは、彼女が三歳のときなのだから当然だ。
ローラの淀みない口調に、ダリルだけではなくセナも驚いて、まあ、といった感じで口元に手をやっていた。
「え、ええ、おかげで私は毎日驚かされるばかりですよ、閣下」
何とかダリルはそう返した。
「そうか、そうか。ほら、挨拶しなさい、ガストーネ」
スティーグに背中を押されるように前に出てきたのは、これまた帝国人特有の容貌をした少年だった。
「ガストーネ・フォン・ガイストです。この度はおめでとう。宜しくローラ嬢」
「ガストーネ卿、はじめまして。ありがとうございます」
(ああ、駄目ねこいつは)
ステータスの値を神眼で見た途端、ローラは直ぐに切り捨てた。
(オールCとバランス良いけど、ちょっと強いくらいじゃ必要ないわ)
はじめての子供の残念ステータスに、ローラはため息が出るのを必死に堪え、微笑むことで誤魔化した。ローラが確認しているのは、現在のステータスではなく、成長限界のランク。Cということは、常人のDランクより強い程度でローラの求めている人材ではなかったのだ。
はい、さよなら、といった感じだろうか。ローラは、先ほどのクニーゼル宰相のときとは別の意味で、ガストーネへの興味を失っていた。
「どうした、ガストーネ?」
表情が崩れるのを誤魔化すために微笑んだのだが、ローラの笑顔の虜になってしまったかのように、ガストーネが頬を染めてモジモジし始めている。
「おっ、気に入ったか!」
「はい、父上」
(えっ、マジで! わたしはお断りよ。ほら、次があるのだからシッシッ)
苦笑いのローラを見やり、ダリルが口を挟む。
「後程も時間は、ありあますから」
(ダリル、ナイスよ!)
ダリルの対応に心の中でサムズアップしたローラがダリルを見上げると、ダリルが眉間をピクピクさせている。
ガイスト辺境伯との婚姻が成立すればフォックスマン家としては安泰なのだが、ダリルはまだそんな気はないらしい。当然、ローラも婚姻が目的ではないため、その気はない。
「それでは、ダリル卿のちほど」
ガイスト親子がようやく離れていくが、息子のガストーネがローラことを気にしてか、チラチラまだ見ている。ローラはその視線に気付きながらも、次の獲物を探すべく意識を切り替える。
「うーん、なかなかいないものね」
不満ともとれる発言を幾度となく呟きながら、ローラが子供たちの能力を盗み見る。今のところ、熊獣人のベルマン伯爵の息子、ジェラルドが腕力と耐久力がAランクと驚くべき潜在能力を有していた。
だが、領地がサーデン帝国の東の森の方で、テレサ村とは馬車で二週間の距離ほども離れていた。念のため、心の中の使える奴の候補リストにジェラルドの名前をメモしておく。そのあとも代わる代わる挨拶をされるも、ジェラルド以上の人材は現れない。
シントラ子爵の息子、アントニオ、体力Cランク。
「はい、次ぃー」
トンベル男爵の息子、クラス、魔力Cランク。
「はい、次ぃー」
ロッホ男爵の息子、グレゴリー、腕力Cランク。
「はい、次ぃー」
(それにしても貴族って大したことないのね。なんで、こんな人たちが権力を持っているのかしら。帝国貴族が聞いて呆れるわね)
ローラの無垢な表情が、次第に曇り、眉間に皺を刻む。
サーデン帝国は、貴族至上主義であるものの実力主義の色が濃い。政務的処理能力も重要であるが、戦闘技能の方が重要視される。戦で功績をあげると、陞爵されるし、下級騎士どころか一般兵士でさえ、叙爵されることがあるのだ。
実は、ダリルもその口である。
本来、騎士爵は当代限りとされている。フォックスマン家は、代々騎士家系であり、その類から漏れていなかった。
つまり、代々の当主は、己の力で騎士爵を得ていたのだ。
しかし、史上稀にみるダリルの活躍のおかげでフォックスマン家の爵位は、今では永久爵位扱いとされている。故に、テイラーは何もしなくても騎士爵を継げるのだった。
閑話休題
実力主義の帝国貴族の子息にしては潜在能力が低すぎるのではないかと、ローラが不満を漏らすのは決して期待値が高いからではない。ローラが不満を感じているのは、何もそれだけではないのだ。さっきから息子ばかりで、下品な目で見てくるやつらばかりである。
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