女神がアホの子じゃだめですか? ~転生した適当女神はトラブルメーカー~

ぶらっくまる。

文字の大きさ
51 / 53
第二章 お出掛けついでにトラブル編

第15話 女神、半狂乱する

しおりを挟む
 ローラがダリルに要らぬ告白をした翌朝。寝坊したせいで花柄ピンクのフリルが付いたパジャマ姿のまま、ローラは食堂のいつもの席で朝食を取っていた。寝惚けていたのだろう。パタパタと揺らしている足は裸足だ。

 そんなローラは既に覚醒しており、食後のハーブティーを啜りながら、ダリルとセナの様子を盗み見るように瞳を右へ左へと動かして観察していた。

(昨日の話で、わたしが無茶をしていることをダリルは納得してくれたみたいだけど、お母様はどうなのかしら? 空間魔法のときもそうだったし、案外怖いのよね、お母様って……魔法眼等のスキルと違って帝国への報告は必要ないらしいけど、どうやら継承者はそれよりも珍しい存在らしいし、黙っていたことを怒っていなければいいなー)

 ローラは、ニコニコと優しい笑顔を浮かべたセナから厳しく問い詰められた日のことを思い出し、遠い目をする。

 それも全て、その場の思い付きで適当にやり過ごそうとしてきたローラが悪いのだが、そのことに当の本人であるローラは全く気付いていない。神の知識を使ったことで神眼のそれを魔法眼と勘違いされ、適当な理由付けのせいで継承者であると、ダリルに認識されてしまった。

 ――身から出た錆……とまではいわないが、それに近いかもしれない。

 結局、そのまま待っても、ローラの予想していた展開にはならず、時間ばかりが過ぎていく。

「はぁ~」

 嘆息してからローラがカップを持ち上げる。その中身も残りあとわずか。最後の一口をローラが口に含み、名残惜しそうにカップの底を見つめる。そこには、ゴールドとミスリルを混ぜ合わせた染料でラベンダーが描かれていた。

 磁器の白に描かれた金と白銀が鮮やかで、いつまでも見ていられるほど美しい。調度品類が少ないフォックスマン家ではあるが、食器などはかなり高価な部類の非常に良い物を使用している。

 その実、セナの実家であるドリーセン伯爵からの贈り物で、売ることが出来ないというのが正解かもしれない。

 セナは、上級貴族の令嬢であり、宮廷魔法士を務めていた経歴の持ち主。ただ、専門分野は光魔法で補助魔法士部隊所属だったらしい。それほど戦場に出る機会もなく、ほとんどの時間を研究に費やしていたという。

 その当時、空間魔法を研究していた部下に、ディビーの母親であるテレーナがいたのだとか。

 正直、ローラとしては、どうでもよいことだった。それでも、今回ばかりは、その偶然のせいでテレーナが研究していた空間魔法の呪文をローラが盗み見たのではないか、という疑いを掛けられていたのだ。

 ただそれも、ローラに継承者の特徴があることから、その疑いは既に晴れている。が、その特殊な体質であることが新たに判明した訳で、セナがそのことについて追及してくると、ローラは考えていた。

 いまのところその様子はみられない。時間を延ばすことに限界を感じたローラが静かにソーサーへカップを戻し、フキンで口元を拭く。そして、いつものように席を立とうと椅子を引いたとき。

「あぁ、部屋に戻る前に話があるからちょっと待ってくれ」

 ダリルがローラに待ったを掛けた。

 ダリルの声にその動作を停止させたローラは、やっときたわね! と瞳を閉じる。それからローラは、声を掛けてきた本人ではなく、左前方にいるセナの顔を見上げるのだった。

 昨日のことよね? という、確認の意味で窺う視線を向けたのだが、セナは何を勘違いしたのか、「大丈夫よ」と、一言だけいって微笑んでいた。

 いつもの柔らかい母親らしい微笑み。

 ローラが訝しむように眉根を顰めたせいか、そんな返事をしたのだろう。

「はい。わかりました、お母様」

 終始笑顔のセナの様子に首を傾げながらもローラは、大人しく座り直す。

(むむ、セナお母様はいつも通りニコニコしているけど、そういうことよね、うん。あのダリルがお母様に話していないハズもないし……まさか、あのときみたいに怒っているんじゃ……)

 当時の記憶が再び蘇り、わなわなと小刻みに震えながらローラが二度見をする。

 普段通りのセナの笑顔が、そこには変わらずあった。

「…………」

 ローラは、昨日の固い決意が揺るぎ始めるのを感じた。

 それは、どんなことをいわれても大丈夫なように、寝る前に予習をしており、

『まあ、この時代で空間魔法は、ロストマジックといわれるほど珍しい魔法なのに、本で呪文を見たなんっていえば、そりゃあ疑いもするわよね』

 と適当に誤魔化したことを反省し、

『あーあ、いつも完璧なわたしとしたことが、ついぬかったわね』

 などと、完璧? いつも適当じゃないのよ、とミリアから突っ込みが入りそうなセリフを吐き、

『女神のわたしは分け隔てなく民を愛していると伝わっているらしいし、女神のように帝国騎士としてではなく、冒険者としてみんなのためにその力を振るうといって押し通してやるわ!』

 と一人、自室でローラは息まいていたのだった。

 だからという訳でもないが、食後のハーブティーをのんびりと香りを楽しむようにして、いまかいまかとその話題になるのを待っていたのだ。が、待てど暮らせど二人からその話題が出ることはなく、他愛の無い話ばかりであった。故に、考えすぎなのかしら? とローラは席を辞することにしたのだった。

 結果、呼び止められはしたものの、ダリルが何かを切り出すこともない。

 ローラが焦れてダリルの方を見ても、「まあ、待て、もう直ぐだから」というばかりである。

 何を待っているのかしら? とローラは、何もすることがなく持て余した時間を、ハーブティーをお代わりして過ごす外なかった。そして、三杯目のお代わりをアリエッタがローラの前に置いたとき、食堂の扉が叩かれた。

 ローラが扉に視線を向けると、執事であるスコットが入ってきた。

「失礼します。皆様がご到着いたしました」
「ご苦労、それでは入ってもらえ」

 ダリルに会釈してからスコットが廊下の方を向いて手招きした。

「えっ、あんたたちどうしたのよ!」

 どうしたもなにも、ダリルに呼ばれたのだろう。しかし、聞かずにはいられなかったのだ。

 ミリア、ディビー、そしてユリアの三人が訓練のときと同じ革鎧という出で立ちで、頭をペコペコ下げながら食堂に入ってくる。

 ローラがすかさずダリルの方を見た。

「そうだよ。俺が呼んだんだ」

 なぜ? とは、聞かない。ミリアたちが呼ばれたのは予想外だったが、そのことがローラの予想を確定付けるものとなった。むしろ、それはローラにとって願ってもないことだったりする。

 おかげで簡単にことを進められそうね、とほくそ笑んだくらいだ。

(この四人で世界を渡り歩く冒険者となって、平和を守る話でもすればいいんじゃないのよ!)

 ローラは、再び適当なことを思い付いてしまった。

 が、

「そうだな……ローラはモーラの席に、セナもこちらへ」

 不思議に思いながらもローラは、いわれた通りにダリルの左手側の席に移動する。

 セナは、テイラーの席であるダリルの右側に席を変えた。

「さあ、いつまでもそんなところに突っ立ていないで、も座りなさい」

 ローラがダリルの言葉に違和感を覚える。

「し、失礼します」

 恐縮した様子でミリアがお辞儀をし、ローラがさっきまで座っていた席に座した。それに続くように、ディビーとユリアも挨拶をしてから、順に席に着く。

 長机なのだから長辺側に座って向かい合えば楽なのだが、それはしない。ダリルは、騎士爵といえども貴族である上に、ミリアたちにとって領主様である。同じ席に着くだけでも、村娘に過ぎない彼女たちにとって恐れ多い存在であり、上座からダリルが移動することはあり得ないのだ。

 となれば、下座側にミリアたちを座らせたのも道理である。

 いくら子供でも、それくらいの作法をミリアたちも知っているのだろう。素直にそうしていた。

 その一方でローラは、先程の楽観的な思考が吹き飛び、嫌な予感が込み上げたのだった。

(も、もしかして、ダリルのやつ、貴族だなんだのといって騎士団を解散させる気なんじゃ!)

 そう、ただの子供であれば騎士団と名乗っても何ら問題はないだろう。それでも、ローラが魔法眼持ちであり、継承者という情報を周りが知ったらどうだろうか? たちまち、ローラと他の三人たちの身分差が問われることになる。

 女神であったローラからしたら、そんなことは些末事だ。それでも、周りが放っては置かないし、許されない。

 サーデン帝国は、基本実力主義であるものの、貴族主義的思考の影響力が強い。故に、ローラは記憶に新しい数週間前の出来事を思い出したのだ。

 それは、モーラが翼竜騎士団に入団することを決断して祝賀会を兼ねたお別れ会のときだ。

 モーラの従者として騎士学校に通っていたアンネに対し、ダリルが従者の任を解いて屋敷で働くようにと伝えた。いつもは、「アン」とダリルは呼んでいたにも拘わらず、そのときは、「アンネ」と呼んでいたのだ。

 その理由は、貴族の精鋭が集まる翼竜騎士団に入団するモーラに、平民であるアンネを随伴させることが危険だと判断したからだとダリルが説明していたのだ。

(そ、そうよ! いつもちゃん付けで呼んでいるくせに、きみたちとかいってたし……)

 それに気付いたローラは、表現し難い悪寒が身体中を駆け巡るのを感じてゾッとした。

 途端、ローラが椅子を蹴上げるような勢いで立ち上がり、めいっぱい叫んだ。

「だめだめだめっ! そんなの嫌っ、絶対だめぇええーー!!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

処理中です...