魔神と勘違いされた最強プレイヤー~異世界でもやることは変わらない~

ぶらっくまる。

文字の大きさ
1 / 56
序章 伝説のはじまりは出会いから

プロローグ 伝説を信じて

しおりを挟む
 走れども走れども先がみえない、暗闇。

 地中から這い出た木の根や深い藪が、走り手の体力を容赦なく奪う。空気を取り込むために自然と顎が上がって、重くのしかかるような枝葉に視界を覆われる。

 陽の光さえも届かない、闇が支配する聖域。

 バース大陸を二分するように大陸中央部に広がる大森林――常闇の樹海は、別名、『エヴァーラスティングマナシー』と呼ばれ、その鬱蒼たる魔力の森を二人がひた走る。

 走り手にとって畏怖と共に伝説の聖地とも呼ばれる、希望の地。

「し、シルファ様、そ、そろそろ、休憩にっ」

 切れ長のシュッとした青色の瞳には、疲労よりも不安の色が浮かんでいる。汗が入ったのか片目を瞑ったラヴィーナが、息も絶え絶えに提案してくる。すっきりと短く切った茶髪のラフな毛先が揺れ、あっちこっちへと散った汗が、トーチの魔法で照らされて煌めいていた。

 深い森の中にいるにも拘わらず、突然のことで準備が間に合わなかったラヴィーナは、肩からバスト、背中の露出が多い紺色のオフショルビキニ姿。腰には、黒色のパレオを巻いているだけといった装いで、その露出した部分に切り傷や火傷の痕があらわになっており、痛々しかった。

 そんな彼女のために休憩するのもありかもしれない。

「そ、そうですわね……いえ、ラヴィーナ、もう少し進みましょう」

 ラヴィーナの提案に頷いたシルファであったが、すぐに考え直してかぶりを振った。その足を止めることはしない。ラヴィーナの提案は、決して彼女が休憩したくて言っているのではなく、シルファのためだと言うことが視線から丸わかりだった。

 シルファは、肩先まで伸びたウェーヴが掛かった輝くほどの金髪が自慢であり、入念に手入れしていた。それが、追っ手をまくための激しい戦闘の影響で、土埃を被った髪に艶は無くぼさぼさになってしまっている。さらに、苦しさから顔を歪め、瞳を隠すように瞼が重く今にも閉じそうなのだ。

 それを見かねたのだろう。ラヴィーナはそう易々と引き下がってはくれない。

「ですが、もう数時間も駆けっぱなしではないですか」

「いくら追っ手を撃退したからといって、ヴェルダの兵ならともかく、あの帝国はこの場所を恐れていませんわ。気にせず追ってくることでしょう」

 シルファも大分体力の限界を感じている。それでも、ここで捕まる訳にはいかないのだ。

「……畏まりました」

 シルファの思いが通じたのか、ラヴィーナが口をつぐむ。

 二人の間を沈黙が支配してから幾ばくか過ぎたころ、不安からシルファが口を開く。

「ねえ、ラヴィーナ」

「何でございましょう」

 声を掛けられたことで、やっと休憩する気になったのだとでも期待したのだろう。ラヴィーナの瞳が一瞬輝いた。

「ほ、本当にありますわよね」

 シルファの言葉を聞いたラヴィーナは、瞳に影を落とし、逡巡してからシルファを見た。

「そ、そうですね……私も信じておりますが、あくまで伝説というより、空想に近い話ですので、そればかりは何とも……」

 ラヴィーナが言ったことは至極まともなことであり、希望的観測なのはシルファも理解していた。理解していたが、何もないシルファにとって、その一縷の望みに賭けるしかなかった。

 信じ切れるように同意してほしかったシルファは、真面目な回答がラヴィーナから返ってきたことで、油が切れた機械仕掛けの足になったと錯覚するほど、急にその足が動かなくなり、立ち止まる。

「そ、そうですわね。でも、わたくしたちに残された道は、もう……」

 弱気なシルファの発言に、ラヴィーナが慌てる。

「あ、いえ、私は疑っている訳では――」

 ラヴィーナがシルファの前に片膝を突き弁明する。そのラヴィーナの慌てた表情が可笑しくて、シルファが思わず微笑む。

「ふふ、わかってますわ、ラヴィーナ。こんな何の取柄もないわたくしに最後まで付き従ってくれたのは、あなただけですもの」

「何を仰いますか! 私にとってシルファ様が至高の御方ですから」

「ラヴィーナは、本当にそればっかりですわ」

「事実ですから」

 シルファは、伝説の登場人物と同じ呼ばれ方をして、「とんでもない!」と、思ったが、否定をすることはしなかった。べつに否定してもよかったが、シルファに対するラヴィーナの忠誠心は本物で、それを理解しているシルファは、無駄なことをしなかった。

「しかし、シルファ様は、怖くないのですか? あの話が本当だとしたら……」

「怖くはないなんて口が裂けても言えませんわ。むしろ、自信を持って怖いと言えますの」

 その開き直ったシルファの様子に、ラヴィーナはポカーンとしてしまった。

「ふふ、おかしいですわね。かつては魔皇帝と崇められた帝国の血を受け継ぐ者なのに、怖い、だなんて……」

「な、何を仰いますか! 私が傍におります! 一緒に戦います! 例え命が尽きてもその先も!」

 力強く宣言したラヴィーナの拳を包み込むように両の手を添えたシルファは、

「ええ、わかっていますわ。ありがとう、ラヴィーナ。こんなわたくしのために――」

 突如、そんな主と家臣の美しい遣り取りを邪魔するかのように、耳をつんざくような爆音が二人の耳を襲った。

「なに!」

「シルファ様、私の後ろへ!」

 驚くシルファを庇うように彼女の手を引いてラヴィーナが背後に隠し、音がした方へ顔を向けた。

「まだ、距離がありますね。我々を狙った訳ではないでしょう」

「それじゃあ、何?」

「……予想ですが、シルファ様が仰ったようにシヴァ帝国の兵たちが我々の先を行っていたのやもしれません。それで、聖魔獣にでも遭遇したか……いや」

 ラヴィーナは、自分の予想を説明しながら自分で矛盾に気付いたようだ。魔法に因るものと思われる炸裂音が未だ轟いており、一向に止む気配はない。

「既に聖域に到達しているので魔獣の類はいないはず……」

「そ、それじゃあ、もしかして……」

 シルファの問いにラヴィーナも無言で頷く。

「そうなのですね!」

 歓喜に近い叫び声をシルファがあげ、それに同意するようにラヴィーナが口を開く。

「ええ、もしかしたらもしかするかもしれません!」

 二人が、常闇の樹海に足を踏み入れ、既に一週間が経過しようとしていた。それだけ進めば、魔獣でさえ近付こうとしない聖域に達していたのだろう。このまま進めば、伝説の聖地と呼ばれる所以となった伝承の地へと至る。

「ラヴィーナ! こんな場所で立ち止まってはいられませんわ!」

「はい、行きましょう!」

 国を追われたシルファとその従者であるラヴィーナ――己の地位を確固たるものとすべく、己を叱咤激励し、希望の地を目指して再び駆け出すのであった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...