魔神と勘違いされた最強プレイヤー~異世界でもやることは変わらない~

ぶらっくまる。

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序章 伝説のはじまりは出会いから

第04話 部隊編成は計画的に

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 アレックスの自室は、シュテルクス卜城の最上階の五階にある。
 ファンタジー世界が舞台設定であるため、エレベーターなる代物は無い。その代わりに転移ポータルを使えば一瞬で一階まで移動できるのだが、対象毎に「転移の指輪」という課金アイテムが必要になる。当然、NPC傭兵のソフィアやジャンがそんなアイテムを持っているハズもなく、アレックスは徒歩を選んだ。

 そもそも、空間魔法はリバフロの世界観でロストマジック扱いされている。高ランクの魔法を覚えるか課金アイテムが必要なのだ。努力せずに楽をしたければ金を払え、という運営の仕様だ。リバフロには、所々にこのような課金要素が散りばめられている。

 仕様では致し方無いだろう。ジャンを先頭に三人は東側の階段を下って行く。どうやらソフィアも同行するらしく、アレックスから数歩離れた位置にいた。ソフィアが付いて来ることには触れず、アレックスは前方に気を配る。

 鋼鉄のプレートアーマー姿とはいえ、ジャンの華奢な背中を認め、アレックスが部隊編成画面を確認する。

 先程のジャンが言った所属を思い出しながら、アレックスが半透明のメニュー画面を表示させて階段を下る。数分もしない内にジャンの名前を見つけた。

(おおーいたいた)

 確かに、直轄旅団の末端兵士で間違いなかったのだが、部隊編成画面を確認したことで新たな疑問が生まれた。

「なあ、ジャン」

「は、はいっ! な、何でしょうか、陛下」

「ああ、危ないから前を見ながらでいいぞ」

 名前を呼ばれただけでジャンがビクッとなってアレックスを振り返った。右手で前を指して注意を促す。

「あ、ありがとうございます」

「ああ、いや。ときに確認だが、何故ジャンは異変を目の前で確認できたのだ?」

 アレックスの問いに振り向きかけたジャンだが、直ぐに前を向いて当然という風に答える。

「それは、城壁通路にいたからであります」

「だから、何故だ? 目の前で見ているのだから、城壁付近に居たのはわかる。俺が聞きたいのは、直轄旅団の第一連隊で第一大隊といったら、俺と戦場を駆け回る部隊だぞ」

 部隊編成画面には、部隊のタブが一二個ある。その内訳は、アレックスを指揮官とした直轄旅団――第一旅団――とNPC従者を指揮官に据えた第二旅団から第八旅団の合計八旅団が、基本的に戦争のための部隊運用をされる。

 残りの四部隊は、帝都防衛用に、城壁東方旅団、城壁南方旅団、城壁西方旅団の三個旅団分の兵力を充てた帝都防衛師団九千人と、帝都内を巡回する一個大隊の三〇〇人編成で、見栄えだけの帝都警邏団。それぞれが、第九旅団から第一二旅団となる。

 つまり、アレックスの直轄旅団に属しているジャンが城壁通路に居ること自体、おかしな話だった。

 それ故に、補足を加えるのだが。

「城内の警備ならまだしも、城壁付近の警戒は、帝都防衛師団の役目じゃないか」

「え、えーっと、それはですね……陛下の命令だからでございます」

 逡巡しながらもジャンからそう言われ、アレックスが首を傾げた。

「俺の命令?」

 アレックスには全く思い当たる節が無い。

「は、はい……」

 しょんぼりと肩を落としたジャンの様子に、アレックスが慌ててジャンの名前を選択し、タスク管理項目を確認する。そこには、「本拠地襲撃時、敵戦力評価後の伝令」との記載があった。

(――え、まじで……こんな設定した覚えが全くないんだが……一体いつからジャンは、その命令を守っていたんだ?)

 その事実に絶句したアレックスが恐る恐るジャンを見た。

 前を向いているためその表情を窺い知ることはできないが、肩を落としてトボトボと階段を下っていく様が、何とも切ない感じがした。

「ああ、覚えているとも。、覚えているぞ! 伝令の役目を見事務めているな」

 タスク管理項目を見てたった今知ったのだが、ジャンの様子に忘れていたとは口が裂けても言えない。アレックスは、わざとらしく強調して答える外なかった。

「そ、そうでございますか!」

 褒められたことが嬉しかったのか、ジャンの声に元気が戻っており、アレックスが取り繕うように労いの言葉を掛ける。

「う、うむ、今回も迅速な伝令の役目ご苦労であったなっ!」

「はっ、そう仰っていただき光栄でございます!」

「うむうむ、その調子で励めよ」

 皇帝らしく振舞うも、正直冷や汗が止まらないアレックス。再度NPC傭兵たちのタスク管理項目を見直すことを誓ったのは、言うまでもないだろう。

 となると、アレックスの数歩後ろに居るソフィアのことが気になり出した。

「して、ソフィアよ」

「何でしょうか、陛下」

 アレックスは、某大国の大統領室をイメージし、意味のない前室を作っていた。そこに秘書っぽいNPC傭兵を配置したことまでは覚えていた。それに、毎日毎日そこに居続けていたため、彼女に設定したタスクがあの部屋にいることであるのは間違いないはずだ。

 そこまでは予想できたが、ソフィアの名前どころか、何ランクのNPC傭兵かも忘れていた訳である。
 とどのつまり、どの部隊に所属しているのかわからず、正確なタスクの確認ができない。

 部隊編成の欄に記載されているのは、文字の羅列だけで数万の中から彼女の名前を探すことなどできるはずもなかった。

 残された選択肢は、直接聞くしかない。それでも、ジャンのことで失敗したアレックスは、先程の二の舞いを演じないように言葉を選ぶ必要があった。

「お前は秘書の役目があるだろうに、こんなところに居てよいのか?」

「何を仰りますか。そのために同行しているんじゃないですか」

「え?」

 アレックスにも聞こえるような盛大なため息を吐かれ、アレックスは間抜けな声を出した。

「『え?』 ではありませんよ、陛下」

 ジャンとは違い、ソフィアが強気にアレックスを責めてくる。

 それがいつの間にかアレックスと肩を並べて歩いており、赤縁眼鏡をくいっと上げ、鋭い翡翠色の双眸がアレックスを容赦なく射貫いた。

「いいですか、陛下。こんな非情事態に副官である私が同行しないで、一体いつ同行するのですか! それに、秘書というものは本来、常に行動を共にすると陛下がご自身で以前に仰っておりましたよ」

 その言葉を聞いたアレックスは、ジャンのときと同様に急いで部隊編成画面を開いた。

「おおう、マジかよ……」

 アレックスは、異世界へ飛ばされたことよりも、自分が設定したことを思い出して驚いてばかりだった。

 確かめると、ソフィアが言ったように彼女は、アレックスの副官だった。つまり、ソフィアは直轄旅団の第三連隊長であり、それが便宜上、アレックスの副官となる。通りで皇帝であるはずのアレックスに当たりが厳しい訳だ。

 彼女の本名は、ソフィア・セクレタリー。

 彼女は、レベル一〇〇のSランク傭兵で将軍キャラに該当する。部隊編成上も千人隊長であり、それは将軍職を意味する。それにも拘らず、キリっと美しい見た目で、物は試しとダークスーツと赤縁眼鏡でドレアさせたら、どこからどう見ても美人秘書にしか見えなかった。
 それで悪乗りしたアレックスが、彼女の家名をそのままソレに設定した。

「そ、そうだったな。確かに、そう言った、かもな……」

 そんな苦笑いのアレックスを他所に、ソフィアが宣言する。

「ですから、今まで以上に陛下の剣となり働きますのでご覚悟願います」

 ソフィアはプレイヤーと違ってNPC傭兵の剣士としてアレックスに雇用されている。種族的にダークエルフであるが、魔法より剣が得意だったりする。

 その気迫は凄まじく、鼻息が聞こえるほどだった。

「ま、まあ、そこは無理しなくていいんじゃないかな……」
「なりません!」

 ソフィアに凄まれたアレックスは、終始たじたじだった。

「そ、そうか……」

「そうですとも」

 自分が設定した部隊編成でこんなに驚いていては、これから色々と起きるであろう事態に心臓が持つのだろうか、と心配になるアレックスだった。
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