分裂転生少女は辺境の至宝になりました!

しののめ あき

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ノクティス視点

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「王太子殿下よりも一つ下の少女が横領問題を解決しそうですので、ちょっと辺境伯領まで行って来ますね」

飄々とした態度で父上に外出許可を取りに来た我が国の宰相カイルが、私を引き合いに出したおかげでそんな優秀な女児ならば自ら見て来いと父上に命じられた

これは、王太子として国母になり得る可能性があるか確かめておけ
との意味合いだろう

王族に生まれたからには、責務が肩に重くのしかかる
まして、私は1人息子だ
余計な争いは生まぬ様に父上は正妃である母上のみを伴侶としている

隣国では3人目の側室が第5王子を出産したと言われている中でこの国には私しか居ない
そのお陰で、勢力争いなどはないが全ての期待がのしかかって来る
息がしにくい
人の目が常に張り付いている感覚
父上も母上も、王太子として教育は最上の物を与えてくれている
だが、親の愛情は皆無だ
父上、母上と呼びながらも産まれて直ぐに乳母に預けられ教育という名の元に厳しく躾けられた
愛情など知らない私は政略結婚にも抵抗もなく国母として相応しい令嬢と国の為に生きていくのだろう
この年で無感情や冷酷そうだと言われるようになったのもそんな環境の産物だ

母親に抱き締められていたら、父親に頭を撫でて貰って居たら私だって人並みに笑えただろうと思う


辺境に国母候補がいるかもしれないと言えば自ら確認しに行くのは当たり前だろう
ただ、王太子の同伴である為護衛として王国騎士団も出陣を命じられた

宰相も息子を連れて行くと言う
私が気に入らなければ自分の息子にあてがうつもりなんだろうが、気に入る気に入らない等の感情は必要無い
国母に相応しいなら、私が父上に一言言うだけだ

そんな中、それならばと現場を見せる為にと騎士団長も息子を駆り出す事にしたらしい

悪人の連行と言えど、一貴族の連行だ
裏の組織や危険な人物では無い為丁度良いと思ったのだろう

出立準備が整えられ転移をすれば体躯の良い整った顔の男に迎えられた
レオニス・エストレーア
この辺境領地を治める辺境伯だ
家族も出迎えにやって来たらしく目を向けると、宰相が言っていた件の少女が父親に紹介され辿々しく挨拶をした

「ノクティス・フォン・アヴァロンだ」

気付けばそこに居る誰よりも早く彼女に言葉を返していた

質素な身なりに似つかわしく無いほどに整った容姿の少女リディア
夜明けを思わせる様な紫色の髪色で光の加減で淡い桃色にも見える

辺境伯の青髪と夫人の赤みがかった茶髪が上手く混ざり合ったのか不思議な髪色が印象的で、兄弟である2人は兄が青、弟が茶であるのも相まってか彼女だけが異質に感じられた
ただ、瞳の色だけは辺境伯と兄弟とも同じサファイアの様な色であった為血は繋がっているのだろうと思う


彼女を見ていれば、クルクルと動く表情に説明の時には別人の様な聡明さを見せたかと思えば、自分の背丈以上のワゴンを危なげに押している
何故かずっと気になって仕方がない

そんな雰囲気もないのは一目瞭然だったが冷遇されているのかと問えば、美しい髪を揺らしながら否定する姿は可愛らしかった

自分に他者を可愛いと思う感情があるとは驚いたが、顔を合わせた事のある令嬢と言えば、他国の姫や厳しく躾けられた公爵家の娘だったから物珍しいのだと思う事にした


その後、辺境伯の弟が愚行に走り魔獣が押し寄せて来る事件が起きた
私はこの国唯一の王太子
危険な場所に行く事は決して許されない

けれどリディアに剣の特訓の成果を見せようと走り出してしまった
講師に褒められて自惚れていたのだ
それを見たアーサーが慌てて剣を抜きついて来る

戦闘中、当たり前のように足で纏いになり後悔をし始めた時、リディアが凄い速さで駆け抜けて、いや、飛んで行った…のか?

その方向へ視線を向けて立ち止まってしまったせいで、脇腹が熱くなり視線をやれば狼の様な魔獣が喰いついていたので、剣を振り下ろしなんとか逃れた
しかし、直ぐに別の魔獣が飛びかかって来たのが目に入る

「殿下!?!?」

アーサーの声と同時に彼に庇われたのが分かった
目の前には彼の真っ赤な髪と真っ赤な液体

情けない事にそこで私は意識を手放した
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