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13. 君を守るのは‥‥‥ Side テオ
しおりを挟む【Side テオ】
ポールとマティアの結婚パーティーは終盤に差し掛かる。
ダンスが大の苦手であるテオは、大広間から離れて、バルコニーのベンチで一人休憩していた。
(なんにせよ、サラに結婚式がぶち壊されなくてよかったよ。)
結婚式の途中、ポールに恐ろしい目で睨まれたが仕方ない。
(俺じゃ止めれないよ。ポール。)
テオが大きくあくびをした時、ドントール国王とマティアがこちらに歩いて来るのが見えた。
(なんで花嫁とドントール国王がここに……?)
テオはこっそり草むらに隠れ、マティアと彼女の父、ドントール国王を伺った。
「マティア、私の言葉を忘れるな。ドントール王女としての役目を果たすのだ。」
「かしこまりました。」
「お前の役目はなんだ?言うてみろ。」
「皇太子を毒で弱らせ、彼の弱点を見つけることです。」
マティアは人形のように表情を崩さない。その姿はテオが知る彼女と全く違っていた。
(嘘だろ……?)
悪名高いドントール国王の行動に裏があることには、皆勘づいている。だがまさか娘を利用して、皇太子に毒を盛ろうとしているとは。
「何か皇太子についてわかったことはないか?」
「ございません。」
「女の影は?」
「全く。」
「ちっ。つまらんな。」
マティアは嘘をついている。ポールの浮気をドントール国王に知られてはならないのだ。
(だから、マティアはあんなに焦ってたのか……。)
「なんでもよい。ポールの不貞行為の噂を聞いたらすぐに儂に手紙をよこせ。あの男を血祭りにあげてやる。」
「……はい。」
「なにも無ければ、お前自身であの男の悪評を作り出せ。ただこちらから攻めるのでは………体裁が悪いからな。」
声をあげて笑う父親をマティアは無表情で眺めている。
ドントール国がリックストン国を侵略することは、もう既定路線なのだ。そしてそれを、マティアは知っている。
「情にだけは流されるでないぞ。あの男は……お前の敵なのだから。」
「ええ。わかっております。お父様。」
短く言葉をかわしマティアとドントール国王は大広間に戻って行った。
(マティア。お前、なんてものを一人で背負ってんだよ……。)
◇◇◇
草むらから出たテオは急いで大広間に向かう。簡単に体についた草を払った。
「マティア。次は俺と、ダンスを踊ってくれないか。」
「テオ……。もちろん喜んで。」
ダンスに誘うと、強張っていたマティアの顔が少しだけ緩んだ。
「ダンス……苦手なんだ。足踏んだらごめんな。」
「だいじょうぶよ。ゆっくり踊りましょう?私も……のんびりしたい気分なの。」
「だな。」
幸いにも、次に流れてきた曲はゆったりとした曲調だった。マティアと手を合わせ、それらしく音楽に乗るだけで場は保たれる。
「結婚おめでとう。マティア。」
「ありがとう。」
「本当に美しい花嫁だよ」
「今日……初めて、言われたわ。」
マティアは表情を崩した。笑顔を作ろうと思ったのだろうけれど、失敗した、そんな顔だった。
"結婚おめでとう"
この言葉がマティアにとってふさわしいのか、分からない。それでも、この美しい花嫁にかける言葉はやはり、"おめでとう"しか思いつかなかった。
「みんなそう思っているよ」
「お世辞ね。」
「ほんとだって。」
長く美しい黒髪に青い瞳。ドントールの至宝と評されるマティア。テオにとって、マティアは昔から手の届かないところにいる美しいお姫様だった。
「みんな私を見ていないわ。」
「釘付けだって。」
「ううん……見ているのは私の父よ。本当にこの同盟が継続されるのか、父が裏切るんじゃないかってみんな疑ってる。」
マティアの言葉は……悲しいことに事実だった。誰もがドントール国王の噂をしている。
"この婚姻には裏があるに違いない"と。
「パーティの途中で、誰かが噂してたわ。マティア王女はリックストンの人質になるために、わざわざ嫁いだのかってね。」
「酷いな……。」
テオは慎重に背中でマティアを周りから隠した。彼女が涙を流しても、誰にも知られないように。
「マティア、もしも……。」
「言わないで。大丈夫よ。私が自分で選んだ道だもの。何としても……守ってみせるわ。」
マティアの口調は強気だが、瞳は不安そうにゆらゆら揺れている。それが酷くアンバランスで……抱きしめたい衝動に駆られた。
(一人で……何ができるっていうんだよ。)
一人国を離れ、父が侵略すると決めた国に嫁いだマティア。彼女はただひたむきに、ポールとリックストンを守りたいと望む。
その健気さが、酷く危うげに見えた。
「辛かったら、いつでも手紙でおくってな。力になるからさ。」
「……あり、がとう。テオ。」
マティアは一瞬言葉に詰まって、目を閉じた。そして、次の瞬間には小さく微笑んでいる。
(辛かったら逃げておいで。俺が世界のどこにでも連れていってあげるさ。)
言えなかった"もし"の続き。
次のダンスに向かうマティアをテオは優しく見つめていた。
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