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男を誑かす悪女なんだって

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「よく聞け!!サクラ。お前とは婚約破棄することに決まった。ヒィナが俺の子供を妊娠したのだ!」 

王座からサクラを見下ろして、サクラの婚約者であり皇太子のアトラスは叫んだ。ヒィナとはアトラスの愛人の名前である。

「この破廉恥!!愛人が妊娠したから、結婚式の日に慌てて聖女に仕立て上げたんでしょう!」

サクラは必死で訴えるも、その声は誰にも届かない。

「この女を地下牢に連れて行け!!!」

アトラスの命令によって、サクラは兵に捕らえられてしまう。

やめて!!やめてよ!!

どんなに叫んでも、声は届かないーーー。



・・・・・・・・



「サクラッ。」

レブロムの声で目が覚めた。

「レブロム、、、。」

サクラは目元の涙を拭って大きく息を吸う。レブロムがそっと私を抱きしめてくれた。

サクラが見たのは2年前、アトラスに婚約破棄されたときの夢。最近は滅多に見ることの無くなっていた悪夢だったのに。

「ごめん。」

今日はサクラとレブロムの結婚式前日である。なぜこんな夢を見てしまったんだろう。

「謝らなくて良いんだよ。だいじょうぶだ。俺はアトラスとは違う。絶対にあの時のようなことは起こらないから。」

二年前、皇太子であったアトラスは国王の暗殺を試みた。その中でアトラスはヒィナを聖女に仕立て上げ、妊娠させた。邪魔になったサクラは、不貞をでっちあげられた挙げ句の果に婚約破棄されたのだ。

「信じてるわ。」

体を起こすと右腕の傷が少し痛んだ。レブロムには言っていないのだが、先日、名前も知らない国民にいきなり切りつけられたのだ。

皇太子と聖女を陥れた悪女め!!

もちろん、それは真実ではないが、国民の中にはそう考えている人々が一定数いる。アトラスが廃太子となり牢屋に入れられることになった後、ドノバル王は国民にこう伝えた。

「皇太子アトラスは国王であるドノバルを暗殺しようとしたため、刑に処す。」

事情をよく知らぬ国民に大きな衝撃が走ったことは言うまでもない。しかし、ドノバル王は王家の威信を守るために、事件の詳細を国民に伝えようとはしなかった。

そのため、アトラスの婚約者であったサクラが、その弟で皇太子であるレブロムと婚約することに疑問を覚える国民は大勢いるのだ。

「サクラ、その腕の傷は、、、?」

「あっ。これは、、転んでしまったの。」

サクラは慌てて傷を隠した。幸いにもウェディングドレスで隠れる部分であったため、レブロムに言わないでおいたのだ。

「転んだ、、、??だがこの傷は、まるでナイフで切りつけられたような跡だが、、、。」

「こ、小枝が引っかかったのよ!」

レブロムはゆるゆると首をふると、サクラの目を真っ直ぐに見て言った。

「本当のことを言ってくれ。俺たちは夫婦になるんだから。」

しばらく押し問答が続いたが、あまりにもレブロムが頑ななので、サクラは事件のことを白状するしか無かった。

「なんで今まで黙っていたんだ、、、?」

「心配かけたくなくて。大したことじゃないし。」

サクラの言葉に、レブロムが珍しく怒った顔をした。

「馬鹿!言わないとだめだろ!なんでサクラはそんなに我慢強いんだ、、、。人を気遣う優しいところはサクラの良いところだけど、ちゃんと自分を大切にしてくれ、、、!」

「ごめん、、、。」

レブロムはサクラのおでこに軽くキスをすると、意を決したように立ち上がった。

「どこ行くの?」

「秘密。」

こういう顔をしたときのレブロムは無茶をすることが多い。

「待って。何をするつもり?」

「サクラは心配しなくてだいじょうぶだよ。」

心配しないなんて無理。今ではもうレブロムの存在は何よりも大切なものなのだ。優しくて、かっこよくて。こんなこと言ったら怒られてしまうかもしれないけど、レブロムのためなら命だって惜しくない。

「無理しないで。私はだいじょうぶだから。」

レブロムはそっとサクラの頬に触れた。

「愛しいサクラ。俺はサクラを傷つけるもの全部から君を守りたいんだよ。そのために、今のままじゃだめだ。」

「え?」

「たとえ、王家の評判が悪くなったとしても、国民に2年前に起こったことを全て伝えなきゃ。」

「そんな、だっ」

止めようとしたサクラの唇をレブロムが塞いだ。

「どうか俺に、君を守らせてほしいんだ、サクラ。」

  ◇◇◇



そして、レブロムはドノバル王やサクラの静止を聞かずに、国民に何があったのかを事細かく知らせる文書を作り、号外の新聞を出した。

「サクラ様は男を誑かす悪いやつじゃなかったのね。」

「サクラ様は立派な方だ。私、ファンになってしまったわ。」

王家の評判を落とすかに思われたレブロムの行動は、むしろ国民が王家に好意をもつきっかけになった。

「な?みんな、サクラのことを好きになっただろう?」

サクラを抱き上げたレブロムは嬉しそうに笑った。号外の文書は、レブロムが自分で作成したらしく、至る所にサクラを褒めちぎる文章が書いてある。

「恥ずかしいわ、、、。」

「なんでだよ?ありのままのサクラなんだから、いいじゃないか!」

激しくレブロムの主観が入っているとは思うのだけども、嬉しいから良いことにしましょう。


  ◇◇◇

そして、次の日。ついに結婚式のパレードが開かれた。多くの国民に祝われた結婚式パレードは大盛況の中、幕を下ろした。

「皆に俺の美しい妻を見てもらえて嬉しいよ。」

レブロムはそう言うと、サクラの指に何度もキスをした。照れくさくって、くすぐったい。

「それは、私のセリフよ。」

満面の笑みを浮かべてサクラは言った。

「こんな最高の夫との結婚を皆に祝ってもらえるなんて、こんなに幸せなことはないわ。」

その言葉を聞いて耐えきれなくなったレブロムは熱烈なキスをしたのでした。

そうして、多くの国民から慕われたレブロムとサクラはいつまでも幸せに暮らしましたとさ。


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