【完結】聖女の妊娠で王子と婚約破棄することになりました。私の場所だった王子の隣は聖女様のものに変わるそうです。

五月ふう

文字の大きさ
7 / 14

7 聖女なんかじゃないわよ!

しおりを挟む

「ヒィナが聖女の力で、ドノバル様を救った、ですって?!」

偉そうに王の玉座に座ったアトラスは私を見下ろしてにやりと笑った。私は両腕を騎士に掴まれ、罪人のように座らされていた。

「ああ。そうだ。ヒィナのお陰で、父は一命を取り留めたのだ。」

意識は戻ったもののドノバル王の体調は戻り切っていないと聞く。それを利用してアトラスが国王代理を続けているのだ。

アトラスは隣で笑うヒィナに軽くキスをした。ヒィナは胸元を大きく開けたピンク色のドレスを着て、自慢げに笑った。

「私自身、私の持つ聖女の力に驚きましたわ。誠心誠意、陛下のお世話をしていただけですのに。」

皆はドノバル王が回復ことが嬉しくて忘れているかもしれないが、これまでヒィナに特殊な力は無かった。

アトラスと組んでヒィナが策を講じたとしか考えられ無かった。ドノバル王は元々風邪一つ引かない元気な方だったのに、ここ半年体を崩されるようになった。それはちょうど、ヒィナが使用人として働き出した時期と重なる。

「納得できないわ!ヒィナに怪しいところがないか、もう一度調べてみるべきよ!!」

「サクラ!お前は俺を侮辱しただけでなく、聖女のことも侮辱するのか?!」

(侮辱、、、。侮辱ですって?)

婚約破棄、その言葉を聞いたとき私の中で何かが壊れるのを感じた。もう、私には何も残らないなら、言うべきことは全部言おうと決めていた。

「私は貴方達がずっと浮気していたことを知っているのよ!!それなのに今更、聖女?!ふざけるんじゃないわよ!」

もう、いいの。この際全部言ってしまおう。私が失った、王妃になるための時間は返ってこないんだろうし。

「アトラス!貴方、ドノバル様が倒れたときも、ずっと笑っていたわよね?!さてはヒィナを聖女に仕立て上げるために、ドノバル様に毒を盛ったんじゃないの?!」

私とアトラスの様子をうかがっていた周りの兵がどよめいた。

「黙れ!!この無礼者め!!」

「貴方こそ、父親の危篤を喜ぶ親不孝者よ!!」 

私がアトラスを怒鳴りつけると、なぜかヒィナは高い声で笑った。

「なによ?!」

「アトラス様。サクラは可哀想な人なのよ。アトラス様の優しさで彼女を許してあげましょう?」

「はあ?!」

アトラスはヒィナを撫でるとにっこりと笑った。

「よく聞け!!サクラ。お前とは婚約破棄することに決まった。ヒィナが俺の子供を妊娠したのだ!」 

恥ずかしげもなく、アトラスはそう言い放った。ああ!もうよくこんなことが言えるわね!!本当に信じらんないわ!!

「この破廉恥!!愛人が妊娠したから、結婚式の日に慌てて聖女に仕立て上げたんでしょう!」

「この女を地下牢に連れて行け!!!」

抵抗虚しく、私は兵に拘束されてしまった。城の人々は遠巻きに私を見るばかりで、ちっとも助けてくれない。

「みんな気がついて!!その女は聖女なんかじゃ無いわよ!!ねぇ!!」

私は牢屋から必死で叫んだ。誰に何と言われようと構わない。あの女が聖女だなんて、絶対になにかの間違いだ!!

喚き散らす私は醜いんだろうと分かっていたけれど、心の中の怒りを留めることなんてできなかった。"王妃になるため"という、最後の枷が無くなってしまったんだから。

  ◇◇◇
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。  リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

処理中です...