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私の頬にキスするのよ。

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「ね、分かった?ジャック。
 カイルが入ってきたタイミングで、
 私の頬にキスするのよ。」

扉の向こう側、
僕の最愛の婚約者であるルリは
そういった。

僕の名前は、カイル・ホークス。
ルリには先月プロポーズをして、
OKをもらったばかりだった。

僕は扉を開けるのをやめ、
壁に背をつけて座り込んだ。

「段取はわかったよ。
 けどさ、ルリはそれで良いわけ? 」

扉の向こう側にいる男、
ルリの幼馴染であるジャックが
ルリに尋ねた。

「良いのよ。」

壁の向こう側のルリが、
どんな表情をしているのか、
僕には分からなかった。

「ほんとにカイルに、
 嫌われちゃうかもよ?」

と、ジャックが続けた。

「だから、嫌われて、婚約破棄するって、
 カイルに言わせるために、
 こんなことするんじゃない。

 わたしからは、
 婚約破棄してほしい、なんて、
 言えないもの。」

僕は静かに、
ルリの言葉を受け止める。

なにか、思い悩んでいるふうはあったが、
そこまで思い詰めていたなんて。

「秘密がバレる前に、
 カイルの元を去らなきゃ。」

ルリは言った。

ねぇ、ルリ。
僕は君の秘密を知ってるよ。

「素直に、
 打ち明けたらいいんじゃないか?」

ジャックは言った。

ジャックは、ルリの幼馴染で、
僕の強力なライバルだったが、
一方で僕の大切な友人でもある。

「言えるわけないじゃない。
 私は吸血鬼ですよ、だなんて、
 カイルが信じるはずないわ。」 

僕が、
ルリが吸血鬼だという事実を知ったのは、
2か月ほど前だ。

まぁ、信じるのに、
時間はかかったけど、
今はちゃんと信じてるよ。ルリ。 

「そんなこと、
 言ってみなきゃわからんだろ。」

ジャック、お前はほんとに良いやつだな。

「私が、、
 バレたくないのよ。
 そんなことがバレて、
 婚約破棄されるくらいなら、
 最初から自分で離れたほうが
 ましだもん~!!」

と、ルリは泣きそうな声で言った。

「じゃあ、なんでこんな
 まどろっこしい方法を取るんだよ?
 何も言わず、カイルの元を
 去れば良いじゃないか。」

ジャックは続ける。

ルリだけでなく、ジャックも吸血鬼である。

俺に、吸血鬼の性質を事細かく説明して、
信じさせてくれたのはジャックだ。

「それは、、、。できない。」

「なんで?」

「どうしてもカイルが好きなの。」

「んならその気持ち、
 ちゃんと本人に伝えるんだな。」

「え?」

「おーい!カイル!
 そこで聞いてるんだろ?
 こっち来いよ。」

僕をこの時間に呼び出したのはジャック。
この一時間後に呼び出したのはルリだ。

お前は全部、おりこみずみだったんだな。
僕は立ち上がった。

ドアを開けると、
そこには涙でボロボロになったルリがいた。

「じゃあ俺はいくぜ。」

ジャックがぽんと俺の肩を叩いた。
僕の耳元で囁く。

「ルリのこと、頼んだぜ。」

僕は強く頷く。

「ルリ。」

僕はルリの名前を呼ぶ。
これから先、何度だって、
僕は君の名前を呼びたい。

「カイル、、、!
 全部、聞いてしまったの、、?」

ルリがわぁと顔を覆う。
僕はルリに近付いて、その涙を拭った。

「全部、聞いたって
 君を離しやしないから。
 僕は、きみのこと
 ほんとうに大好きなんだ。」

そうして、僕らは結婚した。
吸血鬼のルリは、
僕の10倍長く生きるらしい。

そのうちの、10分の1でも
ルリの時間を貰えたこと、
僕は嬉しく思う。









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