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第八話:運命の妃
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「俺はっ!ロマリア国第一王子エドワーズ・ロマリアだ!先ほど手紙を送ったであろうっ!」
そう言うとエドワーズはそれまでの偉そうな態度を一変させた。顔を真っ赤にし、セラを怒鳴りつける。彼の手には微かな震えがあり、動揺が手に取るように感じ取れた。名前を尋ねられることはめったにないのだろう。皆、初めからエドワーズを王子と認識して接するから。
(あらあら、緊張しているのね。)
セラは心の中で笑いをこらえていた。
「王子様でいらっしゃるのですね。申し訳ありません。貴方のような高貴な方がまさかこんな田舎町にいらっしゃるなんて思わず……いたずらではないかと思っていました。」
「そ、そうであったか!」
「長旅、お疲れでしょう。さあ、座ってください。美味しいお菓子がありますよ。」
セラは小さく笑みを浮かべてエドワーズと彼の側近の男に、椅子に座るように促した。むろん王子が長旅を経てこの村に来たとは思っていない。どうせ瞬間移動を使ってきたんだろう。それはわかっているのだけれど、ある種の皮肉としてセラは”長旅”と言った。間違いなくエドワーズは”瞬間移動魔法”を使えない。
「歩いてここに来たわけがないだろうっ。瞬間移動でこの村まで来たのだ!」
動揺した口ぶりのまま、エドワーズはセラに反論する。
「まあ、王子様は瞬間移動魔法が使えるのですか!素晴らしい魔力をお持ちなのですね。」
「っ、そ、そうだ!」
口ごもりながら王子エドワーズ答え、テーブルの上においてあった水を口に含んだ。
(自分で瞬間移動魔法を使ったふりをしたわね。)
瞬間移動魔法は高度な魔法であり、多くの魔力を消費するため、巨大な魔力を持ったものでなければ使うことができない。
(側近の男がこの魔法を使ったのでしょうね。)
見たところ王子エドワーズは全く魔力を有していない。彼の周辺からは、魔法使いの持つ特有のエネルギーが感じられない。側近の男が厳重に魔法をかけ、エドワーズの欠点を隠そうとしているが、セラははっきりとエドワーズに魔力が無いとわかった。魔法が使えないことがこのポンコツ王子のコンプレックスなのだろう。
セラはエドワーズをじっと見つめた。
「お帰りになられる際には、王子様の瞬間移動魔法を見てもいいですか?」
「それはっ。」
一気に王子の顔が真っ青になり、側近の男を見上げた。
「おいっ、カイルっ。何とか言えっ。」
(こんなに慌てていたら、魔力が無いことを隠している意味がないわね。)
側近の男は何かを見定めるような目でセラを見た後、余裕のある表情を浮かべた。王子の魔力が無いと知られそうなのに、この男には全く慌てる様子がない。いつもこうやって、側近が手を貸しているのだろう。
「もちろん瞬間移動魔法をお見せいたしますよ。セラ様がお望みであれば。」
カイルの言葉にエドワーズがほっと息をつく。
「しょうがないから見せてやるよっ!」
(貴方ではなく側近の男が見せるのでしょう?)
心の中でエドワーズをたしなめながら、セラは側近の男に向き直った。銀色の短髪に青い瞳。細身の体だが、全身から魔法のエネルギーを感じる。けだるげな雰囲気。目には光がなく何を考えているかわからない。
「ありがとうございます。あの……お名前をお聞きしても良いでしょうか?」
(警戒しなくちゃいけないのは、側近の男のほうだわ。)
「失礼。まだ名乗っていませんでしたね。僕はカイル・ジャクソン。エドワーズ殿下の側近をしております。」
カイルの立ち振る舞いからは、エドワーズにはない上品さを感じさせる。セラは慎重に、カイルの様子を窺った。
(今、カイルと一対一で戦ったら、負けてしまうかもしれないわ。)
普段ならば、きっとセラはカイルに負けない。だが、今セラは疲れ切っている。もしも、カイルが無理やりセラを城に連れて行こうとしたらなら、抵抗できないかもしれないのだ。
「噂で聞いていた通り、信じられないほど美しい方だ。貴方ならば、皆に慕われる王妃様となられるのでしょう。」
カイルが微笑みを浮かべて、歯の浮くようなお世辞を言う。目は全く笑っていない。
(王妃……ね。)
その言葉を聞いても、まったく心がときめかない。誰とも結婚したくないし、子供も欲しくないのに、なぜ王子と結婚しなくてはいけないのだろう。大きな魔力を持つ世継ぎを得たいという、王子の欲望を満たすための道具になるのは絶対に嫌だ。
「まあ。妃だなんて私のような田舎者に務まるはずがありませんわ。」
セラはエドワーズを睨みつけた。少しでも、セラの敵意が伝わるように。
「いいえ。セラ様でなくてはならないのです。貴方は幸運にも、ロマリア王子の妃として選ばれたのですから。」
カイルは大げさに両手を広げて言った。
(幸運にも……?不幸の始まりではなくて?)
どんな手を使ってでもエドワーズの求婚を退けなくてはならない。エドワーズがこの村に来てからずっと嫌な予感がする。
そう言うとエドワーズはそれまでの偉そうな態度を一変させた。顔を真っ赤にし、セラを怒鳴りつける。彼の手には微かな震えがあり、動揺が手に取るように感じ取れた。名前を尋ねられることはめったにないのだろう。皆、初めからエドワーズを王子と認識して接するから。
(あらあら、緊張しているのね。)
セラは心の中で笑いをこらえていた。
「王子様でいらっしゃるのですね。申し訳ありません。貴方のような高貴な方がまさかこんな田舎町にいらっしゃるなんて思わず……いたずらではないかと思っていました。」
「そ、そうであったか!」
「長旅、お疲れでしょう。さあ、座ってください。美味しいお菓子がありますよ。」
セラは小さく笑みを浮かべてエドワーズと彼の側近の男に、椅子に座るように促した。むろん王子が長旅を経てこの村に来たとは思っていない。どうせ瞬間移動を使ってきたんだろう。それはわかっているのだけれど、ある種の皮肉としてセラは”長旅”と言った。間違いなくエドワーズは”瞬間移動魔法”を使えない。
「歩いてここに来たわけがないだろうっ。瞬間移動でこの村まで来たのだ!」
動揺した口ぶりのまま、エドワーズはセラに反論する。
「まあ、王子様は瞬間移動魔法が使えるのですか!素晴らしい魔力をお持ちなのですね。」
「っ、そ、そうだ!」
口ごもりながら王子エドワーズ答え、テーブルの上においてあった水を口に含んだ。
(自分で瞬間移動魔法を使ったふりをしたわね。)
瞬間移動魔法は高度な魔法であり、多くの魔力を消費するため、巨大な魔力を持ったものでなければ使うことができない。
(側近の男がこの魔法を使ったのでしょうね。)
見たところ王子エドワーズは全く魔力を有していない。彼の周辺からは、魔法使いの持つ特有のエネルギーが感じられない。側近の男が厳重に魔法をかけ、エドワーズの欠点を隠そうとしているが、セラははっきりとエドワーズに魔力が無いとわかった。魔法が使えないことがこのポンコツ王子のコンプレックスなのだろう。
セラはエドワーズをじっと見つめた。
「お帰りになられる際には、王子様の瞬間移動魔法を見てもいいですか?」
「それはっ。」
一気に王子の顔が真っ青になり、側近の男を見上げた。
「おいっ、カイルっ。何とか言えっ。」
(こんなに慌てていたら、魔力が無いことを隠している意味がないわね。)
側近の男は何かを見定めるような目でセラを見た後、余裕のある表情を浮かべた。王子の魔力が無いと知られそうなのに、この男には全く慌てる様子がない。いつもこうやって、側近が手を貸しているのだろう。
「もちろん瞬間移動魔法をお見せいたしますよ。セラ様がお望みであれば。」
カイルの言葉にエドワーズがほっと息をつく。
「しょうがないから見せてやるよっ!」
(貴方ではなく側近の男が見せるのでしょう?)
心の中でエドワーズをたしなめながら、セラは側近の男に向き直った。銀色の短髪に青い瞳。細身の体だが、全身から魔法のエネルギーを感じる。けだるげな雰囲気。目には光がなく何を考えているかわからない。
「ありがとうございます。あの……お名前をお聞きしても良いでしょうか?」
(警戒しなくちゃいけないのは、側近の男のほうだわ。)
「失礼。まだ名乗っていませんでしたね。僕はカイル・ジャクソン。エドワーズ殿下の側近をしております。」
カイルの立ち振る舞いからは、エドワーズにはない上品さを感じさせる。セラは慎重に、カイルの様子を窺った。
(今、カイルと一対一で戦ったら、負けてしまうかもしれないわ。)
普段ならば、きっとセラはカイルに負けない。だが、今セラは疲れ切っている。もしも、カイルが無理やりセラを城に連れて行こうとしたらなら、抵抗できないかもしれないのだ。
「噂で聞いていた通り、信じられないほど美しい方だ。貴方ならば、皆に慕われる王妃様となられるのでしょう。」
カイルが微笑みを浮かべて、歯の浮くようなお世辞を言う。目は全く笑っていない。
(王妃……ね。)
その言葉を聞いても、まったく心がときめかない。誰とも結婚したくないし、子供も欲しくないのに、なぜ王子と結婚しなくてはいけないのだろう。大きな魔力を持つ世継ぎを得たいという、王子の欲望を満たすための道具になるのは絶対に嫌だ。
「まあ。妃だなんて私のような田舎者に務まるはずがありませんわ。」
セラはエドワーズを睨みつけた。少しでも、セラの敵意が伝わるように。
「いいえ。セラ様でなくてはならないのです。貴方は幸運にも、ロマリア王子の妃として選ばれたのですから。」
カイルは大げさに両手を広げて言った。
(幸運にも……?不幸の始まりではなくて?)
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