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……俺、嫌だけど? Side クレイ(第2王子)
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Side クレイ(第2王子)
モアは、俺にとって特別な存在だった。
彼女の母親が亡くなってから、アンソロー家は急速に傾いていった。領地は荒れ、服は古び、社交界では「貧乏娘」と陰口を叩かれていた。
分かっていた。モアがどれほど大変な思いをしているか、ずっと見てきた。
けれど、第二王子である俺にできることは限られていた。
いや――できることはあったはずだ。だが俺が彼女を助ければ助けるほど、周囲の令嬢たちからの嫉妬が募り、モアはいじめられた。ワインをかけられ、ドレスを汚され、陰で笑われる。
その原因が自分にあると気づいた時の情けなさといったらなかった。
それでもモアは決して弱音を吐かなかった。
どんなときも、俺の前では笑って「大丈夫だよ」と言ってくれた。
俺のたった一人の友人として、対等であろうとしてくれた。
……だからこそ、許せなかった。
あの悪徳商人の息子、パウロに「借金の代償」として嫁がされることになった時も、モアは笑って「心配しないで」と言った。
けれど、俺は知っている。あれは俺を心配させないための笑顔だ。本当はどれほど心細かったか。
だから――今日。
俺は絶対にモアを守ると決めていた。
◇
祝宴の場。
壇上に上がったモアは、見違えるほど凛としていた。
手にした小箱を開けば、商人ゼフ家が奪った“家宝”が現れ、会場はざわめきに包まれる。
俺は一歩前に出て、堂々と声を響かせた。
「パウロ・ゼフ。お前とその父ゼフは、貴族の家から財を奪い、娘をも不正に縛ろうとした。加えて、この宝を隣国から密かに持ち去り、己の物としていた罪――断じて許されぬ」
パウロの顔が引きつる。哀れなものだった。
「モア、手」
俺は差し出しながら、心臓が嫌になるほど鳴っているのを感じていた。
演技の一環だと分かっているのに、こんなにも緊張するなんて。
あのくそ商人に、最高に情けなく感じて欲しかった。
「……え、なんで」
「演技。最後の一押しだ」
「ちょっと……顔、楽しそうなんだけど」
「気のせいさ。」
平静を装いながら指を絡める。モアの手は少し冷たくて、けれど確かに温もりがあった。
俺の鼓動がさらに早くなるのを、誰にも気づかれていないことを願った。
パウロが取り押さえられ、祝宴は幕を閉じた。
◇
パーティが終わって、会場を後にした時。
モアが俺を見上げて尋ねた。
「……ねえ、もう演技は終わったよね?」
「そうだな」
「じゃあ、手を放して」
「嫌だ」
思わず即答してしまった。モアが目を丸くする。
「……何それ」
「友達のままは……俺、嫌だけど?」
言ってしまってから、胸の奥が熱くなる。
モアは一瞬、目を見開き、それからぷいと横を向いた。
「……バカじゃないの」
そう言いながらも、その頬がかすかに赤く染まっているのを俺は見逃さなかった。
◇
――数年後。
アンソロー家は、もう「貧乏貴族」ではなくなっていた。
モアが当主となり、その才覚で領地を立て直し、社交界でも注目の的になっている。
強く、美しいモアは、今や数多の男性に求婚されていた。
煌めくシャンデリアが大広間を照らし、色とりどりのドレスをまとった令嬢たちが笑い声を響かせる。
弦楽器の音色が優雅に流れ、杯の触れ合う澄んだ音が耳に心地よい。
「……はぁ。なんであんな奴らにまで笑いかけるんだよ」
舞踏会の隅で、俺はため息をついた。
今日もまた、三人は軽く断っていたが、五人は諦めずに言い寄ってきていた。
モアは慣れたように受け流していたが、俺には面白くない。
嫉妬なんてするものかと思っていた。
けれど、シャンデリアの光に照らされて笑う彼女を見ていると、胸の奥がざわついてどうしようもなくなる。
だから――俺は決意した。
「モア」
「なに?」
「強くて、美しい君が好きだ。……俺と結婚してほしい」
緊張で喉が渇く。だが視線は逸らさなかった。
モアは一瞬きょとんとし、それから柔らかく笑った。
「……クレイ」
その笑顔に救われながらも、俺は言葉を続ける。
「俺は……王族だ。これから先、苦労を掛けるかもしれない。きっと、お前を傷つけてしまうこともある。それでも、俺は――」
覚悟を込めた声に、モアは小さく肩をすくめて、ふっと笑った。
「そんなのどうでもいいよ。私はクレイと一緒にいたいだけ」
その言葉に、胸の奥の不安がすべて消えていった。
モアは小さくうなずき、真っ直ぐに俺を見ていった。
「大好きだよ、クレイ。ずっと一緒にいよう。」
◇
――そして、モアとクレイは悪徳商人たちを一網打尽にして、人々に慕われるようになるのだが、それはまだ未来の話である。
モアは、俺にとって特別な存在だった。
彼女の母親が亡くなってから、アンソロー家は急速に傾いていった。領地は荒れ、服は古び、社交界では「貧乏娘」と陰口を叩かれていた。
分かっていた。モアがどれほど大変な思いをしているか、ずっと見てきた。
けれど、第二王子である俺にできることは限られていた。
いや――できることはあったはずだ。だが俺が彼女を助ければ助けるほど、周囲の令嬢たちからの嫉妬が募り、モアはいじめられた。ワインをかけられ、ドレスを汚され、陰で笑われる。
その原因が自分にあると気づいた時の情けなさといったらなかった。
それでもモアは決して弱音を吐かなかった。
どんなときも、俺の前では笑って「大丈夫だよ」と言ってくれた。
俺のたった一人の友人として、対等であろうとしてくれた。
……だからこそ、許せなかった。
あの悪徳商人の息子、パウロに「借金の代償」として嫁がされることになった時も、モアは笑って「心配しないで」と言った。
けれど、俺は知っている。あれは俺を心配させないための笑顔だ。本当はどれほど心細かったか。
だから――今日。
俺は絶対にモアを守ると決めていた。
◇
祝宴の場。
壇上に上がったモアは、見違えるほど凛としていた。
手にした小箱を開けば、商人ゼフ家が奪った“家宝”が現れ、会場はざわめきに包まれる。
俺は一歩前に出て、堂々と声を響かせた。
「パウロ・ゼフ。お前とその父ゼフは、貴族の家から財を奪い、娘をも不正に縛ろうとした。加えて、この宝を隣国から密かに持ち去り、己の物としていた罪――断じて許されぬ」
パウロの顔が引きつる。哀れなものだった。
「モア、手」
俺は差し出しながら、心臓が嫌になるほど鳴っているのを感じていた。
演技の一環だと分かっているのに、こんなにも緊張するなんて。
あのくそ商人に、最高に情けなく感じて欲しかった。
「……え、なんで」
「演技。最後の一押しだ」
「ちょっと……顔、楽しそうなんだけど」
「気のせいさ。」
平静を装いながら指を絡める。モアの手は少し冷たくて、けれど確かに温もりがあった。
俺の鼓動がさらに早くなるのを、誰にも気づかれていないことを願った。
パウロが取り押さえられ、祝宴は幕を閉じた。
◇
パーティが終わって、会場を後にした時。
モアが俺を見上げて尋ねた。
「……ねえ、もう演技は終わったよね?」
「そうだな」
「じゃあ、手を放して」
「嫌だ」
思わず即答してしまった。モアが目を丸くする。
「……何それ」
「友達のままは……俺、嫌だけど?」
言ってしまってから、胸の奥が熱くなる。
モアは一瞬、目を見開き、それからぷいと横を向いた。
「……バカじゃないの」
そう言いながらも、その頬がかすかに赤く染まっているのを俺は見逃さなかった。
◇
――数年後。
アンソロー家は、もう「貧乏貴族」ではなくなっていた。
モアが当主となり、その才覚で領地を立て直し、社交界でも注目の的になっている。
強く、美しいモアは、今や数多の男性に求婚されていた。
煌めくシャンデリアが大広間を照らし、色とりどりのドレスをまとった令嬢たちが笑い声を響かせる。
弦楽器の音色が優雅に流れ、杯の触れ合う澄んだ音が耳に心地よい。
「……はぁ。なんであんな奴らにまで笑いかけるんだよ」
舞踏会の隅で、俺はため息をついた。
今日もまた、三人は軽く断っていたが、五人は諦めずに言い寄ってきていた。
モアは慣れたように受け流していたが、俺には面白くない。
嫉妬なんてするものかと思っていた。
けれど、シャンデリアの光に照らされて笑う彼女を見ていると、胸の奥がざわついてどうしようもなくなる。
だから――俺は決意した。
「モア」
「なに?」
「強くて、美しい君が好きだ。……俺と結婚してほしい」
緊張で喉が渇く。だが視線は逸らさなかった。
モアは一瞬きょとんとし、それから柔らかく笑った。
「……クレイ」
その笑顔に救われながらも、俺は言葉を続ける。
「俺は……王族だ。これから先、苦労を掛けるかもしれない。きっと、お前を傷つけてしまうこともある。それでも、俺は――」
覚悟を込めた声に、モアは小さく肩をすくめて、ふっと笑った。
「そんなのどうでもいいよ。私はクレイと一緒にいたいだけ」
その言葉に、胸の奥の不安がすべて消えていった。
モアは小さくうなずき、真っ直ぐに俺を見ていった。
「大好きだよ、クレイ。ずっと一緒にいよう。」
◇
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