3 / 14
2話
しおりを挟む
レオルト・フォン・エンベルガーはルヘルムで一番の貴族の娘である。
父はこの都市の貿易王と言われる人物であり、母もまたこの都市でもっとも有名な音楽家である。
そんな貴族の一人娘、レオルトは今日も今日とて家を抜け出し両親を困らせていた。
執務室にはウロウロと落ち着かない様子で歩き回る大柄な男とそれを楽しそうに見ている綺麗なドレスを着飾った女がいた。
「聞いたかママ、またレオの奴が家を抜け出して」
「ふふ、大丈夫ですよお父さん。いつもみたいにふらっと帰ってきますから」
「しかし町で何かあったら」
「心配しすぎですよ」
男は何とも言えない顔をしながら椅子に腰かけると、扉をノックする音が聞こえた。入ってきたのはエンベルガー家に仕える使用人のケーテである。
「ヴォルフ様、貿易商会の方がお見えになりました」
「うむ、ではここに通してくれ」
ケーテは一礼すると執務室から出で行く。
「あら、いらっしゃたのね。お茶を用意するわ」
お茶の用意のためママも部屋から出て行ってしまった。
さて、気を引き締めねばな。そう呟いたところで静かになった部屋に再びノックの音がした。
ルヘルム南区では多くの商人が店を構え、ルヘルムで最も賑わいを見せる地区である。そんな賑わいを見せる町の中を駆け抜ける一人の少女がいた。
「こんにちはヒルファさん。今日は何か面白いもの入ってます?」
少女は勢いよくその店の前で止まり、見知った顔に声をかけた。
「久しぶりに会った第一声がそれ?」
「ははは、冗談ですよ。お久しぶりですヒルファさん。一年ぶりくらいですね」
「うん。本当に久しぶりだね。なんか見ない間にまた身長伸びたんじゃないの」
「へへん。育ち盛りですから。ヒルファさんこそ結構筋肉付いてきましたね」
「伊達に女一人で商人しちゃいないよ。そうだ今回はレオの好きなルクスス・ハーゼのお肉捕ってきたよ」
ヒルファさんはそういうとお肉の入った袋を私に向かって投げてよこした。
「いつもご贔屓にしてもらってるからレオにプレゼント」
「本当!ありがとうヒルファさん。早速今日の晩御飯にいただいちゃいます」
このお肉は私のお気に入りの一つで、すりおろしたノイノを使い、ジャージン、クリガ、ペープリッチやクリメッタでお肉をマリナードし、クルミックココナで長時間煮込むと最高に美味しいのだ。
「そういえば走ってどこに行くつもりだったの?」
そうそう、あそこに行こうと思ってたらたまたまヒルファさんのお店を見つけたんだった。
「東区にある隠れ家に行く途中でした」
その場で一礼し、じゃあまた後できます!っと言って再び人であふれる通りの中へ消えていく。
「相変わらず騒がしいね。もっとゆっくりしていけばいいのに」
いろいろ面白い旅の話とかあったのになーっと。そう思ったころには完全にレオの姿は見えなくなっていた。
ルヘルム東区、多くの住居が並び立ち人々は寝食をこの東区で行う。一見何ら変哲もない街並み。しかし、繁栄の裏に隠れた闇の入り口があり、今日もまた入り口に向かう者が後を絶ちません。
隠れ家は東区と北区の境界付近にある。東区は多くの住民が住んではいるけれど、北区に近いほど人は少なくなる。
北区には貧困層や無法者が多く住み着いているのであまり人が近寄らないからだ。
日も傾き雲がオレンジ色に発色しているように見え始めたころ、住宅街の裏路地を抜け隠れ家についた。一人で住むには少し大きいくらいの家。部屋は四室あるが一部屋しか使っていない。リビングにあるカリーナ像の右腕を触ると地下通路が現れる。この地下通路、中央区の地下に続いておりそこから私の住む屋敷まで行けるのだ。
部屋で貴族衣装に着替えた後、ヒルファさんからもらったお肉をもって屋敷に戻った。
屋敷ではすでに夕食の準備が進められており厨房は熱気で満ちていた。私は申し訳なさそうな雰囲気を醸し出し料理長へ持っていた肉を差し出した。
「あの、料理長、今日の晩御飯にこのお肉を使っていただけませんか?」
料理長はいったん手を止めて私が差し出したお肉を受け取ると、にこりと笑った。
「お嬢様、かしこまりました。私目にお任せください」
「もう献立が決まっていたのにすみません」
「いえ、お嬢様。献立などその場その場で変わるものでございます。食材を見て瞬時に適した料理を見定める。とっさの思い付きでアレンジを加え料理を変える時もございます。ですのでこの程度お気になさらず」
料理長はそういうと肉をものすごい速さで切りはじめた。
「では私は邪魔になるといけないのでお部屋に戻りますね。あとはよろしくお願いいたします。料理長」
そう言い残し私は厨房から出ていく。中からは先ほどよりも活気があふれたような音が響き渡ってきた。
楽しみにしていた夕食だったがそうはならなかった。勝手に家を抜け出したことがばれており、夕食中、そして食べ終えてからも説教が続いたのだ。
やっと説教が終わるや否や、私はお風呂に入りそしてすぐにベットに飛び込んだ。せっかくヒルファさんからもらったお肉を楽しめなかったことが少し腹立たしい。
決めた。明日も抜け出してやる。
そう決心し頭まですっぽりと布団をかけて深い眠りについた。
父はこの都市の貿易王と言われる人物であり、母もまたこの都市でもっとも有名な音楽家である。
そんな貴族の一人娘、レオルトは今日も今日とて家を抜け出し両親を困らせていた。
執務室にはウロウロと落ち着かない様子で歩き回る大柄な男とそれを楽しそうに見ている綺麗なドレスを着飾った女がいた。
「聞いたかママ、またレオの奴が家を抜け出して」
「ふふ、大丈夫ですよお父さん。いつもみたいにふらっと帰ってきますから」
「しかし町で何かあったら」
「心配しすぎですよ」
男は何とも言えない顔をしながら椅子に腰かけると、扉をノックする音が聞こえた。入ってきたのはエンベルガー家に仕える使用人のケーテである。
「ヴォルフ様、貿易商会の方がお見えになりました」
「うむ、ではここに通してくれ」
ケーテは一礼すると執務室から出で行く。
「あら、いらっしゃたのね。お茶を用意するわ」
お茶の用意のためママも部屋から出て行ってしまった。
さて、気を引き締めねばな。そう呟いたところで静かになった部屋に再びノックの音がした。
ルヘルム南区では多くの商人が店を構え、ルヘルムで最も賑わいを見せる地区である。そんな賑わいを見せる町の中を駆け抜ける一人の少女がいた。
「こんにちはヒルファさん。今日は何か面白いもの入ってます?」
少女は勢いよくその店の前で止まり、見知った顔に声をかけた。
「久しぶりに会った第一声がそれ?」
「ははは、冗談ですよ。お久しぶりですヒルファさん。一年ぶりくらいですね」
「うん。本当に久しぶりだね。なんか見ない間にまた身長伸びたんじゃないの」
「へへん。育ち盛りですから。ヒルファさんこそ結構筋肉付いてきましたね」
「伊達に女一人で商人しちゃいないよ。そうだ今回はレオの好きなルクスス・ハーゼのお肉捕ってきたよ」
ヒルファさんはそういうとお肉の入った袋を私に向かって投げてよこした。
「いつもご贔屓にしてもらってるからレオにプレゼント」
「本当!ありがとうヒルファさん。早速今日の晩御飯にいただいちゃいます」
このお肉は私のお気に入りの一つで、すりおろしたノイノを使い、ジャージン、クリガ、ペープリッチやクリメッタでお肉をマリナードし、クルミックココナで長時間煮込むと最高に美味しいのだ。
「そういえば走ってどこに行くつもりだったの?」
そうそう、あそこに行こうと思ってたらたまたまヒルファさんのお店を見つけたんだった。
「東区にある隠れ家に行く途中でした」
その場で一礼し、じゃあまた後できます!っと言って再び人であふれる通りの中へ消えていく。
「相変わらず騒がしいね。もっとゆっくりしていけばいいのに」
いろいろ面白い旅の話とかあったのになーっと。そう思ったころには完全にレオの姿は見えなくなっていた。
ルヘルム東区、多くの住居が並び立ち人々は寝食をこの東区で行う。一見何ら変哲もない街並み。しかし、繁栄の裏に隠れた闇の入り口があり、今日もまた入り口に向かう者が後を絶ちません。
隠れ家は東区と北区の境界付近にある。東区は多くの住民が住んではいるけれど、北区に近いほど人は少なくなる。
北区には貧困層や無法者が多く住み着いているのであまり人が近寄らないからだ。
日も傾き雲がオレンジ色に発色しているように見え始めたころ、住宅街の裏路地を抜け隠れ家についた。一人で住むには少し大きいくらいの家。部屋は四室あるが一部屋しか使っていない。リビングにあるカリーナ像の右腕を触ると地下通路が現れる。この地下通路、中央区の地下に続いておりそこから私の住む屋敷まで行けるのだ。
部屋で貴族衣装に着替えた後、ヒルファさんからもらったお肉をもって屋敷に戻った。
屋敷ではすでに夕食の準備が進められており厨房は熱気で満ちていた。私は申し訳なさそうな雰囲気を醸し出し料理長へ持っていた肉を差し出した。
「あの、料理長、今日の晩御飯にこのお肉を使っていただけませんか?」
料理長はいったん手を止めて私が差し出したお肉を受け取ると、にこりと笑った。
「お嬢様、かしこまりました。私目にお任せください」
「もう献立が決まっていたのにすみません」
「いえ、お嬢様。献立などその場その場で変わるものでございます。食材を見て瞬時に適した料理を見定める。とっさの思い付きでアレンジを加え料理を変える時もございます。ですのでこの程度お気になさらず」
料理長はそういうと肉をものすごい速さで切りはじめた。
「では私は邪魔になるといけないのでお部屋に戻りますね。あとはよろしくお願いいたします。料理長」
そう言い残し私は厨房から出ていく。中からは先ほどよりも活気があふれたような音が響き渡ってきた。
楽しみにしていた夕食だったがそうはならなかった。勝手に家を抜け出したことがばれており、夕食中、そして食べ終えてからも説教が続いたのだ。
やっと説教が終わるや否や、私はお風呂に入りそしてすぐにベットに飛び込んだ。せっかくヒルファさんからもらったお肉を楽しめなかったことが少し腹立たしい。
決めた。明日も抜け出してやる。
そう決心し頭まですっぽりと布団をかけて深い眠りについた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪
山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。
「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」
そうですか…。
私は離婚届にサインをする。
私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。
使用人が出掛けるのを確認してから
「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる