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3.星々たち

大事で、大切で。

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 《シング・バトル》の“アバター”仕様変更のことで私を心配してくれたのは雄翔くんもだった。
 翌朝の東屋で真っ先に聞かれたんだ。

「流歌、目立つの苦手なんだよな? 大丈夫か?」

 放課後は忙しさもあってちゃんと聞けなかったから、と言った雄翔くんはどうしてか申し訳なさそうな顔をする。

「大丈夫だよ。素顔をさらすことになっても、優勝を目指すって決めたから」

 雄翔くんの沈んだ顔を見ていたくなかった私は、ことさら明るくみんなに背中を押してもらった話をした。
 優しく微笑んで聞いてくれた雄翔くんだったけれど、話が終わっても心配そうな様子は変わらない。

「……でもさ、決勝まで行けて新しいバージョンの《シング・バトル》をした後。目立つのは変わらないよな? 目立つのに慣れる特訓とかしてるヒマないだろうし……」
「……」

 実は目を逸らしていた部分を指摘されて言葉を続けられなくなった。

 頑張りたくてみんなに背中を押してもらった。
 でも、《シング・バトル》を終えた後注目を浴びるだろうってところは考えない様にしてたんだ。
 それを考えたら進む足を止めちゃいそうで……。

「やっぱりそこは不安なんだな?」

 押し黙った私を見て図星だって判断したのか、確認するように聞いて来る雄翔くん。
 その質問に答えられないでいると、「大丈夫」って優しく響く声がかけられた。

「ちゃんと俺が盾になって守るから」
「え……?」
「陽向のことだけじゃなくさ、流歌が嫌だって思うことからも守りたい。本田たちが流歌の背中を押したっていうなら、俺はその後の心配事をはねのけてやる」

 確かな意志を持つ、力強い真剣な言葉。
 まさにナイトな雄翔くんに、私は自分がお姫様にでもなったような錯覚さっかくをしちゃう。

 ドキドキって、鼓動が早くなる。

「あ、りがと……」

 お礼の言葉も途切れちゃうくらい胸がいっぱいで、体温が上がってきちゃう。
 顔が真っ赤になりそうな予感に、私は熱を誤魔化すように話した。

「でもそこまでしてくれるなんて……私雄翔くんにはいっぱいお世話になっちゃってるよ」
「いいんだよ。俺がそうしたいんだから」

 熱いのを誤魔化そうとしたのに、自然と返って来た雄翔くんの答えに更に熱が上がっちゃった。
 ドキドキって心音が鳴りやまない。
 だからついに聞いちゃったんだ。

「雄翔くんはどうしてそこまで私によくしてくれるの?」

 って。

 聞きたくても聞けなかったその理由。
 ちゃんと眠れるように協力したってだけにしては色んなことを助けてくれる雄翔くん。
 過剰なほどの親切には、やっぱり期待してしまう。

 そこには特別な好意があるんじゃないかって。

 違っていたらはずかしいし、雄翔くんの特別は私じゃないってことになるから気分が落ち込む。
 だから聞けなかった。

 でも、どこまでも守ってくれるという雄翔くんに期待がふくらんだ。
 友だち以上だって思える確かな言葉が聞けるんじゃないかって期待した。

「だって流歌は……」

 答えようとした雄翔くんは途中で一度止めると、少し目を逸らして鼻先をちょいとかく。
 その後で改めて私を見た彼は明らかに照れ臭そうだった。

「流歌はさ……俺にとって、大事な女の子だから。大事で、特別な子」

 ドキンッ

 照れくさそうにしながらも伝えてくれた言葉に心臓が大きく跳ねる。
 さっき以上に心音が早くなった。

「流歌は?」
「っぅえ⁉」

 ドキドキしすぎていたのと、まさか聞き返されるとは思わなかったのとで変な声が出ちゃった。
 恥ずかしい。

「流歌は……俺のことどう思ってる? 守って欲しいなんて言ってないのに盾になるとか言って、迷惑だとか思ってないか?」
「え? 迷惑だなんて思ってないよ⁉」

 さらに思っていなかったことを聞かれて思わず大きな声が出る。
 そのままジッと見られて、答えないわけにはいかない状態になった。

 でも、雄翔くんも言ってくれたんだもん。
 私だけ言わないなんて卑怯だよね。

「……私にとって雄翔くんは最推しで……でも一緒に過ごすうちにどんどん大切になっていって……今は、ファンとか推しとか以上に、特別な男の子だよっ」

 恥ずかしくて、最後は早口で言い切る。
 私の言葉に雄翔くんがどんな反応をするのか怖くて顔が見れない。

「……」

 でも、何も言ってくれないからチラッとだけ見てみてちょっと驚いた。
 雄翔くんは、口元を手のひらで覆って耳も顔も真っ赤にしていたから。

「……やば、嬉しっ」

 小さなつぶやきだけれど、その声はハッキリ私に届く。
 私の答えを喜んでくれているってのが分かって、私も顔が熱くなったのが分かる。

 わっ……どうしよう、私も嬉しい……。


 様々な花が咲き乱れる東屋で、私たちも赤い花を咲かせていた。
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