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3.星々たち
一学期期末トーナメント
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そして、ついに学期末トーナメントが始まった。
『さあ! ついに今年度初の学期末トーナメントの始まりだ! 一年生は初めましてだな! 解説と実況をつとめさせてもらうキョウだ、よろしくな!』
いつもの学園長の長ったらしい話の後で、軽快な声と一緒に一人の男性が壇上に上がってくる。
人気動画配信者のキョウだ。
まさか学園の一行事に、eゲームの大会でも実況をつとめているキョウが来てくれるとは思わず少しさわがしくなった。
でも毎回来てくれているのか、上級生たちはそこまで騒いでいない。
『まずはデモンストレーションだ。《S-JIN》の横山陽向と橘雄翔の《シング・バトル》! ここのスクリーンに映し出されるから、みんなはそのまま座って待っていてくれ!』
キョウの宣言の後、先生や臨時スタッフらしき人たちの手でスクリーンが用意されていく。
新バージョンの《シング・バトル》を観戦するために、学園のすぐ近くの土地に新しく訓練ルームを有した観戦会場を作ったらしい。
元々学園内の訓練ルームは数が足りないと言われていたから良かったんだけど、ちょっと離れた場所になっちゃうのが難点かな、って藤原先輩が言ってたっけ。
でも中島先輩の話だと定期バスが出るらしいから、そこまで苦にはならないんじゃないかな?
雄翔くんと横山くんは今そこに行ってる。
新会場で行われる《シング・バトル》を中継してくれるみたい。
『準備が整ったぞ!』
キョウの声に、用意されたスクリーンに注目が集まる。
映し出されているのは火山のフィールド。
フィールドにも属性みたいなのがあって、相性の良い“うたアニ”には補助ポイントが入る。
攻撃力や防御力が数パーセントだけど上昇するんだ。
フィールド決定も先攻後攻を決めるのと一緒でランダムだから文句は言えないけれど、今回は陽向くんの赤い鳥・ザックと相性がいいフィールドだ。
雄翔くんには不利かもしれない。
「おおー! ほぼ実写っぽいね!」
「でもちょっとアニメっぽい感じにも見えるよね? 実際の姿投影した方が早いんじゃない? あ、“うたアニ”に合わせたのかな?」
映し出された二人の姿に、藤子ちゃんと千代ちゃんが声を上げた。
二人の言う通り、実写というよりは3Dというか……アニメっぽい。
前に見た新バージョン発表のときより実写感はなくなってるから、またちょっと変更があったのかもしれない。
“うたアニ”もちょっとアニメっぽい感じだから、千代ちゃんの言う通り合わせたのかな?
なんて思ったけれど、千絵ちゃんが別の可能性を口にする。
「“アバター”が攻撃を受けるからじゃないの? 実際の人物と同じ姿だったら攻撃されるの見て嫌な気持ちになる人も出そうだし」
「ああ、そういうのもあるね」
確かに、と思ってうなずく。
実際雄翔くんに攻撃が当たったら、痛みはないって分かっていても悲鳴上げちゃいそうだし。
“うたアニ”と同じアニメっぽい見た目だから、ちゃんとゲームの中のことだって分けて考えられる。
「そうだとしても、今の方が“うたアニ”との違和感もなくていいんじゃない?」
「だよね」
千代ちゃんと藤子ちゃんは息の合った様子で視線をスクリーンに向けた。
キョウの『《シング・バトル》スタート!』という合図もあって、私と千絵ちゃんもスクリーンに注目する。
『先攻は陽向だ! 火属性のフィールドも陽向の“うたアニ”と相性がいいからかなり有利になったな。でも勝負は始まってみないと分からないぞ! さあ、陽向の攻撃からだ!』
そうして始まった《シング・バトル》はかなり盛り上がった。
盛り上げ上手なキョウの実況のおかげもあるけれど、やっぱり“アバター”が変わったのも大きいと思う。
今までは顔なんてなかったから、人の形をしてはいるけれど結局は攻撃するための的の役割しかない感じだった。
それが、顔があって表情が見えるだけでずいぶんと違う。
しかも、“うたアニ”がメタモルフォーゼすると驚くことに“アバター”にも変化があったんだ。
『うお⁉ 何だこれ⁉』
3バトル目、横山くんの攻撃のターンにザックがメタモルフォーゼした。
すると制服姿だった横山くんの“アバター”が光り出し、その光が粒子となって消えると衣装が変わっていたんだ。
「わっ⁉ 何あれ、すごい!」
藤子ちゃんをはじめ、観戦していた生徒みんなが興奮した声を上げる。
横山くんの衣装は、朱雀となったザックとおそろいのように長い尾羽の飾りがついた赤い服だった。
どことなく中国っぽい衣装なのはやっぱり朱雀が中国の神獣だからなのかな?
その衣装はほのかに光っていて、常にキラキラしたエフェクトをまとっている。
「うわ……すごいね」
私も思わずつぶやくと、キョウが解説をしてくれた。
『おや? みんなは知らなかったのかな? 見ての通り、新バージョンではメタモルフォーゼすると“うたアニ”に合わせて“アバター”も変化する。カッコイイ衣装や可愛い衣装になるよう設定されてるから、是非とも新バージョンではメタモルフォーゼしてみてくれ!』
「わーっ! マジ⁉ やってみてぇ!」
「あーん、わたしまだ成功したことないのにぃ!」
みんな“アバター”の衣装チェンジに意識を持って行かれてバトルどころじゃなくなる。
もう! 興奮するのは分かるけど、次は雄翔くんの防御の歌なのに!
ちょっと周りの様子に不満を覚えたけれど、それも雄翔くんの歌が始まるまでだった。
昇れ 金色の玉
光を放ち 変化をもたらせ
大切なキミを 守る力を
つい意識を向けてしまう良く通った歌声。
聞き惚れてしまうような色気のある歌声に、騒がしかった観戦者たちはすぐに静かになった。
さすが雄翔くん!
すごいすごい!って称賛を胸いっぱいにしながら、私は雄翔くんの雄姿を目に焼き付けようとスクリーンに集中した。
防御のキーワードは【守る】。【変化】はもちろんメタモルフォーゼのキーワードだ。
みんなも雄翔くんがどんな衣装になるか気になるみたいで、さっきまでの騒がしさが嘘のように静かになる。
雄翔くんの“うたアニ”のリュウがまとった水流を大きくして青龍の姿になると、雄翔くんの“アバター”の制服も光る。
さっきの横山くんみたいに光が粒子となって消えたら、そこには青と紺色の中国っぽい衣装を着た雄翔くんがいた。
ただ、横山くんとはタイプが違うみたい。
横山くんは宮殿とかにいそうな衣装で、雄翔くんは剣とか持っていそう。
青龍のウロコとおそろいの腕についている防具――篭手っていうのかな?
それもあって武官っぽく見えた。
「雄翔くん……カッコイイ」
武官っぽい衣装は雄翔くんのクールな見た目を際立たせていて、ひたすらカッコイイ。
それでいてちょっと驚いている表情は年相応でかわいい。
あ、好き。
とつぜんその言葉が浮かんできて、一気に顔が熱くなる。
思わず帽子を掴んで顔を隠そうとしたけれど、雄翔くんから目を逸らしたくなくて帽子のふちを掴むだけにした。
隠れたい!
でも雄翔くんの雄姿をちゃんと見たい!
葛藤している間に準備は整っていて、横山くんの朱雀が火山の溶岩を巻き込みながら炎をまとう。
そしてそのまま雄翔くんの“アバター”に突っ込んで行った。
「っ!」
その派手な攻撃を受ける雄翔くんの“アバター”を見て、思わず息をのむ。
いくら実写じゃないと言っても、雄翔くんだと分かる姿だからちょっとは身構えちゃった。
これ、実写だったら本当に悲鳴上げてたかも。
新バージョンに修正入れてくれた開発者の人たちにグッジョブって言いたい。
『リュウ!』
雄翔くんの呼びかけに、青龍が上空にある太陽に向かって行く。
太陽の光を間近に受けて鱗を真っ赤にさせた青龍が、雄翔くんの“アバター”の前に戻りその体全体で朱雀の攻撃を受け止めた。
「っ! すごっ」
その言葉はどこから聞こえたのか分からない。
でも、みんな同じように思ってるんじゃないかな?
その証拠のように、青龍は朱雀の攻撃をはねのけちゃった。
横山くんの攻撃ターンで朱雀に有利なフィールドだっていうのに、防御をした雄翔くんの“アバター”は全くダメージを受けていない。
歌唱力、感情を乗せる力、“うたアニ”の読み取り力。
全部が横山くんより上回ったってことだ。
『う、うそだろ?』
がくぜんとした様子の横山くんの声が聞こえる。
それも無理はないと思う。
だって、攻撃が失敗したわけでもないのに完全に防がれるなんて滅多にあることじゃないから。
『こーれは珍しいことになった! 雄翔の完全防御だ! これでHPのポイント差は10! 陽向の有利から始まったこのバトル! 逆転勝利も目の前だ! 陽向は守り切ることが出来るのか⁉』
キョウの実況にスクリーンの中の二人の“アバター”がにらみ合う。
『陽向、勝たせてもらうぜ!』
『くっ! させるか!』
そんな言葉を交わして、最後の雄翔くんの攻撃の歌が始まった。
雄翔くんは勝負の流れを掴んだのか迷いなく歌声を奏でる。
対して横山くんは完全防御された動揺が治まらなかったのか、上手く感情を乗せられなかったみたい。
結果、雄翔くんの大逆転勝利となった。
『橘雄翔ぉ! ウィーーーン!』
ゲームのアナウンスでは聞けない心からの勝者アナウンス。
スクリーンにも【橘雄翔WIN】の文字が大きく表示されている。
わあぁぁ! と歓声が上がり盛り上がる中、私はいてもたってもいられずスマホを取り出して雄翔くんにメッセージを送った。
【デモンストレーション、勝利おめでとう! すっごくカッコ良かった。いっぱい元気貰えたよ! ありがとう!】
今すぐ送っても、返事どころか既読がつくのはまだあとだって分かってる。
でも、この昂る気持ちをすぐに伝えたかったの。
私は送信ボタンをタップすると、スクリーンに視線を戻して雄翔くんの“アバター”を見た。
横山くんと何か会話しているのか、ニッと笑みを浮かべて口を動かしてる。
周囲の盛り上がりがすごいから全然聞こえないけれど。
「……うん、私も頑張ろう」
歓声にかき消されちゃったけれど、雄翔くんに力を貰った私はハッキリと言葉にしてこぶしを握った。
『さあ! ついに今年度初の学期末トーナメントの始まりだ! 一年生は初めましてだな! 解説と実況をつとめさせてもらうキョウだ、よろしくな!』
いつもの学園長の長ったらしい話の後で、軽快な声と一緒に一人の男性が壇上に上がってくる。
人気動画配信者のキョウだ。
まさか学園の一行事に、eゲームの大会でも実況をつとめているキョウが来てくれるとは思わず少しさわがしくなった。
でも毎回来てくれているのか、上級生たちはそこまで騒いでいない。
『まずはデモンストレーションだ。《S-JIN》の横山陽向と橘雄翔の《シング・バトル》! ここのスクリーンに映し出されるから、みんなはそのまま座って待っていてくれ!』
キョウの宣言の後、先生や臨時スタッフらしき人たちの手でスクリーンが用意されていく。
新バージョンの《シング・バトル》を観戦するために、学園のすぐ近くの土地に新しく訓練ルームを有した観戦会場を作ったらしい。
元々学園内の訓練ルームは数が足りないと言われていたから良かったんだけど、ちょっと離れた場所になっちゃうのが難点かな、って藤原先輩が言ってたっけ。
でも中島先輩の話だと定期バスが出るらしいから、そこまで苦にはならないんじゃないかな?
雄翔くんと横山くんは今そこに行ってる。
新会場で行われる《シング・バトル》を中継してくれるみたい。
『準備が整ったぞ!』
キョウの声に、用意されたスクリーンに注目が集まる。
映し出されているのは火山のフィールド。
フィールドにも属性みたいなのがあって、相性の良い“うたアニ”には補助ポイントが入る。
攻撃力や防御力が数パーセントだけど上昇するんだ。
フィールド決定も先攻後攻を決めるのと一緒でランダムだから文句は言えないけれど、今回は陽向くんの赤い鳥・ザックと相性がいいフィールドだ。
雄翔くんには不利かもしれない。
「おおー! ほぼ実写っぽいね!」
「でもちょっとアニメっぽい感じにも見えるよね? 実際の姿投影した方が早いんじゃない? あ、“うたアニ”に合わせたのかな?」
映し出された二人の姿に、藤子ちゃんと千代ちゃんが声を上げた。
二人の言う通り、実写というよりは3Dというか……アニメっぽい。
前に見た新バージョン発表のときより実写感はなくなってるから、またちょっと変更があったのかもしれない。
“うたアニ”もちょっとアニメっぽい感じだから、千代ちゃんの言う通り合わせたのかな?
なんて思ったけれど、千絵ちゃんが別の可能性を口にする。
「“アバター”が攻撃を受けるからじゃないの? 実際の人物と同じ姿だったら攻撃されるの見て嫌な気持ちになる人も出そうだし」
「ああ、そういうのもあるね」
確かに、と思ってうなずく。
実際雄翔くんに攻撃が当たったら、痛みはないって分かっていても悲鳴上げちゃいそうだし。
“うたアニ”と同じアニメっぽい見た目だから、ちゃんとゲームの中のことだって分けて考えられる。
「そうだとしても、今の方が“うたアニ”との違和感もなくていいんじゃない?」
「だよね」
千代ちゃんと藤子ちゃんは息の合った様子で視線をスクリーンに向けた。
キョウの『《シング・バトル》スタート!』という合図もあって、私と千絵ちゃんもスクリーンに注目する。
『先攻は陽向だ! 火属性のフィールドも陽向の“うたアニ”と相性がいいからかなり有利になったな。でも勝負は始まってみないと分からないぞ! さあ、陽向の攻撃からだ!』
そうして始まった《シング・バトル》はかなり盛り上がった。
盛り上げ上手なキョウの実況のおかげもあるけれど、やっぱり“アバター”が変わったのも大きいと思う。
今までは顔なんてなかったから、人の形をしてはいるけれど結局は攻撃するための的の役割しかない感じだった。
それが、顔があって表情が見えるだけでずいぶんと違う。
しかも、“うたアニ”がメタモルフォーゼすると驚くことに“アバター”にも変化があったんだ。
『うお⁉ 何だこれ⁉』
3バトル目、横山くんの攻撃のターンにザックがメタモルフォーゼした。
すると制服姿だった横山くんの“アバター”が光り出し、その光が粒子となって消えると衣装が変わっていたんだ。
「わっ⁉ 何あれ、すごい!」
藤子ちゃんをはじめ、観戦していた生徒みんなが興奮した声を上げる。
横山くんの衣装は、朱雀となったザックとおそろいのように長い尾羽の飾りがついた赤い服だった。
どことなく中国っぽい衣装なのはやっぱり朱雀が中国の神獣だからなのかな?
その衣装はほのかに光っていて、常にキラキラしたエフェクトをまとっている。
「うわ……すごいね」
私も思わずつぶやくと、キョウが解説をしてくれた。
『おや? みんなは知らなかったのかな? 見ての通り、新バージョンではメタモルフォーゼすると“うたアニ”に合わせて“アバター”も変化する。カッコイイ衣装や可愛い衣装になるよう設定されてるから、是非とも新バージョンではメタモルフォーゼしてみてくれ!』
「わーっ! マジ⁉ やってみてぇ!」
「あーん、わたしまだ成功したことないのにぃ!」
みんな“アバター”の衣装チェンジに意識を持って行かれてバトルどころじゃなくなる。
もう! 興奮するのは分かるけど、次は雄翔くんの防御の歌なのに!
ちょっと周りの様子に不満を覚えたけれど、それも雄翔くんの歌が始まるまでだった。
昇れ 金色の玉
光を放ち 変化をもたらせ
大切なキミを 守る力を
つい意識を向けてしまう良く通った歌声。
聞き惚れてしまうような色気のある歌声に、騒がしかった観戦者たちはすぐに静かになった。
さすが雄翔くん!
すごいすごい!って称賛を胸いっぱいにしながら、私は雄翔くんの雄姿を目に焼き付けようとスクリーンに集中した。
防御のキーワードは【守る】。【変化】はもちろんメタモルフォーゼのキーワードだ。
みんなも雄翔くんがどんな衣装になるか気になるみたいで、さっきまでの騒がしさが嘘のように静かになる。
雄翔くんの“うたアニ”のリュウがまとった水流を大きくして青龍の姿になると、雄翔くんの“アバター”の制服も光る。
さっきの横山くんみたいに光が粒子となって消えたら、そこには青と紺色の中国っぽい衣装を着た雄翔くんがいた。
ただ、横山くんとはタイプが違うみたい。
横山くんは宮殿とかにいそうな衣装で、雄翔くんは剣とか持っていそう。
青龍のウロコとおそろいの腕についている防具――篭手っていうのかな?
それもあって武官っぽく見えた。
「雄翔くん……カッコイイ」
武官っぽい衣装は雄翔くんのクールな見た目を際立たせていて、ひたすらカッコイイ。
それでいてちょっと驚いている表情は年相応でかわいい。
あ、好き。
とつぜんその言葉が浮かんできて、一気に顔が熱くなる。
思わず帽子を掴んで顔を隠そうとしたけれど、雄翔くんから目を逸らしたくなくて帽子のふちを掴むだけにした。
隠れたい!
でも雄翔くんの雄姿をちゃんと見たい!
葛藤している間に準備は整っていて、横山くんの朱雀が火山の溶岩を巻き込みながら炎をまとう。
そしてそのまま雄翔くんの“アバター”に突っ込んで行った。
「っ!」
その派手な攻撃を受ける雄翔くんの“アバター”を見て、思わず息をのむ。
いくら実写じゃないと言っても、雄翔くんだと分かる姿だからちょっとは身構えちゃった。
これ、実写だったら本当に悲鳴上げてたかも。
新バージョンに修正入れてくれた開発者の人たちにグッジョブって言いたい。
『リュウ!』
雄翔くんの呼びかけに、青龍が上空にある太陽に向かって行く。
太陽の光を間近に受けて鱗を真っ赤にさせた青龍が、雄翔くんの“アバター”の前に戻りその体全体で朱雀の攻撃を受け止めた。
「っ! すごっ」
その言葉はどこから聞こえたのか分からない。
でも、みんな同じように思ってるんじゃないかな?
その証拠のように、青龍は朱雀の攻撃をはねのけちゃった。
横山くんの攻撃ターンで朱雀に有利なフィールドだっていうのに、防御をした雄翔くんの“アバター”は全くダメージを受けていない。
歌唱力、感情を乗せる力、“うたアニ”の読み取り力。
全部が横山くんより上回ったってことだ。
『う、うそだろ?』
がくぜんとした様子の横山くんの声が聞こえる。
それも無理はないと思う。
だって、攻撃が失敗したわけでもないのに完全に防がれるなんて滅多にあることじゃないから。
『こーれは珍しいことになった! 雄翔の完全防御だ! これでHPのポイント差は10! 陽向の有利から始まったこのバトル! 逆転勝利も目の前だ! 陽向は守り切ることが出来るのか⁉』
キョウの実況にスクリーンの中の二人の“アバター”がにらみ合う。
『陽向、勝たせてもらうぜ!』
『くっ! させるか!』
そんな言葉を交わして、最後の雄翔くんの攻撃の歌が始まった。
雄翔くんは勝負の流れを掴んだのか迷いなく歌声を奏でる。
対して横山くんは完全防御された動揺が治まらなかったのか、上手く感情を乗せられなかったみたい。
結果、雄翔くんの大逆転勝利となった。
『橘雄翔ぉ! ウィーーーン!』
ゲームのアナウンスでは聞けない心からの勝者アナウンス。
スクリーンにも【橘雄翔WIN】の文字が大きく表示されている。
わあぁぁ! と歓声が上がり盛り上がる中、私はいてもたってもいられずスマホを取り出して雄翔くんにメッセージを送った。
【デモンストレーション、勝利おめでとう! すっごくカッコ良かった。いっぱい元気貰えたよ! ありがとう!】
今すぐ送っても、返事どころか既読がつくのはまだあとだって分かってる。
でも、この昂る気持ちをすぐに伝えたかったの。
私は送信ボタンをタップすると、スクリーンに視線を戻して雄翔くんの“アバター”を見た。
横山くんと何か会話しているのか、ニッと笑みを浮かべて口を動かしてる。
周囲の盛り上がりがすごいから全然聞こえないけれど。
「……うん、私も頑張ろう」
歓声にかき消されちゃったけれど、雄翔くんに力を貰った私はハッキリと言葉にしてこぶしを握った。
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