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異界を渡るマレビト
花祭りの裏で②
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「とりあえず、広場に向かいながらラミラさんとマーガレットさんを探そう!」
「はい!」
走りながら話すアキラ先輩に私は前を見たまま返事をする。
花冠をかぶって笑顔の街の人たちの間を通りぬけながら広場に急いだ。
まさかラミラとルミルが入れかわってるなんて。
そっくりな双子だから話してみるまでわからなかった。
クルトとマーガレットさんも姉弟だからか遠目だと大きくちがうようには見えなかったし。
でもまだ大丈夫なはず。
街の人たちは笑顔で、魔物はまだ襲ってきてない。
ラミラとマーガレットさんが今どこにいるのかはわからないけれど、広場で襲われるっていうのはわかってるから。
そうして走っていたけれど、そんな私たちに声をかけてくる人がいた。
「あ、きみ旅の聖女さまだよね? クレアを見なかった?」
「え?」
呼び止められてついふり向くと、見たことのある護り手の男の人がいた。
名前は知らない。
クレアさんの近くにいるから、彼女の護り手だって知ってるだけ。
「ごめんなさい、見てないです」
「そっか……ごめんな、急いでるのに呼び止めて」
申し訳なさそうに眉をハの字にしてあやまった彼に、私は「じゃあ」と断りを入れて別れよとした。
でも、その前にクレアさんの護り手の彼は「あっ!」と大きく声を上げる。
「あんなところに。でも、なにしてるんだ?」
「え?」
なんとなく気になって彼の見る方に視線を向けると、明らかに人目を避けてせまい路地に入っていく緑髪の聖女がいた。
周りの目を気にしてる様子に、なんだかいやな予感がする。
「ラナさん? 急がないと」
「すみません、ちょっと……」
広場に向かおうって急かすアキラ先輩だけど、私はクレアさんがどうしても気になって護り手の男の人について行った。
『おろか者には罰を――』
どうして今フェリシアさまの言葉を思い出したんだろう。
変にいやな感じがして、胸がザワザワする。
「クレア、探したぞ!?」
「っ!?」
護り手に声をかけられたクレアさんは大きく肩をゆらしておどろいてた。
ふり返った彼女の手には何かホイッスルみたいな笛がにぎられている。
「クレア? どうしたんだ? なんで喚呼の笛なんか持ってるんだ?」
「ガイ……」
カンコの笛?って、なに?
その疑問はすぐにガイと呼ばれた護り手の言葉でわかる。
「それは傭兵が街の外に魔物を呼び寄せるのに使う笛だろ? なんでクレアが持ってる? なんでこんな街中で――っ! まさか」
「っ! そうよ。街に魔物を呼び寄せようとしてるのよ」
『!?』
クレアさんの言葉を聞いた、私を含めた三人は息をのむ。
どうして、そんなこと……。
「でも大丈夫よ。そんなに被害は出ないはずだから」
「クレア? 本当に何をしようとしてるんだ?」
ガイさんの戸惑いは私も一緒だ。
なんで被害が少ないってわかるの?
「ラミラに魔呼びの香を持たせたわ。魔物はラミラに一直線に向かって行くはずよ」
「ラミラに!?」
思わずさけんだのは私。
魔呼びの香っていうのがどういうものかはわからないけれど、クレアさんの説明を聞くと魔物を引き付けるものみたいだ。
いつの間にそんなもの……あっ!
「あの時の香袋!」
「ああ、そういえばあのときあなたもいたわね。そうよ、魔呼びの香は人間には無臭だから、良さそうな香りをいっしょに入れて誤魔化したの」
饒舌に話すクレアさんは最初に見た優しい顔はどこへやら……すっかり悪女みたいな表情になってた。
悪いことだってわかっててやってる人の顔だ。
「なんでそんなこと!? ラミラがなにをしたっていうの!?」
「なにを? そんなの、私から筆頭聖女の座をうばったからよ!」
皮肉気に笑っていた顔を憎々そうにゆがめるクレアさん。
語る言葉には毒ばかりが入ってた。
「私の方がふさわしいのに! あんな、儀式をほっぽり出して男に会いに行くような子なんかより!」
クレアさん、ラミラとルミルが入れかわってたの知ってたんだ。
理由まで知ってるってことは、もしかしたら協力を頼まれたのかもしれない。
たしかにお仕事を放り出してってのは良くないことだと思う。
でも、魔物に襲われてもいいなんてことは絶対にない。
「とにかくまだ笛は吹いてないんだろ? まだ間に合う。思いとどまれよ」
ガイさんがなだめるように言って手をのばしたけれど、クレアさんはその手から逃げた。
そして――。
「いやよ! ラミラのこと、絶対に許せないの!」
「あっ!」
叫んですぐに息を吸いこむクレアさん。
一番近かったガイさんが本気で止めようとまた腕をのばしたけれど間に合わなかった。
――――――!
音は聞こえない。
でも、クレアさんはしっかりその魔物を呼ぶという笛を吹いてしまった。
「はい!」
走りながら話すアキラ先輩に私は前を見たまま返事をする。
花冠をかぶって笑顔の街の人たちの間を通りぬけながら広場に急いだ。
まさかラミラとルミルが入れかわってるなんて。
そっくりな双子だから話してみるまでわからなかった。
クルトとマーガレットさんも姉弟だからか遠目だと大きくちがうようには見えなかったし。
でもまだ大丈夫なはず。
街の人たちは笑顔で、魔物はまだ襲ってきてない。
ラミラとマーガレットさんが今どこにいるのかはわからないけれど、広場で襲われるっていうのはわかってるから。
そうして走っていたけれど、そんな私たちに声をかけてくる人がいた。
「あ、きみ旅の聖女さまだよね? クレアを見なかった?」
「え?」
呼び止められてついふり向くと、見たことのある護り手の男の人がいた。
名前は知らない。
クレアさんの近くにいるから、彼女の護り手だって知ってるだけ。
「ごめんなさい、見てないです」
「そっか……ごめんな、急いでるのに呼び止めて」
申し訳なさそうに眉をハの字にしてあやまった彼に、私は「じゃあ」と断りを入れて別れよとした。
でも、その前にクレアさんの護り手の彼は「あっ!」と大きく声を上げる。
「あんなところに。でも、なにしてるんだ?」
「え?」
なんとなく気になって彼の見る方に視線を向けると、明らかに人目を避けてせまい路地に入っていく緑髪の聖女がいた。
周りの目を気にしてる様子に、なんだかいやな予感がする。
「ラナさん? 急がないと」
「すみません、ちょっと……」
広場に向かおうって急かすアキラ先輩だけど、私はクレアさんがどうしても気になって護り手の男の人について行った。
『おろか者には罰を――』
どうして今フェリシアさまの言葉を思い出したんだろう。
変にいやな感じがして、胸がザワザワする。
「クレア、探したぞ!?」
「っ!?」
護り手に声をかけられたクレアさんは大きく肩をゆらしておどろいてた。
ふり返った彼女の手には何かホイッスルみたいな笛がにぎられている。
「クレア? どうしたんだ? なんで喚呼の笛なんか持ってるんだ?」
「ガイ……」
カンコの笛?って、なに?
その疑問はすぐにガイと呼ばれた護り手の言葉でわかる。
「それは傭兵が街の外に魔物を呼び寄せるのに使う笛だろ? なんでクレアが持ってる? なんでこんな街中で――っ! まさか」
「っ! そうよ。街に魔物を呼び寄せようとしてるのよ」
『!?』
クレアさんの言葉を聞いた、私を含めた三人は息をのむ。
どうして、そんなこと……。
「でも大丈夫よ。そんなに被害は出ないはずだから」
「クレア? 本当に何をしようとしてるんだ?」
ガイさんの戸惑いは私も一緒だ。
なんで被害が少ないってわかるの?
「ラミラに魔呼びの香を持たせたわ。魔物はラミラに一直線に向かって行くはずよ」
「ラミラに!?」
思わずさけんだのは私。
魔呼びの香っていうのがどういうものかはわからないけれど、クレアさんの説明を聞くと魔物を引き付けるものみたいだ。
いつの間にそんなもの……あっ!
「あの時の香袋!」
「ああ、そういえばあのときあなたもいたわね。そうよ、魔呼びの香は人間には無臭だから、良さそうな香りをいっしょに入れて誤魔化したの」
饒舌に話すクレアさんは最初に見た優しい顔はどこへやら……すっかり悪女みたいな表情になってた。
悪いことだってわかっててやってる人の顔だ。
「なんでそんなこと!? ラミラがなにをしたっていうの!?」
「なにを? そんなの、私から筆頭聖女の座をうばったからよ!」
皮肉気に笑っていた顔を憎々そうにゆがめるクレアさん。
語る言葉には毒ばかりが入ってた。
「私の方がふさわしいのに! あんな、儀式をほっぽり出して男に会いに行くような子なんかより!」
クレアさん、ラミラとルミルが入れかわってたの知ってたんだ。
理由まで知ってるってことは、もしかしたら協力を頼まれたのかもしれない。
たしかにお仕事を放り出してってのは良くないことだと思う。
でも、魔物に襲われてもいいなんてことは絶対にない。
「とにかくまだ笛は吹いてないんだろ? まだ間に合う。思いとどまれよ」
ガイさんがなだめるように言って手をのばしたけれど、クレアさんはその手から逃げた。
そして――。
「いやよ! ラミラのこと、絶対に許せないの!」
「あっ!」
叫んですぐに息を吸いこむクレアさん。
一番近かったガイさんが本気で止めようとまた腕をのばしたけれど間に合わなかった。
――――――!
音は聞こえない。
でも、クレアさんはしっかりその魔物を呼ぶという笛を吹いてしまった。
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