5 / 32
令劉という男②
しおりを挟む
怖い。
それが明凜の率直な思いだった。
なのに、体の芯がどうしてか熱い。
塞いでいる口からは熱のこもった吐息が零れそうで、自分の体だというのにどうなっているのか理解出来なかった。
戸惑うばかりの明凜の体を沿うように、令劉の硬く大きな手が流れ太ももに直接触れる。
動きやすさを重視した黒装束は、脚と腕の素肌を晒すように出来ていた。
「裳では動きづらいのは分かるが、このように足を晒すなど……触れてほしいと言っているようなものだ」
「っ~!」
緩やかに内側を撫でられ、声が漏れそうになる。
優しく触れてくる手に、ぞわぞわと嫌悪とは違う震えが立ち上がった。
初めての感覚が恐ろしく、明凜は逃れようと身を捩る。
だが、のし掛かられている脚は動かせず撫でる手からも逃れられない。
「んっんぁ」
ついには自分のものとは思えない甘い声が口から漏れてしまい、羞恥に頬を染めた。
「可愛い声だ。もっと聞かせてくれ」
熱い吐息と共に声をねだる唇は耳朶を食み、また新たな震えを明凜に与える。
声を我慢しなければいけないというのに、責め立てるように触れる令劉の手や唇がそれをさせてくれない。
「あっ、んんぅ……」
(これは、色々な意味で本格的に不味い!)
熱くなる身体と共に溶けそうになる思考の隅で、辛うじて残っている冷静な部分が訴えてくる。
このまま翻弄されてしまえば正体が知られてしまう。
それだけは絶対に避けなければならないというのに。
しかも、先ほどから何やら硬いものが太ももに当たっている気がする。
令劉の手に撫でられている方ではない。もう片方、彼の脚に挟まれるようにのし掛かられている方だ。
まさかとしか思えない。
それは、宦官が持っているはずのないものなのだから。
「その手をどけろ。声が聞きづらいし、口づけが出来ないではないか」
「ひぅっ!」
弱い部分を撫でられ、悲鳴の様な声を上げてしまう。
それでも、手を口から離す訳にはいかない。
(本当に、本当に不味い!)
あり得ないことだったが、太ももに感じる硬いものが想像通りならこのまま純潔を奪われる状況だ。
いくら誰もが一夜だけでもと望みそうな容姿の男でも、純潔をこのように突然奪われるなど御免被る。
だが、どうにか抜け出そうと思考を巡らせようとするたびに熱を与えられて考えがまとまらない。
「やっ……だめぇ……っ」
このままでは正体を知られてしまうという恐怖。男に組み敷かれ純潔を奪われる恐怖。知らぬ熱に翻弄される自分への恐怖。
すべての恐怖に自然と涙が浮かんでしまう。
それは閉じた目尻から、すぐにも雫となってこぼれ落ちた。
だが、雫が褥へと吸い込まれる前に硬い指が明凜の頬を拭う。
柔らかい令劉の唇が、残る涙を吸うように目尻に触れる。
思わぬ優しい仕草に思考が一瞬停止した。
「泣くな……お前を怖がらせたい訳ではないのだ……」
(え……?)
変わらず熱が込められた声音だったが、そこに確かな情を感じた。
確認したくてうっすら開いた目には、欲よりもいたわりの優しさを映した澄んだ空の色が見える。
だが、涙で潤んだ目ではハッキリと見えた訳ではなく、幻のように揺らぐ様子に信じていいのかと惑う。
そのとき、僅かに衣擦れの音が聞こえて房の外から控えめに声が掛けられた。
「令劉様、遅くに失礼致します。急ぎの知らせなのですが、起きていらっしゃいますか?」
「……起きている」
途端に顰め面をした令劉は、呼びかけに応えながら臥床から降りるため身体を浮かせる。
明凜はその隙を逃がさなかった。
令劉の下から抜け出し、ハッとし引き留めようとする彼の腕をすり抜ける。
人外と思えるほどの素早さを持つ令劉でも、不意の動きには対応出来なかった様だ。
明凜は再び捕まることなく、出入り口とは反対側にある窓に身を乗り出す。
「あ……」
待て、とでも続けようとしたのだろうか?
だが、続く言葉を聞く前に明凜は逃げ出した。
待つわけがない。捕らわれてしまったこと自体あってはならないことだったのだ。
目の色も声も知られずに済んだのだから、早々に逃げるに限る。
素早く紫水宮に逃げ帰りながら、明凜は今後一切あの房へは近づかない様にしようと決めた。
それが明凜の率直な思いだった。
なのに、体の芯がどうしてか熱い。
塞いでいる口からは熱のこもった吐息が零れそうで、自分の体だというのにどうなっているのか理解出来なかった。
戸惑うばかりの明凜の体を沿うように、令劉の硬く大きな手が流れ太ももに直接触れる。
動きやすさを重視した黒装束は、脚と腕の素肌を晒すように出来ていた。
「裳では動きづらいのは分かるが、このように足を晒すなど……触れてほしいと言っているようなものだ」
「っ~!」
緩やかに内側を撫でられ、声が漏れそうになる。
優しく触れてくる手に、ぞわぞわと嫌悪とは違う震えが立ち上がった。
初めての感覚が恐ろしく、明凜は逃れようと身を捩る。
だが、のし掛かられている脚は動かせず撫でる手からも逃れられない。
「んっんぁ」
ついには自分のものとは思えない甘い声が口から漏れてしまい、羞恥に頬を染めた。
「可愛い声だ。もっと聞かせてくれ」
熱い吐息と共に声をねだる唇は耳朶を食み、また新たな震えを明凜に与える。
声を我慢しなければいけないというのに、責め立てるように触れる令劉の手や唇がそれをさせてくれない。
「あっ、んんぅ……」
(これは、色々な意味で本格的に不味い!)
熱くなる身体と共に溶けそうになる思考の隅で、辛うじて残っている冷静な部分が訴えてくる。
このまま翻弄されてしまえば正体が知られてしまう。
それだけは絶対に避けなければならないというのに。
しかも、先ほどから何やら硬いものが太ももに当たっている気がする。
令劉の手に撫でられている方ではない。もう片方、彼の脚に挟まれるようにのし掛かられている方だ。
まさかとしか思えない。
それは、宦官が持っているはずのないものなのだから。
「その手をどけろ。声が聞きづらいし、口づけが出来ないではないか」
「ひぅっ!」
弱い部分を撫でられ、悲鳴の様な声を上げてしまう。
それでも、手を口から離す訳にはいかない。
(本当に、本当に不味い!)
あり得ないことだったが、太ももに感じる硬いものが想像通りならこのまま純潔を奪われる状況だ。
いくら誰もが一夜だけでもと望みそうな容姿の男でも、純潔をこのように突然奪われるなど御免被る。
だが、どうにか抜け出そうと思考を巡らせようとするたびに熱を与えられて考えがまとまらない。
「やっ……だめぇ……っ」
このままでは正体を知られてしまうという恐怖。男に組み敷かれ純潔を奪われる恐怖。知らぬ熱に翻弄される自分への恐怖。
すべての恐怖に自然と涙が浮かんでしまう。
それは閉じた目尻から、すぐにも雫となってこぼれ落ちた。
だが、雫が褥へと吸い込まれる前に硬い指が明凜の頬を拭う。
柔らかい令劉の唇が、残る涙を吸うように目尻に触れる。
思わぬ優しい仕草に思考が一瞬停止した。
「泣くな……お前を怖がらせたい訳ではないのだ……」
(え……?)
変わらず熱が込められた声音だったが、そこに確かな情を感じた。
確認したくてうっすら開いた目には、欲よりもいたわりの優しさを映した澄んだ空の色が見える。
だが、涙で潤んだ目ではハッキリと見えた訳ではなく、幻のように揺らぐ様子に信じていいのかと惑う。
そのとき、僅かに衣擦れの音が聞こえて房の外から控えめに声が掛けられた。
「令劉様、遅くに失礼致します。急ぎの知らせなのですが、起きていらっしゃいますか?」
「……起きている」
途端に顰め面をした令劉は、呼びかけに応えながら臥床から降りるため身体を浮かせる。
明凜はその隙を逃がさなかった。
令劉の下から抜け出し、ハッとし引き留めようとする彼の腕をすり抜ける。
人外と思えるほどの素早さを持つ令劉でも、不意の動きには対応出来なかった様だ。
明凜は再び捕まることなく、出入り口とは反対側にある窓に身を乗り出す。
「あ……」
待て、とでも続けようとしたのだろうか?
だが、続く言葉を聞く前に明凜は逃げ出した。
待つわけがない。捕らわれてしまったこと自体あってはならないことだったのだ。
目の色も声も知られずに済んだのだから、早々に逃げるに限る。
素早く紫水宮に逃げ帰りながら、明凜は今後一切あの房へは近づかない様にしようと決めた。
1
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜
雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。
彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。
自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。
「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」
異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。
異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです
シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。
厄災を運ぶ、不吉な黒猫─────そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。
不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。
けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で─────……
「やっと、やっと、見つけた────……俺の、……番……ッ!!」
えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!?というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!!
「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」
「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」
王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない!となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。
※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる