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暗殺①
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「蘭貴妃の初夜の日までには何とかする。待っていてくれ」
愛し合った夜。
夜明けもほど近い時間に紫水宮へと送ってくれた令劉はそう言い残し去って行った。
翌日からの紫水宮での生活は変わりなく、明凜が捕らわれることもなかった。
何事もないということは、晋以の記憶がしっかり消されているということなのだろう。
自分が間者であると知られていないことに安堵しつつも、明凜は不安な日々を過ごしていた。
なぜなら、あの一夜の後から令劉の姿を一度も見ていないのだ。
令劉のことは信じている。
だが、好いた相手に長く会えないことは単純に寂しかった。
「……明凜、またため息を吐いているわよ?」
「え?」
夜、またしても増えてきた翠玉の愛玩蜘蛛に餌を与えながら、また令劉のことを思い出してしまっていた。
自分では淡々と作業をこなしていたつもりだったが、いつのまにため息を吐いてしまっていたのだろうか。
「令劉様に会いたいの?」
「ぅえ!?」
あまりにも的を射た問いに思わず奇妙な声が出てしまった。
「な、ななっ何を!?」
「あら? 明凜にしては誤魔化すのが下手ね。やっぱり恋する乙女になっちゃったのね」
「な、なっ……!」
否定する間も与えられず、確定として語られてしまう。
令劉とのことなど一切話していないというのに、何故恋などという言葉が出てくるのか。
思考でも読まれているのだろうかと明凜は半分以上本気で疑ってしまった。
「なぁに? 気付いていないとでも思ったの? 私が大切で大好きな姐様の変化を見逃すとでも?」
軽く眉を寄せ、ムッとした表情を浮かべた翠玉は内心かなりご立腹らしい。
拗ねているだけならば眉が八の字になるくらいだが、愛らしい黒目がちな目が半眼になっている。
心から不満に思っているときの表情だ。
「詳しいところは知らないけれど、令劉様は儀国を憂うまともな方だというくらいは分かるわ。場合によっては味方になってくれるだろうとも思ってる」
「翠玉様……」
顔を合わせれば笑顔で嫌味の応酬を始める二人だというのに、しっかり見るところは見ているのだなと感心した。
だが。
「でも、やっぱり気に食わないの!」
「へ?」
感心した矢先に憤然と拳を握る翠玉に、明凜は目を瞬かせる。
「あの男、はじめから私の大事な姐様に色目を使っていたし……私から姐様を奪っていくのではないかと思ってはいたのよ!」
「あ、あの……翠玉様?」
「本気の様だから辛うじて許せるけれど……それでもやっぱり気に食わないの!」
「と、とりあえず落ち着いて下さい」
姐呼びを注意したいところだが、それより先に昂ぶり大声を出してしまっている状況をどうにかしなくては。
あまり騒がしいと香鈴が来てしまいかねない。
今来て蜘蛛の籠を見られては、また叱責を受けるだろうから。
(また捕まえて隠していたことが知られて、他に何か隠していないかと調べられても困るわ)
「はあぁ……とにかく私は不満たっぷりなの!」
明凜の心配をよそに、翠玉は愛らしさの欠片もない盛大なため息を吐く。
座っていた椅子の背もたれに行儀悪く身をあずける様は公主とは到底思えない。
「翠玉様、お行儀が――」
「しかも姐様がため息を吐いてしまうほど思い詰めているというのに会いにも来ないなんて! 本当に嫌な男ね!」
流石に注意しなければと声を上げるも、それすらも遮られてしまう。
だが今の言葉で言いたいことは言い切ったのか、落ち着きを取り戻し翠玉は自分で姿勢を正した。
「とにかく、私は姐様が幸せならば文句は言いません。ですが、このまま姐様にため息ばかり吐かせる方だというならば黙ってはおりませんので」
「は、はは……そう、ですか……」
美しい笑顔に乗せられた圧に、明凜はたじろぎ思う。
(令劉様、私の妹はあなたにとって天敵の小姑になるかもしれません)
愛し合った夜。
夜明けもほど近い時間に紫水宮へと送ってくれた令劉はそう言い残し去って行った。
翌日からの紫水宮での生活は変わりなく、明凜が捕らわれることもなかった。
何事もないということは、晋以の記憶がしっかり消されているということなのだろう。
自分が間者であると知られていないことに安堵しつつも、明凜は不安な日々を過ごしていた。
なぜなら、あの一夜の後から令劉の姿を一度も見ていないのだ。
令劉のことは信じている。
だが、好いた相手に長く会えないことは単純に寂しかった。
「……明凜、またため息を吐いているわよ?」
「え?」
夜、またしても増えてきた翠玉の愛玩蜘蛛に餌を与えながら、また令劉のことを思い出してしまっていた。
自分では淡々と作業をこなしていたつもりだったが、いつのまにため息を吐いてしまっていたのだろうか。
「令劉様に会いたいの?」
「ぅえ!?」
あまりにも的を射た問いに思わず奇妙な声が出てしまった。
「な、ななっ何を!?」
「あら? 明凜にしては誤魔化すのが下手ね。やっぱり恋する乙女になっちゃったのね」
「な、なっ……!」
否定する間も与えられず、確定として語られてしまう。
令劉とのことなど一切話していないというのに、何故恋などという言葉が出てくるのか。
思考でも読まれているのだろうかと明凜は半分以上本気で疑ってしまった。
「なぁに? 気付いていないとでも思ったの? 私が大切で大好きな姐様の変化を見逃すとでも?」
軽く眉を寄せ、ムッとした表情を浮かべた翠玉は内心かなりご立腹らしい。
拗ねているだけならば眉が八の字になるくらいだが、愛らしい黒目がちな目が半眼になっている。
心から不満に思っているときの表情だ。
「詳しいところは知らないけれど、令劉様は儀国を憂うまともな方だというくらいは分かるわ。場合によっては味方になってくれるだろうとも思ってる」
「翠玉様……」
顔を合わせれば笑顔で嫌味の応酬を始める二人だというのに、しっかり見るところは見ているのだなと感心した。
だが。
「でも、やっぱり気に食わないの!」
「へ?」
感心した矢先に憤然と拳を握る翠玉に、明凜は目を瞬かせる。
「あの男、はじめから私の大事な姐様に色目を使っていたし……私から姐様を奪っていくのではないかと思ってはいたのよ!」
「あ、あの……翠玉様?」
「本気の様だから辛うじて許せるけれど……それでもやっぱり気に食わないの!」
「と、とりあえず落ち着いて下さい」
姐呼びを注意したいところだが、それより先に昂ぶり大声を出してしまっている状況をどうにかしなくては。
あまり騒がしいと香鈴が来てしまいかねない。
今来て蜘蛛の籠を見られては、また叱責を受けるだろうから。
(また捕まえて隠していたことが知られて、他に何か隠していないかと調べられても困るわ)
「はあぁ……とにかく私は不満たっぷりなの!」
明凜の心配をよそに、翠玉は愛らしさの欠片もない盛大なため息を吐く。
座っていた椅子の背もたれに行儀悪く身をあずける様は公主とは到底思えない。
「翠玉様、お行儀が――」
「しかも姐様がため息を吐いてしまうほど思い詰めているというのに会いにも来ないなんて! 本当に嫌な男ね!」
流石に注意しなければと声を上げるも、それすらも遮られてしまう。
だが今の言葉で言いたいことは言い切ったのか、落ち着きを取り戻し翠玉は自分で姿勢を正した。
「とにかく、私は姐様が幸せならば文句は言いません。ですが、このまま姐様にため息ばかり吐かせる方だというならば黙ってはおりませんので」
「は、はは……そう、ですか……」
美しい笑顔に乗せられた圧に、明凜はたじろぎ思う。
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