聖獣の愛し子である私は「王子の婚約者にしてやる」と王都に呼ばれましたので、仕方なく断りに来ました

kieiku

文字の大きさ
1 / 1

聖獣の愛し子である私は「王子の婚約者にしてやる」と王都に呼ばれましたので、仕方なく断りに来ました

しおりを挟む
「断る、だと?」
「はい。お申し出はありがたく思いますが、聖獣さまは辺境でのんびり暮らすことを望んでおられます」
「その獣はおまえの言うことを聞くと聞いたぞ」

 私は苦笑しました。
 確かに聖獣様は私を愛し子として気に入ってくださっていますが、それ以上でもそれ以下でもありません。

「私は聖獣さまの主ではありません。もちろん聖獣さまはどなたにも仕えることはありません」
「ふん、畜生ごときがそのようなことを考えるものか。良いか、おまえのような田舎娘を、この俺の婚約者にしてやると言っているのだ。地にひれ伏して感謝せよ。そしてその獣をしっかりと躾け、王都を富ませるようにせよ」

 王子はそのようにおっしゃいます。
 私はため息をつきます。どうして王都の方はこのように、自分の言いたいことしか言わないのでしょうか。それで通るほど世界は甘くありません。

 聖獣さまは確かに我が辺境を富ませてくださいましたが、それは気まぐれと偶然からなさったことです。その神秘の力が人間の扱えるものでないことを、辺境のものは皆知っております。

「無理なものは無理でございます」
「なんだと? さすが辺境のものは無知蒙昧であるな。いいか、このヒストニカ国は日の沈まぬ国。この国の王族である我々は太陽そのものである。おまえたちは我らに従い、ただ言われたまま動けばいいのだ。わかったら、さっさとその獣を檻に入れよ」
「無理なものは、無理でございます」
「不敬な。おい、その田舎娘とともに獣を檻へ入れよ」
「あ」

 大人しく私の隣にいた聖獣さまが、光の早さで飛び出しました。
 慣れている私だからこそ見えたことでしょう。周囲の方々は何も気づかず、玉座の隣から私を見下ろしていた王子も、自分の前に大きな体が現れるまで、聖獣さまの移動に気づかなかったようです。

「なっ、ああっ!?」

 聖獣さまが大きな口をあけ、がぶりと王子に噛みつきました。

「ひぃっ!?」
「殿下!?」
「お、おい、娘、やめさせよ!」
「無理でございます。お手紙でも、さきほども申し上げた通り、私は聖獣さまの主ではございません。聖獣さまに命令することなどできません」
「くだらぬ言い訳はよい! やるのだ!」
「できません」

「殿下を離せ!」
「やめよ! その獣にどれだけの価値があると思っている!」

 勇敢な兵士の一人が聖獣さまに槍を向けましたが、王様が止めました。
 まだ聖獣さまを国のために利用できると思っているようです。辺境もこの国の一部ですから、最悪なことになる前に諦めてほしいです。

「父上!? お助けくださ……っ」
「ええい、おまえごときのために殺せるものか。唯一の力だぞ!」
「あ、あなた息子になんということを!」

 修羅場が始まってしまいました。

「ああっ!?」

 聖獣さまが王子をくわえたまま首を振ると、王子の体がぶらんと大きく揺れました。
 ああ……。
 聖獣さま、あれ、好きなんですよね。くわえてブンブンするの。されたほうはたまったものではないのですが。

 そして同時に、兵士たちの槍は全て折れ、剣はどろりと溶けてしまいました。

「そ、そんな」
「なんという力だ! こ、これこそ我が手に入れるべき力! ……おい、女だ、その女を捕まえろ!」
「あ」

 それはやめておいた方がいいですよ。
 思ったのですが、遅かったです。私を狙われて怒った聖獣さまは暴れだし、謁見の間にいる人々を次から次になぎ倒しくわえ、ぶん投げました。

「ギャッ」
「きゃああああ!」
「ひっ、たすけ、たすけて」
「うあああああ!」

 阿鼻叫喚とはこのことです。
 ですが聖獣さまは無駄に命を奪うことを嫌っています。壁に、床に叩きつけられた人々は苦しげにうめきましたが、みな生きています。
 聖獣さまは楽しくなってきたのか、手当たり次第にじゃれつき、とっくみあいを始めました。王都までの長い道でストレスが溜まっていたのかもしれません。

 私は邪魔をしないようにそれを眺めます。辺境を出るときにお兄様たちに遊んでもらっていましたが、足りなかったのでしょうね。
 帰ったらまた大遊びでしょう。お兄様たちも楽しそうですが、聖獣さまの遊びに付き合ううち、だんだん人間をやめている気がして心配です。

「ぐるるぅ……」

 聖獣さまが不満そうな声をあげました。手応えのない遊び相手だったのでしょう。

「まあ、仕方ないですよ。王都の方々は都会人というやつですもの」

「うぉおおおおおおんっ!」

「お、許しを」
「どうかお許しを!」
「我々はあなた様のしもべです!」
「服従を誓います!」

 聖獣さまが遠吠えをすると、すべての人々がひれ伏します。このように聖獣さまは、決して人に従えられる存在ではなく、やろうと思えば人を簡単に従えさせることができます。
 ただ、それをお望みではないので、私たちは聖獣さまと家族のように暮らしているのです。

 この王宮の方々にそれは無理だと思ったのでしょうね。彼らの心には聖獣さまへの服従が刻み込まれたでしょう。

 王都にやってきた目的は果たしました。
 これでもう、聖獣さまを利用しようと、何かとうるさく言ってくることはないでしょう。来たとしたら今度こそ戦いになるかもしれませんが、聖獣さまに鍛えられれた辺境の民が、都会の方々に負ける想像なんてできません。
 一方的な蹂躙なんて見たくないので、本当、諦めてほしいです。

「さ、急いで帰りましょうね」
「わおん」

 私の言葉に、聖獣さまは嬉しそうに声をあげました。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

地味で結婚できないと言われた私が、婚約破棄の席で全員に勝った話

といとい
ファンタジー
「地味で結婚できない」と蔑まれてきた伯爵令嬢クラリス・アーデン。公の場で婚約者から一方的に婚約破棄を言い渡され、妹との比較で笑い者にされるが、クラリスは静かに反撃を始める――。周到に集めた証拠と知略を武器に、貴族社会の表と裏を暴き、見下してきた者たちを鮮やかに逆転。冷静さと気品で場を支配する姿に、やがて誰もが喝采を送る。痛快“ざまぁ”逆転劇!

毒はすり替えておきました

夜桜
恋愛
 令嬢モネは、婚約者の伯爵と食事をしていた。突然、婚約破棄を言い渡された。拒絶すると、伯爵は笑った。その食事には『毒』が入っていると――。  けれど、モネは分かっていた。  だから毒の料理はすり替えてあったのだ。伯爵は……。

王女は追放されません。されるのは裏切り者の方です

といとい
恋愛
民を思い、真摯に生きる第一王女エリシア。しかしその誠実さは、貴族たちの反感と嫉妬を買い、婚約者レオンと庶民令嬢ローザの陰謀によって“冷酷な王女”の濡れ衣を着せられてしまう。 公開尋問の場に引きずり出され、すべてを失う寸前──王女は静かに微笑んだ。「では今から、真実をお見せしましょう」 逆転の証拠と共に、叩きつけられる“逆婚約破棄”! 誇り高き王女が、偽りの忠誠を裁き、玉座への道を切り開く痛快ざまぁ劇!

公爵令嬢の白銀の指輪

夜桜
恋愛
 公爵令嬢エリザは幸せな日々を送っていたはずだった。  婚約者の伯爵ヘイズは婚約指輪をエリザに渡した。けれど、その指輪には猛毒が塗布されていたのだ。  違和感を感じたエリザ。  彼女には貴金属の目利きスキルがあった。  直ちに猛毒のことを訴えると、伯爵は全てを失うことになった。しかし、これは始まりに過ぎなかった……。

その方は婚約者ではありませんよ、お姉様

夜桜
恋愛
マリサは、姉のニーナに婚約者を取られてしまった。 しかし、本当は婚約者ではなく……?

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

公爵令嬢の一度きりの魔法

夜桜
恋愛
 領地を譲渡してくれるという条件で、皇帝アストラと婚約を交わした公爵令嬢・フィセル。しかし、実際に領地へ赴き現場を見て見ればそこはただの荒地だった。  騙されたフィセルは追及するけれど婚約破棄される。  一度だけ魔法が使えるフィセルは、魔法を使って人生最大の選択をする。

いざ離婚!と思ったらそもそも結婚していなかったですって!

ゆるぽ
恋愛
3年間夫婦としての実態が無ければ離婚できる国でようやく離婚できることになったフランシア。離婚手続きのために教会を訪れたところ、婚姻届けが提出されていなかったことを知る。そもそも結婚していなかったことで最低だった夫に復讐できることがわかって…/短めでさくっと読めるざまぁ物を目指してみました。

処理中です...