召喚された聖女? いえ、商人です

kieiku

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前編

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「せ、成功だ……!」

 魔術師の震えた声。
 まばゆい光が去ったあと、魔法陣の上にはひとりの女が立っていた。

「聖女様……」
「聖女様!」

 呼びかけに応えるように女が目を開く。伝説の通り、透き通るような青い瞳だ。場がどよめく。
 間違いない。
 かつて滅びた国で行われたという聖女召喚、夢物語と思われていたそれは真のことだったのだ。

「……聖女?」
 女は少し不思議そうに首をかしげた。
 さらりと短い髪が揺れる。それを見たこの場の男たちは皆、眉をひそめた。この国で女は長い髪をしているものなのだ。
 これは本当に女なのだろうかと男たちは訝った。聖女と言うからには、慈悲深く、女性らしい存在が現れるのだろうと思っていたのだ。

「し、失礼を申し上げます。あなた様は本当に、聖女様なのですか……?」
「いえ。私は……待ってください、この国で聖女とはどのような意味ですか?」
「聖女様は国難をお救いくださる方です!」
「国難とは?」

「我が国では魔物共が跳梁跋扈し……」
「魔物とは」
「醜く汚れた、神に反する者共です!」
「……その魔物って、話します?」

 少し困ったように女は聞いた。
「いいえ」
「知性のないものどもです」

「そうですか。……まあ、見てみないとわかりませんが、この国から排除してほしいというご依頼ですね?」
「依頼……はあ、そう、ですな」
 事務的に問われた宰相は、違和感を覚えつつも頷いた。
 聖女に頼んでいるのは間違いない。

 だが、宰相が求めるのは無償労働であった。
 聖女ならば心優しい女で、頼めば慈悲をもって奇跡を行ってくれるだろう。滅びた国の古文書には、人々の願いを叶えると書かれてあった。詳細はわからない。だが、聖女と言うからには。

「わかりました。ではまず見積もりということで、その、魔物というのはどこで見られますか?」
「……どうぞこちらに」
 宰相の配下が聖女を案内し、窓のない儀式の部屋を出た。

「ああ、いい風ですね。緑の匂いがします」
 女は少し安堵した。
 呼ばれる時、どのような国かはわからない。緑の枯れ果てた砂漠の国かもしれない。核戦争のあとの、人が生きるには難しい環境かもしれない。

 どうやらこの国は、少なくとも自然が豊かで、水もあり、おそらく人々は作物を食べて生きているのだろう。

「これが我が国です」
「……うん、いいですね」
 導かれたバルコニーからは、遠くまでがよく見える。つまりは高い建物が他にないのだ。ここが国の中心であることは疑いようがないだろう。

 女は微笑んだ。
 人を一人召喚する技術は難度が高い。ゆえに支払い能力のある者に呼ばれる可能性が高いが、そうでない場合もまれにあるのだ。
 国の王であれば、まあ支払えないことはないだろう。

「この国の端、ずっとむこうの門のあたり、あの外から魔物がやってきます」
「わかりました。では……」
「聖女様!?」

 女がバルコニーから身を乗り出したので、皆は慌てた。
 するりと彼女の身は庭に落ちる。まるでただ歩きだしたくらいの、ごく自然な仕草であった。

「その魔物というのを見てきます」
「お、お待ちください! ご案内を!」
「馬車の用意を!」
「ああ、ありがとうございます」

「……空を飛んで行かれるかと、肝をつぶしましたぞ」
 宰相は思わずつぶやいた。バルコニーから庭に飛び降りることも非常識であるが、奇跡というほどではない。
 女は笑った。
「短時間なら飛んで飛べないことはないですが、非効率的ですね。歩いたほうがいいです」

 そういうものなのか。
 宰相は落胆したような、安堵したような気持ちになった。呼び出した聖女には有能であってほしいが、扱いきれないほどであっては困るのだ。

 魔物に襲われているのは平民である。
 この城にいる者たちにとって、それはどうでもいいものだ。放っておいても生まれて育って増えるのだから、税だけ払っているならかまわない。

 ただ近頃は魔物の被害が増えたようで、城にどうにかしろという陳情が来る。図々しいことだと宰相は思う。
 身の程というものがある。
 取るに足りないものどもを守るために、兵を使ってやっているのだ。感謝してあとは自分の力でなんとかするべきだ。

 しかし税の種だ。他国に逃げられては困る。
 だから聖女を召喚したのだ。

 奇跡を持つ女が助けてくれるとなれば、民衆はそれだけで喜ぶだろう。
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