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中編
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「はい、大丈夫です。とてもよさそうな魔物でした」
「よさそうな……?」
「ああいった異形は人気があるので、こちらで回収できます。ただ2点問題がありまして」
女は指を2本立てて見せ、宰相がうなずくのを待った。
「転送費用がかさみますので、買取でなく引取という形になります」
「はあ……?」
この女の言うことは理解できない。神の国では魔物を飼っているのだろうか?
「それから、数が多いので少々お時間いただきます。その間、私がこちらに滞在することになりますが、その出張費が……」
「それでしたらお任せください!」
宰相はこれ幸いと飛びついた。
聖女にはぜひ、いや、ずっと国にいてもらわなければならない。
民衆を黙らせることができるなら、女ひとりに贅沢させることなど容易い。どうせこのみすぼらしい女を、なんとか聖女様らしく仕立てなければならないのだ。
「聖女様の御為に、最高のお部屋をご用意します。お食事も装飾品も、どうぞお任せください!」
「いえ、そうではなく……」
「まあまあ、ささ、ご遠慮なく、こちらへ」
「きちんとした料金の説明を」
「報酬であれば、望みのままに!」
得体のしれない女だが、それほどの力はないのだろうと宰相は思った。女は丁寧な話しぶりで、こちらに強くものを言ってくることがない。
女に力があるのなら、もっと尊大な態度を見せるだろう。
あるいは力があっても、その力は男に捧げるという躾がなされているのだろう。
宰相は自分の価値観でそう考えた。
であれば、安い報酬ならくれてやればいいし、無理ならその時に無理だと言えばいい。とにかくこの女を民衆の女神に、国王の下僕に仕立てなければならない。それは決定事項なのだ。
女は少し困っている。
「急ぎではないのですか? 魔物の回収にはそれなりのお時間をいただきますが……」
「まあ、聖女様、そのようなお姿で人前に出ようというのですか!」
「はあ……」
「ご自覚をお持ちください。大丈夫ですわ、わたくしどもがあなたを姫君のように仕立ててさしあげます」
必要ない。
それよりさっさと仕事を終わらせて貰うものをもらって帰りたいのだ。
依頼主にとっても出張費がかかり続けるのはどうかと思う。女はまだ、出張費の詳細の説明をしていない。
それなりに高いのだ。
女は悪徳業者ではないので、きちんと理解して支払って貰うことを望む。旅行商人法にもある。たとえ未開の民族だろうと、不義理はいけない。
しかし女はまだ旅行商人として新人であったので、こういった場でどのように説明すればいいかわからなかった。
宰相は忙しいと言って消えてしまった。
一国の宰相であればそうだろう。魔物が出て大変だとも言っていた。現地の人間をできるだけわずらわせるべきではない。
「……宰相殿にお伝えいただけますか? 出張費の概算なのですが、一日あたり3万2千ラリ、これはええと、ああ! この石が3つほどですね」
「聖女様?」
「何をおっしゃっているかわかりませんわ」
「ご信託ですの?」
「……そのまま、宰相殿にお伝えください」
「この石、とは、これですの?」
「はい、これです! 素晴らしい品質です」
聖女の言葉に侍女は思わず鼻で笑いそうになった。
「こんなものでよければどうぞ。おまえ、この石はどこで?」
「は、はい、その、出入りの商人が持ってきた、なんでもない石であります。色合いがよく、重さが丁度いいので、仮でおつけしています。貴重な宝石類は、我々縫い子では扱えませんので……」
「そうよね。聖女様がご入用とは、喜びなさい」
聖女様はどうやら物の価値がわからないようだ、と侍女は思った。神の御使いであるというだけで、きっと育ちは悪いのだろう。
見た目からしてそうだ。髪の短い女など考えられない。着ているものも布地が少なく、異国風であるからそれらしく見えているが、そうでなければ貧民のものだ。
みっともない。
このような女に関わると自分の品位も下がりそうだ。
しかし聖女だというから、せいぜい手助けしてやろう。なんでも聖女とは、平民のために魔物を追い払うものらしい。
貴族の生活を支えるための必要不可欠な労働だ。自分たちが平民に直接関わるよりはましなのだ。
「素晴らしいです。たくさんあるんですよね、これ?」
「聖女様、少し静かにできません?」
「向こうをお向きになって」
「いたっ」
侍女たちは、そこまで優しくしてやる必要はないと判断した。強引に向きを変えさせると、女が小さく悲鳴をあげる。
「ちょっと、痛いんで、引っ張らないでください」
「まあ、すみません。そんなつもりはなかったんですけど」
「それをつけるんですよね? じゃあ自分でやりますので、触らないでください」
「そんな。聖女様、おとなしくしていてください」
「そもそも業務範囲外です。魔物を倒す以外の要求は、つどお願いしますとお伝えください」
「わたしどもが叱られてしまいます」
「それはそちらの業務の話であって、私には関係がありません。よろしくおねがいします」
「聖女様、あまりわがままをおっしゃらないでくださいませ」
「そうですわ。こうしてわざわざ、あなたのようなどうしようもない者を……」
女は苦笑して軽く手を振った。
「えっ、あっ!?」
不思議な力で押され、侍女たちは部屋を出されていく。やわらかな毛布で包まれているかのような、優しい、だが有無をいわせぬ力であった。
「よろしくお伝えください」
「よさそうな……?」
「ああいった異形は人気があるので、こちらで回収できます。ただ2点問題がありまして」
女は指を2本立てて見せ、宰相がうなずくのを待った。
「転送費用がかさみますので、買取でなく引取という形になります」
「はあ……?」
この女の言うことは理解できない。神の国では魔物を飼っているのだろうか?
「それから、数が多いので少々お時間いただきます。その間、私がこちらに滞在することになりますが、その出張費が……」
「それでしたらお任せください!」
宰相はこれ幸いと飛びついた。
聖女にはぜひ、いや、ずっと国にいてもらわなければならない。
民衆を黙らせることができるなら、女ひとりに贅沢させることなど容易い。どうせこのみすぼらしい女を、なんとか聖女様らしく仕立てなければならないのだ。
「聖女様の御為に、最高のお部屋をご用意します。お食事も装飾品も、どうぞお任せください!」
「いえ、そうではなく……」
「まあまあ、ささ、ご遠慮なく、こちらへ」
「きちんとした料金の説明を」
「報酬であれば、望みのままに!」
得体のしれない女だが、それほどの力はないのだろうと宰相は思った。女は丁寧な話しぶりで、こちらに強くものを言ってくることがない。
女に力があるのなら、もっと尊大な態度を見せるだろう。
あるいは力があっても、その力は男に捧げるという躾がなされているのだろう。
宰相は自分の価値観でそう考えた。
であれば、安い報酬ならくれてやればいいし、無理ならその時に無理だと言えばいい。とにかくこの女を民衆の女神に、国王の下僕に仕立てなければならない。それは決定事項なのだ。
女は少し困っている。
「急ぎではないのですか? 魔物の回収にはそれなりのお時間をいただきますが……」
「まあ、聖女様、そのようなお姿で人前に出ようというのですか!」
「はあ……」
「ご自覚をお持ちください。大丈夫ですわ、わたくしどもがあなたを姫君のように仕立ててさしあげます」
必要ない。
それよりさっさと仕事を終わらせて貰うものをもらって帰りたいのだ。
依頼主にとっても出張費がかかり続けるのはどうかと思う。女はまだ、出張費の詳細の説明をしていない。
それなりに高いのだ。
女は悪徳業者ではないので、きちんと理解して支払って貰うことを望む。旅行商人法にもある。たとえ未開の民族だろうと、不義理はいけない。
しかし女はまだ旅行商人として新人であったので、こういった場でどのように説明すればいいかわからなかった。
宰相は忙しいと言って消えてしまった。
一国の宰相であればそうだろう。魔物が出て大変だとも言っていた。現地の人間をできるだけわずらわせるべきではない。
「……宰相殿にお伝えいただけますか? 出張費の概算なのですが、一日あたり3万2千ラリ、これはええと、ああ! この石が3つほどですね」
「聖女様?」
「何をおっしゃっているかわかりませんわ」
「ご信託ですの?」
「……そのまま、宰相殿にお伝えください」
「この石、とは、これですの?」
「はい、これです! 素晴らしい品質です」
聖女の言葉に侍女は思わず鼻で笑いそうになった。
「こんなものでよければどうぞ。おまえ、この石はどこで?」
「は、はい、その、出入りの商人が持ってきた、なんでもない石であります。色合いがよく、重さが丁度いいので、仮でおつけしています。貴重な宝石類は、我々縫い子では扱えませんので……」
「そうよね。聖女様がご入用とは、喜びなさい」
聖女様はどうやら物の価値がわからないようだ、と侍女は思った。神の御使いであるというだけで、きっと育ちは悪いのだろう。
見た目からしてそうだ。髪の短い女など考えられない。着ているものも布地が少なく、異国風であるからそれらしく見えているが、そうでなければ貧民のものだ。
みっともない。
このような女に関わると自分の品位も下がりそうだ。
しかし聖女だというから、せいぜい手助けしてやろう。なんでも聖女とは、平民のために魔物を追い払うものらしい。
貴族の生活を支えるための必要不可欠な労働だ。自分たちが平民に直接関わるよりはましなのだ。
「素晴らしいです。たくさんあるんですよね、これ?」
「聖女様、少し静かにできません?」
「向こうをお向きになって」
「いたっ」
侍女たちは、そこまで優しくしてやる必要はないと判断した。強引に向きを変えさせると、女が小さく悲鳴をあげる。
「ちょっと、痛いんで、引っ張らないでください」
「まあ、すみません。そんなつもりはなかったんですけど」
「それをつけるんですよね? じゃあ自分でやりますので、触らないでください」
「そんな。聖女様、おとなしくしていてください」
「そもそも業務範囲外です。魔物を倒す以外の要求は、つどお願いしますとお伝えください」
「わたしどもが叱られてしまいます」
「それはそちらの業務の話であって、私には関係がありません。よろしくおねがいします」
「聖女様、あまりわがままをおっしゃらないでくださいませ」
「そうですわ。こうしてわざわざ、あなたのようなどうしようもない者を……」
女は苦笑して軽く手を振った。
「えっ、あっ!?」
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「よろしくお伝えください」
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