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6 桃と柿のレストラン
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午前十一時半になり、私はバッグを肩にかけて外に出た。まだ少し早いけれど、遅刻するような女性だとは思われたくないので早目早目の行動を心掛ける。
そして、ニ十分ほどで市役所前に着いた。さすがに柿木さんはまだ来ていないだろうと思っていたが、「すいません、こんにちは」と声をかけられる。声をかけてきた男性の方を見ると、予想通り柿木さんだった。
私は、「柿木さん」と言ったところでハッとする。そうだ、まだ名前を知らないという状況だった。
「あれ?何で僕の名前……」
と、柿木さんは少し訝しげな表情をする。私は「あーーっと……」と言い、そうだ!と思い出した。
「ほら、昨日、ゴミ出しに出てきた店員さんが、柿木くんって……」
「あーー!そうか!そうだ!言ってましたね」と柿木さんは笑顔になる。
良かった……何とか怪しまれずに済んだ。
「えっと、下の名前はなんて言うんですか?」
私がそう言うと、柿木さんは「和樹です」と素直に答えてくれる。
「柿木和樹です。K・Kですね。柿木のカキは果物の柿で、キは普通のキです」
普通のキってどれだよ。いや、どんな漢字かは既に知っているが、それだけじゃわからないのでは?もしかして、天然?
「普通のキって、大木のボクですか?」
「あぁ、それです。で……和樹は……」
何だかまどろっこしい……と思った私は、スマホを取り出し、メモアプリで文字入力画面を表示させる。そして、カズキと打った時の漢字のリストを表示して柿木さんに見せた。
「あ、これです。そうか、こうすれば早いか」
と、柿木さんは髪の毛をかきながら笑っていた。
「私は桃野百々子といいます。漢字は……」とスマホで文字を見せる。
「へぇ」と言った柿木さんは「苗字のモモは果物で、名前のモモは百なんですね」と確認する。
「柿と桃、果物コンビですね」と私が言うと、「確かに!」と柿木さんは嬉しそうに返事をした。
「そうだ、柿木さん、ラインのほうも友だち登録してくれませんか?」
と私がお願いをすると、「いいですよ」と柿木さんはスマホを取り出した。そして、ラインIDを交換して、私たちは友達になる。
よしよし……良い調子だ。と私は心の中でガッツポーズをした。あとはこのまま頻繁に会うようにして、私の事を好きになってもらい、告白してもらおう。
それにしても、こんな良い人なのにどうして父親に死んでほしいと思われているのだろう?いや、だめだ。あまり考えてはいけない。情が移ると……目的達成の邪魔になる。ここは仕事と割り切って、柿木さんと接しなければ。
それから私たちは他愛もない会話をしながらファミレスへと向かった。市役所から歩いて十分ほどの距離にあるレストランで、そこそこ人はいる。
店内に入ると、店員さんが喫煙席かどうかを聞いてきた。柿木さんは私の方を見て、目で訊いてくる。
「あ、私は吸いません」
「良かった」と柿木さんは言い、「僕も吸わないんです」と笑った。
よく笑う人だ。ふむふむ……タバコは吸わないと……
それから私たちは空いているテーブルに座り、メニューを開いた。パッと目に入ったのはハンバーグステーキである。熱々の鉄板の上に置かれたハンバーグに、トロトロのソースがかかっており、湯気が立ち上っていた。端っこにコーンが盛り付けられており、ウェッジカットのポテトフライが添えられている。見た感じ、これが一番安そうだ。まぁ、ご飯を食べるのが目的ではないし、これでいいか。
「決まりましたか?」と柿木さんに聞かれて、私は「これにしようかと」とメニューを指さした。
「柿木さんは決まりました?」
さて、柿木さんは何を頼むのか?気になるところだが、柿木さんから発せられた言葉は意外なものだった。
「ドリンクバーだけでいいです」
「え?いやいや、お腹空きません?お昼ご飯、食べてないでしょ?」
「いや、ほんとにいいです。僕の分も食べてください」
そんな事を言われると、何だか奢ってもらうのが悪い気がする……そんなにお金が無いのか?いったいどうして?まさか、借金があって、常に金欠状態なのかな?
「いや、そんな。じゃあ、奢ってもらわなくてもいいですから、柿木さんも食べたいもの、食べてくださいよ」
「いやいや、でもこれはお詫びのためですから、奢らせてください」
うーむ……こういう所は頑固なんだな……と私は悩み、「わかりました」と言う。
「じゃあ、このハンバーグステーキを半分個しましょう!それでどうですか?」
「いやいや、全部食べてください。気を使わないで」
「もう!」と私はヤキモキする気持ちをぶつける。「それじゃあ、私がスッキリしない!」
「ごめんなさい……」
謝られても困るが……何だかこの人は調子が狂うな……とりあえず注文するか、それからどうするか考えよう。それにしても、果たして柿木さんを告白まで持っていけるのだろうか?心配になってきた……
そして、ニ十分ほどで市役所前に着いた。さすがに柿木さんはまだ来ていないだろうと思っていたが、「すいません、こんにちは」と声をかけられる。声をかけてきた男性の方を見ると、予想通り柿木さんだった。
私は、「柿木さん」と言ったところでハッとする。そうだ、まだ名前を知らないという状況だった。
「あれ?何で僕の名前……」
と、柿木さんは少し訝しげな表情をする。私は「あーーっと……」と言い、そうだ!と思い出した。
「ほら、昨日、ゴミ出しに出てきた店員さんが、柿木くんって……」
「あーー!そうか!そうだ!言ってましたね」と柿木さんは笑顔になる。
良かった……何とか怪しまれずに済んだ。
「えっと、下の名前はなんて言うんですか?」
私がそう言うと、柿木さんは「和樹です」と素直に答えてくれる。
「柿木和樹です。K・Kですね。柿木のカキは果物の柿で、キは普通のキです」
普通のキってどれだよ。いや、どんな漢字かは既に知っているが、それだけじゃわからないのでは?もしかして、天然?
「普通のキって、大木のボクですか?」
「あぁ、それです。で……和樹は……」
何だかまどろっこしい……と思った私は、スマホを取り出し、メモアプリで文字入力画面を表示させる。そして、カズキと打った時の漢字のリストを表示して柿木さんに見せた。
「あ、これです。そうか、こうすれば早いか」
と、柿木さんは髪の毛をかきながら笑っていた。
「私は桃野百々子といいます。漢字は……」とスマホで文字を見せる。
「へぇ」と言った柿木さんは「苗字のモモは果物で、名前のモモは百なんですね」と確認する。
「柿と桃、果物コンビですね」と私が言うと、「確かに!」と柿木さんは嬉しそうに返事をした。
「そうだ、柿木さん、ラインのほうも友だち登録してくれませんか?」
と私がお願いをすると、「いいですよ」と柿木さんはスマホを取り出した。そして、ラインIDを交換して、私たちは友達になる。
よしよし……良い調子だ。と私は心の中でガッツポーズをした。あとはこのまま頻繁に会うようにして、私の事を好きになってもらい、告白してもらおう。
それにしても、こんな良い人なのにどうして父親に死んでほしいと思われているのだろう?いや、だめだ。あまり考えてはいけない。情が移ると……目的達成の邪魔になる。ここは仕事と割り切って、柿木さんと接しなければ。
それから私たちは他愛もない会話をしながらファミレスへと向かった。市役所から歩いて十分ほどの距離にあるレストランで、そこそこ人はいる。
店内に入ると、店員さんが喫煙席かどうかを聞いてきた。柿木さんは私の方を見て、目で訊いてくる。
「あ、私は吸いません」
「良かった」と柿木さんは言い、「僕も吸わないんです」と笑った。
よく笑う人だ。ふむふむ……タバコは吸わないと……
それから私たちは空いているテーブルに座り、メニューを開いた。パッと目に入ったのはハンバーグステーキである。熱々の鉄板の上に置かれたハンバーグに、トロトロのソースがかかっており、湯気が立ち上っていた。端っこにコーンが盛り付けられており、ウェッジカットのポテトフライが添えられている。見た感じ、これが一番安そうだ。まぁ、ご飯を食べるのが目的ではないし、これでいいか。
「決まりましたか?」と柿木さんに聞かれて、私は「これにしようかと」とメニューを指さした。
「柿木さんは決まりました?」
さて、柿木さんは何を頼むのか?気になるところだが、柿木さんから発せられた言葉は意外なものだった。
「ドリンクバーだけでいいです」
「え?いやいや、お腹空きません?お昼ご飯、食べてないでしょ?」
「いや、ほんとにいいです。僕の分も食べてください」
そんな事を言われると、何だか奢ってもらうのが悪い気がする……そんなにお金が無いのか?いったいどうして?まさか、借金があって、常に金欠状態なのかな?
「いや、そんな。じゃあ、奢ってもらわなくてもいいですから、柿木さんも食べたいもの、食べてくださいよ」
「いやいや、でもこれはお詫びのためですから、奢らせてください」
うーむ……こういう所は頑固なんだな……と私は悩み、「わかりました」と言う。
「じゃあ、このハンバーグステーキを半分個しましょう!それでどうですか?」
「いやいや、全部食べてください。気を使わないで」
「もう!」と私はヤキモキする気持ちをぶつける。「それじゃあ、私がスッキリしない!」
「ごめんなさい……」
謝られても困るが……何だかこの人は調子が狂うな……とりあえず注文するか、それからどうするか考えよう。それにしても、果たして柿木さんを告白まで持っていけるのだろうか?心配になってきた……
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