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8 桃と柿の公園デート
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それから、私たちの関係は比較的良好だった。最初は私から連絡を取るようにしていたが、次第にカズ君からも連絡が来るようになって、毎日ラインのやり取りをしたりしていた。
この頃にはもう、すっかり私は前のターゲットの事を忘れている。今日はカズ君と公園で待ち合わせをしていた。どこかに出かけて買い物をするお金も無いので、公園とかでお喋りをして楽しむ予定だ。いつもそんな感じで遊んでいる。
時計を見ると昼の十二時だった。待ち合わせ時間は十二時半。私は弁当箱を入れた袋をゆらゆらと揺らしながら公園の入り口を通った。まだちょっと早いけど……と思っていると、ベンチに見知った顔が見える。
私は「カズ君!」と手を振る。私に気付いたカズ君は、「モモちゃん!」と手を振り返した。
「もう来てたんだ。早いね」と私が言うと、カズ君は照れながら言う。
「モモちゃんこそ。まだ三十分前だよ」
「カズ君はいつも何時前に来てるの?」
「え?今日は十一時半に来たけど」
マジか……一時間前にはもう到着しているのか……それなら待ち合わせ時間を十二時にした方がいいのでは?いや、まぁ、これでいいか。一時間前に来る事を予想して私が今日みたいに早めに出ればいいだけだし。
「それ、何?」とカズ君は私の持つ袋を指さす。
「お弁当、作ってきた。一緒に食べよ」
カズ君は笑顔を見せて、嬉しさを表現する。
「お弁当!凄いね!わざわざごめん。ありがとう」
「ううん、ぜんぜん。こういうの作るの結構好きだし」
私はカズ君の横に座り、弁当を広げる。二人分の弁当を作ってきたので、一つをカズ君に渡し、そして一緒に食べた。カズ君は美味しい美味しいと言いながらオカズを口に放り込む。そこで私は気付いた。お茶を持ってくるのを忘れた……
「あ、それなら僕が自動販売機で買ってくるよ」
とカズ君は立ち上がり、サイフを片手に自販機へ向かう。私が「一本でいいよ!」と言うと、カズ君は「いやいや、二本買うよ」と照れながら返す。そして、ペットボトルのお茶を二本買ってきたカズ君は、再び私の隣に座った。
「ありがとう」と私は蓋を開けてお茶を飲む。それにしても、長閑な町だ……ここで暮らせたら、割と幸せかもしれない……でも、もう私にそんな幸せは訪れないのだろう。この能力のせいで、何人もの人を殺して来た。
「モモちゃんは……」とカズ君が口を開く。「どうしてこの町に来たの?」
「え?」と私はなんて答えようかと考えた。「気分を変えたかったから……」
「気分?前の町で、何かあったってこと?」
何があったかは言えないが……私は「うん」と言葉にした。「悲しい事があって……」
「ご、ごめん」
カズ君は触れてはいけない所に触れてしまったのかと思い、謝ってきた。私はどうしようか迷う。自分の正体は隠すとして、悲しい事について語ろうか?前に付き合っていた人が事故で死んだという事を言えば、“じゃあ自分がその人の代わりになる”という考えに至るのではないかと思った。
「前に付き合っていた人が……事故で死んだんだ……」
正確には告白をオッケーした瞬間だから、付き合う予定だった人のほうが正しいか?
カズ君は私のその発言を聞いて、複雑な表情をした。どういった言葉をかければいいかわからないのかもしれない。なので、私がカズ君に言う。
「でも、大丈夫。今はこうしてカズ君と友達になれて、新しい町にも慣れてきたから、だいぶ心が軽くなったよ」
それを聞いたカズ君は嬉しそうな表情をしたが、喜んでいいものかとすぐに真剣な表情に戻り、何かを考えている。私はそこで畳みかける。
「カズ君と付き合えたら、毎日こんなにのんびりできて、幸せなのかなぁ……」
カズ君はハッとして、私の顔を見た。そして、顔を赤らめて立ち上がる。
「ブランコに乗らない?」
とカズ君は言い、歩き出した。ブランコに誘われてしまった。それにしても、ブランコに乗るのはいつ以来だろう?
キーコ、キーコとカズ君はブランコを漕ぎ、私もその隣でユラユラとブランコを揺らす。その間、とくに何もしゃべる事がなく、カズ君はひたすらブランコを漕いだ。
彼が何を考えているのか……だいたい予想がつく。告白したら付き合えるのではないか?という事だ。心臓の鼓動が速くなり、その勢いに任せて告白してしまおうかと悩んでいるのだろう。だけど、失敗したらどうする?そうしたら、この友達の関係も終わってしまう。
この関係が終わる危険を犯してでも、告白するか?きっと彼はそれで頭の中がいっぱいなはずだ。まぁ、告白してくれたなら、私はオッケーするのだけど、その瞬間に彼は死ぬ。
ここで私が告白してもいいのだが、それだけはやってはいけないと自分に言い聞かせている。もしも告白して相手がオッケーした場合、相手は事故で死ぬ。しかしそれは、私自身の意思で彼を殺したという事になる。もちろん、事故死に変わりはないしバレることはないが、罪悪感が重くのしかかるのだろうと私は危惧していた。
それからブランコを漕ぎ飽きたカズ君は、次は滑り台をしたりと、ずっとソワソワしている。でも、それも次第に和らいでまた普通に会話をしたりして、その日は時間が過ぎて行った。
そしてカズ君は夕方のバイトがあると、私たちは別れる。アパートに着き、部屋に入ると、スマホが鳴った。カズ君かな?と思ったが、どうやらそうではない。依頼者だ。父親の柿木庄司だった。
「もしもし」
と私が言うと、依頼者は「いつになれば死ぬんだよ」と声を荒げる。
「もう少しです。お待ちください」
「もう少しって、いつだよ。早くしろよ、金がいるんだ」
急かされても、そんなすぐには死なない。依頼してきた時にもちゃんと説明してあるはずだ。
「私の殺害方法は、時間がかかるんです。あと、なるべくそちらからの電話はしないでほしいと、最初に説明したはずですが?」
「うるせぇな!電話しねーと、何の連絡もくれないだろうが!」
本当、うるさい。金に憑りつかれた欲望の塊め……まぁ、そんな人をカモにしている私も大概か……そこらへんについては、何も言う資格がない。
「わかりましたから、でも、たぶんあと数日で……ケリがつくかと思います」
「本当だな?!頼むぞ!!」
そう言って、依頼者は電話を切った。結局のところカズ君任せだから、いつになるかわからないが……今日の様子だと、そう遠くはないと思う。一週間後とか?いや、早ければ明日……。今日という可能性もある。
私は空の弁当箱を台所でササっと洗って、逆さに向けて乾かしておく。カズ君の笑顔が脳内にちらつく。
お別れが近い。
この頃にはもう、すっかり私は前のターゲットの事を忘れている。今日はカズ君と公園で待ち合わせをしていた。どこかに出かけて買い物をするお金も無いので、公園とかでお喋りをして楽しむ予定だ。いつもそんな感じで遊んでいる。
時計を見ると昼の十二時だった。待ち合わせ時間は十二時半。私は弁当箱を入れた袋をゆらゆらと揺らしながら公園の入り口を通った。まだちょっと早いけど……と思っていると、ベンチに見知った顔が見える。
私は「カズ君!」と手を振る。私に気付いたカズ君は、「モモちゃん!」と手を振り返した。
「もう来てたんだ。早いね」と私が言うと、カズ君は照れながら言う。
「モモちゃんこそ。まだ三十分前だよ」
「カズ君はいつも何時前に来てるの?」
「え?今日は十一時半に来たけど」
マジか……一時間前にはもう到着しているのか……それなら待ち合わせ時間を十二時にした方がいいのでは?いや、まぁ、これでいいか。一時間前に来る事を予想して私が今日みたいに早めに出ればいいだけだし。
「それ、何?」とカズ君は私の持つ袋を指さす。
「お弁当、作ってきた。一緒に食べよ」
カズ君は笑顔を見せて、嬉しさを表現する。
「お弁当!凄いね!わざわざごめん。ありがとう」
「ううん、ぜんぜん。こういうの作るの結構好きだし」
私はカズ君の横に座り、弁当を広げる。二人分の弁当を作ってきたので、一つをカズ君に渡し、そして一緒に食べた。カズ君は美味しい美味しいと言いながらオカズを口に放り込む。そこで私は気付いた。お茶を持ってくるのを忘れた……
「あ、それなら僕が自動販売機で買ってくるよ」
とカズ君は立ち上がり、サイフを片手に自販機へ向かう。私が「一本でいいよ!」と言うと、カズ君は「いやいや、二本買うよ」と照れながら返す。そして、ペットボトルのお茶を二本買ってきたカズ君は、再び私の隣に座った。
「ありがとう」と私は蓋を開けてお茶を飲む。それにしても、長閑な町だ……ここで暮らせたら、割と幸せかもしれない……でも、もう私にそんな幸せは訪れないのだろう。この能力のせいで、何人もの人を殺して来た。
「モモちゃんは……」とカズ君が口を開く。「どうしてこの町に来たの?」
「え?」と私はなんて答えようかと考えた。「気分を変えたかったから……」
「気分?前の町で、何かあったってこと?」
何があったかは言えないが……私は「うん」と言葉にした。「悲しい事があって……」
「ご、ごめん」
カズ君は触れてはいけない所に触れてしまったのかと思い、謝ってきた。私はどうしようか迷う。自分の正体は隠すとして、悲しい事について語ろうか?前に付き合っていた人が事故で死んだという事を言えば、“じゃあ自分がその人の代わりになる”という考えに至るのではないかと思った。
「前に付き合っていた人が……事故で死んだんだ……」
正確には告白をオッケーした瞬間だから、付き合う予定だった人のほうが正しいか?
カズ君は私のその発言を聞いて、複雑な表情をした。どういった言葉をかければいいかわからないのかもしれない。なので、私がカズ君に言う。
「でも、大丈夫。今はこうしてカズ君と友達になれて、新しい町にも慣れてきたから、だいぶ心が軽くなったよ」
それを聞いたカズ君は嬉しそうな表情をしたが、喜んでいいものかとすぐに真剣な表情に戻り、何かを考えている。私はそこで畳みかける。
「カズ君と付き合えたら、毎日こんなにのんびりできて、幸せなのかなぁ……」
カズ君はハッとして、私の顔を見た。そして、顔を赤らめて立ち上がる。
「ブランコに乗らない?」
とカズ君は言い、歩き出した。ブランコに誘われてしまった。それにしても、ブランコに乗るのはいつ以来だろう?
キーコ、キーコとカズ君はブランコを漕ぎ、私もその隣でユラユラとブランコを揺らす。その間、とくに何もしゃべる事がなく、カズ君はひたすらブランコを漕いだ。
彼が何を考えているのか……だいたい予想がつく。告白したら付き合えるのではないか?という事だ。心臓の鼓動が速くなり、その勢いに任せて告白してしまおうかと悩んでいるのだろう。だけど、失敗したらどうする?そうしたら、この友達の関係も終わってしまう。
この関係が終わる危険を犯してでも、告白するか?きっと彼はそれで頭の中がいっぱいなはずだ。まぁ、告白してくれたなら、私はオッケーするのだけど、その瞬間に彼は死ぬ。
ここで私が告白してもいいのだが、それだけはやってはいけないと自分に言い聞かせている。もしも告白して相手がオッケーした場合、相手は事故で死ぬ。しかしそれは、私自身の意思で彼を殺したという事になる。もちろん、事故死に変わりはないしバレることはないが、罪悪感が重くのしかかるのだろうと私は危惧していた。
それからブランコを漕ぎ飽きたカズ君は、次は滑り台をしたりと、ずっとソワソワしている。でも、それも次第に和らいでまた普通に会話をしたりして、その日は時間が過ぎて行った。
そしてカズ君は夕方のバイトがあると、私たちは別れる。アパートに着き、部屋に入ると、スマホが鳴った。カズ君かな?と思ったが、どうやらそうではない。依頼者だ。父親の柿木庄司だった。
「もしもし」
と私が言うと、依頼者は「いつになれば死ぬんだよ」と声を荒げる。
「もう少しです。お待ちください」
「もう少しって、いつだよ。早くしろよ、金がいるんだ」
急かされても、そんなすぐには死なない。依頼してきた時にもちゃんと説明してあるはずだ。
「私の殺害方法は、時間がかかるんです。あと、なるべくそちらからの電話はしないでほしいと、最初に説明したはずですが?」
「うるせぇな!電話しねーと、何の連絡もくれないだろうが!」
本当、うるさい。金に憑りつかれた欲望の塊め……まぁ、そんな人をカモにしている私も大概か……そこらへんについては、何も言う資格がない。
「わかりましたから、でも、たぶんあと数日で……ケリがつくかと思います」
「本当だな?!頼むぞ!!」
そう言って、依頼者は電話を切った。結局のところカズ君任せだから、いつになるかわからないが……今日の様子だと、そう遠くはないと思う。一週間後とか?いや、早ければ明日……。今日という可能性もある。
私は空の弁当箱を台所でササっと洗って、逆さに向けて乾かしておく。カズ君の笑顔が脳内にちらつく。
お別れが近い。
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