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11 事故死の条件

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「いやぁ、それにしても本当危なかったね」

 カズ君は嬉しそうに私に話しかける。公園で告白したあと、事故死を回避してからの帰り道での会話だった。

「数ミリズレてたら、大怪我してたかも?いや、死んでたかもしれない」

「うん。ほんと、奇跡だね」

 私は安心した表情を作り、内心めちゃくちゃ焦っていた。こんな事は初めてだ。事故を回避するなんて……

 でも、まてよと思う。もしかしたら、もう一度事故があるかも?そうだ。タイムラグがあるのだろう。きっとそうだ。

「あ、家まで送るよ」

 カズ君はいつもの分かれ道で私にそう言った。私は「じゃあ、お願いしようかな」と、アパートに向かい歩き出す。カズ君は横に付き、ずっと笑顔だった。

「この道、たまに通るよ」と言ったカズ君は、遠くを指さして、「あっちに中学校がある」と教えてくれる。

「モモちゃんは、中学のときは部活は何してたの?」

「え?」

 不意の質問に部活についての記憶が飛び出てくる。

「友達と、サッカー部のマネージャーやってたかな」

「へぇ、そうなんだ」

 カズ君はそう言って、笑顔を向けてくる。しかし、どこかスッキリしない表情をしていた。

「どうしたの?」

「いや……きっと、モモちゃんはモテたんだろうなぁって……当時の生徒達にちょっと嫉妬」

「いや、私……そこまでモテなかったよ」

 それは本当だった。一緒に入った友達のほうがモテてたし、その友達は部員の先輩と付き合っていた。私のことを好きになってくれる男子も何人かはいたが、その子は部活中に野球部の打ったボールが頭に当たって死んだのである。

 それは、私に告白した直後の出来事だった。そして、悲しむ私に言い寄ってきた男子も、事故死したのである。

 どちらも私が近くに居た事から、私といると死んでしまうという噂が流れて、それからの学校生活はずっと1人だった。でも、何となくその時に自分の能力に気付いて、私は人と距離を取るようにしていたのだ。

 嫌な事を思い出してしまったな……と私は暗い顔をする。

「あれ?ごめん。なんか、嫌な事聞いちゃったかな?」

「ううん、大丈夫」

 そうこうしている内に、アパートに到着する。結局、二度目の事故は無かった。仕方ない……とりあえず一晩考えて、どうするか決めよう。

「ありがとう。カズ君、気を付けて帰ってね」

 私がそう言うと、カズ君は「ありがとう」と笑顔を見せる。そして、「モモちゃん、好き。またね!」と自転車に跨がった。

 二度目の告白か?そう思った瞬間、建物の角から猛スピードでトラックが出てきてカズ君に迫る。

 きた!二度目だ!今度こそ本当に……!

 そう思ったが、カズ君はハンドルをきってトラックを避けた。そして、道路横の溝にハマる。また……回避した?どうなってんの?

「危ねーだろ!」

 トラックの運転手は止まり、カズ君に怒鳴りつける。危ない運転してるのはアンタだろ、と思いつつ私はカズ君に駆け寄った。

「か、カズ君、大丈夫?!」

「あはは」とカズ君は笑い、「なんか、今日は変だな」と溝から自転車を引き上げる。

「あ、危なかったね」

 私は心配しながらカズ君の身体に触れて言った。そして、「気を付けてね」と声をかける。

「うん!ありがとう!」

 カズ君は満面の笑みでそう返事をする。そして、再び自転車に跨がり「じゃあ、またね!」と走り去って行った。トラックの運転手もいつの間にか居ない。

 これは、やっぱりこのまま付き合う事になるのか?

 でも、分かった事がある。私に好きと言った瞬間、事故が訪れるようだ。もしかしたら、今までの人は回避能力が無かったから死んだのか?ならば、何度も好きと言わせて、回避を失敗させるしかない。

 カズ君とは、長い付き合いになりそうだ。
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