魔法使い、辞めます。

Dreamei#

文字の大きさ
6 / 7
VI

優等生は魔法使い?!

しおりを挟む
 「有栖川れな…?聞いたことない。違うクラスに居るの?」
藤堂梨々香は有栖川れなの存在を知らない…?
「え、このクラス…。」
「居ないし。疲れてるんじゃん?最近。よく寝たら?」
有栖川れなは…居ない?有り得ない。居ない訳無い。
「ところで…、今日うちで遊ばない?」
しばらくの沈黙の中、最初に話を再開したのは藤堂梨々香だった。
「良いの?じゃあ、あさやんも!」
「うん、呼ぼっ。」


 「え、テスト一位の天才は、美玲でしょ?」
藤堂梨々香の家に着いて、単刀直入にれなの話になった。しかし、藤堂梨々香の家は豪邸で、そんな話をするき
「?!」
「私じゃない…。れなだよ…。」
「さっきから…誰なのそれ。そんな人うちの学校居ないって。」
「同感。美玲、何か変わった事、最近無かった?」
あ、この前の電車の…。
「そういえば…この前、早田駅にいつの間にか…居た…ような…。」
「ただそれは美玲が不注意だっただけでしょ。」
「俺もそう思う。」
二人に言われてしまった。…となると…不審な事は…。
「あ!そういえば!小泉市三十ってどこにあるかなぁ…?」
「??…ここの近くだけど?」


 小泉市小泉町三十の七。そこは、誰が見たとしても、空き地としか言いようがなかった。
確かに住所は合っているはず。間違っているはず無いのに…。

 魔法の力なのか現実なのか分からない!

 「美玲…?どうした?なんかいつもと違う?大丈夫?」
余計心配させてしまう。いつも通りに…。
「大丈夫!私は。きっと…。…きょ、今日はちょっと疲れてるみたい、家に帰ってす、すぐ寝るね、バイバイ。また、明日…。」
「??!…本当に平気なの?ダメならうちで休んでいっ…」
私は、二人の顔もろくに見ずに、その場を後にした。


 私の部屋。ここなら、誰も来ない。一人。落ち着ける。
「私はただの人間。魔法など、使えな…。」
「使えるでしょ?」
「ひぃぃぃ?!」
「やっほ、久しぶり。種明かしの時間だよ。」
「れ、れな…??!な、何でここに…?!」
そこには、髪が長く、私のようにどこかいつもと違う少女が居た。
 「美玲はいつも私と遊んでくれた…。私も美玲と遊んだ…。でも、私は居ない。」
「どういう事?!居ないって…?!」
「有栖川はもう居ない…。私は実在しない…。私は美玲。美玲は私…。ふふふ。これで分かったかなぁ?」
「え…?!れなが私…?」
「そう、転校生など、居ない。私は美玲。美玲は私。魔法使いは、私。有栖川れな、つまり私は美玲の理想の存在で今ここに在る。…今はね。」
「…。」
状況が全く読めない…。れな…は私…?そんな訳…無い…私は…あれ…私の名前、何だっけ…?
「魔法使いは努力を知らない。人間は努力をして成長する。魔法使いは、何でも簡単に成し遂げる。その魔法使いが、「努力をする世界」に居てはいけない。」
「!!!?私をこの世界から追い出したいの…?」
「ふふふ。…私を助けてくれるよね…。まぁ何でも良いや…。さぁ、この世界に別れを告げて!…さぁ!!!」

 「俺、美玲が好きだよ。付き合ってくれる?」
 「西園寺さん、いや、美玲っ!もし付き合うんだったら、きちんと、女の子らしくね!………頑張れ!」

 あさやん…!
梨々香ちゃん…!

「嫌だぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!」


 私はこの二年間、誰よりも頑張ったような気がする。気づけば、もう、トップ校の高校生になっていた。努力すれば、報われるんだなぁ…。
 今日は入学式で、私が入る高校の一学年は、八十人という、少人数の学年だった。

 「生徒、呼名!」
私の名字は西園寺なので、比較的早く呼ばれる。声が出るか心配だ。
「青木拓!」
「はい!」
「明石麻帆!」
「はい!」
「有栖川れな!」
「はい!」
…嘘…。れな…?
 どこから見てもれなだった。
 れなは、私の空想の人物じゃ…?

 「西園寺美玲!」
「…は…い…。」
私の声だけは体育館に響かなかった。


 「れな…?」
その日の帰り、私はれなに声を掛けた。
「?…始めまして!んん?どこかで会った…?」
「み、美玲、私だよ?!」
「…うーん、ごめんね、分からない…。えーっと…うーんと…。」
「わ、私こそごめんね、人違いだったかな…。」
「じゃ、じゃあね!」
「うん、また明日!」

                                     *

 あの日から、一ヶ月が経とうとしていた。
 今日も果物を持って、親友が治療を受けている病院に見舞いに行く。
 「れな!…どうか…どうか!…助かって…。また一緒にどこにでも遊びに行きたい!…神様…!」
「いつも来てくれて、ありがとうね。れなは、いつも美玲ちゃんの話をしてくれたよ。」
れなのお母さんは今日も優しい声をしていた。
「そんな…してくれた…って…過去形にしなくたって…。」
「うう…そうだね…美玲ちゃん、今日もありがとう。また明日…、明日も…。うう…。」
「はい、また明日も…!明後日も…!毎日、来ます!」
「果物…欲しい…。」
れなは、最近少しずく良くなっている。このまま、元気になれば良いのだが。
「れな?!分かった、はい、今日はオレンジだよ!」
しかし、れなは何もかも思い出すことは出来なくなった。


  有栖川れなと西園寺美玲は、ある事件に巻き込まれた。
「お嬢ちゃん達、僕と一緒に遊ばない?」
いかにも怪しい人物が、小泉駅の手前、緑川駅に電車が停車した瞬間、車内で声を掛けて来た。その瞬間、周りの人達が、心配そうにこちらを見た。
「嫌です。」
れなは、きっぱり言った。尊敬する。そして、ここで一旦緑川駅で降りれば、問題無かったのかもしれない。
「良い度胸してるねぇ、じゃあここで殺してあげるよ…。」
犯人は、常に睡眠薬を常備しており、私はそれに反抗する前に、大人しく飲まされていた。れなは、恐怖で声も体も動かなくなっていた。
「何やってるんですか?!大人しく、その少女から、離れなさい!」
周りの人が、声を掛けてくれたようで、れなは少し安心していた。
 しかし、最悪なタイミングだった。
 小泉駅に着いて、ドアが開いた時だった。
「分かった。良いだろう。」
そう言って、れなの胸ぐらを掴み、駅のホームに出た。その瞬間、ドアが閉まった。
「じゃあな。命は助けてやるよ。」
 れなは、思い切り柱に投げられた。
 人が集まる。そして、大きなニュースとして、世の中に報道された。


 有栖川れなは、記憶喪失になった。
何もかも覚えてない。私のことも。どうすれば助けられるだろう。

 魔法を使えば…!

「れな、どうか治って…!」
しかし、私は魔法をかけることはしなかった。いや、出来なかった。魔法をかけて、記憶が戻っても、私との思い出を全て無くしてしまうことになる。何故なら、この世界では魔法使いという正体を明かしてはいけないからだ。もちろん、この魔法をかけたところで、れなのお母さんの記憶からも、私、「西園寺美玲」は消滅する。

 魔法は、使ってはいけない、この手で、れなを救ってみせる…!

                                    *

 私は変なプライドはすてた。私は魔法使い。そして、人間。
 私は今この世界に居る。「努力をする世界」。ここに居るのは悪くない。むしろここが好き。
 有栖川れなは、復活した。
 れなにとっての「西園寺美玲」という記憶と引き換えに…。
 私は努力する。
 努力すればいつか報われる。
 いつか、また、親友として、ライバルとして、一緒に笑える時が来るまで。


 私は塾講師になった。きちんと就職した訳では無い。
 親戚、友達に趣味として、塾の教室を開いている。
 もちろん私の大好きな町、小泉町で…!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...