ソード・オブ・ホワイト–魔術至上主義の世界で最強剣士を目指す–

インドアな梨

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第1話 剣士差別

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 「行ってきまーす!」

 玄関から出発の挨拶をする少年の名は『アルバ』
 艶のある黒髪に優しい目つき。
 外見から醸し出される優しい雰囲気に、思わず剣士であることを忘れてしまう。
 そんな彼は王都にあるナバス魔術学園への入学式へと向かう。
 
 学校指定の灰色の制服に身を包んだ彼の腰には、いかにもミスマッチな木刀が備えられており、その見た目は今のご時世では異端とされる。

 「まだこの世に剣を教えてもらえる学校があったらなあ」

 魔術至上主義の世界になって五百年。
 各国王都の育成方針は魔術が主流となり、剣を教える学校などは経営難で次々と廃校になった。
 アルバの通うナバス魔術学園が建設されている王都ダマスティも例外ではない。
 時の国王『ダマスティア13世』が世界へ向け魔術国家を宣言すると、廃校や剣士差別の勢いは増した。
 そのため、当時ダマスティアに在住していた少年剣士や師範達は煙たがられるようにこの国を追い出された。
 アルバが誕生するよりも過去の話なので、魔術国家宣言の被害を直接受けた訳ではないが、幼い頃剣術に一目惚れしたアルバからすると非常に生きずらい国へと変貌してしまった。

 アルバの自宅から学園のある王都ダマスティまでは30分程度で、買い出しなどでたまに赴くため特に何事もなく到着した。
 道脇に陳列するように並ぶ数々の店は、ダマスティの名物風景となっている。
 そんな世界有数の繁華街であるこの街は観光客も多く、それ故アルバの姿を見て軽蔑する視線を送る人間も少なくはない。

「見てあの子。腰に剣を下げてるわ」
「よくもまああんな格好でウロウロできるわね」

 繁華街を歩くアルバの耳を主婦達の発言が刺す。

(剣士であることになんで恥を感じなきゃいけないんだろう。やっぱり、この世界はおかしい)

 それでもアルバは下を向かず、胸を張って学園まで歩き続けた。
 自分がおかしいのではなく、世界がおかしいのだと今日まで言い聞かせて生きてきたアルバにとって、軽蔑の声を浴びさせられるのは実に退屈なものだった。
 そんな繁華街を抜けると、遂にアルバはナバス魔術学園の校門前へと到着する

「おお。ここが王都1の魔術学園……ナバス魔術学園か!」

 優雅に聳え立つ白い校舎からは王都1に相応しい貫禄を感じられ、城にも見える外観の中心には龍と杖を交差させたような校章が大きく掘られている。
 アルバは圧巻の門構えにしばらく校舎を見上げながら静止する。

「よしっ」

 新生活の始まりに期待を抱きながら軽く気持ちを入れると、校門の先に広がる広場へと足を進めた。
 広場には新入生と見られる学生がすでに談話で盛り上がっており、中にはアルバの容姿を利用して親交を深める者もいた。

「なあ。あいつ剣士なんだって」
「うっそまじ? めっちゃださーい」
「なんで魔術学校に入ったの? あっもう剣術の学校なんてないか」

 広場に着いたアルバを待ち受けていたのは、繁華街を上回る程の軽蔑の目だった。
 魔術至上主義へと移り変わったこの世界からは、今は亡き剣術至上主義の面影は微塵も感じられなくなっていた。
 アルバの住むダマスティ北西部では、田舎という理由もあるだろうがそこまで剣士差別が激しい訳ではない。
 しかし、王都であるここダマスティは常に歴史の渦中にいた。
 そんな剣士差別が根強く残る王都は、アルバが想像していたよりも冷えていて――
 
(なんでここまで差別されなきゃいけないんだ)

 アルバは賑やかな広場とは対照的に、入学式前に孤独化した。
 ただその場に立ち尽くし、この世界が犯した罪を感じる事しか出来なかった。

「何突っ立ってんだ?」
「えっ?」

 孤独化していたアルバの耳に、突如としてしゃがれた声が侵入する。
 振り向くとアルバの前にはモヒカンヘアで両耳にピアスを付けた少年が立っていた。
 少年はアルバの顔を、未確認生物でも見るかのように不思議そうな表情で見つめ、周りを見渡すと気まずそうに顔をかいた。

「あーそういうことか……。まっなんだ。周りの奴なんかほっといて一緒に行こうぜ。俺はナキってんだ。よろしくな」
「あっありがとう……。アルバです。よろしく」

 いきなりの接触に状況を理解していないアルバだったが、ナキが与えた見た目に反した優しさを受け取ることにした。
 ナキはアルバの緊張を解くようにシャキッと笑い肩を組むと、そのまま入学式のある体育館へとアルバと共に向かった。
 
――

 入学式を終えた後はクラス発表だ。
 アルバのクラスは1年S組となり、広場で声をかけたナキとも同じクラスだった。

「おー!一緒だなっアルバ」
「ナキ君が同じクラスで安心しました」
「そう言ってもらえて嬉しいわ。てか君いらねーよ」
「じゃあナキで」
「おう。アルバ」

 ナキは顔一面に笑顔を作るとそう話した。
 2人は談笑しながら教室へと入ったが、さっそく王都の罪がアルバを襲う。

(またか……)

 アルバの机には最弱剣士と汚い文字で書かれていた。
 アルバはそれでも自分の席へと足を進め、着席するしかない。

「あんま気にすんなよ」
「はっはい……」
(やっぱり剣士の僕が魔術学校に通うなんて無茶だったのかな)

 そんなナバス魔術学園は、入学初日には授業がないためこのまま担任の話を聞いて下校となる。
 居心地の悪い教室で、軽蔑の視線を誤魔化すようにナキと談話しながら担任の到着を待っていると、1人の女性が教室へと物憂げに入室し教卓の前に立った。

「今日から君達の担任になるジュエリローゼ・ネフタリアよ。ちゃんといい子に勉強してね」

 情熱的な赤髪にメリハリのある身体。加えてどんな財宝よりも価値を感じさせる黄金の瞳を兼ね備えたその女性は、黒いドレスの様な衣服に身を包んでいた。
 酒やけにも感じるその低い声で生徒達に挨拶を済ませるジュエリローゼは、続けてアルバの机を見て眉をひそめ話す。

「あと、あれ書いたの誰だー? 分かり次第焼くぞー」

「………………」

「「「「アハハハハハッッ!!!!」」」」


 ジュエリローゼの言葉に一瞬、沈黙が走ったかと思えば、すぐに教室中が笑いに包まれた。
 生徒達にはジュエリローゼの発言が冗談に聞こえていた。
 なぜなら、そう感じるのが当たり前だから。
 思い起こせば、王都に来てから繁華街や広場では軽蔑の視線を送られ、教室では全員に笑い者にされ、怒りと屈辱と殺意と……アルバの心を負の感情が支配した。
 
(だめだ……落ち着け。今ここで立ち上がって何になる……)

 教室中が笑い騒ぐ中、アルバは身体を震わせグッと掌《てのひら》を握ると、抗議しようと決心する。
 瞬間、教卓を力強く叩く音が教室中に響いた。

「おい。冗談じゃない。まじだ」

 教卓に左手をつき、前のめりのまま睨みをきかせた顔をしているジュエリローゼ。
 豊満な胸の谷間が露わになっているが、緊迫した空気感と圧倒的な存在感は、生徒達の目線をそこに送らせなかった。
 突然の出来事にしばらく教室中が静まり返っていた。渦中のアルバもまた、ジュエリローゼの行動の意図が読めず呆気にとられた内の1人だった。
 黄金に輝く瞳が生徒達を舐め回すように見て回る。

「まあそういうことだから。消しとけよ~。じゃっ解散」

 先程の覇気はどこへやら、いきなり力が抜けたかと思うと、ジュエリローゼはやる気のない声で解散を告げた。
 生徒達はつまらない顔で教室をあとにする者、呆気にとられたまま帰宅して行く者など様々な反応を見せていた。
 ナキはアルバを誘い帰宅しようとしていたが、「今日は1人で帰るよ」と誘いを断られた。

 誰もいなくなり、夕焼けに照らされたカーテンが揺られ、吹き抜けてくる風が心地よい教室。
 アルバは自分の机に書いてある『最弱剣士』の文字を眺めながら王都での剣士差別について考えていた。

「なんでこんなに剣士を軽蔑するんだろう? そりゃ歴史って言われたらそれまでだけど、何かもっと違う理由があるような……」

 そんなアルバの席に突然、濡れた雑巾を持ってやってくる一人の女子生徒がいた。

「もう、誰よこんなの書いたの……ってえぇ!? アルバ君!?」
「やっやぁ……」

 ジュエリローゼの黄金の瞳が財宝よりも価値があるとするならば、この少女の綺麗なブロンドには神秘的なナニカが宿っているであろう。
 見覚えのない顔にアルバは戸惑いの表情を浮かべ、右手を上げながら挨拶をした。
 天使のようなその少女は、アルバに見つかるや否や、顔を赤らめ誤解を解くように早口で話し始める。

「アアアアルバ君!? ここれは違うのっ! アルバ君が帰ったと思って机に書いてあったこの文字を消そうとしただけで、わわ私が書いた訳じゃないよ!?」
「そうですか」
(そんな嘘が通用するとでも……)

 必死に弁解をする天使の顔に、アルバは目を細めながら疑いの目を向けた。

「しっ信じてよ!!」
「いいんですよ。僕に気を遣わなくても」

 すると少女は髪の毛に手ぐしを通し、そのキメの整った白い肌を少し茜色に染めてアルバに話を始めた。

「私はね、剣士だからって差別したりするのは違うと思うっていうか……みんな同じ人間なんだから、平等であるべきっていうか」

 少女の言葉はあまりにも優しかった。
 それはまるで神の加護を授ける聖母のような。
 気づけばアルバは話している少女の顔をびっくりした様子で見つめていた。そんなアルバに気づいた少女は、不思議そうな表情でアルバの顔を見返し質問をした。

「あの、私なんか顔についてる?」
「あっああ……。まだ1日目だけど、そんな熱心に話しかけてきてくれた人は初めてだったので」

 そんなアルバの発言に、少女は紅潮した顔をするが、今度は隠した。

「あっ名前言うの遅くなっちゃったね。ラエル・カナリス。ラエルって気軽に呼んでね」
「ラエルか。僕はアルバです。なんか、ありがとうございます」

 アルバはこの学園に来て、初めて微笑みを見せた。ラエルも「うん!」と微笑みながら返答を返し、2人は共に机に雑に書かれた文字を消すのだった。
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