29 / 58
第29話 金の檻と、沈黙の騎士
しおりを挟む「……呼び出しですか」
放課後。
マイルズの元に、生徒会からの召喚状が届いた。
差出人は生徒会副会長、オスカー・ゼファー。
内容は「学内での無許可営業および施設改変に関する査問会」への出頭命令だ。
「どうしますか、マイルズ様」
シンシアが心配そうに尋ねる。
「行くさ。……向こうから扉を開けてくれたんだ。挨拶くらいしてやらないとな」
マイルズは鞄に、シンシアが徹夜でまとめた「ある資料」を詰め込んだ。
◇
生徒会室は、ボロボロの校舎の中で唯一、異様なほど豪華な空間だった。
床には厚い絨毯が敷かれ、壁には名画が飾られている。
暖炉には薪がくべられ、部屋は暖かく、甘い紅茶の香りが漂っている。
「……よく来たな、一年坊主」
革張りのソファにふんぞり返っているのは、オスカーだ。
その周囲には取り巻きの役員たち。
そして、部屋の隅の席には、一人の少年が静かに座って本を読んでいた。
色素の薄い金髪に、線の細い顔立ち。
第二王子、ギルバート・ニース。
彼は生徒会の一員(名誉役員)だが、その表情はどこか寂しげで、オスカーたちの輪には入っていない。
その背後には、影のように立つ一人の護衛騎士がいた。
黒髪短髪、無精髭を生やした無骨な青年。
グレン。十七歳。
彼は彫像のように動かず、ただ主であるギルバートの安全だけを見守っていた。
「マイルズ・バーンズです。……随分と快適な部屋ですね。寮とは大違いだ」
マイルズは皮肉を込めて挨拶した。
「ふん。選ばれた者には、それ相応の環境が必要なのだ」
オスカーは鼻を鳴らす。
「単刀直入に言う。学内での商売、および寮の改造を即刻中止しろ。そして、これまでの売上を『罰金』として生徒会に納めろ」
「断ります」
マイルズは即答した。
「我々の活動は、生徒の健康と安全を守るための自衛手段です。それを禁じるなら、まずは生徒会がまともな環境を用意すべきだ」
「黙れ! 下級生が口答えするな!」
オスカーが激昂する。
「我々は忙しいのだ! 学園の運営、行事の準備……予算はいくらあっても足りん!」
「予算、ですか」
マイルズはニヤリと笑い、鞄から書類の束を取り出した。
「奇遇ですね。私も気になって、学園の『予算報告書』を独自に調べさせてもらったんですよ」
「なっ……!?」
「シンシア」
マイルズが促すと、シンシアが一歩前に出て、淡々と数字を読み上げ始めた。
「……昨年度予算、金貨一千枚。うち、施設修繕費に計上されているのはわずか五%。対して『会議費』および『備品購入費』が全体の四〇%を占めています」
シンシアは、豪華なソファや調度品を冷ややかな目で見やった。
「その内訳は、高級茶葉、菓子、そして特定の貴族家(ゼファー家関連)からの不当に高額な備品購入……。計算上、市場価格の三倍で取引されています」
「き、貴様! どこでその数字を!」
オスカーが狼狽える。
裏帳簿に近いデータを、シンシアは断片的な情報から逆算して暴き出したのだ。
「横領とは言いませんが……『無駄遣い』が過ぎますね」
マイルズは冷徹に告げた。
「生徒たちが寒さと不味い飯に耐えている間に、あなた方はここで優雅なお茶会ですか? ……これが『伝統』の正体なら、やはり壊すべきだ」
「ぐぬぬ……! 衛兵! こいつらを放り出せ! 不敬罪だ!」
オスカーが叫ぶと、部屋の外にいた衛兵たちがドアを開けようとした。
その時。
「……やめないか、オスカー」
静かな、しかし威厳のある声が響いた。
隅で本を読んでいたギルバート王子だ。
彼は本を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。
「殿下……しかし、こいつは!」
「彼の言う通りだ。……僕も、この部屋の居心地の良さには、以前から疑問を感じていた」
ギルバートは、真っ直ぐにマイルズを見た。
「マイルズ・バーンズ。……噂は聞いている。君が寮にストーブを入れ、美味しい食事を提供していると」
「はい、殿下」
「……僕の部屋は王族用で暖かいが、友人の部屋は寒かった。……すまない。生徒会にいながら、僕は何もできていなかった」
王子は自嘲気味に笑い、そして頭を下げた。
「君の指摘は正しい。……オスカー、彼への処罰は認めない。むしろ、その『経営手腕』を学ぶべきだ」
「くっ……! 殿下がそう仰るなら……!」
オスカーは悔しげに拳を握りしめたが、王族の言葉には逆らえない。
「……今日のところは帰れ! だが、覚えおけよ!」
マイルズは優雅に一礼し、踵を返した。
「失礼いたします。……殿下、公正なご判断に感謝します」
◇
部屋を出た廊下。
マイルズたちが歩き出すと、背後から足音がした。
王子の護衛、グレンだ。
「……待て」
低く、地を這うような声。
ロッシュ伯爵に似た、武人の気配。
マイルズが振り返ると、グレンは無表情のまま、一枚の金貨を差し出した。
「……殿下からだ。『これでストーブを一台、一般生徒の部屋に入れてやってくれ』と」
それは、王子なりのポケットマネー(償い)だった。
「承りました。……殿下にお伝えください。『次回は、ぜひ我々の闇鍋パーティーへ』と」
グレンは小さく頷き、戻ろうとした。
その時、すれ違いざまに、シンシアが彼を見上げた。
「……貴方」
シンシアが、珍しく自分から声をかけた。
「先ほど、室内でオスカー様が激昂された時……貴方は剣の柄に手をかけませんでしたね」
グレンが足を止める。
「……殿下に害が及ぶ状況ではなかったからだ」
「いいえ。計算上、貴方の位置からは、オスカー様が動くよりも先に、貴方が制圧可能でした。……貴方は、最初からマイルズ様が勝つと分かっていたのですか?」
グレンは、シンシアの大きな瞳を見下ろした。
感情の読めない、数字のような瞳。
だが、そこには純粋な「興味」が宿っていた。
「……俺は計算などできん」
グレンは無愛想に答えた。
「だが、お前の主(あるじ)は、剣を持たずに戦っていた。……そしてお前は、主を守るために、数字という剣を抜いていた」
グレンの口元が、わずかに緩んだ気がした。
「……悪くない剣筋だった」
それだけ言い残し、グレンは生徒会室へと戻っていった。
シンシアは、しばらくその後ろ姿を目で追っていた。
「……心拍数、正常。体温、変化なし。……ですが」
彼女は自分の胸に手を当てた。
「私の心拍数が、計算値より一割上昇しています。……これは、エラーでしょうか」
マイルズは、そんな彼女を見て微笑んだ。
「いいや、シンシア。それはエラーじゃない」
「では、何ですか?」
「……『発見』だよ。新しい変数のね」
金の檻に囚われた王子と、それを守る沈黙の騎士。
そして、腐敗した生徒会。
役者は揃った。
マイルズの学園改革は、王子という「神輿(みこし)」を得て、いよいよ本格化する。
「さて、シンシア。……予算の不正を暴いた。次は、この情報を『学内新聞』にリークして、世論を味方につけるぞ」
「了解しました。……徹底的に、やります」
シンシアの声には、先ほどまでの冷徹さに加え、どこか熱っぽい響きが混じっていた。
彼女の中で、何かが変わり始めていた。
562
あなたにおすすめの小説
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる