前世知識は最強!異世界改革!

namisan

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第32話 最強の押しかけモデルと、ファッション誌の創刊

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 王都、エルガレア伯爵邸。
 その一室にある執務室で、俺は頭を抱えていた……わけではない。
 ホワイトボード(白く塗った板)に猛烈な勢いで書き込みを行っていた。
「いいか、セバス。ブランド『Milina』の課題は知名度じゃない。『実用性』の周知だ」
 俺はペンを走らせる。
「母上のドレスで、パーティー用の『第一礼装』としての地位は確立した。だが、市場規模(パイ)が大きいのは普段着だ。貴族の令嬢たちが、学園やお茶会で着たくなるような……」
 そこまで言った時だった。
 ドタン! と扉が大きく開かれた。
「邪魔するわよ、リック! あんた、面白い服を作ってるんだって!?」
「ごめんあそばせ。……カレン、ノックくらいなさい」
 入ってきたのは、燃えるような赤髪のカレン・フォン・ゼガードと、涼やかな銀髪のアリシア・フォン・ガリウス。
 国のトップ2の娘たちが、護衛もつけずに(いや、カレンが護衛みたいなものだが)伯爵邸に乗り込んできたのだ。
「……お二人とも、どうやってここへ?」
「門番に顔パスよ。父さんの名前を出したら直立不動で通してくれたわ」
 カレンがニカッと笑い、俺のデスクに身を乗り出した。
「それより聞いたわよ! ミリナおば様が着てた『走れるドレス』! あれ、あんたが作ったんでしょ? あたしにも作りなさいよ!」
「私も興味があるわ。……今のコルセットは呼吸ができなくて、勉強に集中できないの」
 アリシアも扇子を閉じ、真剣な眼差しを向けてくる。
 なるほど。
 飛んで火に入る夏の虫……いや、「飛んで火に入るトップモデル」だ。
 俺はニヤリと笑い、セバスに目配せをした。
 セバスは瞬時に意図を理解し、最高級の茶葉を用意し始める。
「歓迎しますよ、お姫様たち。ちょうど今、新しいラインナップの会議をしていたところなんです」
 俺は二人に椅子を勧め、新しいデザイン画を見せた。
「カレン様。貴女の悩みは分かります。ドレスじゃ剣の稽古も馬に乗るのも不便でしょう?」
「そうなのよ! スカートが邪魔で足が開かないし、裾は踏むし!」
「なら、これです」
 俺が提示したのは、**『キュロットスカート(ガウチョパンツ)』**のデザインだ。
 一見するとふんわりとしたスカートに見えるが、実は股が分かれているパンツスタイル。
「これなら見た目はエレガントですが、全力疾走もハイキックも可能です」
「なっ……! これ天才じゃない!? これなら父さんを蹴り飛ばせるわ!」
 カレンが目を輝かせる。
 次はアリシアだ。
「アリシア様にはこちら。**『ブレザースタイル』**の制服風セットアップです」
「……ジャケット? 男性の服ではなくて?」
「女性用にウエストを絞り、仕立てています。機能的で、知的。図書館で本を読む姿が絵になる服です」
 アリシアはデザイン画を食い入るように見つめ、ほうっとため息をついた。
 
「合理的ね……。無駄な装飾を省き、機能美を追求している。私の好みだわ」
 二人の心は掴んだ。
 ここからが交渉(ディール)だ。
「お二人にお願いがあります。この服をプレゼントする代わりに――僕の『仕事』を手伝ってくれませんか?」
「仕事?」
「はい。エルガレア商会では、新しい宣伝媒体……『ファッション誌(カタログ)』を作ろうと思っています」
 俺は説明した。
 ただ服を売るのではない。
 「お洒落なライフスタイル」を売るのだ。
 王都の憧れの的である二人が、最新の服を着て、カフェでリバーシをしたり、公園を散歩している「絵(写真魔法)」を載せた冊子。
 それを配れば、王都中の令嬢が真似をするはずだ。
「私が……モデル?」
 アリシアが頬を染める。
「へえ、面白そうじゃん! あたしが一番可愛く写るならいいわよ!」
 カレンはノリノリだ。
「決まりですね。では、お二人は今日からブランド『Milina』の公式アンバサダーです」
 俺は二人の手を取り、握手を交わした。
 * カレン担当: アクティブライン(パンツルック、乗馬服)
 * アリシア担当: クラシックライン(通学服、読書服)
 この日、王都の作戦会議室で結ばれた契約により、この国のファッション史は大きく塗り替えられることになる。
 「戦う令嬢」と「学ぶ令嬢」。
 新しい時代のアイコンが、エルガレアの服を纏って動き出す。

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