当選確率0.01%だって? 上等だ。26歳の元外資系コンサルタント。老害たちを黙らせていたら、いつの間にか島根が日本の首都になっていた件〜

namisan

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第8話 走る要塞と、敵地への特攻

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1月25日、木曜日。
冷たい雨が降る中、選挙事務所の前に停めたジャムニーの周りで、男二人が作業をしていた。
「よっしゃ、固定完了! どうよこれ、湊!」
田中が誇らしげに指差した先には、ジャムニーのルーフキャリアに無骨な結束バンドとガムテープで固定された、二つの巨大なスピーカーがあった。
配線は窓の隙間から車内に引き込み、助手席には中古のアンプとマイクが転がっている。
「……まるで映画『マッドマックス』だな」
「かっけーだろ? 名付けて『ジャムニー・サウンドシステム1号』だ!」
見た目は最悪だった。お洒落な選挙カーとは程遠い、手作り感満載の武装車両。だが、今の俺たちにはこれが精一杯の「武器」だ。
「先輩、ルート設定が完了しました」
事務所から出てきた美咲が、タブレットを見せる。
「警察の道路使用許可は下りました。効率を考えるなら、まずは若者層が多い駅南(えきなん)エリアと、新興住宅地を回るべきです。あそこなら、SNS動画を見てくれた層と重なります」
美咲のプランは正しい。
だが、俺は首を横に振った。
「いや。今日はあえて『東部工業団地』に行く」
美咲と田中が絶句した。
東部工業団地。そこは大手ゼネコンの下請け企業や、土建屋の資材置き場が密集するエリア。
つまり、現職・黒田市長を支える「建設族」の本拠地であり、真っ赤な敵地(レッドゾーン)だ。
「正気ですか? あそこに行っても票は取れません。むしろ、空き缶を投げつけられるのがオチです」
「票を取りに行くんじゃない。喧嘩を売りに行くんだ」
俺はジャムニーの運転席に乗り込み、エンジンをかけた。
ブルルン、と車体が震える。
「俺たちがポスターの一件でビビって引き下がったと思われたら、そこで終わりだ。『あいつらは潰しても潰れない』と、敵に見せつける必要がある」
俺の目を見た美咲は、小さく溜息をつき、助手席に乗り込んだ。
「……分かりました。ただし、危険と判断したら即撤退しますからね。田中さんは後部座席でカメラを回して。証拠映像は必須です」
「ういーッス! なんか燃えてきた!」
          ***
東部工業団地に入ると、空気が変わった。
大型トラックが行き交い、灰色の作業服を着た男たちがリフトで資材を運んでいる。
その中を、スピーカーを積んだ緑色の軽自動車がノロノロと進んでいく。
俺はマイクを握った。
『――ご通行中の皆様、作業中の皆様。お騒がせしております。政治団体『出雲の未来を語る会』代表、神代湊(かみしろ・みなと)です』
スピーカーから流れる俺の声は、プロのウグイス嬢のような美声ではない。ノイズ混じりの、男の野太い声だ。
作業員たちが手を止め、ギョッとしてこちらを見ている。
「なんだあれ」「見たことねえ車だな」という視線が突き刺さる。
『先日、ある食堂に貼らせていただいた私のポスターが、圧力によって剥がされました』
俺はアクセルを緩め、わざとゆっくりと走る。あくまで「街宣車」ではなく「広報車」としての安全運転だ。
『皆さんは、今の市政に満足していますか? 仕事があるのは黒田市長のおかげだと、そう教え込まれていませんか?』
通り沿いの事務所から、強面の男たちが出てきた。
明らかに敵意を持っている。田中が「ヤベェ、湊。あいつら石持ってるぞ」と震え声を出した。
だが、俺はマイクを離さない。言葉を選び、法律のラインを超えないように、しかし心には届くように叫ぶ。
『組織のしがらみ、仕事上の付き合い……分かります。ここには、表立って「現状を変えたい」と声を上げられる人なんて一人もいないでしょう』
俺は工場の入り口でタバコを吸っていた若い作業員と、ガラス越しに目を合わせた。
『ですが、あなたの「心」までは、社長も、組合長も、支配することはできません』
「投票してください」とは言わない。言えば法律違反だ。だから、俺はこう続ける。
『誰にも見られない場所で、たった一人になった時……どうか、自分の未来のために、自分の意志で決断してください。誰かのためではなく、あなた自身のために』
俺たちは30分かけて団地を一周し、一度も止まることなく駆け抜けた。
空き缶を投げられることも、怒号を浴びることもなかった。
ただ、不気味なほどの「沈黙」と「注目」だけがあった。
          ***
事務所への帰り道。
後部座席の田中が、興奮気味に言った。
「なぁ、見たか? 最後の方ですれ違ったトラックの兄ちゃん、俺たちに小さくガッツポーズしてなかったか?」
「……気のせいでしょう。期待バイアスがかかっています」
美咲は冷たく返したが、その手はキーボードを叩き続けていた。
「ただ、反応はありました。SNSのエゴサーチ結果……『なんか凄いのが工業団地走ってる』『神代って奴、命知らずすぎる』という投稿が数件。……敵地でのパフォーマンスとしては、及第点です」
俺はハンドルを握る手に力を込めた。
怖くなかったと言えば嘘になる。足は震えていた。
だが、これで狼煙(のろし)は上がった。
「明日は駅前だ。……今度は、もっと多くの人に『俺たちの音』を聴かせるぞ」
1月25日。
走行距離、40キロ。
俺たちの「ジャムニー・サウンドシステム」は、出雲の重たい空気を、少しずつ、だが確実に震わせ始めていた。
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