27 / 35
第27話 虹色の蜘蛛糸と魔導化粧品
しおりを挟む帝都地下、旧研究所の改造エリア。
ジャグジーで身を清め、戦闘の疲れを癒やした美女たちが、バスローブ姿でアレクの作業場に集まっていた。
彼女たちの視線の先には、ミレーヌが急遽、帝都の闇市場から調達してきた木箱が置かれている。
「……これが『蜘蛛の糸』ですの?」
エレノアが恐る恐る箱の中を覗き込む。
そこには、直径一メートルはあろうかという巨大な糸巻きに、鋼鉄のような光沢を放つ灰色の糸が巻き付けられていた。
「ええ。【鉄食い蜘蛛(アイアン・スパイダー)】の糸ですわ。強度は鋼鉄の五倍、耐熱性も抜群。でも、ゴワゴワして重いし、染色もできないから、防具の裏地くらいにしか使われませんのよ?」
ミレーヌが商人の顔で解説する。
だが、アレクは糸の束を手に取り、ニヤリと笑った。
「素材としては一級品だ。ただ、加工技術が追いついていないだけだ」
アレクは作業台に立ち、糸の束に両手をかざした。
イメージするのは、分子構造の組み替え。
太く、不透明なタンパク質の結合を解き、極限まで細く、かつ透明度の高い構造へと再構築する。
「――構造解析・繊維改質(ファイバー・リファイン)」
アレクの手から魔力が溢れ出す。
灰色の無骨な糸が、光を帯びて震え始めた。
不純物が弾き飛ばされ、繊維の一本一本がナノレベルまで細分化される。そして、それらが螺旋状に再結合し、光を複雑に屈折させる「プリズム構造」を形成していく。
シュウウウ……。
数分後。
そこには、空気のように軽く、見る角度によって七色に輝く、極上の絹糸の山が生まれていた。
「嘘……! あの鉄臭い糸が、こんなに美しく……!」
セシリアが糸に触れる。
指の間をすり抜ける感触がないほど滑らかで、まるで光そのものを紡いだようだ。
「【虹色絹(プリズム・シルク)】だ。これを織ってドレスにする。……だが、それだけじゃない」
アレクはさらに、薬草と鉱石の粉末を混ぜ合わせた液体を取り出した。
「パーティーには『顔』も重要だ。帝都の厚塗りの白粉(おしろい)なんて時代遅れだぞ」
アレクが次に着手したのは、【魔導化粧品(コスメ)】の開発だった。
この世界の貴族女性が使う化粧品は、鉛や水銀を含んだ有害な白粉が主流で、肌荒れの原因になっていた。
「まずは『化粧水(ローション)』だ」
アレクは、地下水から精製した純水に、アロエに似た薬草の保水成分と、スライムから抽出したコラーゲン(高級保湿剤)を配合。さらに、バラの精油を加えて香りをつけた。
「次に『ファンデーション』」
雲母(マイカ)の微粒子を、肌の色に合わせて調合し、スクワランオイル(深海魚の肝油から錬成)で練り上げる。
これは、毛穴を隠しつつ、肌呼吸を妨げない。
「そして『口紅(ルージュ)』」
蜜蝋(ミツロウ)と植物性色素を混ぜ、体温でとろけるような滑らかさを実現する。
「さあ、素材は揃った。……ここからは俺が『デザイナー』だ」
アレクは、虹色絹を魔導ミシン(高速縫製機)にセットした。
彼の脳内には、前世のパリ・コレクションや映画で見た、至高のデザイン画が浮かんでいる。
採寸は不要だ。【構造解析】で彼女たちのスリーサイズから骨格まで、ミリ単位で把握しているからだ。
***
数時間後。
即席の更衣室から、準備を整えた四人の美女たちが姿を現した。
その瞬間、作業場の空気が変わった。
美の暴力。そう表現するしかない光景だった。
まずは、公爵令嬢エレノア。
彼女が纏うのは、深紅の薔薇をイメージしたマーメイドラインのドレス。
動くたびに、虹色絹が赤から紫へとグラデーションを描き、情熱的でありながら気品に満ちている。
唇には鮮やかなルージュが引かれ、白い肌はファンデーションによって陶器のような質感を放っている。
「……どうかしら? ちょっと背中が開きすぎな気もするけど」
エレノアが恥じらいながら背中を見せる。大胆なカッティングだが、決して下品ではない。
次に、第三王女セシリア。
彼女のドレスは、氷の妖精を思わせるペールブルーのAライン。
生地に織り込まれた微細な魔石パウダーが、薄暗い場所でも淡く発光し、彼女自身が光源となっているかのような幻想的な雰囲気を醸し出す。
「ふふ、まるで空を纏っているようですわ。この化粧水も凄いです。肌が一日中、水を浴びているように潤っています」
そして、女侯爵ベアトリス。
彼女は、漆黒のベルベットのような質感を持つ、タイトなイブニングドレス。
深いスリットが入り、豊満な肢体を強調しつつも、黒という色が引き締め効果を生んでいる。大人の色香が漂う、「夜の女王」の装いだ。
「あら、いいわね。これなら、帝都の男たちを一晩で全滅させられそうだわ」
最後に、豪商ミレーヌ。
彼女は動きやすさを重視した、ゴールドとシャンパンカラーのショートドレス。
足元は、アレクが特注したハイヒール(ガラス繊維強化プラスチック製)で、軽快なステップを踏んで見せた。
「軽いですわ! それにこのドレス、皺(しわ)になりませんのね。これ、商品化したら金貨の山が築けますわよ!」
最後に、アレクの隣に立つシルヴィア。
彼女はドレスではない。
上質な黒の生地で仕立てられた、女性用のタキシード風パンツスーツだ。
しかし、そのシルエットは女性特有の曲線を美しく描き出し、凛とした「執事」としての美しさを際立たせている。
「旦那様。……動きやすいです。これなら、パーティー会場で何があっても即座に戦闘に入れます」
シルヴィアがポケットから懐中時計(兼、暗器入れ)を取り出し、微笑む。
「完璧だ」
アレクは燕尾服の襟を正し、彼女たちを見渡した。
「帝国の貴族たちは、宝石や金糸で着飾ってくるだろう。だが、君たちの輝きは『技術』と『素材』の差だ。……誰も真似できない」
アレクはファントムのキーを指で回した。
「さあ、行こうか。建国記念パーティー。……我々の『新商品発表会』の開幕だ」
地下ガレージのシャッターが開く。
夕闇が迫る帝都の空に、七色のドレスを纏った美の女神たちが、黒い鉄の馬車に乗って出撃していった。
その夜、帝都の社交界は、かつてない衝撃(ショック)によって塗り替えられることになる。
128
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて
ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記
大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
成瀬一
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる