6 / 9
妖精さん、質問する
しおりを挟む
「…………」
そのクライツの日記は何十冊とあり、全てを読み終える頃には外は真っ暗だった。だが、淡いランタンの灯りが部屋を照らしているのにセイツは気づいた。どうやらセンスイが気づかぬ間に色々と運び込んでくれていたようだ。もちろん、ベッドもあるようだった。
(また後日、御礼を言わなきゃ……。あの人にはお世話になりっぱなしで申し訳ない)
手に持った日記を本の山に置き、おもむろにベッドへ横になった。
「……クライツさん、か。それが僕の前の母の仔……?」
最初に目にしたはクライツの日記だったため、セイツは同様の人物の書いた日記ばかりを探し、読了した。他にも別の著者の日記らしきものもあったが、軽く目を通すだけで本の山にすぐ戻していた。
(なんでかな。あのクライツって人の日記にすごく惹かれた。けど、他の人の本には何故か興味が湧かなかった……)
それはセイツの好みの問題なのか、されとも別の要因なのか。
ベッドに横になってセイツはクライツの日記の内容について考えていたがーー気づけば、寝息を立てていた。
その日は整理は終わらなかった。
朝。日が昇り始めた頃にセイツは目を覚ます。ランタンの火はいつのまにか消えていたが、代わりに陽の光が部屋の中を窓から照らしていた。
「……とりあえず、本の整理をしないと」
いつまでも本が乱雑に床に散らばっていると歩く場所を考える必要もあった。セイツは頰を軽く手で張り、眠気を飛ばして整理を開始した。
(今度こそちゃんと片付けないと、センスイさんに笑われそうだ)
笑っているセンスイを想像したセイツはクスリと笑い、手を動かす。
そうして3時間ほど経っただろうか。部屋の中はかなり整理され、本の山は今度こそ隅っこに移動されていた。そうして広々としたスペースにセイツは満足していると、センスイが訪ねてきた。
「おっ、昨日と比べると綺麗になったもんじゃな。ほれ、小僧の食事を持ってきたぞい」
「あ、ありがとうございます」
ということらしい。セイツはその木の根で編まれたバスケットを受け取った。中身を見ると、色とりどりのサンドイッチらしきものと空の木のコップとそしてーー。
「……石? なんだろう、この石」
サンドイッチとは別に小さな瓶の中には水色の石が入っており、妙にセイツの興味をそそった。その小瓶を手に取り、手のひらで転がすとカラカラと音がなる。
「ほっほっ!小僧はコレも知らんか! ならばワシと一緒に飯じゃな。ワシもまだ食っとらんから、ついでにこの石の使い方を教えたるわい」
そう言いながらセンスイはセイツの手を取り、近くの柔らかそうな草が生えている地面に一緒に腰を下ろした。
「まずはサンドイッチを取り出してから、小僧、それをワシに貸すんじゃ。……コイツをこうして……」
「コップに入れた……?」
センスイは小瓶を開けると、その中に入っていた水色の石をそれぞれの容器に入れ、両手に持った。
「湧けよ湧け。母なる水よ。小さな器を満たしておくれ」
「……えっ、コップに水が……!」
見る見るうちに木のコップの中に水が満たされていた。
センスイがボソボソと小声で唱えていたのは、呪文。ーーそれは魔石を利用した位の低い魔法だった。かつて存在していたある時代の母の仔が妖精族に伝えた魔法の一部。
「驚いたか? コレが『魔法』よ。使い方と魔力さえあればこんなもんじゃ。……ま、ワシは歳をとりすぎて魔石がないと碌に顕現できんくなったがのぅ」
「す、すごい……!」
興奮するセイツを見て満足したセンスイはセイツを尻目にムシャムシャとサンドイッチを食べ始める。
ハッとしてセイツも少しだけ恥ずかしさで俯き、サンドイッチを一つ手に取る。
(あれが魔法……。すごい)
さっきの水がせり上がってくる光景を思い出しながらサンドイッチを口に運び一口咀嚼する。そこでまた一つ驚く。
「センスイさん、これ……すごく美味しいです」
口に入れる前から美味しそうな匂いを発していたサンドイッチは食べることによって確信へと変わる。とてつもなく、美味いと。
「そうじゃろうそうじゃろう。ワシの可愛い孫が作ってくれたもんじゃ。美味しくないわけがないわい!」
セイツの言葉にセンスイは頰を緩め笑顔でそう言った。
「うむ、食った食った。……それで小僧。なにか悩み事でもあるのか?」
「えっ……? 参ったな、わかりますか?」
「そりゃあのう。同じ妖精族じゃ。表情の違いなんぞワシくらいの歳食った老人ならわかるぞい」
(ま、本当は明らかに悩んでる顔をしているからわかっただけじゃがな)
センスイの軽い気遣いだった。
セイツは悩んでいた。あの小屋で読んだ日記の内容についてだ。この目の前の老人に教えることはやぶさかではないが、はたして本当に伝えていい内容なのか。セイツには判断がつかなかった。
「……そういえば、今って新神暦何年ですか?」
「なんじゃ、暦が気になるのか? 今は新神暦1100年じゃ」
(あの日記から500年も経っているんだ……)
クライツの日記はあの本の山の中で一番新しい年代のものだった。他の日記は古いものが多く、一番古くて二桁台の暦を記しているのもあった。
つまりセンスイが言っていた通り、この500年の間は一切母の仔が現れなかったということだ。
(けど、特に何かしら問題があった……ってわけじゃないのかな)
「あの、突然なんですけどセンスイさんってお年はいくつなんですか?」
「なんじゃ今度はワシの歳が気になるのか? ワシは100を超えとるぞい。ちなみにワシより歳を食っとるもんはおらんな。近いものなら数名おるが」
「なるほど……。では、妖精の寿命はどれくらいなんでしょうか? それと母の仔は普通の妖精とどう違うんですか?」
セイツの中で生まれた疑問が次々と口に出る。それだけセイツは考え、悩んでいた。そもそも何故こんな異世界にいるのかすらわからないのだから。質問責めになるのは仕方ないことだろう。
そのクライツの日記は何十冊とあり、全てを読み終える頃には外は真っ暗だった。だが、淡いランタンの灯りが部屋を照らしているのにセイツは気づいた。どうやらセンスイが気づかぬ間に色々と運び込んでくれていたようだ。もちろん、ベッドもあるようだった。
(また後日、御礼を言わなきゃ……。あの人にはお世話になりっぱなしで申し訳ない)
手に持った日記を本の山に置き、おもむろにベッドへ横になった。
「……クライツさん、か。それが僕の前の母の仔……?」
最初に目にしたはクライツの日記だったため、セイツは同様の人物の書いた日記ばかりを探し、読了した。他にも別の著者の日記らしきものもあったが、軽く目を通すだけで本の山にすぐ戻していた。
(なんでかな。あのクライツって人の日記にすごく惹かれた。けど、他の人の本には何故か興味が湧かなかった……)
それはセイツの好みの問題なのか、されとも別の要因なのか。
ベッドに横になってセイツはクライツの日記の内容について考えていたがーー気づけば、寝息を立てていた。
その日は整理は終わらなかった。
朝。日が昇り始めた頃にセイツは目を覚ます。ランタンの火はいつのまにか消えていたが、代わりに陽の光が部屋の中を窓から照らしていた。
「……とりあえず、本の整理をしないと」
いつまでも本が乱雑に床に散らばっていると歩く場所を考える必要もあった。セイツは頰を軽く手で張り、眠気を飛ばして整理を開始した。
(今度こそちゃんと片付けないと、センスイさんに笑われそうだ)
笑っているセンスイを想像したセイツはクスリと笑い、手を動かす。
そうして3時間ほど経っただろうか。部屋の中はかなり整理され、本の山は今度こそ隅っこに移動されていた。そうして広々としたスペースにセイツは満足していると、センスイが訪ねてきた。
「おっ、昨日と比べると綺麗になったもんじゃな。ほれ、小僧の食事を持ってきたぞい」
「あ、ありがとうございます」
ということらしい。セイツはその木の根で編まれたバスケットを受け取った。中身を見ると、色とりどりのサンドイッチらしきものと空の木のコップとそしてーー。
「……石? なんだろう、この石」
サンドイッチとは別に小さな瓶の中には水色の石が入っており、妙にセイツの興味をそそった。その小瓶を手に取り、手のひらで転がすとカラカラと音がなる。
「ほっほっ!小僧はコレも知らんか! ならばワシと一緒に飯じゃな。ワシもまだ食っとらんから、ついでにこの石の使い方を教えたるわい」
そう言いながらセンスイはセイツの手を取り、近くの柔らかそうな草が生えている地面に一緒に腰を下ろした。
「まずはサンドイッチを取り出してから、小僧、それをワシに貸すんじゃ。……コイツをこうして……」
「コップに入れた……?」
センスイは小瓶を開けると、その中に入っていた水色の石をそれぞれの容器に入れ、両手に持った。
「湧けよ湧け。母なる水よ。小さな器を満たしておくれ」
「……えっ、コップに水が……!」
見る見るうちに木のコップの中に水が満たされていた。
センスイがボソボソと小声で唱えていたのは、呪文。ーーそれは魔石を利用した位の低い魔法だった。かつて存在していたある時代の母の仔が妖精族に伝えた魔法の一部。
「驚いたか? コレが『魔法』よ。使い方と魔力さえあればこんなもんじゃ。……ま、ワシは歳をとりすぎて魔石がないと碌に顕現できんくなったがのぅ」
「す、すごい……!」
興奮するセイツを見て満足したセンスイはセイツを尻目にムシャムシャとサンドイッチを食べ始める。
ハッとしてセイツも少しだけ恥ずかしさで俯き、サンドイッチを一つ手に取る。
(あれが魔法……。すごい)
さっきの水がせり上がってくる光景を思い出しながらサンドイッチを口に運び一口咀嚼する。そこでまた一つ驚く。
「センスイさん、これ……すごく美味しいです」
口に入れる前から美味しそうな匂いを発していたサンドイッチは食べることによって確信へと変わる。とてつもなく、美味いと。
「そうじゃろうそうじゃろう。ワシの可愛い孫が作ってくれたもんじゃ。美味しくないわけがないわい!」
セイツの言葉にセンスイは頰を緩め笑顔でそう言った。
「うむ、食った食った。……それで小僧。なにか悩み事でもあるのか?」
「えっ……? 参ったな、わかりますか?」
「そりゃあのう。同じ妖精族じゃ。表情の違いなんぞワシくらいの歳食った老人ならわかるぞい」
(ま、本当は明らかに悩んでる顔をしているからわかっただけじゃがな)
センスイの軽い気遣いだった。
セイツは悩んでいた。あの小屋で読んだ日記の内容についてだ。この目の前の老人に教えることはやぶさかではないが、はたして本当に伝えていい内容なのか。セイツには判断がつかなかった。
「……そういえば、今って新神暦何年ですか?」
「なんじゃ、暦が気になるのか? 今は新神暦1100年じゃ」
(あの日記から500年も経っているんだ……)
クライツの日記はあの本の山の中で一番新しい年代のものだった。他の日記は古いものが多く、一番古くて二桁台の暦を記しているのもあった。
つまりセンスイが言っていた通り、この500年の間は一切母の仔が現れなかったということだ。
(けど、特に何かしら問題があった……ってわけじゃないのかな)
「あの、突然なんですけどセンスイさんってお年はいくつなんですか?」
「なんじゃ今度はワシの歳が気になるのか? ワシは100を超えとるぞい。ちなみにワシより歳を食っとるもんはおらんな。近いものなら数名おるが」
「なるほど……。では、妖精の寿命はどれくらいなんでしょうか? それと母の仔は普通の妖精とどう違うんですか?」
セイツの中で生まれた疑問が次々と口に出る。それだけセイツは考え、悩んでいた。そもそも何故こんな異世界にいるのかすらわからないのだから。質問責めになるのは仕方ないことだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
※他サイトでも掲載しています
※ちょいちょい手直ししていってます
2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。
リョウ
ファンタジー
何者かになりたかった。
だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。
そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。
導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。
冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。
目指すのは、ただ生き延びることではない。
一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。
渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる