人間になりたい妖精さんは機械仕掛けの騎士〈ギアット〉で世界を旅する。

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妖精さん、質問する

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「…………」

 そのクライツの日記は何十冊とあり、全てを読み終える頃には外は真っ暗だった。だが、淡いランタンの灯りが部屋を照らしているのにセイツは気づいた。どうやらセンスイが気づかぬ間に色々と運び込んでくれていたようだ。もちろん、ベッドもあるようだった。

 (また後日、御礼を言わなきゃ……。あの人にはお世話になりっぱなしで申し訳ない)

 手に持った日記を本の山に置き、おもむろにベッドへ横になった。

「……クライツさん、か。それが僕の前の母の仔……?」

 最初に目にしたはクライツの日記だったため、セイツは同様の人物の書いた日記ばかりを探し、読了した。他にも別の著者の日記らしきものもあったが、軽く目を通すだけで本の山にすぐ戻していた。

(なんでかな。あのクライツって人の日記にすごく惹かれた。けど、他の人の本には何故か興味が湧かなかった……)

 それはセイツの好みの問題なのか、されとも別の要因なのか。

 ベッドに横になってセイツはクライツの日記の内容について考えていたがーー気づけば、寝息を立てていた。
 その日は整理は終わらなかった。



 朝。日が昇り始めた頃にセイツは目を覚ます。ランタンの火はいつのまにか消えていたが、代わりに陽の光が部屋の中を窓から照らしていた。

「……とりあえず、本の整理をしないと」

 いつまでも本が乱雑に床に散らばっていると歩く場所を考える必要もあった。セイツは頰を軽く手で張り、眠気を飛ばして整理を開始した。

(今度こそちゃんと片付けないと、センスイさんに笑われそうだ)

 笑っているセンスイを想像したセイツはクスリと笑い、手を動かす。


そうして3時間ほど経っただろうか。部屋の中はかなり整理され、本の山は今度こそ隅っこに移動されていた。そうして広々としたスペースにセイツは満足していると、センスイが訪ねてきた。

「おっ、昨日と比べると綺麗になったもんじゃな。ほれ、小僧の食事を持ってきたぞい」 
「あ、ありがとうございます」

 ということらしい。セイツはその木の根で編まれたバスケットを受け取った。中身を見ると、色とりどりのサンドイッチらしきものと空の木のコップとそしてーー。

「……石? なんだろう、この石」

 サンドイッチとは別に小さな瓶の中には水色の石が入っており、妙にセイツの興味をそそった。その小瓶を手に取り、手のひらで転がすとカラカラと音がなる。

「ほっほっ!小僧はコレも知らんか! ならばワシと一緒に飯じゃな。ワシもまだ食っとらんから、ついでにこの石の使い方を教えたるわい」

そう言いながらセンスイはセイツの手を取り、近くの柔らかそうな草が生えている地面に一緒に腰を下ろした。

「まずはサンドイッチを取り出してから、小僧、それをワシに貸すんじゃ。……コイツをこうして……」
「コップに入れた……?」

 センスイは小瓶を開けると、その中に入っていた水色の石をそれぞれの容器に入れ、両手に持った。

「湧けよ湧け。母なる水よ。小さな器を満たしておくれ」
 「……えっ、コップに水が……!」

見る見るうちに木のコップの中に水が満たされていた。
 
 センスイがボソボソと小声で唱えていたのは、呪文。ーーそれは魔石を利用した位の低い魔法だった。かつて存在していたある時代の母の仔が妖精族に伝えた魔法の一部。

「驚いたか? コレが『魔法』よ。使い方と魔力さえあればこんなもんじゃ。……ま、ワシは歳をとりすぎて魔石がないと碌に顕現できんくなったがのぅ」
「す、すごい……!」

 興奮するセイツを見て満足したセンスイはセイツを尻目にムシャムシャとサンドイッチを食べ始める。

 ハッとしてセイツも少しだけ恥ずかしさで俯き、サンドイッチを一つ手に取る。

(あれが魔法……。すごい)

 さっきの水がせり上がってくる光景を思い出しながらサンドイッチを口に運び一口咀嚼する。そこでまた一つ驚く。

「センスイさん、これ……すごく美味しいです」

 口に入れる前から美味しそうな匂いを発していたサンドイッチは食べることによって確信へと変わる。とてつもなく、美味いと。

「そうじゃろうそうじゃろう。ワシの可愛い孫が作ってくれたもんじゃ。美味しくないわけがないわい!」

 セイツの言葉にセンスイは頰を緩め笑顔でそう言った。



「うむ、食った食った。……それで小僧。なにか悩み事でもあるのか?」
「えっ……? 参ったな、わかりますか?」
「そりゃあのう。同じ妖精族じゃ。表情の違いなんぞワシくらいの歳食った老人ならわかるぞい」

 (ま、本当は明らかに悩んでる顔をしているからわかっただけじゃがな)

 センスイの軽い気遣いだった。

 
 セイツは悩んでいた。あの小屋で読んだ日記の内容についてだ。この目の前の老人に教えることはやぶさかではないが、はたして本当に伝えていい内容なのか。セイツには判断がつかなかった。

 「……そういえば、今って何年ですか?」
「なんじゃ、暦が気になるのか? 今は新神暦1100年じゃ」

(あの日記から500年も経っているんだ……)

 クライツの日記はあの本の山の中で一番新しい年代のものだった。他の日記は古いものが多く、一番古くて二桁台の暦を記しているのもあった。

 つまりセンスイが言っていた通り、この500年の間は一切母の仔が現れなかったということだ。

(けど、特に何かしら問題があった……ってわけじゃないのかな)

「あの、突然なんですけどセンスイさんってお年はいくつなんですか?」
「なんじゃ今度はワシの歳が気になるのか? ワシは100を超えとるぞい。ちなみにワシより歳を食っとるもんはおらんな。近いものなら数名おるが」
「なるほど……。では、妖精の寿命はどれくらいなんでしょうか? それと母の仔は普通の妖精とどう違うんですか?」

 セイツの中で生まれた疑問が次々と口に出る。それだけセイツは考え、悩んでいた。そもそも何故こんな異世界にいるのかすらわからないのだから。質問責めになるのは仕方ないことだろう。

 
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