ハーレムでハブられてるけど、一番愛してる自信ある!

珈琲きの子

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小話

ハーレムでハブられてたけど、勇者の嫁として異世界で暮らします!

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  ぐにゃりと歪んだ視界を塞ぐように瞼を閉じると、僕を支えてくれているハヤト様の腕の暖かさが鮮明になる。ふわりと体が重さを無くしたように感じた後、ストンと何処かに落ちた。
 ハヤト様が抱きしめてくれたおかげで、コケることもなく無事に地面を踏みしめる。
 
「着いたぞ」

 ああ、着いたんだ。本当に来たんだ。ハヤト様の世界ーー僕にとっての異世界に。
 僕はこわごわと瞼を開いた。

「…こ、ここが、ハヤト様の…」

 部屋が四角いのは一緒だけれど、置いてある家具のデザインも雰囲気も全く違う。それに魔道具みたいなものもあるけれど、何に使うかサッパリわからない。
 ものも少なくて、スッキリとした印象だ。

「大丈夫そうだな」
「へ?」
「体、おかしいとこないだろ?」
「は、はい。平気です」
「こいつらも…大丈夫だな」

 ハヤト様は僕が両手に抱えるスヤスヤ眠る子供たちの頬をぷにと摘んだ。肝が座っているのか、二人共起きる気配はなく気持ち良さそうに寝息を立てている。
 
 ハヤト様が僕の腕から子供たちを抱き上げ、ベッドの上に寝かせてくれる。ベッドの作りは同じだ。良かった。

「まずは、報告か…。なんて説明するか…」
 
 と、子供たちを眺めてから僕を見た。急に3人も増えたんだから大変に決まってる。
 ハヤト様を見返していると、ハヤト様はふぅとため息をついてポケットから四角の薄っぺらい物体を取り出し、表面をスルスルと何度か撫でるとそれを耳に当てた。
 僕は何が起こるのかと首を傾げつつ、子供たちの側に座り込んだ。

 この子達の名前はヒロとハルナ。男の子と女の子の双子。
 呪いの解除に毎日欠かさずセックスしてたのだから赤ちゃんだってできる。僕もうっかりしてた…。女性陣とはちゃんと避妊してたらしいけど、僕の場合は確実に中に出さないといけないから回避のしようがなかった。嬉しいけれど、思いがけなくできてしまったから、子供たちに少し申し訳ない。
 ハヤト様は男の僕が妊娠したことに、目玉が落ちそうなぐらい驚いてた。こちらの世界では男性は妊娠しないらしいから、驚くのも当然だ。

『できたもんは仕方ねぇだろ』

 って言いながらも、悪阻が酷い上、双子だったせいでひたすら寝たきりのような生活をしていた僕の側にずっといてくれた。とっても優しくて頼もしいハヤト様に僕はメロメロだ。
 
「今から、そっちに行く」

 急にその四角の物体に向かって話しだしたハヤト様。びっくりして振り向くと、ハヤト様がニヤリと笑った。何やら誰かと会話してるみたいだ。こっちには魔法がないから魔力で動いてるわけじゃないんだろうけど、不思議だ…。

「……帰ったら話す。ーーあ? 姉貴? げ、いんの? …まぁいいけどよ…」

 しばらく話してから、不思議道具から耳を離し、「今から出かける」とタンスのような物を漁り、何枚か服を取り出した。どうやら僕が着るらしい。服はそんなに形は変わらないけど、すごく柔らかい。上等な布なのかもしれない。恐る恐るその服に袖を通した。

「…………」

 着替えるとハヤト様に無言でガン見された。その後ポンポンと頭を撫でられて、その不意打ちな甘い雰囲気に僕の胸は高鳴るばかりだ。
 
 少しどころじゃなく大きくてぶかぶかな服を来て外に出れば、そこが異世界であることをヒシヒシと感じた。
 背の高い建造物が建ち並び、空には何やらロープのようなものが張られている。四角い物が物凄い速度で道を行き交い、聞き慣れない音がひたすら鼓膜を揺らした。
 ハヤト様の家は『まんしょん』という集合住宅の一室らしい。二部屋しかなかったから、家族で住むには狭いような気がする。

「乗れよ」

 先ほど道を滑るように動いていた凹凸のある四角い箱のドアが目の前で開く。中は馬車のように長椅子があった。

「これ、乗り物なんですか!」
「車な」
 
 屈んで中に入り、馬車と違って柔らかくてお尻が痛くなる気配のないその椅子に座ると、ハルナとヒロを渡される。

「あー…、『ちゃいるどしーと』買わねぇとな」

 ハヤト様かボソリと呟いてから、前の席に座る。けれど、突然、ブォン!、と激しい音がして、驚いた僕は抱っこしてる二人ごと飛び上がり、低い天井にしこたま頭を打ちつけた。

「いたた…」
「…わりぃ。今から動くから驚くなよ。速度も馬車より数段速いからな」
「は、はい!」

 本当に速かった。歩行者や道沿いに立つロープを張っている不思議な柱、横に並んで走る車にもにぶつかるんじゃないかと戦々恐々としながら、過ごすこと寸刻。集合住宅とは違う、僕の家よりも、車の中から見えていたどの家よりも大きな立派なお屋敷の前に車が止まった。ハヤト様のご実家らしい。ということは、ハヤト様のご両親様がいらっしゃるわけで…。ど、どうしよう。
 こちらの世界に異世界が受け入れられているならいいけれど、そうじゃなければ僕はどうなるのだろう。と今更ながら不安が押し寄せる。

「心配すんじゃねぇよ。俺がいるだろーが」
「ハヤト様…」

 表情に出ていたのか、ハヤト様がヒロを抱くのとは反対の手で僕の体を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめてくれる。優しくて、キュンってする。
 そっと手を引いて、僕をエスコートするハヤト様が王子様にしか見えない。
 
「あー隼人! おかえり、な…さ、い…?」

 パタパタとスリッパの音を響かせてかけてきたのは、綺麗に髪を結い上げた冴えわたるような美人なお姉さん。目を零れんばかりに見開いて、僕とヒロとハルナに視線を泳がせた。

「親父と母さん呼んで」
「え、え? ちょっ、と?」
「いいから早くしろよ」

 僕を凝視しながらコクコクと無言で頷き、廊下の奥に消えていった。

「あれは姉貴の綾子」
「ハヤト様のお姉様…」

 うう、緊張する。胃が痛い。
 家の中では靴を脱ぐ習慣があるらしく、僕もそれに従う。案内されたのはハヤト様のまんしょんの部屋と同じぐらいの大きさの部屋。草を編んだような緑色の床の上を歩けば、なんだか足の裏が心地良い。

「隼人、お客様が来るなら、先に言いなさ……」

 サッと紙のようなものでできた扉が横に動いて開くと、そこにはハヤト様のお父様らしき方。アヤコ様と全く同じ反応をしているその方を見て、僕は居たたまれなかった。

「「ふ、…ふ、…ふえぇぇん」」

 僕の心を察してか、ヒロとハルナが目を覚まし、同時に泣き始めた。よ、余計大変なんだけど!?

「よーしよし。いい子いい子……えっ! おしっこ?!」
「は!?」
「あ、待って!」

 ハヤト様が叫んで、お父様に何やら命令してる。そのうちにもヒロとハルナは盛大にお漏らしし、僕の、というかハヤト様の服がどっぷりと水分を吸い込んで行く。
 ドタドタと廊下を駆ける音がして、奥からちょっとした怒鳴り声と悲鳴が上がる。皆大混乱だ。
 気がそぞろになっていたせいで、二人の世話まで気が回らなくなってた。本当にごめんね。



 お風呂と服をお借りし、何とか惨事を治め、お母様のショウコ様がお茶とお菓子を用意してくれた。ショウコ様は花が飛んでるみたいに温かくて優しい笑みを湛えている、とっても可愛らしいお母様だ。
 寝返りがまだできないヒロとハルナは『たたみ』という床に敷かれた布団の上で自分の拳をジッと観察中。二人が全く同じ格好でそれをしてるものだから、頬が緩んでたまらない。
 
「そのだな、隼人。そちら…とその子達の関係を聞いていい…か?」

 テーブルを挟んでハヤト様とお父様のセイジ様との静かな攻防戦が続いていたけれど、セイジ様が根を上げてそう切り出した。
 どう切り出していいものか、としばらく悩んだ末、ハヤト様がなんの肉付けもなく簡潔にこう答えた。

「嫁と子供」

 間違ってはいないけれど、それはちょっと…。

「どういうこと!?」
「今から俺が言うこと全部信じるって言うなら、全部話す。できないなら、ここに帰ってくるつもりはない」

 え? それってご実家を捨てるってこと?
 ハヤト様を見つめたけれど、僕のことをチラリと見ただけだった。ただハヤト様の手が僕の背中にそっと添えられた。ああ、心配しなくていいって言ってくれてる。

「な、なにいってんの…」
「綾子、おまえは黙っていなさい。ーー隼人、おまえはまだ学生だ。結婚もせずに子供を作るなど、何を考えている。そちらの若いお嬢さんのご両親ともーー」
「お父さん、ベルネ君は男の子よ」

 ニッコリとハヤト様のお母様、ショウコ様は余裕の笑みを浮かべている。だって、お風呂借りたときに裸見られちゃったから。でもセイジ様は…。

「お、オトコ!? じゃあ、その子達は…」
「ベルネが産んでくれた。正真正銘俺達の子供だ」

 ハヤト様が躊躇なく言うものだから、セイジ様はもう真っ青だ。ショウコ様はふふふ、と微笑んで僕にお菓子を勧めてくれる。母強し。僕も見習わないと。

「生半可な気持ちで聞いてほしくねぇんだよ。ベルネは自分の世界を捨てて俺に付いてきてくれた。俺達はそれだけの覚悟を持ってここにいる。だから建前とかそんな表面的な事を語ってほしくない」

 ハヤト様の言葉が胸に染みる。そんなふうに思ってくれてたなんて。勢いで来てしまったから深くは考えないようにしてたけど、ハヤト様はちゃんと考えていてくれたんだ。嬉しい…。

「あら、母さんはベルネ君の味方よ」
「ショウコ様…」

 ショウコ様に手を握られて、目頭がぎゅっと熱くなる。僕の事、疑わずに受け止めてくれることが何よりも嬉しく感じられた。

「だって異世界よね? 隼人が召喚された勇者だったんでしょ?」
「は? なんで知って…」

 僕が自分のことをクイクイと指すと、ハヤト様は納得したようだった。お風呂に入る時に少し話したんだけれど、その時のショウコ様の興奮はすごいものだった。勇者の存在を知ってたみたいだし、異世界という言葉にも寛容で僕が驚いたくらいだ。

「母さんね、大好きなの。異世界トリップもの」
「ーーえっ!? お母さん、まさか私の小説読んだ!?」
「最初は綾ちゃんの本をちょっと盗み見てたんだけど、本格的にハマっちゃったの、ふふ」
 
 小説? 本?
 
「じゃあ、この子、隼人が異世界から連れて帰ってきたってこと?! なんでもっと早く言ってくれないのよ!」

 私も味方だから!、と急に鼻息を荒くして僕の手をショウコ様から奪うようにして握るアヤコ様。ハヤト様とセイジ様は完全に置いてきぼりだ。

「ベルネ君が赤ちゃん産んだってことは……、え、え!? な、生BL?! しかも男性妊娠! キタコレ~~!!!」
「あらあら綾ちゃん、はしたないわよ。殿方の前では慎ましくね」
「あら、私としたことがごめん遊ばせ」

 ものすごくキラキラとしながらも充血している目を僕に向けながら、にこやかに微笑むお二人。しばらく奇妙な空気が流れていたけれど、ごほんとセイジ様が咳払いして、ズズッとお茶を啜った。

「その、本当に異世界から…なのか?」
「ついさっきまで異世界にいた。馬鹿な話だと思うかもしれねぇけど、俺はあっちで魔王倒して、ベルネを嫁にして帰ってきた」

 きゃー!、とショウコ様とアヤコ様は手を取り合って嬉しそうに悲鳴を上げている。ハヤト様の真面目に頑張ってる表情が引き攣ってるのは気のせいじゃないと思う。

「俺が大学卒業するまで世話になりたい。ベルネを助けてほしい」
「う、む…。その異世界で羽目を外して子供ができたわけではないんだな?」
「ああ、子供は望んで作った。あっちで簡単な式も挙げてる」

 望んでた…? 嘘ついて大丈夫かな…。
 セイジ様はジッとハヤト様を見据える。睨み合いみたいな強い眼差しを交わす二人。セイジ様がふぅ、と肩の力を抜いて目を瞑った。

「わかった。信じよう。翔子、あとは頼んだ。おまえはよく知ってるんだろう。その、異世界について」
「はい、お父さん。後は任せてください。ちゃんとしておきますから」


 こうして僕はハヤト様のご実家でお世話になることになった。まんしょんを解約して、学校にはご実家から通うらしい。
 ショウコ様とアヤコ様は僕を質問攻めしながらも、何でもないことのようにハルナとヒロの世話もしてくれて…僕は感謝でいっぱいだ。ハヤト様のご家族は本当に愛に溢れてる。

「ハヤト様。お父様に嘘ついて良かったんですか?」
「あ? …ああ、嘘はついてねぇよ。男だから出来ねぇと思ってただけだ」
「え、じゃあ、」
「嬉しい誤算、だな」

 嬉しい、誤算…。
 本当に望んでくれてたってこと?

「…っ、…ぅ、ハヤト様ぁ」
「余計なこと考えんな。おまえは笑ってりゃいいんだよ」

 ハヤト様はコツリと頭を軽く叩いて来るけれど、僕の涙は止まることを知らなかった。

「……ぅ、っく」
「バカ。そんなに泣いてんじゃねぇよ」

 ふわっとハヤト様の香りが近づく。背中に腕が回されて、僕の唇に柔らかいものが押し付けられる。離れたかと思えば目尻にもチュッと軽い音を立てて触れ、ギュッと抱き寄せられる。
 
「ったく、手のかかるヤツだな」

 ハヤト様の声は、ぶっきらぼうで…優しかった。



 僕は異世界で生きていく。
 色々と困難はあるだろうけれど、どんなことも乗り越えて行けるはず。
 大切な子どもたちと、愛するハヤト様と一緒に。







 おまけ

「はるなたーん、ひろくーん、かわいいでちゅねぇ~。いないばぁ! ん? もういっかい? そうでちゅか、そうでちゅか。気に入ったんでちゅか」

 セイジ様が壊れた。
 さっきまでハヤト様とよく似た精悍な顔つきでハルナとヒロを見つめていたのに、セイジ様の中で何かが外れたらしい。
 ヒロとハルナはあ~うあ~うといっぱい手足を動かして興味津々に反応している。おじい様が大好きみたい。

「……きめぇ」
「僕にはとても微笑ましく見えます」
「いや、自分の親がああなるのは色々と複雑なんだよ

 
 そんなことを言ってるハヤト様はきっとご自分では気づいていない。ハルナとヒロをあやす声が通常より高いトーンなのを。目尻がデレっと垂れ下がってるのを。
 その表情を見るだけで僕は幸せいっぱいだ。
 
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