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穴兄弟はお断り
しおりを挟む「なにしてんの?」
ベータな俺とのセックスに乗り気のスポーツ刈りが舌なめずりするのをただ見上げていた時だった。
重厚な扉が開かれ、カツリと足音が響くのと同時に、朦朧とした意識の中でも凛とした声が頭に届く。――それは栗栖の声だった。
「お、東弥、丁度良かった」
「なにしてんの?」
繰り返された言葉は予想以上に低い音で発せられた。
「………東弥?」
「わかんない? ソレ、俺のオモチャだろ?」
「この前の、こいつに見られたんだろ? だから――」
「トシ。おまえと穴兄弟になるなんて冗談キツイな。それに、そいつは言えないから」
「……あー、そゆこと」
トシと呼ばれたスポーツ刈りの興味は一気に冷めたらしく、俺に一瞥を投げてから離れた。
「なんだよー。東弥、それを先言えよ。こっちはヒヤヒヤしたってのに」
話しの内容がサッパリ理解できない。
耳に入ってきているというのに、脳が情報として吸収しない、と言うのが正しいだろうか。
それ以前に自分の事で手一杯だった。
体が熱くて堪らず、どうすればいいのか分からない。ずっと体の中をどす黒い熱の塊にグルグルと掻き回されているような感覚に侵されていた。
「生きてるかー?」
栗栖が俺の目の前で手を振る。
当然俺は何も返せないまま、浅い呼吸を繰り返した。
「おまえら帰れ、こいつ処理するから」
「うぃー」
あっさりと栗栖の一言に従い、パタパタと複数人の足音が去っていく。それを見送った栗栖は俺の脇に腰掛け、俺を見下ろした。
「あいつらに呼び出された? 俺の名前出されて、ノコノコ来たって? ホント馬鹿だな、おまえ」
図星だ。
確かに栗栖に直接呼ばれたわけじゃないけれど、栗栖が呼んでるから来い、と言われて断れるような図太い人間じゃない。
それに、断ることで、栗栖に呼ばれなくなるんじゃないかという考えが頭をよぎってしまったのだから仕方ないのだ。
「俺が直接連絡する時以外は反応するなよ。いいな?」
栗栖は一方的に俺に話しかけて命令を下すと、俺の肌を指先で軽く撫でた。
「―――っ!」
途端に全身に電気が走った。俺の体は水揚げされた魚のようにソファーの上で何度も跳ねる。自分の体ではなくなってしまったかのようだった。
叫びたいのに、声も出ない。すべての筋肉が言うことを聞かない。ただ不随筋のみが俺を動かしていた。
「キツイやつ使いやがって」と毒付いた栗栖は、先ほどまでスポーツ刈りがいたところに陣取ってズボンを前を開けさせると、何度か自分の性器を扱いて、俺の解されたソコに宛がった。
それだけで何度もびくびくと体が痙攣した。
「処女が天国見れるクスリな。間違いなく気持ちよくなれるやつ。ま、依存性はないから心配すんな」
そんなセリフを俺に投げつけた後、栗栖は容赦なく俺の孔に熱杭を喰い込ませたのだった。
その瞬間から俺の意識はぶっ飛んだらしい。何度か目を覚ましたけれど、ほとんど記憶に残っていない。車に乗り、部屋に入るといった断片的な映像だけが残っていた。
気付くと、俺は自宅のベッドに寝ていた。もちろんそこには栗栖の姿はない。
結局、栗栖の事は分からず仕舞い。その上、なぜ栗栖の友人に呼び出されたのかという疑問が増えただけ、という、全く以て面白くない展開になってしまった。
その日は吐き気と眩暈に襲われて、ベッドから立ち上がることも食事を取ることもできない状態だったけれど、翌日には動けるようになり、なんとか近くのコンビニまで行って食料を調達した。
勇士に頼れば、こんな状況に陥った理由を聞かれることは必至。それだけは避けたかった。
「オモチャ、か」
一言だけはっきりと覚えているのがこれだ。
学食でいつものように視線の先にいる栗栖の笑顔を見ながら、独り言ちた。
「お、また東弥のこと見てんの?」
急にかけられた声の主を振り返れば、バーで俺を部屋に招いたチャラ男アルファがそこにいた。
「この前はごめんな? クスリ、ちゃんと抜けた?」
「……ご覧の通り」
「あ、やっぱ怒ってるよな? ちょっと早とちりしちゃってさぁ。あの後、東弥にはみっちり怒られたわ」
チャラ男はあははと笑うと俺の横に座り、何の悪気もない様子で俺に話しかけてくる。
そりゃ怒るに決まってる。酒に薬混ぜるとか、普通じゃない。犯罪の一歩手前だ。
俺はチャラ男に顔も向けず、手元にある茶碗をとって白ご飯を口に運んだ。さっさとどこか行け、と内心思いながら。けれどそれは次の一言で一変した。
「東弥がなんであんな風になったか、気になってんじゃないかって思ったんだけど、違った?」
「え?」
俺はついついチャラ男に目を向けてしまった。そこにはにんまりと笑ったチャラ男のイケメン顔。
非常に悔しい。これは罠だった。
「やっぱりなぁ。知りたい?」
「別に知りたかないし」
「へぇ? 結構意地っ張りだったりするんだ?」
意地っ張りとか言う問題じゃない。俺はおまえの事を敵認識してるんだよ。
俺はチャラ男を軽く睨みつけて、フイと顔を逸らした。
「そう邪険にすんなって。前のお詫びに教えるからさ、東弥のこと」
そう言われて、また振り向いてしまった俺は悔しさにギリと歯を鳴らした。
チャラ男が語ったのは、至極簡単なことだった。
発情期のオメガに襲われかけ、栗栖も発情状態になってしまったのだという。力を持つアルファでなくオメガが襲ってくるなんて、夢にも思わなかった。アルファがオメガのフェロモンの影響を受けやすいというのは知っているけれど、あんな理性を失くした状態にまでアルファを追い込むとは……。
『オメガにも相性がある』
チャラ男はこうも言った。運命の番とは別に、アルファを惹きつける特定の遺伝子を抱えたオメガがいると。それ以外のオメガが発情期になったとしても、全く反応しないらしい。
栗栖の場合、その相性のいい遺伝子を持つオメガが限りなく少なく、アルファの中でも優秀な種なのだという。その栗栖が発情状態に追いやられたことを公にするわけにはいかなかったようだ。
そこで俺をハメ撮り写真で脅して黙らせる予定だったらしい。
栗栖を守るためらしいけれど、巻き込まれたこっちの気持ちにもなって欲しい。
今度、会ったら絶対に謝らせてやる、と心に決めたのだった。
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