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『渡里一希君?』
受話アイコンをタップした後、スピーカーから聞こえてきた声は心地よいテノール。きっと、この声を好きだという人もいるだろう。でも、僕にとっては奥底にしまっていた最悪な記憶を呼び起こすものだった。
手は震え、恐怖がつま先から迫り上がってくる。
「どなた、ですか?」
なのに、僕の口は声を発していた。
通話を切ってしまえば良かったのに、体をじりじりと灼かれるような焦燥感に負けてしまった。
Domを求める本能がその声を覚えていた。命令と褒め言葉を。あの時味わった悦びを。
『久しぶりに会わないかい?』
ゆったりとした口調。しかも電話越しだというのにその甘さに脳が痺れるようだった。
「……どなたですか」
『わからないはずがないだろう? 嘘を吐くなんて悪い子だ。会ってお仕置をしないといけないな。なあ、一希君』
頭の中に木霊するように響く。
自分がその誘いに、はい、と答えたのかよくわからない。でも気付けば出かける準備は終わっていた。ふわふわと気持ちが浮き上がり、体が心が命令を求めて簡単に理性を退けてしまう。
省吾がいてくれたら未来は変わっていたかもしれない。でも省吾はおらず、僕は本能に引きずられるまま家を出た。
待ち合わせはマッチングの見合いをしたホテル。あの場所で心身ともに深く傷つけられたはずなのに、自分から足を運ぶことになるなんて。
ホテルのラウンジには数年前会った時より少し渋みを増したあの男がいた。当時は二十七と言っていたから、すでに三十を超えていて身なりも少し良くなっている。
Domとしてのランクは高く、だからこそ僕の中のSubが惹かれてしまう。ランクが高ければ引く手あまたなはずだというのに、きっと僕を呼んだのはこの人の気まぐれでしかない。
挨拶もなく、こちらに寄越したのは視線のみ。その目配せに従い僕はエレベーターホールへと向かった。
「随分と垢抜けたな」
男は僕の腰に手を回し耳元で囁く。僕は生で聞くテノールに震えた。
早くこの声で命令して欲しい。褒めて欲しい。
薬で抑え付けてきた欲求の枷が外れ、感情が溢れてくる。それと同時に涙が零れた。
「随分と蔑ろにしていたようじゃないか。SubはDomなしでは生きていけない。もっと自分に素直になればいい」
部屋に入れば、男はネクタイを緩めつつ僕を見下ろした。この男が怖いというのに、僕はコマンドを求めて縋るような視線を向けてしまう。
「KNEEL」
その言葉を聞いた途端、全身に電気が走ったようだった。僕は操り人形のように床にしゃがみ込んだ。Glareの圧力により体の自由が利かない。けれどその支配される感覚に恍惚として、意識が宙を漂う。
「Good-Boy。でも、電話で嘘を吐いたから今からお仕置をしよう」
「おし、おき……?」
「そうだ。嬉しいのかい?」
嬉しい?
わからない。ただずっと心臓が痛いほどに高鳴って、男を見上げることしかできなかった。
「LICK。覚えているだろう? やり方は」
男は躊躇なく僕の鼻先に性器を晒し唇に押し付けた。それに対し僕は口を開けることしかできなかった。Glare下においてDomのコマンドはSubにとっては絶対的なもの。
先端をそろそろと舌を這わせ、くびれまで口内に収める。すると、男が僕の髪を掴んだ。
「お仕置だ」
そう言って男は容赦なく腰を打ち付け始めた。いきなり喉の奥に亀頭が押し込まれ反射的に嘔吐くけれど、解放されることはなかった。
「ン……んぐ、ッ」
上顎を擦るように行き来する陰茎。喉を犯され、その度に襲ってくる嘔吐反射と息苦しさに涙が溢れる。助けを求めるように男の脚を掴むけれど、お構いなしに腰は振られた。
まるで道具のような扱い。
ハッハッとまるで犬のような荒い息が部屋に響き、その激しさがピークに達したころ、喉の奥に先端が強く押し付けられた。同時に男のブツが震え、熱く粘り気のあるモノが口内に溢れる。
「……がはッ……ごほ、……ぅ、ぐ」
解放されると同時に僕は床に這いつくばって嗚咽を漏らし、喉に絡むそれを全て吐きだした。
「Good-Boy」
即座に放たれる褒め言葉。まるで自分が行った行動を帳消しにするかのように。でも僕の思考はおかしくて、それをすんなりと受け入れてしまう。しかも、褒められたことに高揚感すら覚えていた。
「次は何をしようか」
悶える僕に対し、薄ら笑いを浮かべるその男。
僕はただ待つしかなかった。厚い唇から紡がれる愛のない命令を。
受話アイコンをタップした後、スピーカーから聞こえてきた声は心地よいテノール。きっと、この声を好きだという人もいるだろう。でも、僕にとっては奥底にしまっていた最悪な記憶を呼び起こすものだった。
手は震え、恐怖がつま先から迫り上がってくる。
「どなた、ですか?」
なのに、僕の口は声を発していた。
通話を切ってしまえば良かったのに、体をじりじりと灼かれるような焦燥感に負けてしまった。
Domを求める本能がその声を覚えていた。命令と褒め言葉を。あの時味わった悦びを。
『久しぶりに会わないかい?』
ゆったりとした口調。しかも電話越しだというのにその甘さに脳が痺れるようだった。
「……どなたですか」
『わからないはずがないだろう? 嘘を吐くなんて悪い子だ。会ってお仕置をしないといけないな。なあ、一希君』
頭の中に木霊するように響く。
自分がその誘いに、はい、と答えたのかよくわからない。でも気付けば出かける準備は終わっていた。ふわふわと気持ちが浮き上がり、体が心が命令を求めて簡単に理性を退けてしまう。
省吾がいてくれたら未来は変わっていたかもしれない。でも省吾はおらず、僕は本能に引きずられるまま家を出た。
待ち合わせはマッチングの見合いをしたホテル。あの場所で心身ともに深く傷つけられたはずなのに、自分から足を運ぶことになるなんて。
ホテルのラウンジには数年前会った時より少し渋みを増したあの男がいた。当時は二十七と言っていたから、すでに三十を超えていて身なりも少し良くなっている。
Domとしてのランクは高く、だからこそ僕の中のSubが惹かれてしまう。ランクが高ければ引く手あまたなはずだというのに、きっと僕を呼んだのはこの人の気まぐれでしかない。
挨拶もなく、こちらに寄越したのは視線のみ。その目配せに従い僕はエレベーターホールへと向かった。
「随分と垢抜けたな」
男は僕の腰に手を回し耳元で囁く。僕は生で聞くテノールに震えた。
早くこの声で命令して欲しい。褒めて欲しい。
薬で抑え付けてきた欲求の枷が外れ、感情が溢れてくる。それと同時に涙が零れた。
「随分と蔑ろにしていたようじゃないか。SubはDomなしでは生きていけない。もっと自分に素直になればいい」
部屋に入れば、男はネクタイを緩めつつ僕を見下ろした。この男が怖いというのに、僕はコマンドを求めて縋るような視線を向けてしまう。
「KNEEL」
その言葉を聞いた途端、全身に電気が走ったようだった。僕は操り人形のように床にしゃがみ込んだ。Glareの圧力により体の自由が利かない。けれどその支配される感覚に恍惚として、意識が宙を漂う。
「Good-Boy。でも、電話で嘘を吐いたから今からお仕置をしよう」
「おし、おき……?」
「そうだ。嬉しいのかい?」
嬉しい?
わからない。ただずっと心臓が痛いほどに高鳴って、男を見上げることしかできなかった。
「LICK。覚えているだろう? やり方は」
男は躊躇なく僕の鼻先に性器を晒し唇に押し付けた。それに対し僕は口を開けることしかできなかった。Glare下においてDomのコマンドはSubにとっては絶対的なもの。
先端をそろそろと舌を這わせ、くびれまで口内に収める。すると、男が僕の髪を掴んだ。
「お仕置だ」
そう言って男は容赦なく腰を打ち付け始めた。いきなり喉の奥に亀頭が押し込まれ反射的に嘔吐くけれど、解放されることはなかった。
「ン……んぐ、ッ」
上顎を擦るように行き来する陰茎。喉を犯され、その度に襲ってくる嘔吐反射と息苦しさに涙が溢れる。助けを求めるように男の脚を掴むけれど、お構いなしに腰は振られた。
まるで道具のような扱い。
ハッハッとまるで犬のような荒い息が部屋に響き、その激しさがピークに達したころ、喉の奥に先端が強く押し付けられた。同時に男のブツが震え、熱く粘り気のあるモノが口内に溢れる。
「……がはッ……ごほ、……ぅ、ぐ」
解放されると同時に僕は床に這いつくばって嗚咽を漏らし、喉に絡むそれを全て吐きだした。
「Good-Boy」
即座に放たれる褒め言葉。まるで自分が行った行動を帳消しにするかのように。でも僕の思考はおかしくて、それをすんなりと受け入れてしまう。しかも、褒められたことに高揚感すら覚えていた。
「次は何をしようか」
悶える僕に対し、薄ら笑いを浮かべるその男。
僕はただ待つしかなかった。厚い唇から紡がれる愛のない命令を。
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