世界で一番優しいKNEELをあなたに

珈琲きの子

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さらりと髪の毛を梳かれるのを感じて、僕は身じろいだ。すると、髪に触れていた手が離れて、「一希?」と声が降って来る。

「……ん、……しょうご?」
「よかった……こら、急いで起きなくていいから」
「でも……」
「いいから」

肩を優しく押し戻され、ぽすんとまた枕に頭を埋めた。省吾の手が伸びてきて、また僕の髪を撫で始めた。

「省吾……」
「ん?」
「今日って……何か予定があるんじゃなかったっけ」
「あー……あったけど、もう必要なくなった……かな」
「そうなの?」
「それに予定あったのは昨日だし」
「え、どういうこと?」
「一希が寝ちゃったから……まあ、俺の所為なんだけどさ」

どこか的を得ない回答に首を傾げる。省吾がはっきり言ってくれないのなら自分で考えるしかない。予定について自力で思い出そうと記憶を巡ってみる。
飲み会で芳光さんのGlareを浴びて、SubDropを起こして、それからこの病院に運ばれて、そこでパートナーを……。

「そうだ、パートナー――あっ、あの人が来て!」

がばっと起き上がると、「ったく」と言われるけどそれどころじゃない。

「……って、あれ?」
「あいつなら帰ったよ。もう絶対に関わらせないから。パートナーも……必要なくなったってことで帰ってもらった」
「必要ない? だって、二人で話し合って……」

納得できないでいると、省吾がなにやら棚に置いてあった封筒を取ってくる。入っている手紙を取り出すと僕に差し出した。その三つ折りになった紙を開けば、それは何かの検査結果で。

「……鷹取、省吾……結果、Dom……?」
「なんか急に発現したんだって……」
「え……これ、本物?」
「間違いなくホンモノ」
「……信じられない。じゃあ、省吾がDom?」
「そーなの」

ポカンと見上げると、省吾は二ッと笑った。

「だから一希のパートナーは俺ってこと」
「……そっか……そう、なんだ……っ……」

手の中にある紙を握りしめる。これは現実なんだと理解した途端、ぽろっと目から雫が落ちた。それをきっかけに止め処なく涙が流れてしまう。

「これから甘やかしまくって、辛いなんて微塵たりと感じさせないから」

省吾の指が下瞼をなぞって涙を拭う。覗き込んでくる眼差しはいつも通り優しくて、Domになったからといって性格が変わるわけではないようだった。

「そのさ、先生から聞いた話、Claimっていうのすると一希がもっと安全になるって言われてさ。早速したいんだけど」

嗚咽を漏らしながらこくこくとたくさん頷くと省吾が僕を片手で抱き寄せた。

「首輪じゃなくてさ、指輪なら準備してたんだよな……」
「指輪……?」
「そー、プロポーズ用に。もし首輪が良いんだったら、」
「指輪で……指輪がいいっ」
「ホントに?」
「本当に!」

じゃあ、と省吾はカバンを手繰り寄せてごそごそと中身を探る。するとよく見る滑らかな青い生地が貼られた四角い箱が。

「就職まだ決まってないから、フライングになるけど」
「うん」
「絶対一希のこと幸せにするから……結婚して下さい」
「はい、喜んで」

開かれた箱には小さなダイヤモンドが埋まった少し太めのリング。緊張で濡れた手が僕の手を握って、それだけで嬉しさが込み上げてくる。
汗凄いんだけど、と緊張を誤魔化す省吾がかわいくて、伏し目がちの顔をじっと見ている間に僕の指には指輪が嵌められていた。

「これで僕は省吾のSub?」
「うん……多分。全然実感ないけど」
「……省吾が不安そうに言わないでよ」
「待って一希。俺なったばっかよ? この結果出たの今日の朝だから。生まれたてのヒヨコさんよ?」
「そういう時は、わかってなくても『うん』っていうものなの」
「……………わかった。もう一回チャンスくれる?」
「うん」

省吾はわざとらしく、ごほん、と咳をしてからしっかりと目を合わせて僕の言葉を待っていた。

「省吾、愛してるよ」
「っ!?」

同じことを素直に言うわけないし。

「それ! 反則!」

省吾のイケメンな顔はみるみる赤くなる。僕はいたずらが成功して口元が緩んで仕方なかった。

高級ホテルでコースを食べた後、なんてことはやっぱりなくて。これが僕たちらしさなのかもしれない。それに、なによりも省吾がDomになったということが僕には一番のプレゼントだった。

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