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しおりを挟むその日の昼には退院できることになり、三日ぶりに家に帰ってこれた。
自分のダイナミクスについて心配することなく省吾と過ごせるなんて思ってもいなかったからそわそわして仕方ない。
「省吾、昼御飯何がいい?」
「いいよ、俺作るし。一希はまた明日から仕事なんだし」
入院に持っていっていた荷物を洗濯機に投げ込みながら聞くと、省吾は僕の背中をポンポンと叩いてキッチンに入って行った。
「そうだった」
「良かったな。なんだか一気に問題が解決したって感じで」
「うん」
「ほら、病み上がりなんだし、そっち座って待ってて、あり合わせだけどちゃちゃっと作るし」
省吾に促されてソファーに座る。テレビを付ければ、一気に日常が戻って来たように感じた。背後でカチャカチャトントンと料理を作ってくれる音に安心する。
でも先ほどから感じているそわそわ感が落ち着かず、クッションを抱きしめて顔を埋めた。
どうしよう。
浮かれているのかと思っていたけれど、多分軽い禁断症状。嬉しくて抑制剤を飲むのを忘れていた。昨日気を失ってから、もう丸一日服用してないことになる。それに、もう抑制剤はいらないって貰ってこなかったし……。
退院時間まで先生から本を借りて色々と読んでたみたいだけど、省吾は僕がSubであることをどう思ってるんだろう。理性を失くしてあんなふうにはしたない姿を晒してしまったこと、気持ち悪いって感じなかったかな……。
「一希?」
「えっ」
「ご飯、できたけど……どうかした?」
「なんでも――」
「なんでもないなんて顔してないけど?」
「…………」
省吾が黙っている僕の横に腰を下ろして顔を覗き込んでくる。
「もしかして、症状でてきた?」
「……うん」
小さく頷きつつ返事をすると、省吾はふう、と大きく息を吐いた。それから膝の上で握りしめていた僕の手をそっと握った。
「しよっか」
「……いいの?」
「当然。で、一希はさ、どのコマンドが好きなの?」
「す、好き? そんなの、ないかも……」
今までGlareで強制されたコマンドしか知らないし、こんなこと訊かれるとも思っていなかった。
「でも、KNEELって言われると、力が抜けてふわふわするかも……」
「跪け、ね……やってみる?」
「うん……」
省吾からコマンドを貰えるって考えるだけで胸がバクバクと煩く音を立てる。全身の感覚が省吾の方を向いているみたいだった。
「KNEEL」
省吾の口から零れたのはコマンドというよりお願いに近いもの。でも確かにそれは力を持っていて、僕にそうさせたいと思わせるものだった。
ストンと床に腰を落として、ソファーに座ったままの省吾を見上げる。省吾にどう思われるのか、こんな自分を見て軽蔑しないかって、そんな不安な気持ちがあった。
「一希、Good-Boy」
省吾が目を細めてそう言った。蔑みなど微塵も感じない笑顔。
その時、ぶわりと体の芯から熱いものが溢れ出してきた。心から満たされる感覚。もっと味わいたい、もっとコマンドが欲しいと省吾に縋るような眼差しを向けてしまう。
すると、省吾は「あぁあ゛~~」と変な声を出して、頭を抱えて仰け反った。
「省吾……? やっぱり」
「わかった。今わかったDomの気持ち。ヤバい。これはヤバい」
「どうしたの……?」
「ごめん、ちょっと理性飛びそうだった」
よくわからないけど省吾は自己完結させたらしい。もう一度大きく「はあああ」とため息をつくと、気持ちを切り替えたのか、パチンと自らの頬を両手で挟むようにして叩いた。
「おし! でも跪くじゃないんだよな、多分、KNEEL」
お座り。
僕は床にペタンと座り込んだまま、何をしたらいいのかと首を傾げた。すでにKNEELの体勢になっているのに。
「違うって、こーこ」
と省吾が叩いたのは……、
「膝?」
「イヤ?」
「……ううん、イヤじゃないよ」
立ち上がって、省吾の言葉の通り、膝にちょんと腰かけた。するとすぐさま僕の頭に手が伸びてきてGood-Boyと撫でてくれた。
どうしよう。たまらなく嬉しい。ずっと胸の真ん中がほこほこと温かい。こんな感覚になるなんて思わなかった。
「ほら、やっぱりこっちの方がしっくりくるだろ? 一希と同じ目線の高さで、それに――」
口元でちゅっと音が立った。それはもちろんキスで……。
「キスもしやすいし、こうやってピッタリ引っ付ける」
省吾はいきなりのキスに顔を上気させる僕を気にも留めず、僕の頭に手を添えて胸に引き寄せた。先日不安でたまらなかった時、僕にしてくれたのと同じ体勢だった。自然と体から力が抜けて、全身を省吾に預けてしまう。
「どう?」
「ぅん……」
体が浮いたみたいにふわふわする。今まで感じたことのない充足感。省吾の服をキュッと握って目を瞑れば、意識がとろとろに融けていくみたいだった。
「甘えたになっちゃうの?」
「……うん」
「気持ちいい?」
「うん……」
「一希、KISS」
「……コマンドいらないのに……」
省吾の頬に手を添えて軽く唇に吸い付くと、省吾の指が後ろ髪を撫で上げた。一度離れた唇が角度を変えて交わる。舌か絡み合えばその粘膜の熱さにクラクラする。くちゅりと音を立てながら何度も唇を合わせ、顔を離した時には二人とも息が上がっていた。
自然と誘われるように抱き合って、省吾の首に顔を埋める。
「シたい」
耳元の囁きに、背中をぞくぞくとした甘い痺れが駆け上がり体が自然と震えた。小さく「うん」と返事すれば、省吾がそのまま僕を抱き上げて、寝室へと運んでくれた。
「STRIP。自分でできる?」
省吾の命令は聴覚を直接撫でられているかのように体に沁み込んでくる。とてもとても甘い誘惑。
指に力が入らなくて手間取りつつボタンをはずしていると、すでに服を脱いでしまった省吾が手伝ってくれる。僕のズボンを引き抜くと省吾はまた僕の頭を撫でた。
「Well-Done」
「……省吾、あのね」
「ん?」
「気持ち悪くない?」
「……気にしてたの? あの時のこと」
「うん……」
「全然。一希のエロい姿は俺にとってご褒美。あいつの前でってのは気に入らなかったけど」
「本当?」
「ホント。そっか、なら、PRESENT、一希の恥ずかしい所」
省吾の視線に晒される中、自分で下着を下ろす。こんなにじっくり見られることなんて今までなくてすごく恥ずかしい。でも省吾になら見られてもいいから。
下着を床に落として、閉じていた膝を開ける。多分M字開脚っていうもの。意識したこともなかったのにそう考えると妙にいやらしい恰好をしているように感じてしまう。
「ほら、後ろまで見えてる。わかる?」
内腿に触れた指がゆっくりゆっくりと肌をなぞる。それがいつも省吾を受け入れている場所に到達すると全身がカッと上気する。
「ぁ、ぁっ……はずかし……」
「自分で触ってみる? ここと、ここも」
僕の性器とおしり。省吾が僕の両手を促すようにそっと導いた。コマンドじゃないのに、省吾の言葉が全部そう聞こえてしまう。省吾の言ったことすべてに従いたい。そんな欲求に駆られていた。
いつも使っているローションを垂らされる。いつものことなのにそれすら卑猥に見え始めて、心臓が破裂しそうに鼓動を速めていた。手を上下に動かせば粘着質な水音が部屋に響く。
「あぁ……ん、ン」
後ろにも指を入れてみるけれど、前を触りながらうまく動かせないもどかしさに、省吾を仰いだ。
「ぁ、省吾、できないの……っ」
「こっちは難しい?」
「……っ……あっあっ、」
視線を投げてくるだけだった省吾が僕の指の横からゆっくりと指を差し込んだ。それだけでなくお手本のように僕の指を支えつつ一緒に中を解し始める。
「あ、あっ……そこ、だめっ」
昂った体は一瞬で刺激を快感に変えてしまい、先端から先走りが零れはじめるのはあっという間だった。何度も中にあるしこりを弄ばれる。内腿が震えて、すぐにでも達しそうだった。
「あー、かわいー……」
「……しょうご……っ」
「入れていい? 一希ン中、入りたい」
軽い口付けと共に指を抜かれる。即座に宛がわれたのはぱんぱんに張り詰めて固くなった怒張。それが僕の返事を待たずに押し込まれた。DomとしてSubを支配したいという欲求があるのか、どこかいつもとは違う性急さ。
でも、全く嫌じゃなかった。省吾も僕を求めてくれているとわかるだけで嬉しい。
「ぁ、あー……おおき、ぃ……っ」
「ごめ……止まんない」
内壁を掻き分けて容赦なく奥へ奥へ入ってくる熱。太腿を広げたまま抑えつけられ、上から圧し掛かるように激しく中を穿たれた。
「ああ、あっ……い、イくっ、ぁっ、やぁ……っ」
一瞬で昇りつめて、省吾に押さえつけられたままガクガクと痙攣する。頭が真っ白になるような快感。そして、省吾に支配されているという恍惚感。Subの本能も僕の心も同時に満たしていく。
腰が強く押し付けられ、最奥で省吾が震える。吐き出されたとろりとした熱が中に広がり、得も言われぬ幸福感に浸った。
「ん、ぁ……しょうご……」
「一希……愛してる」
汗で濡れた体を抱きしめあって、一つになれた歓びを噛みしめる。きっとこの感覚は他のDomでは得られなかった。省吾という僕が愛する人だからこそ味わえる快楽。
「僕も、愛してる」
想いを確かめ合うように、僕たちはまた口づけを交わした。
「一希、KNEEL」
僕がそわそわし始めると、省吾はすぐに感じ取ってこう言ってくれる。
だからもう不安になることはない。
それは世界で一番一優しく僕を包んでくれるKNEELなのだから。
END
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