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1章 異世界の魔王 一つ目の危機

7話 目覚めたぜ 魔王の娘

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「えっと・・・私、変なこと言っちゃいましたか?」

 まずいな。
 魔王の娘が、目を覚ましてしまった。

「おーい、リーサ。いい加減正気に戻れ~」

「ふ、ふ~ふ」

 リーサは夫婦という単語を聞いてから、まるで壊れた機械のように「ふ~ふ」としか言わなくなってしまった。

 全く、どっかの国のお姫様だろ。
 頼むからしっかりしてくれよ。

 さて、リーサがアテにならない以上は、俺が何とかするしかないよな。

 意を決して、魔王の娘であるウルリルちゃんに話しかけてみるか。


「ウルリルちゃん、だっけ? 俺はカイ。こっちはリーサだ。よろしくね」

「ウルリル・キュベリアルグと言います。宜しくお願いします」

 ご丁寧にお辞儀までしてくれた。
 しかも85°くらいのなかなか見れない、凄い角度のお辞儀だ。

 こんなに礼儀正しいんだ。
 この子は、良い子に違いない。

 魔王城のことは誤魔化そうと思ったが、こんな子に嘘はつけないよな。
 正直に話そう。

「ごめん、ウルリルちゃん! 俺は君のお父さんを倒してしまったんだ・・・本当に済まない」

 ウルリルちゃんは目を白黒させている。

 やっぱりショックが大きかったか。

「カイさんはすごいですね! 父を倒したなんて!」

 え? 何この反応?

「俺は君のお父さんを殺しちゃったんだよ? 恨んだり、怒ったりしないの?」

「少しだけ寂しい気もしますが、父とはほとんど会ったこともないです。何より父を倒せるほどの強さをお持ちの方に会えて、とても嬉しいです!」

 お、おう。そっかそっか。

 これが魔族にとって当たり前の反応なのか?
 それとも強がって演技してるのか?

 にしては、笑顔に嘘っぽさがないんだよなー。

「ハッ。夫婦と間違われた程度で騙されないわよ!」

 リーサが復活した。
 時間かかったなー。

「カイさんとリーサさんは、ご夫婦じゃないんですか?」

 いやいやいやいや。

「断じて違う」
「ちょっと違うわ」

 リーサ、ちょっとって何だ、ちょっとって。



 それから30分かけて、今までのことを説明した。

 今日あったばかりで夫婦はないだろ。

 いや、世の中そういう夫婦もいるにはいるけどな。
 交際0日婚だっけ? 俺には無理そうだ。


「なるほど。モンスターを召喚されたことで、魔王城から脱出できたんですね。まるでお伽噺みたいで、とっても面白かったです」


 ウルリルちゃんは俺の話を聞いている間、目をキラキラと輝かせていた。
 子供が英雄の冒険譚を聞いているときのような、そんな眼差しだった。


「魔王・・・君のお父さんが、お母さんのところまで君を届けてほしいって言っていたんだ。ユニカレア王国の王女、セシーラさんって分かるかな?」


 ちなみに人名とか国名とか、全く覚えていなかったのでセラファルに聞いた。
 一回言われた程度じゃ、覚えるのはきついからな。


「確かに、セシーラは私の母です。しかし、母は2年前に亡くなっています。父が知らないはずはないと思いますが、墓参りに行けということでしょうか?」


 なに?

 あの魔王、騙したのか。

 最初からウルリルちゃんを俺に押しつける気だったんだな。

 してやられた。


「そうだったんだね。ウルリルちゃん、他に家族はいるかい?」

「いません」

「親戚は?」

「いません」

「親しいお友達とか、お世話をしてくれそうな人は?」

「多分・・・いません」


 ウルリルは魔王城から出たことがなかったそうだ。
 魔王の娘だから知り合いの魔族は何名かいるが、みんな一度か二度しか会ったことがないそうだ。

 当然、友達とかもいない。


 そうか。それなら仕方ない。


「分かった。じゃあウルリルちゃん、しばらくは俺たちと一緒に行動しようか。君はまだ子供だからね」

「えっ? 子供じゃないですよ! 今日大人になりました! 一人でも大丈夫ですよ」


 今日成人したのか!?

 いや、見た目は10歳くらいに見える。
 いくらなんでも、20歳はたちじゃないだろ。


「あ、カイさんは別の世界からいらしたんでしたよね。この世界での成人は12歳なんです。そして私は今日、12歳になりました」


 なるほど。

 こっちの世界には俺が知らない常識がある。
 これからは、自分の持つ常識にとらわれないように気をつけよう。


「そっか、誕生日おめでとう。でも、俺にとってはまだ子供に思えるし、何より女の子が一人で行動するのは危険だろ?」

「うう。子供っぽいですか?」


 ウルリルの目から今にも涙がこぼれそうになっている。
 しかも上目遣いで。

 やばい、破壊力がありすぎる!


「カイ、一人で大丈夫って言ってるんだから、ここで別れればいいじゃない。何度も言うけど魔族は危険なのよ」

 リーサ、お前は鬼か?

 しかしまあこの世界の人たちにとっては、リーサの考えが普通なのだろう。


「な、なんでそんな残念な子を見るような目をしてるの!? 私なにかやった!?」


 とりあえず、こっちはほっとこう。


「ウルリルちゃん。俺が育った国では君はまだまだ子供なんだ。だから俺の良心的なものが、君を一人にすることに抵抗があるみたいなんだ。それに魔王から君のことを宜しくって頼まれたからね」

 ほぼ押し付けられたが、ウルリルちゃんはこんなに良い子なんだ。
 面倒を見るくらい、些細なことだな。


〈あれ? マスターが育った国では、マスターもまだ成人ではなかったような・・・〉


 ん? 俺が自分の年齢を棚に上げてるって?

 ははっ、何のことだか。


「わ、分かりました! カイさんとリーサさんについて行ってもいいですか?」

「もちろんだ。これから宜しく」

「私はいやー」

「おいリーサ、お前を置いていこうか?」

「え!? ご、ごめん。こんなところで一人にされたら、死んじゃうわ。ごめんなさい。文句は言わないんで連れて行ってください」


 お、素直に謝ってきたか。
 それなら許そう。

 リーサもまだ子供だし、最初からリーサを放置する気もなかったがな。

 あ、ごめん嘘だ。ちょっとだけそういう気持ちも湧いてきていた。うん。


 とりあえず3人で行動することが決まった。


 だが、ひとまず先に解決しなきゃいけない問題があるようだ。


〈マスター、敵襲です! 構えてください!〉


 誰だか知らないが、水を差しやがって。

 いいだろう、こっちはレベルアップして人間やめたようなものだ。

 返り討ちにしてやろうじゃないか!




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