31 / 56
少年期・学園編
2-18 魔王様、朝チュンを迎える?
しおりを挟むふにっ。
「ふにっ?」
右手に感じられたのは柔らかな感触。
触り心地は人の肌に似ていた、というより人の肌だろう。
「あんっ」
タイミングを見計らったかのように、女の子の嬌声が漏れる。
俺は寝ぼけ眼をこすりながら、俺のベッドに入り込んだ何かを確認した。
「おい、ララ。何をしてるんだ?」
「何って、ナニ? 同衾?」
「そんな言葉どこで覚えた!?」
俺は自分の身体を見て、上も下も何も着ていないことを確認してしまった。
先に断言しておくが、いくら暑い日でも俺は全裸で寝るようなまねはしない。
最低でも下着くらいは着用して寝る。
次に隣で欠伸をしているララを見る。
起き上がっている彼女は、最悪なことに何も着ていない様子だった。
「カレン!」
「ニャ、ニャ!(はい、魔王様!)」
「まさか、俺とララはヤっちゃったのか?」
「ニャー、ニャニャン(いいえ、ララさんの偽装工作ですわ)」
焦った俺はすぐさまカレンに事実確認を取り、いたしなかったことを知ってホッと息をついた。
「あー、カレンちゃんいたからバレちゃったのかー。せっかく起こさないように苦労して脱がせて同衾したフリしたのに」
これからは夜から朝まで部屋に魔法で結界を作っておこう。
俺の身が危ない。
「ララ、既成事実を作ろうとするのはやめてくれ。俺たち兄妹なんだぞ?」
「お兄ちゃん、今はいとこだから大丈夫だよ! それにこの国では兄妹でも結婚できるんだよ!」
「この国の法律とかじゃなくて、日本の倫理観とか道徳とかを思い出して欲しいんだがなぁ」
俺がララに対してボヤいていると、プリュムが部屋のドアを開けてしまった。
プリュムから見たら俺とララが裸でベッドの上。
つまりそういう風に見えてしまうだろう。
「エルリック様、申し訳ありません! 失礼致します!」
「いや、ちょ、プリュム・・・」
俺が弁明する前に、部屋を飛び出して行ってしまったプリュム。
「ごめん、こじれちゃった?」
「いいからさっさと服を着てくれ。俺はあっち向いてるから」
この後プリュムの誤解を解くために、一時間以上を費やすことになってしまったが、何とかなって良かった。
◇
「さて、今日みんなに集まってもらったのは事前に説明した通り交流戦(?)とかいうのがあるからみんなで鍛えようと思ったからだ。ここまでで質問ある人?」
「はいですわ! 私は事前に説明されていませんわよ!? どういうことか説明していただけませんこと? せっかくエルリック様と二人っきりになれると思いましたのに」
ここは学生たちが使える練習場だ。
練習場では学生たちが身につけた技を磨いたり、新しい魔法を練習したりと、修行のために使うことができる。
ちなみに、四人以上いれば貸切も可能だ。
練習場は他にもたくさん設けられていて、貸切でなければ学生たちは頻繁に使っている。
要はみんなを練習場に呼び出して鍛えようということだ。
みんなというのは今回の受験で10位までにランクインしてしまったマクシュガル家七名と、運悪く交流戦に巻き込まれた三名だ。
巻き込まれたのはココレラ、セニャ、イリシアだな。
ちなみにイリシアには「後で25番の練習場に来てくれ」と耳元で囁いといただけで何の説明もしていない。
だがまあ、彼女はスルー安定でいいだろう。
「質問が無いようなので次の説明だ。これからみんなにはある程度強くなってもらう。流石に上級生たちに一対一で勝てとまでは言わないが、二対一にうまくもっていくとか、戦略も考えていこうと思う。だが、まずは戦略よりも戦力の強化を図るぞ。魔法と武力、どちらを伸ばすか考えてみてくれ」
「無視ですの!? 私の扱いが酷くありませんこと!?」
そうそう、イリシアはプリュムにきちんと謝罪したらしい。それをきっかけに、色々と話すようになったらしく、今では二人はすっかり友達になっている。
うんうん、仲良きことは良き哉。
「エルリック様、私はもっと魔法を強化したいです。今は治癒魔法メインで教えていただいてますが、やはり戦力になるためには攻撃魔法も必要だと思います」
「あー、プリュムはちょっとなー」
実はプリュムは既に十分強くなっている。
なんか調子に乗って鍛え過ぎてしまい、今は非殺傷の治癒魔法を教えて我慢してもらっているところだ。
プリュムはもう才能の塊と断言できるほど、教えること教えることスポンジみたいに吸収してできるようになるのだ。
今のプリュムが本気を出せば、レクレイスター王都を壊滅させるくらいはできるようになってしまった。
広範囲殲滅魔法を覚えさせた過去の自分を殴りたい。やり過ぎだ。
「プリュム。正直に言うと、お前はあかんレベルに達している。いつも言っているように、広範囲の攻撃魔法は使っちゃダメだぞ」
「ではエルリック様、私に武術をご教授願えませんか? あの、剣はちょっと怖いので、できれば槍術をお願いしたいです」
「お、それくらいならいいぞ! じゃあ交流戦は槍の発表会みたいに思って頑張ろう!」
「はい!」
プリュムに教えるのは、槍だな。
アイリスは剣一筋だからいいとして、ケリャも剣技を教えてあげれば大丈夫だろう。
メリーナには予め魔法を教えることが決まっている。
よしよし、次はミルシャかな。
「ミルシャは何をしたい? 魔法以外でもいいぞー」
「ボクね、兄さまみたいなキラキラまほうが使いたい! ダメ、かな?」
可愛い妹よ、そんな目をキラキラさせてお兄ちゃんを見つめないでくれ。
「んー、困ったなー。魔法適性があるからなー。難しいところではあるんだが・・・」
ミルシャには水魔法しか適性が無く、他の魔法は全然使えない。
これは生まれたときに決まってしまうもので、後から適性を追加するにはスキルオーブと呼ばれるもので適性を増やすしかないのだ。
と、なんかの本で読んだ。適性については、俺は勉強不足だったからミルシャの一件以来急いで調べておいた。
「兄さまでも、できない?」
涙目で見つめてくるミルシャ。
もう、そんな顔されたら断れないじゃないか。
「よし、お兄ちゃんに任せろ! ミルシャの魔法適性を増やしてやるからな!」
「ほんと!? 兄さますごい! ボク、兄さま大好き!」
このこのー! 愛いやつよのう!
「エルリック様。お喜びのところ水を差しますが、魔法適性を増やすことはスキルオーブしか不可能ですよ。一つ買うだけで白金貨が飛ぶと言われているスキルオーブをどうやって入手するおつもりですか?」
「ちょっとセニャ! 貴女が余計なこと言ったら私まで印象悪くなるでしょ!」
いや、ココレラ。もうお前が腹黒いことは知ってるからな。
「スキルオーブくらい何とかして手に入れる。ミルシャは、お兄ちゃんを信じるよなー?」
「うん! ボク、しんじて待ってるよ!」
「はあ、呆れました。妹のために馬鹿高いスキルオーブを入手しようとするとは、とんだシスコンですね」
「ちょっとセニャ~! それ以上エルリック様の悪口言わないでよ~!」
シスコン、なんかグサリと心に刺さるな。
その通りなだけに・・・開き直ろうかな?
さて、ミルシャはスキルオーブで適性増やして、色とりどりの魔法を教えるということでいいな。
ララはどうしようか。
「ララは魔力と武力、どっちを高めたい?」
「エルリック君と結婚したいです」
「いや、それは聞いてないんだが」
朝の一件を放り込んできたか。
なかなかやりおるな。って、感心してどうするんだ俺。
「そうですねー。エルリック君が覚えているものをいっぱい教えて欲しいです。後で私のスキルを教えるので、意味が理解できると思いますよ」
「そうか。じゃあ魔法も武術もどっちもって感じかな。次にココレラとセニャ。どうしたい?」
「エルリック様の素晴らしい技術を教えていただけるだけで有難いです。ちょっぴり欲を言うと、武術は怖いので魔法がいいかな、と思っちゃっています」
「姫様、エルリック様は虫唾が走っていると思いますよ。素直に魔法も武術も両方教えてくださいと言ったらどうですか。どうせ魔法が上達したら『エルリック様のお陰で魔法が上手になりました! とっても嬉しいので武術も頑張りたくなってきちゃいました。あと、もうちょっとエルリック君と一緒にいたいんです・・・』とか言うんですから」
「セニャ!? 私のエルリック様籠絡作戦をどうしてセリフまで読んでいるの!?」
当たってたんかい。
流石、セニャは侍女をやっているだけあるなー。
「まあココレラは両方だな、分かった。セニャはどうする?」
「武術メインで鍛えていただきたく思います。できれば魔法強化を使った戦い方も教わりたいですね」
セニャは魔法混合型の近接武術だな。
身体強化魔法や、防御魔法をうまく活用しながら戦わなきゃいけないので、頭の回転が早くないと使いこなせないが、彼女なら大丈夫だろう。
もちろん俺が使えるのは、脳内で高速処理ができるスキルを持っているからだ。じゃないと頭が追いつかないからな。
「了解、それくらい楽勝だ。もうちょい難しい注文でも教えられると思うから、遠慮なく言ってくれ」
「本当に多才で性格も悪くありませんね。優良物件過ぎて怖いくらいです。姫様が落としたいのも分かりますが、彼を婚約者候補にしたいのですか?」
「え? いや、エルリック様はいい人だと思うけど、まだそういう気持ちはないよ。なんか私の魅力に落ちない男性が初めてだから、どうにかして籠絡させたいと思ってるだけだから。まあカッコいいとは思うけどさ、相手はまだ五歳だから」
「あー、そうでしたね。もはや大人と会話している気分でしたよ。私まで貰ってもらおうかとか考えてしまいました」
おいおい、小声で話しているようだが、こっちはスキルかなんかのせいで丸聞こえなんだよな。
俺はどんな反応したらいいんだ、全く。
「最後は私ですわね!」
「あ、イリシアはハードトレーニングを既に用意しているぞ。もちろん魔法も剣もたっぷり教えてやるから泣いて喜べ」
一度は泣くことになるだろうな。
「ひぃっ! なんか怖いですわよ! それって絶対に辛いやつですわ!」
うん。まあ他の人より辛いだろうな。
「罰だと思って頑張れ」
「私だけ扱いが酷過ぎますわぁぁぁ!!」
イリシアの悲痛な叫びが上がる中、上級生との交流戦に向けて修行を始めるエルリックたちであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる