魔王やめて人間始めました

とやっき

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少年期・学園編

2-18 魔王様、朝チュンを迎える?

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 ふにっ。


「ふにっ?」


 右手に感じられたのは柔らかな感触。

 触り心地は人の肌に似ていた、というより人の肌だろう。

「あんっ」

 タイミングを見計らったかのように、女の子の嬌声が漏れる。

 俺は寝ぼけ眼をこすりながら、俺のベッドに入り込んだ何かを確認した。


「おい、ララ。何をしてるんだ?」

「何って、ナニ? 同衾?」

「そんな言葉どこで覚えた!?」

 俺は自分の身体を見て、上も下も何も着ていないことを確認してしまった。
 先に断言しておくが、いくら暑い日でも俺は全裸で寝るようなまねはしない。
 最低でも下着くらいは着用して寝る。

 次に隣で欠伸をしているララを見る。
 起き上がっている彼女は、最悪なことに何も着ていない様子だった。

「カレン!」

「ニャ、ニャ!(はい、魔王様!)」

「まさか、俺とララはヤっちゃったのか?」

「ニャー、ニャニャン(いいえ、ララさんの偽装工作ですわ)」

 焦った俺はすぐさまカレンに事実確認を取り、いたしなかったことを知ってホッと息をついた。

「あー、カレンちゃんいたからバレちゃったのかー。せっかく起こさないように苦労して脱がせて同衾したフリしたのに」

 これからは夜から朝まで部屋に魔法で結界を作っておこう。
 俺の身が危ない。

「ララ、既成事実を作ろうとするのはやめてくれ。俺たち兄妹なんだぞ?」

「お兄ちゃん、今はいとこだから大丈夫だよ! それにこの国では兄妹でも結婚できるんだよ!」

「この国の法律とかじゃなくて、日本の倫理観とか道徳とかを思い出して欲しいんだがなぁ」

 俺がララに対してボヤいていると、プリュムが部屋のドアを開けてしまった。

 プリュムから見たら俺とララが裸でベッドの上。

 つまりそういう風に見えてしまうだろう。

「エルリック様、申し訳ありません! 失礼致します!」

「いや、ちょ、プリュム・・・」

 俺が弁明する前に、部屋を飛び出して行ってしまったプリュム。

「ごめん、こじれちゃった?」

「いいからさっさと服を着てくれ。俺はあっち向いてるから」

 この後プリュムの誤解を解くために、一時間以上を費やすことになってしまったが、何とかなって良かった。





「さて、今日みんなに集まってもらったのは事前に説明した通り交流戦(?)とかいうのがあるからみんなで鍛えようと思ったからだ。ここまでで質問ある人?」

「はいですわ! あたくしは事前に説明されていませんわよ!? どういうことか説明していただけませんこと? せっかくエルリック様と二人っきりになれると思いましたのに」

 ここは学生たちが使える練習場だ。
 練習場では学生たちが身につけた技を磨いたり、新しい魔法を練習したりと、修行のために使うことができる。

 ちなみに、四人以上いれば貸切も可能だ。
 練習場は他にもたくさん設けられていて、貸切でなければ学生たちは頻繁に使っている。

 要はみんなを練習場に呼び出して鍛えようということだ。
 みんなというのは今回の受験で10位までにランクインしてしまったマクシュガル家七名と、運悪く交流戦に巻き込まれた三名だ。
 巻き込まれたのはココレラ、セニャ、イリシアだな。

 ちなみにイリシアには「後で25番の練習場に来てくれ」と耳元でささやいといただけで何の説明もしていない。
 だがまあ、彼女はスルー安定でいいだろう。

「質問が無いようなので次の説明だ。これからみんなにはある程度強くなってもらう。流石に上級生たちに一対一で勝てとまでは言わないが、二対一にうまくもっていくとか、戦略も考えていこうと思う。だが、まずは戦略よりも戦力の強化を図るぞ。魔法と武力、どちらを伸ばすか考えてみてくれ」

「無視ですの!? あたくしの扱いが酷くありませんこと!?」

 そうそう、イリシアはプリュムにきちんと謝罪したらしい。それをきっかけに、色々と話すようになったらしく、今では二人はすっかり友達になっている。
 うんうん、仲良きことは良きかな

「エルリック様、私はもっと魔法を強化したいです。今は治癒魔法メインで教えていただいてますが、やはり戦力になるためには攻撃魔法も必要だと思います」

「あー、プリュムはちょっとなー」

 実はプリュムは既に十分強くなっている。
 なんか調子に乗って鍛え過ぎてしまい、今は非殺傷の治癒魔法を教えて我慢してもらっているところだ。

 プリュムはもう才能の塊と断言できるほど、教えること教えることスポンジみたいに吸収してできるようになるのだ。
 今のプリュムが本気を出せば、レクレイスター王都を壊滅させるくらいはできるようになってしまった。

 広範囲殲滅魔法を覚えさせた過去の自分を殴りたい。やり過ぎだ。

「プリュム。正直に言うと、お前はあかんレベルに達している。いつも言っているように、広範囲の攻撃魔法は使っちゃダメだぞ」

「ではエルリック様、私に武術をご教授願えませんか? あの、剣はちょっと怖いので、できれば槍術をお願いしたいです」

「お、それくらいならいいぞ! じゃあ交流戦は槍の発表会みたいに思って頑張ろう!」

「はい!」

 プリュムに教えるのは、槍だな。

 アイリスは剣一筋だからいいとして、ケリャも剣技を教えてあげれば大丈夫だろう。
 メリーナにはあらかじめ魔法を教えることが決まっている。

 よしよし、次はミルシャかな。

「ミルシャは何をしたい? 魔法以外でもいいぞー」

「ボクね、兄さまみたいなキラキラまほうが使いたい! ダメ、かな?」

 可愛い妹よ、そんな目をキラキラさせてお兄ちゃんを見つめないでくれ。

「んー、困ったなー。魔法適性があるからなー。難しいところではあるんだが・・・」

 ミルシャには水魔法しか適性が無く、他の魔法は全然使えない。
 これは生まれたときに決まってしまうもので、後から適性を追加するにはスキルオーブと呼ばれるもので適性を増やすしかないのだ。

 と、なんかの本で読んだ。適性については、俺は勉強不足だったからミルシャの一件以来急いで調べておいた。

「兄さまでも、できない?」

 涙目で見つめてくるミルシャ。
 もう、そんな顔されたら断れないじゃないか。

「よし、お兄ちゃんに任せろ! ミルシャの魔法適性を増やしてやるからな!」

「ほんと!? 兄さますごい! ボク、兄さま大好き!」

 このこのー! いやつよのう!

「エルリック様。お喜びのところ水を差しますが、魔法適性を増やすことはスキルオーブしか不可能ですよ。一つ買うだけで白金貨が飛ぶと言われているスキルオーブをどうやって入手するおつもりですか?」
「ちょっとセニャ! 貴女が余計なこと言ったら私まで印象悪くなるでしょ!」

 いや、ココレラ。もうお前が腹黒いことは知ってるからな。

「スキルオーブくらい何とかして手に入れる。ミルシャは、お兄ちゃんを信じるよなー?」

「うん! ボク、しんじて待ってるよ!」

「はあ、呆れました。妹のために馬鹿高いスキルオーブを入手しようとするとは、とんだシスコンですね」
「ちょっとセニャ~! それ以上エルリック様の悪口言わないでよ~!」

 シスコン、なんかグサリと心に刺さるな。
 その通りなだけに・・・開き直ろうかな?

 さて、ミルシャはスキルオーブで適性増やして、色とりどりの魔法を教えるということでいいな。
 ララはどうしようか。

「ララは魔力と武力、どっちを高めたい?」

「エルリック君と結婚したいです」

「いや、それは聞いてないんだが」

 朝の一件を放り込んできたか。
 なかなかやりおるな。って、感心してどうするんだ俺。

「そうですねー。エルリック君が覚えているものをいっぱい教えて欲しいです。後で私のスキルを教えるので、意味が理解できると思いますよ」

「そうか。じゃあ魔法も武術もどっちもって感じかな。次にココレラとセニャ。どうしたい?」

「エルリック様の素晴らしい技術を教えていただけるだけで有難いです。ちょっぴり欲を言うと、武術は怖いので魔法がいいかな、と思っちゃっています」

「姫様、エルリック様は虫唾が走っていると思いますよ。素直に魔法も武術も両方教えてくださいと言ったらどうですか。どうせ魔法が上達したら『エルリック様のお陰で魔法が上手になりました! とっても嬉しいので武術も頑張りたくなってきちゃいました。あと、もうちょっとエルリック君と一緒にいたいんです・・・』とか言うんですから」

「セニャ!? 私のエルリック様籠絡作戦をどうしてセリフまで読んでいるの!?」

 当たってたんかい。
 流石、セニャは侍女をやっているだけあるなー。

「まあココレラは両方だな、分かった。セニャはどうする?」

「武術メインで鍛えていただきたく思います。できれば魔法強化を使った戦い方も教わりたいですね」

 セニャは魔法混合型の近接武術だな。

 身体強化魔法や、防御魔法をうまく活用しながら戦わなきゃいけないので、頭の回転が早くないと使いこなせないが、彼女なら大丈夫だろう。

 もちろん俺が使えるのは、脳内で高速処理ができるスキルを持っているからだ。じゃないと頭が追いつかないからな。

「了解、それくらい楽勝だ。もうちょい難しい注文でも教えられると思うから、遠慮なく言ってくれ」

「本当に多才で性格も悪くありませんね。優良物件過ぎて怖いくらいです。姫様が落としたいのも分かりますが、彼を婚約者候補にしたいのですか?」
「え? いや、エルリック様はいい人だと思うけど、まだそういう気持ちはないよ。なんか私の魅力に落ちない男性が初めてだから、どうにかして籠絡させたいと思ってるだけだから。まあカッコいいとは思うけどさ、相手はまだ五歳だから」
「あー、そうでしたね。もはや大人と会話している気分でしたよ。私まで貰ってもらおうかとか考えてしまいました」

 おいおい、小声で話しているようだが、こっちはスキルかなんかのせいで丸聞こえなんだよな。

 俺はどんな反応したらいいんだ、全く。


「最後はあたくしですわね!」

「あ、イリシアはハードトレーニングを既に用意しているぞ。もちろん魔法も剣もたっぷり教えてやるから泣いて喜べ」

 一度は泣くことになるだろうな。

「ひぃっ! なんか怖いですわよ! それって絶対に辛いやつですわ!」

 うん。まあ他の人より辛いだろうな。

「罰だと思って頑張れ」

あたくしだけ扱いが酷過ぎますわぁぁぁ!!」


 イリシアの悲痛な叫びが上がる中、上級生との交流戦に向けて修行を始めるエルリックたちであった。




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