僕と女戦士さん

布施鉱平

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その頃のアマンダ

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 アマンダは戦士である。
 
 それも、勇者とともに魔王討伐を成し遂げるような凄腕の戦士だ。

 だからこそ、アマンダは戦うことしか知らずに生きてきた。
 
 東に戦があると聞けば、行ってわざわざ負けそうな方に加わり。
 西に強者がいると聞けば、行ってそれを叩きのめす。

 そのことに疑問を感じたことはなかった。
 勇者一行に加わったのも、魔王というかつてない強敵と戦えるという理由からでしかなかった。

 戦いの先にある金銭や名誉が目的だったことなど一度もない。

 ただ戦い、ただ倒す。

 それだけがアマンダの全てだった。
 時に人肌を恋しく思うことがあっても、それは自分には縁のないものだと既に諦めていた。

 だが、その考えは変わった。

 たった一人の、名も知らぬ青年によって覆されたのだ。

 あの青年は、アマンダを見ても萎えなかった。
 それどころか、数え切れない回数アマンダの中で果てても硬く熱いままだった。

 思い出すだけで子宮に熱がこもり、膣壁が疼いた。

 あの可愛らしい外見に似合わず凶悪なイチモツが、自分の中に入っていないのが寂しいとさえ感じていた。

 だから、アマンダは歩いていた。
 生まれて初めて、戦いを求める以外の目的を持って。

 長い脚をかつてない軽快さで動かし続け、そしてたどり着いた。

 情報を求める定番の場所────酒場へと。




 ◇


 まだ昼間なので、店内は閑散としていた。

 カウンターに突っ伏している酔っぱらいや、陽気に騒ぐ冒険者の姿も今はない。

 アマンダは店内をぐるりと見回すと、目的の人物を見つけて近寄っていく。
 そして、声をかけた。

「ニア、聞きたいことがある」
「ん? おおっ、こいつぁアマンダのアネキ、お久しぶりです」

 アマンダに声をかけられ顔を上げたのは、小狡そうな顔をした小人族ハーフリングの女だった。
 小人族というのは、主に斥候や野伏レンジャーとして活躍する小柄な種族で、大きくても150センチほどにしかならない者たちだ。

 ニアと呼ばれたその小人族は、かつて野盗に襲われていたところをアマンダに助けられたことがあり、それ以来彼女のことをアネキ、アネキと慕っている人物だった。

「今日はどうしました? なにか探し物ですかい?」
「いや、探し人だ」
「なるほど、いつものですか。えーと、この辺りで強いのとなると…………」

 ニアはフリーランスの斥候として各国の冒険者や騎士団に雇われる傍ら、アマンダのために強者の情報を集めているのだ。
 今回もそれを聞きに来たのだと思ったのだが、

「いや、違う。探して欲しいのは男だ」
「お、男ぉっ!?」

 アマンダの予想外のセリフに驚いて、ニアは文字通り飛び上がった。

「あああ、アネキ! ど、どど、どうしたんですか!? なんか変なもんでも食ったんですか!?」

 ニアが挙動不審になるのも無理もないことだろう。
 アマンダが戦い以外に興味を持たないのは自他ともに認める事実であり、それなりに付き合いの長いニアですら、アマンダが男の話をするのなんて聞いたこともなかったのだ。

「いや、むしろ昨日から何も食ってない。マスター、なにか食い物を」
「かしこまりました。サンドイッチでよろしいですか?」
「肉多めでな」
「では、厚切りのハムを挟みましょう」
「頼む」
 
 ニアの驚きをスルーして、酒場のマスターに軽食を頼むアマンダ。
 
 マスターの素晴らしい手際によって用意された肉厚ハムサンドを頬張るアマンダを見て、ニアも少し落ち着きを取り戻した。

「こほん……それで、アネキ。探したい男ってのはどんなやつなんですか?」
「もぐもぐ……可愛らしい青年だ」
「…………」

 なんの説明にもなっていない。
 この世界の女にとって、男というのは大概守るべき可愛らしい存在であるからだ。

「あの~、他に特徴とかってないんですかね」
「もぐもぐ……そうだな、今まで見たことないくらい大きかった」
身長タッパが?」
「ごくん……いや、チンポがだ」
「…………」

 ニアは自分の耳を疑った。
 男の話すらしたことのないアマンダが、よりにもよってチンポがでかい青年を探しているといったのだ。
 それはつまり…………

「ア、アネキ……もしかして、その、ヤったんですか?」
「? ああ、昨日な」
「マ、マジっすか!?」

 ニアが驚いたのは、今まで浮いた話一つないアマンダが男と一夜を共にしたからではない。
 アマンダを前にして勃起状態を維持できる強者つわものがいた事に対してだ。

 同性であるニアから見ても、アマンダはかっこいい女だと思う。
 同性愛的な意味ではなく、アマンダは女が惚れる女なのだ。
 だがしかし、性的な意味で男ウケするかといえば、決してそうではなかった。

 アマンダの鍛え上げられた長身に男は威圧され、アマンダの射殺すような眼光に男は萎縮する。

 歴戦の勇であるアマンダの存在は、か弱い男達には畏怖の象徴でしかないのだ。

 ごくり、とニアは唾を飲み込んだ。

 いったいどのような男がアマンダの相手をしたのだろう。
 どんな女にでも反応してしまう異常性欲者だろうか。
 それとも、死の恐怖を前にしないと勃たないような極度のドMだろうか。

 だが、例えどのような変態にせよ、その男を逃してしまえば今後アマンダが男と関係を持てる可能性は限りなく低くなってしまう。

「アネキ、その男、あたしが必ず探し出してみせますよ」

 ニアは覚悟を決めた声でアマンダに宣言した。
 恩人であるアマンダには、幸せになってもらいたい。
 戦士としてだけではなく、人間としての幸せも掴んでもらいたいのだ。

「ああ、頼む」
「任せといてください。それで、その男の外見なんですけど────」

 そしてニアは男の特徴を少しでも得るために、まずはアマンダから聞き取り調査を開始するのだった。

 
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