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転生した! けど…………
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風が吹いた。
その風に紛れて、不快な臭いが漂ってくる。
死の臭いだ。
ボクは心を乱すその臭いに顔を顰めると、隣に立つ男を見上げた。
彼がどんな表情をしているのか、知りたかったからだ。
──ウィル
ボクよりも頭ひとつ以上高い身長、細く引き締まった肉体、そして青く輝く鋭い眼光をもつ青年。
彫りの深い端正な横顔をじっと観察してみるが、そこからはどのような感情も読み取ることはできなかった。
青い瞳には、ただ、目の前に広がる凄惨な光景が写りこんでいる。
──【勇者ウィル】
神の正義を担う者。
人類最強の戦士にして、ボクの幼馴染。
この光景を作り出した張本人。
そして……
……18禁アダルトゲーム【ファリアの翼】の主人公。
◇
この世界が【ファリアの翼】であることに気づいたのは、七歳の誕生日を迎えた日のことだった。
神官の娘として生まれ、父と母の厳しくも深い愛情のもとに育てられたボクは、その三日前から高熱を出して寝込んでいた。
そして、夢現に前世のことを思い出したのだ。
前世の僕は、冴えない中年のサラリーマンだった。
三十間近で嫁なし子なし。
それどころか、魔法使い予備軍の童貞であった。
仕事に追われ、家には寝に帰るだけの日々。
どれだけ心と体をすり減らしても、それを癒してくれる人はいない。
そんな僕の唯一の潤いが18禁アダルトゲーム、いわゆる『エロゲー』だった。
他に予定もない僕は、休みの日は一日中エロゲーをして過ごしていた。
たとえ次の日が仕事だろうと、睡眠時間を削ってまでシコシコとゲームに勤しんでいた。
好きなジャンルは『抜き』よりも『泣き』、つまりストーリー重視である。
作りこまれた物語の彩として『エロ』がある。
それこそが至高だと思っていた。
今の時代、ストーリーに力を入れるエロゲーは少ない。
やれアニメーションだ、やれ3Dだと外見ばかりに力が注がれ、中身を重視しているソフトは数える程しかなかった。
そんな中で、僕の心をがっちり掴んだのが【ファリアの翼】だった。
【ファリアの翼】は『勇者が冒険して魔王を倒す』という、オーソドックスな内容のRPGだ。
仲間と共に冒険し、絆を深め、時には悲しい別れを繰り返しながら、いくつもの困難を乗り越えて魔王のもとに到達する。
端的に言えばこれだけで説明がついてしまうが、そのシナリオを担当したのはかつて直木賞を獲り、『絶対に泣ける』と言われた漫画の原作も手がけた有名作家。
さらにエロシーンには別のライターを起用しており、こっちも『発行は初版で一万行けばいいほう』と呼ばれる官能小説業界で、異例の五万部を叩き出した鬼才に担当させるなど、相当に気合を入れた布陣となっていた。
しかも声優は第一線で活躍する大物ぞろいという大盤振る舞いだ。
『どうしたフェアリー!』とネット上にいくつも戸惑いの声が上がるほどであった。
ちなみに【フェアリー】というのは【ファリアの翼】の制作会社だ。
それなりに老舗のメーカーだったが、ここまで力を入れた作品はかつて存在しなかった。
僕も期待に期待を積み重ね、当然のように予約をして購入し、ワクワクそわそわと胸を高鳴らせながらプレイを開始した。
もちろん有給を取ってである。
ゲームの出来は、想像以上だった。
重厚なストーリー、プレイヤーを飽きさせないゲームシステム、豪華声優陣の圧倒的な演技力、程よいタイミングで入ってくるエロ。
何もかもが僕の好みにドンピシャだった。
そして食事も睡眠も忘れてプレイしているうちに、日頃の無理が祟ったのか、胸の苦しみを感じた僕はそのままあっけなく死んでしまったのである。
そして……気がついたら転生していたのだ。
【ファリアの翼】の主人公であるウィル………ではなく、その幼馴染。
サブヒロインのひとりである、ボクっ娘の【リース】として。
その風に紛れて、不快な臭いが漂ってくる。
死の臭いだ。
ボクは心を乱すその臭いに顔を顰めると、隣に立つ男を見上げた。
彼がどんな表情をしているのか、知りたかったからだ。
──ウィル
ボクよりも頭ひとつ以上高い身長、細く引き締まった肉体、そして青く輝く鋭い眼光をもつ青年。
彫りの深い端正な横顔をじっと観察してみるが、そこからはどのような感情も読み取ることはできなかった。
青い瞳には、ただ、目の前に広がる凄惨な光景が写りこんでいる。
──【勇者ウィル】
神の正義を担う者。
人類最強の戦士にして、ボクの幼馴染。
この光景を作り出した張本人。
そして……
……18禁アダルトゲーム【ファリアの翼】の主人公。
◇
この世界が【ファリアの翼】であることに気づいたのは、七歳の誕生日を迎えた日のことだった。
神官の娘として生まれ、父と母の厳しくも深い愛情のもとに育てられたボクは、その三日前から高熱を出して寝込んでいた。
そして、夢現に前世のことを思い出したのだ。
前世の僕は、冴えない中年のサラリーマンだった。
三十間近で嫁なし子なし。
それどころか、魔法使い予備軍の童貞であった。
仕事に追われ、家には寝に帰るだけの日々。
どれだけ心と体をすり減らしても、それを癒してくれる人はいない。
そんな僕の唯一の潤いが18禁アダルトゲーム、いわゆる『エロゲー』だった。
他に予定もない僕は、休みの日は一日中エロゲーをして過ごしていた。
たとえ次の日が仕事だろうと、睡眠時間を削ってまでシコシコとゲームに勤しんでいた。
好きなジャンルは『抜き』よりも『泣き』、つまりストーリー重視である。
作りこまれた物語の彩として『エロ』がある。
それこそが至高だと思っていた。
今の時代、ストーリーに力を入れるエロゲーは少ない。
やれアニメーションだ、やれ3Dだと外見ばかりに力が注がれ、中身を重視しているソフトは数える程しかなかった。
そんな中で、僕の心をがっちり掴んだのが【ファリアの翼】だった。
【ファリアの翼】は『勇者が冒険して魔王を倒す』という、オーソドックスな内容のRPGだ。
仲間と共に冒険し、絆を深め、時には悲しい別れを繰り返しながら、いくつもの困難を乗り越えて魔王のもとに到達する。
端的に言えばこれだけで説明がついてしまうが、そのシナリオを担当したのはかつて直木賞を獲り、『絶対に泣ける』と言われた漫画の原作も手がけた有名作家。
さらにエロシーンには別のライターを起用しており、こっちも『発行は初版で一万行けばいいほう』と呼ばれる官能小説業界で、異例の五万部を叩き出した鬼才に担当させるなど、相当に気合を入れた布陣となっていた。
しかも声優は第一線で活躍する大物ぞろいという大盤振る舞いだ。
『どうしたフェアリー!』とネット上にいくつも戸惑いの声が上がるほどであった。
ちなみに【フェアリー】というのは【ファリアの翼】の制作会社だ。
それなりに老舗のメーカーだったが、ここまで力を入れた作品はかつて存在しなかった。
僕も期待に期待を積み重ね、当然のように予約をして購入し、ワクワクそわそわと胸を高鳴らせながらプレイを開始した。
もちろん有給を取ってである。
ゲームの出来は、想像以上だった。
重厚なストーリー、プレイヤーを飽きさせないゲームシステム、豪華声優陣の圧倒的な演技力、程よいタイミングで入ってくるエロ。
何もかもが僕の好みにドンピシャだった。
そして食事も睡眠も忘れてプレイしているうちに、日頃の無理が祟ったのか、胸の苦しみを感じた僕はそのままあっけなく死んでしまったのである。
そして……気がついたら転生していたのだ。
【ファリアの翼】の主人公であるウィル………ではなく、その幼馴染。
サブヒロインのひとりである、ボクっ娘の【リース】として。
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