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第一章
12話 挑戦、そして……
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チロは新しい槍を手に、先ほど逃げ出したばかりの場所に戻ってきていた。
よく地面を観察してみれば、角ウサギの糞らしきものが点々と落ちている。
おそらく、この辺りはもともとヤツの縄張りだったのだろう。
槍の柄をギュッと握り締め、チロは慎重に周囲を窺った。
少しの変化も見逃すまいと、些細な音も聞き逃すまいと、神経を研ぎ澄ませる。
だがやはり経験の差か、先に相手を発見したのは角ウサギの方だった。
ガサッ、という音がした方向にチロが振り向くと、角ウサギはすでに間近まで迫ってきていた。
「うわっ!」
咄嗟にチロが槍を構えると、角ウサギは華麗なステップで穂先を躱し、チロに角を向けたまま一旦距離を取った。
そして、つぶらな瞳でチロのことを凝視する。
先ほどの戦闘で、チロのことを明確に『敵』だと認識したのだろう。
チロも負けじと睨み返すが、角ウサギはまるで動じた様子もない。
それどころか、「刺すぞ! 刺すぞ!」とでも言わんばかりに、角を上下に振ってチロのことを威嚇している。
見下されているのだ。
与し易い、弱い敵だと舐められているのだ。
チロは腰だめに槍を構えると、穂先を角ウサギにピタリと合わせた。
一触即発の空気が、二匹の間に流れる。
先に動いたのは────やはり、角ウサギ。
その角が狙うのは、前回と同じく槍の穂先だ。
まずは驚異となり得る武器を排除しようとしているのか、それとも角ウサギ同士で戦う時には角をぶつけ合う習性でもあるのか…………
ともかく、狙った通りの場所に、角ウサギは突っ込んできた。
「おりゃっ!」
タイミングを合わせ、チロは槍を突き出す。
が、
カシャンッ
という軽い音とともに、陶製の穂先はいとも容易く砕かれてしまった。
前回と全く同じ展開だ。
違うのは────
チロが、それを予想していたことだろう。
「くらえっ!」
手のひらに隠し持っていた、陶器を砕いた欠片────ドリンギの汁をたっぷり塗した無数の欠片を、チロは角ウサギに向かって投げつけた。
槍を構えれば、角ウサギはそこめがけて突っ込んでくる。
しかしそれが分かっていたところで、チロには槍で角ウサギを突き刺せるほどの技量はない。
だからチロは、最初から『槍で戦う』という選択肢を捨てていたのだ。
「ピギィッ! ギィィィッ!」
陶器の欠片が目に入ったのか、角ウサギが地面を転げ回りながら悲鳴を上げる。
そしてほどなく「キュゥゥ…………」と悲しげな声で一度鳴くと、ぐったりと脱力して動かなくなった。
やはり、ドリンギは見た目通りの毒キノコだったようだ。
「か、勝った……」
地面に腰を落とし、チロは「ふーっ」とため息を漏らす。
正直、賭けの連続だった。
角ウサギが槍の穂先に向かってこなかったら、ドリンギに毒性がなかったら、陶器の欠片が上手いこと目に入らなかったら……
どの賭けに敗れても、チロの命は危険だっただろう。
だが、勝ったのだ。
欲しい物のために命懸けで挑戦し、そして手に入れたのだ。
その達成感は、前世では感じたことのないものだった。
「……よし、肉を」
と、チロは自らの力で勝ち取った報酬を得るため、角ウサギの死体に近づいていく。
しかし────
「えぇ……」
角ウサギの死体は、目の辺りを起点として、ドロドロに溶け出していたのだった。
よく地面を観察してみれば、角ウサギの糞らしきものが点々と落ちている。
おそらく、この辺りはもともとヤツの縄張りだったのだろう。
槍の柄をギュッと握り締め、チロは慎重に周囲を窺った。
少しの変化も見逃すまいと、些細な音も聞き逃すまいと、神経を研ぎ澄ませる。
だがやはり経験の差か、先に相手を発見したのは角ウサギの方だった。
ガサッ、という音がした方向にチロが振り向くと、角ウサギはすでに間近まで迫ってきていた。
「うわっ!」
咄嗟にチロが槍を構えると、角ウサギは華麗なステップで穂先を躱し、チロに角を向けたまま一旦距離を取った。
そして、つぶらな瞳でチロのことを凝視する。
先ほどの戦闘で、チロのことを明確に『敵』だと認識したのだろう。
チロも負けじと睨み返すが、角ウサギはまるで動じた様子もない。
それどころか、「刺すぞ! 刺すぞ!」とでも言わんばかりに、角を上下に振ってチロのことを威嚇している。
見下されているのだ。
与し易い、弱い敵だと舐められているのだ。
チロは腰だめに槍を構えると、穂先を角ウサギにピタリと合わせた。
一触即発の空気が、二匹の間に流れる。
先に動いたのは────やはり、角ウサギ。
その角が狙うのは、前回と同じく槍の穂先だ。
まずは驚異となり得る武器を排除しようとしているのか、それとも角ウサギ同士で戦う時には角をぶつけ合う習性でもあるのか…………
ともかく、狙った通りの場所に、角ウサギは突っ込んできた。
「おりゃっ!」
タイミングを合わせ、チロは槍を突き出す。
が、
カシャンッ
という軽い音とともに、陶製の穂先はいとも容易く砕かれてしまった。
前回と全く同じ展開だ。
違うのは────
チロが、それを予想していたことだろう。
「くらえっ!」
手のひらに隠し持っていた、陶器を砕いた欠片────ドリンギの汁をたっぷり塗した無数の欠片を、チロは角ウサギに向かって投げつけた。
槍を構えれば、角ウサギはそこめがけて突っ込んでくる。
しかしそれが分かっていたところで、チロには槍で角ウサギを突き刺せるほどの技量はない。
だからチロは、最初から『槍で戦う』という選択肢を捨てていたのだ。
「ピギィッ! ギィィィッ!」
陶器の欠片が目に入ったのか、角ウサギが地面を転げ回りながら悲鳴を上げる。
そしてほどなく「キュゥゥ…………」と悲しげな声で一度鳴くと、ぐったりと脱力して動かなくなった。
やはり、ドリンギは見た目通りの毒キノコだったようだ。
「か、勝った……」
地面に腰を落とし、チロは「ふーっ」とため息を漏らす。
正直、賭けの連続だった。
角ウサギが槍の穂先に向かってこなかったら、ドリンギに毒性がなかったら、陶器の欠片が上手いこと目に入らなかったら……
どの賭けに敗れても、チロの命は危険だっただろう。
だが、勝ったのだ。
欲しい物のために命懸けで挑戦し、そして手に入れたのだ。
その達成感は、前世では感じたことのないものだった。
「……よし、肉を」
と、チロは自らの力で勝ち取った報酬を得るため、角ウサギの死体に近づいていく。
しかし────
「えぇ……」
角ウサギの死体は、目の辺りを起点として、ドロドロに溶け出していたのだった。
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