震える転生者

布施鉱平

文字の大きさ
7 / 7

ゼスト・セルドア・クローネン

しおりを挟む
 コン、コン


 儂が自室でワインを飲みながらくつろいでいると、ノックの音が響いた。

「入れ」
「失礼いたします」

 一礼して部屋に入ってきたのは、目つきの悪い細面の男。
 クレアーネの護衛隊長を任せていたガイン・ノートリアスだ。

 ガインは儂の前まで歩いてくると、直立不動の姿勢を取った。

「小僧はどうだった?」

 儂は簡潔に聞いた。
 この一言で、ガインには儂の聞きたいことが分かるかずだ。
 そう鍛えたのは他でもない儂だからな。

「はっ、おそらくは【神の寵児】で間違いないと思われます」
「……そうか、やはりな」

 ガインの言葉に、儂は椅子の背もたれに体重を預けて息を吐き出した。

 神の寵児。

 それは、普通ではない特殊なスキル────【固有ユニークスキル】を持つ者たちの総称だ。
 
 この世界におけるスキルというものは、基本的にスキルの保有者自身にしか作用しない。
 儂の持つ〈剛健〉しかり、ミリアーネの持つ〈調理〉しかりだ。

 先天的に習得することができる魔術と違い、スキルは生まれると同時に神から与えられる祝福。
 当然その祝福は本人に作用するべきであり、他者に直接影響を与えるものであってはならない。

 というのが、創造神マグナスを祀るマグナス教の見解だ。

 しかし、固有スキルはその常識を覆す。

「どのような能力か分かったか?」
「いえ、この目でおりましたが、ゴブリンが急に転倒したことしか分かりませんでした」
「ふむ……そうか」 

 ガインの持つスキルは〈鷹の目〉。視界や動体視力などを強化するスキルだ。
 そのガインが見ても分からなかったということは、つまり小僧のスキルは目に見えるものではないということ。

 歴史的な文献の中には、過去の神の寵児たちの能力も載っている。
 その中には自分や人、物を瞬間的に別の場所に移動させる能力や、魔術ではない炎や雷を自在に操る能力、果ては時間を止めたり巻き戻したりする能力など、荒唐無稽なものがいくつも記されている。

 だが、それらは決してただの絵空事ではない。

「……危険か?」

 儂は、また短い言葉に意味を込めてガインに問いかけた。
 もちろん、込めた意味というのは小僧を殺すべきか、ということだ。

 神の寵児は、その神聖な呼称とは裏腹に世界にいくつもの無残な爪痕を残してきた存在。

 現に、北部の永久凍土は過去に神の寵児が固有スキルによって作り出したものであり、今もなおそのスキルの影響から抜け出せないでいる。

「分かりかねます」

 儂の短い問いに、ガインもまた簡潔に答えた。
 そして、 

「────ですが、お嬢様はあの者のことを悪く思ってはおられないようです」

 とも付け加える。

 儂は眉間にシワを寄せ、ガインに怒声を浴びせかけたが、なんとか堪えて大きく息を吐き出した。

 ガインの言わんとすることは分かる。

 クレアの持つスキルは〈感知〉。
 人からの悪意や敵意などを本能的に察するスキルだ。

 そのスキルがあったために、儂はクレアをこの年齢になるまであまり多くの人間と接しないように囲ってきた。

 貴族というのは、基本的に自分本位なクズばかりだ。
 戦いしか知らん儂ですら、奴らの魂が放つ悪臭には気付く。

 ましてやそれを敏感に察知してしまうクレアでは尚更のことだろう。
 幼い頃からそんなものに晒されて育てば、良くて人間不信、最悪の場合人との関わりを一切立つような人間嫌いになってしまうかもしれない。

 クレアにはそのことを十分に言い聞かせて育ててきた。
 だから、そのクレアがあそこまで心を許す相手が悪人であるとは思えないのも確かだ。

「とりあえずは、様子見か……あの小僧が神の寵児だと知る者は?」
「私の知る限りではおりません。ただ……」
「ただ、なんだ」
「あの襲撃の際、何らかの隠密系スキルを持つ者が監視していた可能性は捨てきれません」

 ガインの言うことは最もだった。
 クレアーネを襲ったゴブリンたちの襲撃。
 あれには明らかにおかしい点がいくつもあった。

 まず第一に、ゴブリンの数が多すぎた。
 普通ゴブリンというのは、残って巣を守るものと外に出て食料を集めるものに分かれて行動するため、多くても十匹程度の群れで行動するものなのだ。
 
 だが、クレアを襲撃したゴブリンの数は合計四十匹。
 しかも中には雌のゴブリンや、まだ成長しきっていない子供のゴブリンまでもが含まれていたのだ。
 
 第二に、ゴブリンの装備が整いすぎていた。
 武器を作ることのできないゴブリンは、殺した冒険者たちの装備を流用するものだ。
 
 だから全てのゴブリンが武器を装備しているなどありえない。
 もし大量に武器を手に入れるような偶然があったとしても、やつらは当然手入れなどしないので、武器は錆びたり欠けたりしているはずだ。

 しかし、それもなかった。

 ゴブリンの装備していた剣は、ものこそ安物の数打ちばかりだったが、安いなりにしっかりと手入れがされていたのだ。

 他にもまだいくつか疑問点はあるが、この二つだけでもゴブリンの襲撃が作為的なものだと判断できる。

 おそらくは魔術、もしくは何らかの薬品によって、巣にいたゴブリンをまるごとクレアの襲撃に使ったのだろう。
 さらには成功率を上げるために武器まで与えている。

 ここまでやるからには、成功を見届けようとする人間が近くにいたはずだ。

 このクソッタレな襲撃を計画したのがどこのどいつなのかは今のところはっきりしないが、その監視者が小僧の能力を見ていた可能性は高いと考えたほうがいいだろう。

「殺してしまったほうが、問題は起きんのだろうがな……」

 クレアのあの楽しそうな顔を見てしまっては、そうするのも憚られる。
 
「ガイン」
「はっ」
「お前、パロミアの冒険者に確か友人がおったな」
「友人……キルケのことでしょうか。でしたら、あれは既に引退して酒場を営んでおりますが」
「そうか。他に信用できる人間に心当たりはないか?」
「キルケは引退しておりますが、その子供が冒険者をやっております。私もまだ小さい頃に会ったことがありますが、心根の正直そうな子供でした」
「ふむ…………」

 と儂は思案する。
 小僧に騎士団の誰かをずっと付けておくわけにはいかんし、儂の知り合いの冒険者はもうとっくの昔に引退しておるものたちばかりだ。

 となると、面識はないがガインの友人の子供とやらに頼むしかないだろう。

「では、お前の友人によく言い含めておいてくれ────子供にあの小僧を監視させろ、とな」
「はっ、了解いたしました」

 胸の前に手を掲げる敬礼をし、ガインが部屋から出ていく。

 それを見送ったあと、儂はまたワイングラスを手に取り、一気に飲み干した。

「小僧がクレアにとって禍となるか福音となるか────クレアに恨まれるようなことを、儂にさせるなよ、小僧」

 壁に立て掛けられた愛用の剣を眺めながら呟き、儂は空になったグラスにワインを注いだ。
 
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

おやぶた
2019.02.03 おやぶた

おもしろく読ませていただきました。ありがとうございます。そのうちエロが出てくるのを楽しみにしてます。

2019.02.04 布施鉱平

 おお、まさかこの作品に感想が来るとは…………

 おやぶたさん、ありがとうございます。

 いや~、実はR18にした上で書き直そうかと思ってたんですよね~……
 どうせエロ入れるなら、もうその方がいいかな、と。

 まあ、そもそも全然更新出来てないのですけれども。
 
 …………申し訳ありません。

解除

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

神様の失敗作ガチャを引かされた俺(元SE)、ハズレ女神たちと寂れた異世界を「再創生(リ・ジェネシス)」する

月下花音
ファンタジー
過労死した社畜SE・天野創が転生したのは、創造神に見捨てられた「廃棄世界」。 そこで待っていたのは、ポンコツすぎて「失敗作」の烙印を押された三人の女神たちだった。 「麦が生えない? ……ああ、これ土壌パラメータの設定ミスですね」 「家が建たない? ……設計図(仕様書)がないからですよ」 創は持ち前の論理的思考と管理者権限を駆使し、彼女たちの「バグ(欠点)」を「仕様(個性)」へと書き換えていく。 これは、捨てられた世界と女神たちを、最強の楽園へと「再創生」する物語。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。