愛に変わるのに劇的なキッカケは必要ない

かんだ

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 セナが発情期に入ったことを確認してから、俺は隣の部屋へ避難した。フェロモンを感じた瞬間、すぐにでも飛び付きたくなったけど、何とか理性を総動員させて医師へと託した。
 抑制剤が合えば長くても三日ほどで終わる。ただ、合うものがなければ一週間は発情に振り回されることになる。体質と症状に合わせて抑制剤を処方するしかないため、服用してみないことには始まらない。
 だが、セナは薬が効きにくいらしく、処方した抑制剤は合わなかった。
「すぐに次の薬を飲ませるわけにはいかないので、次は六時間後になります。またご報告します」
「セナはどうですか?」
「やはり初めてということもあるので、精神的にも辛そうですね。本当に志貴様がそばにいなくて大丈夫ですか?」
「セナの意思を尊重してください」
 担当医を下がらせた後も、セナのことを考える。
 早く良くなれば良いと祈ることしか出来ない。
 だが、発情期に入り数時間後、担当医が再び訪ねて来た。
「どうかしましたか?」
「セナ様が、志貴様とお会いしたいと」
「……無理ですよ」
「今すぐ来てくれないなら、もう縁を切るともおっしゃっていました」
 いくら発情期で無意識にアルファを求めてしまうからと言って、俺を呼び寄せては絶対に後悔する。
「泣いています。発情期の症状というよりも、オメガが番を求める時の症状と似ています」
「俺たちは番ではありませんよ」
「確かに正しく番関係を結んではいません。フェロモンが同調していませんから。ですが、番関係はフェロモンが全てではありません。そこにお互いの心が伴う必要があります。お二人は心が通じているんでしょう」
 医者のくせに随分とロマンティックなことを言うなと思った。
 その考えが伝わったのか、医者は困ったように笑う。
「これはちゃんと研究結果によりますから。心の働きによって人の精神は変わります。そして、フェロモンへ影響を与えます。だから単純にフェロモンを交換し同調させれば番になれるというわけじゃないんですよ」
「だとしても、セナが今俺を求めるのは身近に知っているアルファがいないからでしょう」
「拗ねているんですか?」
 今度は面白いように笑う。
「志貴様は随分とセナ様を大切にしているんですね」
「はい」
「その大切なセナ様が苦しんでいるんです。なら、自身の欲望を押さえ込んで、そばにいるのが、あなたの出来ることなのでは?」
 煽るように背中を押される。俺だって今すぐ駆け付けたい。大丈夫だと抱き締めて、俺のフェロモンを送りたい。だけど、本心から望んでいないのに、二度とアルファを見せないと約束したのに、出来るわけがない。
「自分の欲望とセナ様を大切に思う気持ちは、一体どちらの方が大きいのでしょうか」
「……腹が立つな。アルファ用の抑制剤を下さい」
「飛び切り強いものを用意しましたよ」
 用意周到だ。注射器を受け取り、腕に刺す。
 すぐに隣の部屋へと向かった。
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