愛に変わるのに劇的なキッカケは必要ない

かんだ

文字の大きさ
26 / 26

完結

 晴天広がる麗らかな昼下がり。春の陽気のおかげが街には穏やかな空気が漂っている。
 そんな中、連城家未子の自宅では怒号が響き渡っていた。
「おい! クソ野郎!」
「セナ、おかえり。どうしたんだ? 可愛い顔して」
「うるせえ! これは! どういうことだ!」
 帰宅早々、怒号を響かせるは連城セナ。昨年連城家未子の志貴と婚姻を結び番った者である。
 セナは華奢な肩をいからせながら、優雅にコーヒーを飲んでいた志貴に詰め寄った。その際、手にしていた本を志貴へと投げつける。
「――これはっ」
 志貴が表紙を目にし、目を見開く。その表情は驚きそのものだが、声は棒読みである。
「それは! なんなんだよ!」
「前にラノベも書かないかって誘われて書いた本だな。人気が出て今はシリーズ化している」
「そんなことは聞いてねえんだよ! 中身だよ中身!」
 セナは思った反応を寄越されなかったためか、地団駄を踏む。
 例の本は、志貴が別名で出版しているライトノベルの一巻だ。初めて書いたラノベではあったが、予想に反し人気が出て、今ではアニメ化もされている。根強いファンのおかげである。
 ちなみに内容は、男同士の恋愛もの。アルファの御曹司とオメガになってしまった天涯孤独の男たちの話である。
「誰が俺のこと書いていいって許した!?」
「お前」
「…………ぁ?」
 セナはまたも思った反応を寄越されなかったためか、素っ頓狂な声を出した。
「セナに俺たちの半生を後世に残したいって話したら良いなって。七割真実で三割はフィクションだ」
「いや、知らねえよ。そんなの聞いてねえもん」
「俺が覚えているから大丈夫だ」
「大丈夫じゃねえよ!」
 例え本当に、何かの気の迷いでゴーサインを出したとしても、自分たちの出会いから今までを本にされて平然としていられない。しかもすでに五巻まで出ている。三割はフィクションだと言うが、全て自分たちのことだと分かる内容だった。全部読んだから間違いない。本を読むことが苦手なセナなのに、面白くて一気に読み進めてしまったのだ。
「今すぐやめろよな。今出てるのも回収しろよ」
「まあ、お前が本気で嫌なら仕方ない。はい」
 志貴に手招きされ近付けば、スマホの画面を見せられる。そこにはセナ名義の口座の現在高が映っていた。
 ゼロが多いセナも知らない口座だ。
「なにこれ」
「この本による収入だ。お前との幸せを残したくて書いてるだけだし、お前がいなきゃ書けないものだからな。新しく作ったセナの口座に全部入れているんだ」
「……全部」
「お前のものだぞ。まあ俺が持つものは元々全部お前のでもあるけど」
 ゼロが多い。
 セナは口座に釘付けになった。
「セナが嫌がることはしないと決めているから。今すぐ回収するように言うよ」
 志貴に抱き寄せられ、顔中にキスをされる。口内を舐められても口座から目が離せなかった。舌を吸われ歯列をなぞられ唾液を交換しても、目が離せなかった。
「ん、……ん」
「セナ? キスに集中してく、っ痛!?」
 セナは思い切り志貴の舌を噛む。
「っなん! 噛ん……っ痛い!」
 悶絶する志貴を見下ろし、セナはやっぱり怒鳴る。
「馬鹿! 二度と俺の目に入らないようにしろ!」
 どうとでも取れるその曖昧な啖呵、志貴は正しく読み取る。
「分かった。どうせ圭人にバラされたんだろ? ちゃんと気を付けるよう言っておく」
「……そうしろ」
「何か書いて欲しいジャンルはあるか? お前のためかはどんなジャンルも書いてやれる」
「じゃあファンタジーもの。あんなのでも普通に面白かったから、ドキドキワクワクするようなの読みたい」

 アルファの御曹司とオメガになってしまった天涯孤独の男の話。お笑い要素もあり感動部分もあるそれは、読者の心を鷲掴み長く愛されることとなる。
 そして、セナが軽く答えたファンタジー小説は発売から十年、各国で爆発的な大ヒットととなり、実写映画化、大手遊園地とのコラボをすることとなる。
 
「番が喜ばないとヒット作が書けなくなるなんて、あんなのと番になった弊害ですね」
 そんな関係者の呆れは、ファンにも当事者にも知られることはなかった。
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。最後におじいさまの番外編を追加しました。

ネガティブなΩがスパダリαから逃げる

ミカン
BL
オメガバース

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 ※画像はpicrewさんよりお借りしました。 Xアカウント(@wawawa_o_o_)

「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜

鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。 そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。 あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。 そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。 「お前がずっと、好きだ」 甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。 ※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています