7 / 13
7.平穏
しおりを挟む
勤務時間は平日の八時から十二時の間。仕事内容は雑用や補助、最後の仕上げ、焼き菓子の製作と様々だ。
店員はオーナーを含めて二人だけ。店用と配達用を作るとなると二人だけでは確かに足りない。
「和佐君、配達用のケーキの仕上げお願いしても良い?」
「はい、分かりました」
オーナーからの指示を受け、事前に受け取っていたレシピ集を思い出す。そこには完成形の写真と説明文も掲載されていたので暗記するのは大変ではなかった。
クリームやフルーツ、ナッツ系など、目でも楽しめるよう丁寧に飾り付けていく。全部で三十個。様々な種類のケーキが完成した。次は包装箱へと詰めていく。
「オーナー、終わりました」
「ありがと~」
「パウンドケーキの注文多く入っていますよね? フルーツの洋酒漬け、多めに作っておきますね」
「あぁそうだった。今から漬けとかないとだ。助かるよ」
三人しかいないためやることは多い。常にやることを考えなければならないが充実感がすごい。
まだ働き初めて一月しか経っていないが、このまま長く続けたい気持ちが強かった。
「和佐君、配達行くよ~」
「はい。オーナー、お先に失礼します」
「うん。お疲れ様。気を付けてね~」
同僚の運転で配達先へ向かう。その途中でマンションが見えると車は停車する。
配達まで手伝うと言ったが、車からケーキを持ち出すのは相手だからやることはないと言われてしまったのだ。そのため、俺は厚意に甘え、行く途中で降ろしてもらっている。
「ありがとうございました。お気をつけて」
「うんお疲れ様。明日もよろしくね」
走り出す車を見送ってからマンションへ入れば、「おかえり」という声に出迎えられた。
「蒼さん? どうしたんですか?」
今は仕事中のはずの蒼さんだ。
「ちょうど時間が空いたんだ。和佐と昼を食べようと思って」
「そうだったんですね。嬉しい」
「飯は適当に買ってきたから食べよう」
不意打ちで会えたことが嬉しい。俺は上機嫌になった。
「仕事はどうだ?」
ご飯を食べながら上がる話題は俺の仕事だ。
「一月経ちましたし、慣れましたよ。二人ともすごく良い人たちですし」
「店に変な客は来ないか?」
「来ないですよ。俺は裏なのであまりよく分かりませんが、困った様子はないですね。客層としてはベータかオメガが多いとは聞きましたけど」
「なら安心だな。変な客が来たらすぐに連絡してくれ」
「ありがとうございます」
蒼さんは俺が働き始めても不安になったり不眠症になったりすることはなかった。一日どんな感じだったか、細かく聞きたがるくらい。
「ねえ蒼さん、もう少しで給料が出るんです。俺の初給料でどこかご飯食べ行きませんか?」
「それは楽しみだな。奢ってくれるのか?」
「もちろん。高いところはキツイですが」
「なら和佐が選んでくれるか? デートをしよう」
嬉しそうに微笑む蒼さんに釣られ、俺も自然と口角を上げる。
このまま何の問題もなく、普通の人たちと変わらない生活が送れたら良いな。今はまだ短時間でしか働けていないけど、これからはもっとしっかり働いて、パティシエとしての力も付けて、いつか自分の店を出してみたい。全てが庇護下にあるのではなく、何とか対等の立場にまで変わりたい。
「和佐が楽しそうで嬉しいよ。今度俺にも作ってくれるか?」
「うん。蒼さん好みのお菓子作りますね」
だけど、働き出して三ヶ月経つ頃。そんな気持ちはどこかへと消え去るのだった。
店員はオーナーを含めて二人だけ。店用と配達用を作るとなると二人だけでは確かに足りない。
「和佐君、配達用のケーキの仕上げお願いしても良い?」
「はい、分かりました」
オーナーからの指示を受け、事前に受け取っていたレシピ集を思い出す。そこには完成形の写真と説明文も掲載されていたので暗記するのは大変ではなかった。
クリームやフルーツ、ナッツ系など、目でも楽しめるよう丁寧に飾り付けていく。全部で三十個。様々な種類のケーキが完成した。次は包装箱へと詰めていく。
「オーナー、終わりました」
「ありがと~」
「パウンドケーキの注文多く入っていますよね? フルーツの洋酒漬け、多めに作っておきますね」
「あぁそうだった。今から漬けとかないとだ。助かるよ」
三人しかいないためやることは多い。常にやることを考えなければならないが充実感がすごい。
まだ働き初めて一月しか経っていないが、このまま長く続けたい気持ちが強かった。
「和佐君、配達行くよ~」
「はい。オーナー、お先に失礼します」
「うん。お疲れ様。気を付けてね~」
同僚の運転で配達先へ向かう。その途中でマンションが見えると車は停車する。
配達まで手伝うと言ったが、車からケーキを持ち出すのは相手だからやることはないと言われてしまったのだ。そのため、俺は厚意に甘え、行く途中で降ろしてもらっている。
「ありがとうございました。お気をつけて」
「うんお疲れ様。明日もよろしくね」
走り出す車を見送ってからマンションへ入れば、「おかえり」という声に出迎えられた。
「蒼さん? どうしたんですか?」
今は仕事中のはずの蒼さんだ。
「ちょうど時間が空いたんだ。和佐と昼を食べようと思って」
「そうだったんですね。嬉しい」
「飯は適当に買ってきたから食べよう」
不意打ちで会えたことが嬉しい。俺は上機嫌になった。
「仕事はどうだ?」
ご飯を食べながら上がる話題は俺の仕事だ。
「一月経ちましたし、慣れましたよ。二人ともすごく良い人たちですし」
「店に変な客は来ないか?」
「来ないですよ。俺は裏なのであまりよく分かりませんが、困った様子はないですね。客層としてはベータかオメガが多いとは聞きましたけど」
「なら安心だな。変な客が来たらすぐに連絡してくれ」
「ありがとうございます」
蒼さんは俺が働き始めても不安になったり不眠症になったりすることはなかった。一日どんな感じだったか、細かく聞きたがるくらい。
「ねえ蒼さん、もう少しで給料が出るんです。俺の初給料でどこかご飯食べ行きませんか?」
「それは楽しみだな。奢ってくれるのか?」
「もちろん。高いところはキツイですが」
「なら和佐が選んでくれるか? デートをしよう」
嬉しそうに微笑む蒼さんに釣られ、俺も自然と口角を上げる。
このまま何の問題もなく、普通の人たちと変わらない生活が送れたら良いな。今はまだ短時間でしか働けていないけど、これからはもっとしっかり働いて、パティシエとしての力も付けて、いつか自分の店を出してみたい。全てが庇護下にあるのではなく、何とか対等の立場にまで変わりたい。
「和佐が楽しそうで嬉しいよ。今度俺にも作ってくれるか?」
「うん。蒼さん好みのお菓子作りますね」
だけど、働き出して三ヶ月経つ頃。そんな気持ちはどこかへと消え去るのだった。
172
あなたにおすすめの小説
大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った
こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。
巣作りΩと優しいα
伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。
そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……
オメガなのにムキムキに成長したんだが?
未知 道
BL
オメガという存在は、庇護欲が湧く容姿に成長する。
なのに俺は背が高くてムキムキに育ってしまい、周囲のアルファから『間違っても手を出したくない』と言われたこともある。
お見合いパーティーにも行ったが、あまりに容姿重視なアルファ達に「ざっけんじゃねー!! ヤルことばかりのくそアルファ共がぁああーーー!!」とキレて帰り、幼なじみの和紗に愚痴を聞いてもらう始末。
発情期が近いからと、帰りに寄った病院で判明した事実に、衝撃と怒りが込み上げて――。
※攻めがけっこうなクズです。でも本人はそれに気が付いていないし、むしろ正当なことだと思っています。
同意なく薬を服用させる描写がありますので、不快になる方はブラウザバックをお願いします。
ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果
SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。
そこで雪政がひらめいたのは
「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」
アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈
ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ!
※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。
クローゼットは宝箱
織緒こん
BL
てんつぶさん主催、オメガの巣作りアンソロジー参加作品です。
初めてのオメガバースです。
前後編8000文字強のSS。
◇ ◇ ◇
番であるオメガの穣太郎のヒートに合わせて休暇をもぎ取ったアルファの将臣。ほんの少し帰宅が遅れた彼を出迎えたのは、溢れかえるフェロモンの香気とクローゼットに籠城する番だった。狭いクローゼットに隠れるように巣作りする穣太郎を見つけて、出会ってから想いを通じ合わせるまでの数年間を思い出す。
美しく有能で、努力によってアルファと同等の能力を得た穣太郎。正気のときは決して甘えない彼が、ヒート期間中は将臣だけにぐずぐずに溺れる……。
年下わんこアルファ×年上美人オメガ。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
兄様の親友と恋人期間0日で結婚した僕の物語
サトー
BL
スローン王国の第五王子ユリアーネスは内気で自分に自信が持てず第一王子の兄、シリウスからは叱られてばかり。結婚して新しい家庭を築き、城を離れることが唯一の希望であるユリアーネスは兄の親友のミオに自覚のないまま恋をしていた。
ユリアーネスの結婚への思いを知ったミオはプロポーズをするが、それを知った兄シリウスは激昂する。
兄に縛られ続けた受けが結婚し、攻めとゆっくり絆を深めていくお話。
受け ユリアーネス(19)スローン王国第五王子。内気で自分に自信がない。
攻め ミオ(27)産まれてすぐゲンジツという世界からやってきた異世界人。を一途に思っていた。
※本番行為はないですが実兄→→→→受けへの描写があります。
※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる