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序章
4 女神ティファニー
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そうして、ハジェンス家の魔導士として働き始めたレノであるが。
「レノ、ここが分からないの」
「どれどれ…………」
レノとアシュレイはハジェンス家の図書室で、勉強をしていた。
というのも、アシュレイの学園に通う準備として、魔法を教えるというのがレノの仕事となっていた。
アシュレイには元々魔導士の先生がいたが、その先生が止め、後任を探している最中だったという。
何度も何度も転生しているレノ。彼の記憶は消えていないため、外見が10歳の子どもであっても、彼には大量の知識があった。
先生という職業は自分に合っているのかもしれない、ともレノ自身思っていた。
でも、同い年の子に教えてもらうというのはどういう心境だろう…………。
とアシュレイの顔を見ると、生き生きとしており、何よりも楽しそうだった。気にする必要がなさそうだ。
そうして、窓に入る光がオレンジになってくると、レノたちはやっと図書室を出た。
しかし、勉強を完全にやめたわけではなく、レノもアシュレイも本を片手に自室へと向かう。
「前までは1人で勉強することが多くてやる気がそんなに起きなかったのだけれど、レノが来てからはなんか勉強でもなんでも楽しく思えてきたわ」
「そう? それはよかった。じゃあ、明日も勉強する? それとも久しぶりに外に出て遊ぶ?」
「うーん。ずっとしていないから、外遊びをするのもいいのだけれど…………明日は無理なの。丸一日予定があって」
「予定?」
「そう、予定。王城へ向かわないといけないの」
アシュレイは確かに公爵令嬢であるが、まだ成人はしていない。つまり社交界デビューしていないわけだが、成人していなくてもお茶会なら参加する者もいる。
しかし、アシュレイは一度もお茶会に参加することはなかった。
レノが首を傾げていると、アシュレイは親切に説明してくれた。
「私にはね、婚約者がいるの」
「婚約者?」
レノには初耳の話。
明日、王城に行く予定があって、婚約者に関連する。
レノはあることを推測したふと呟く。
「その…………アシュレイの婚約者って…………まさか」
「そうなの。第2王子の様。最近、王城に足を運んでいなかったのだけれど、殿下からお手紙が来て。お茶会に招待されたの…………」
徐々にトーンが落ちていくアシュレイ。彼女の顔はどこか辛そうだった。
「大丈夫か?」
レノの口からふと出た言葉。
アシュレイは横に首を振ると、ニコリと笑った。
「大丈夫だよ。だって、王城のお茶会に行くだけだよ。夕方には帰ってくるから、夕食は一緒ね」
そして、次の日。
お茶会から帰ってきたアシュレイは朝出発した時よりもずっと暗かった。
「あ、アシュレイ、おかえり。お茶会どうだっ――――」
顔を俯けたままの彼女はレノに近づく。
「ねぇ、レノ」
「どうした?」
「…………ハグして」
「え」
アシュレイは静かに泣いていた。何かに耐えるようにそっと静かに。
お茶会で何かあったのだろうか。
そう思いながらも、レノはアシュレイをハグする。
「私は婚約者にふさわしくないって言うの」
「殿下が?」
アシュレイは横に首を振る。
「殿下ではないわ。はっきりとは私に言わないんだけれどね。静かにしていると、他の人たちがそうやって話しているのが聞こえるの」
アシュレイは王族派の公爵令嬢。王族としては一番大切にしておきたい人材だ。
しかも、アシュレイは聖女の可能性がある。聖女なんて王族としてはほっておけない。
そう考えると、アシュレイ以上王子の婚約者にふさわしい人間はいるのだろうか。
いや、いないだろう。
そう思いながら、レノはそっと優しくアシュレイの頭を撫でた。
★★★★★★★★
数日後のことだった。
珍しいことにアシュレイがお茶会に行った。
そして、珍しいことに生き生きした顔でアシュレイは帰ってきた。
「レノ! 私、女の子の友達ができたの!」
それから数日後。
ある1人の少女がハジェンス家にやってきた。
茶色ロング髪の彼女はおしとやかで、どこか大人びていた。
アシュレイ曰く、これでも同い年だという。
レノがお辞儀をすると、彼女は丁寧にお辞儀を返してくれた。
「ノエリア、こちらが話していたレノ。レノ、彼女が前に話していた私のお友達のノエリア」
「どうも、私ノエリアとお申します」
「ど、どうも」
ノエリアはハットフィールド侯爵家の人間。
公爵様から聞いていた話だと、ハットフィールド家は中立派の家。
一方、ハジェンス家は王族派。
彼女たちはどうやって出会ったのだろうか。
挨拶を交わすと、3人はお茶を飲むことに。
レノは断ろうとしたものの、アシュレイに何度もお願いされ、渋々付き合うことにした。
実際、ほぼレノは2人の話を聞くだけで、空気と化していたのだが。
黙っていたレノ。しかし、アシュレイとの出会いが気になり、ノエリアに尋ねてみる。
すると、彼女は。
「アシュレイ様からお声をかけてくださいました」
と言った。
お茶会嫌いのあのアシュレイが? 自ら声をかけた?
不思議なこともあるものだ。
すると、
「レノさんはアシュレイ様から聞いていた通りの方ですね」
とノエリアは言ってきた。
レノは当然アシュレイがノエリアに自分のことをなんと話したこと気になる。
聞いてみたい。自分のことをあのアシュレイがなんと言ったのか。
しかし、聞くタイミングを逃し、時間が過ぎる。
そして、ノエリアが帰る時間となった。
「アシュレイ様。私、そろそろお暇しますわ」
「もうそんな時間なのね。あっという間だったわ。もう少し話をしたかったなぁ」
すると、ノエリアは「あの…………」と小さく呟く。
「近いうちにお訪ねしてもよろしいですか?」
「もちろんよ! ね! レノ」
「ああ、もちろん」
そう答えると、ノエリアは安心したかのようにニコリと微笑んだ。
その笑みにはアシュレイとはまた違った美しさがあった。
立ち上がると、ノエリアはお辞儀をする。
レノがお辞儀を返した瞬間だった。
キーンと耳鳴り。
一瞬、視界が大きく揺らぐが、レノは持ち直した。
そして、レノがゆっくり顔を上げると、全てのものが止まっていた。
「時間が止まっている…………」
しかし、全てのものが止まっている中、彼女だけは瞬きをしていた。
「初めまして、レノ・キーロック――――――――――――いえ、朝霧湊と呼ぶべきでしょうか」
日本にいた頃の名前を呼ぶノエリア。
しかし、レノは普段の彼女の意思で話しているようには思えなかった。
まるで誰かが憑依したよう。
「あんた、神か」
レノが尋ねても、そいつは答える様子はない。
先ほどのノエリアと様子が違い、そいつは威圧的。
レノが転生を繰り返す中、こんなやつが接触してくることはなかった。
ただただ転生を繰り返させるだけ。死ぬ度に新たな世界に送り出すだけ。
もしかしたら、今回裏切られたのにも関わらず、死ななかったせいなのかもしれない。
そんなことを考えながら、レノは警戒する。
すると、そいつは自分の胸に手を当て、話し始めた。
「我が名は女神ティファニー」
「……………………お前の名前はどうだっていい」
「汝に————」
「なんで、俺は何度も転生させらないといけないんだ。それを説明しろ。そして、俺を元の世界に戻せ」
いら立ちを抑えきれないレノは彼女の胸ぐらを掴む。
しかし、彼女は表情一つ変えずに話し続けた。
「汝に約束しよう。汝がいる今の世界をあるべき状態へ変えた時、汝を元の世界に戻そう」
「は?」
思わず声が漏れるレノ。
困惑の頭になっている彼に対し、そいつはニコリと笑うだけ。
「おい。あるべき状態ってなん――――――」
その瞬間、時が進み始める。
レノに胸ぐらを掴まれたノエリアは、混乱の表情。
「レ、レノさん」
「…………はい」
「こ、これはどういうことなのでしょう?」
「……………………ごめんなさい」
レノはその後アシュレイに怒られ、一時ノエリアから警戒されることとなった。
「レノ、ここが分からないの」
「どれどれ…………」
レノとアシュレイはハジェンス家の図書室で、勉強をしていた。
というのも、アシュレイの学園に通う準備として、魔法を教えるというのがレノの仕事となっていた。
アシュレイには元々魔導士の先生がいたが、その先生が止め、後任を探している最中だったという。
何度も何度も転生しているレノ。彼の記憶は消えていないため、外見が10歳の子どもであっても、彼には大量の知識があった。
先生という職業は自分に合っているのかもしれない、ともレノ自身思っていた。
でも、同い年の子に教えてもらうというのはどういう心境だろう…………。
とアシュレイの顔を見ると、生き生きとしており、何よりも楽しそうだった。気にする必要がなさそうだ。
そうして、窓に入る光がオレンジになってくると、レノたちはやっと図書室を出た。
しかし、勉強を完全にやめたわけではなく、レノもアシュレイも本を片手に自室へと向かう。
「前までは1人で勉強することが多くてやる気がそんなに起きなかったのだけれど、レノが来てからはなんか勉強でもなんでも楽しく思えてきたわ」
「そう? それはよかった。じゃあ、明日も勉強する? それとも久しぶりに外に出て遊ぶ?」
「うーん。ずっとしていないから、外遊びをするのもいいのだけれど…………明日は無理なの。丸一日予定があって」
「予定?」
「そう、予定。王城へ向かわないといけないの」
アシュレイは確かに公爵令嬢であるが、まだ成人はしていない。つまり社交界デビューしていないわけだが、成人していなくてもお茶会なら参加する者もいる。
しかし、アシュレイは一度もお茶会に参加することはなかった。
レノが首を傾げていると、アシュレイは親切に説明してくれた。
「私にはね、婚約者がいるの」
「婚約者?」
レノには初耳の話。
明日、王城に行く予定があって、婚約者に関連する。
レノはあることを推測したふと呟く。
「その…………アシュレイの婚約者って…………まさか」
「そうなの。第2王子の様。最近、王城に足を運んでいなかったのだけれど、殿下からお手紙が来て。お茶会に招待されたの…………」
徐々にトーンが落ちていくアシュレイ。彼女の顔はどこか辛そうだった。
「大丈夫か?」
レノの口からふと出た言葉。
アシュレイは横に首を振ると、ニコリと笑った。
「大丈夫だよ。だって、王城のお茶会に行くだけだよ。夕方には帰ってくるから、夕食は一緒ね」
そして、次の日。
お茶会から帰ってきたアシュレイは朝出発した時よりもずっと暗かった。
「あ、アシュレイ、おかえり。お茶会どうだっ――――」
顔を俯けたままの彼女はレノに近づく。
「ねぇ、レノ」
「どうした?」
「…………ハグして」
「え」
アシュレイは静かに泣いていた。何かに耐えるようにそっと静かに。
お茶会で何かあったのだろうか。
そう思いながらも、レノはアシュレイをハグする。
「私は婚約者にふさわしくないって言うの」
「殿下が?」
アシュレイは横に首を振る。
「殿下ではないわ。はっきりとは私に言わないんだけれどね。静かにしていると、他の人たちがそうやって話しているのが聞こえるの」
アシュレイは王族派の公爵令嬢。王族としては一番大切にしておきたい人材だ。
しかも、アシュレイは聖女の可能性がある。聖女なんて王族としてはほっておけない。
そう考えると、アシュレイ以上王子の婚約者にふさわしい人間はいるのだろうか。
いや、いないだろう。
そう思いながら、レノはそっと優しくアシュレイの頭を撫でた。
★★★★★★★★
数日後のことだった。
珍しいことにアシュレイがお茶会に行った。
そして、珍しいことに生き生きした顔でアシュレイは帰ってきた。
「レノ! 私、女の子の友達ができたの!」
それから数日後。
ある1人の少女がハジェンス家にやってきた。
茶色ロング髪の彼女はおしとやかで、どこか大人びていた。
アシュレイ曰く、これでも同い年だという。
レノがお辞儀をすると、彼女は丁寧にお辞儀を返してくれた。
「ノエリア、こちらが話していたレノ。レノ、彼女が前に話していた私のお友達のノエリア」
「どうも、私ノエリアとお申します」
「ど、どうも」
ノエリアはハットフィールド侯爵家の人間。
公爵様から聞いていた話だと、ハットフィールド家は中立派の家。
一方、ハジェンス家は王族派。
彼女たちはどうやって出会ったのだろうか。
挨拶を交わすと、3人はお茶を飲むことに。
レノは断ろうとしたものの、アシュレイに何度もお願いされ、渋々付き合うことにした。
実際、ほぼレノは2人の話を聞くだけで、空気と化していたのだが。
黙っていたレノ。しかし、アシュレイとの出会いが気になり、ノエリアに尋ねてみる。
すると、彼女は。
「アシュレイ様からお声をかけてくださいました」
と言った。
お茶会嫌いのあのアシュレイが? 自ら声をかけた?
不思議なこともあるものだ。
すると、
「レノさんはアシュレイ様から聞いていた通りの方ですね」
とノエリアは言ってきた。
レノは当然アシュレイがノエリアに自分のことをなんと話したこと気になる。
聞いてみたい。自分のことをあのアシュレイがなんと言ったのか。
しかし、聞くタイミングを逃し、時間が過ぎる。
そして、ノエリアが帰る時間となった。
「アシュレイ様。私、そろそろお暇しますわ」
「もうそんな時間なのね。あっという間だったわ。もう少し話をしたかったなぁ」
すると、ノエリアは「あの…………」と小さく呟く。
「近いうちにお訪ねしてもよろしいですか?」
「もちろんよ! ね! レノ」
「ああ、もちろん」
そう答えると、ノエリアは安心したかのようにニコリと微笑んだ。
その笑みにはアシュレイとはまた違った美しさがあった。
立ち上がると、ノエリアはお辞儀をする。
レノがお辞儀を返した瞬間だった。
キーンと耳鳴り。
一瞬、視界が大きく揺らぐが、レノは持ち直した。
そして、レノがゆっくり顔を上げると、全てのものが止まっていた。
「時間が止まっている…………」
しかし、全てのものが止まっている中、彼女だけは瞬きをしていた。
「初めまして、レノ・キーロック――――――――――――いえ、朝霧湊と呼ぶべきでしょうか」
日本にいた頃の名前を呼ぶノエリア。
しかし、レノは普段の彼女の意思で話しているようには思えなかった。
まるで誰かが憑依したよう。
「あんた、神か」
レノが尋ねても、そいつは答える様子はない。
先ほどのノエリアと様子が違い、そいつは威圧的。
レノが転生を繰り返す中、こんなやつが接触してくることはなかった。
ただただ転生を繰り返させるだけ。死ぬ度に新たな世界に送り出すだけ。
もしかしたら、今回裏切られたのにも関わらず、死ななかったせいなのかもしれない。
そんなことを考えながら、レノは警戒する。
すると、そいつは自分の胸に手を当て、話し始めた。
「我が名は女神ティファニー」
「……………………お前の名前はどうだっていい」
「汝に————」
「なんで、俺は何度も転生させらないといけないんだ。それを説明しろ。そして、俺を元の世界に戻せ」
いら立ちを抑えきれないレノは彼女の胸ぐらを掴む。
しかし、彼女は表情一つ変えずに話し続けた。
「汝に約束しよう。汝がいる今の世界をあるべき状態へ変えた時、汝を元の世界に戻そう」
「は?」
思わず声が漏れるレノ。
困惑の頭になっている彼に対し、そいつはニコリと笑うだけ。
「おい。あるべき状態ってなん――――――」
その瞬間、時が進み始める。
レノに胸ぐらを掴まれたノエリアは、混乱の表情。
「レ、レノさん」
「…………はい」
「こ、これはどういうことなのでしょう?」
「……………………ごめんなさい」
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